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『英雄』を狩る者  作者: オーエン
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②第一話【カタチを変えた刃】




「――と以上が、昨日の件の報告になります。引き続き調査中との事です」


 放課後の生徒会室。

 数少ない女性役員である、庶務のノーラ・メルヴィンにより読み上げられた資料。

 議題内容は、昨晩から今朝にかけて起きたと思われる『立入禁止区域【森林】内で発見された大量の死体』についてである。

 普段ならば学園には何の関係もない事柄であるため、国の上層部に直接話が行く決まりなのだが……。

 今回はそうもいかなかった。


 同じ場所で、学園の生徒が二人発見されたのだ。しかも、その場で唯一の生き残りと思われる二人である。


 一人は女子生徒で、目立った外傷は無いものの、《魔法》の連用によるものと思われる《マナ》の枯渇にて意識不明。命に別状はないらしいが、目覚めるまで数日はかかる可能性あり。


 もう一人は男子生徒。

 着古された黒いコートを羽織っていたらしいが、その下は見るも無惨なほど傷だらけだったらしく、命に関わるものも少なくはなかったらしい。


 女子生徒名、リアーナ・レイ・フォルト。一年生。

 そして男子生徒名――


 夕凪 志音。二年生。


 この二人が今回の事件に関わっている。……というのが、たった今、ノーラが読み上げた内容である。


「報告ありがとう。下がっていいわよ。ノーラ」

「は、はい」


 自身の持ち場へと戻るノーラを尻目に、この生徒会の長たる結歌は渡された資料に目を通した。

 添付された写真には、直視すら憚られるような、バラバラの肉塊と生前の写真。

 当然、見ていて気持ちの良いものではない。


 結歌は資料の確認もそこそこに、視線を集まった生徒会役員達へと戻す。


 部屋の中央に設えられた巨大な円卓を囲むようにソコに座っているのは、結歌を含めた十名の生徒達。

 会長たる結歌は当然だが、結歌の隣に座る副会長を除けば、残り八人は実のところ正式な役員ではない。


 全校生徒数千人の、そのすべての頂点であるトップランカー十人なのである。

 人種、性格、文才などは関係ない。この学園では『力』こそが全てなのだ。力あるものには相応の権利と、同時に義務が生まれる。

 今、この円卓を囲む十人は、全員が総合戦績にて最上位の十人としてこの学園に立つ……紛れもない猛者達なのだ。

 当然、結歌の向かいには、結歌に唯一並び立つ少女……アリシアの姿がある。

 他にも、話題に興味無さげな者、無駄に殺気立つ者、ただ黙って話を聞く者、さらには寝ている者までいる始末。反応が多種多様なのはいつものことだ。


 結歌の三歩後ろに控える三人は正規役員であり、たった今説明してくれたノーラを含め、それぞれに《庶務》《書記》《会計》の役職を与えられているが、この学園の生徒会では単なる雑用でしかない。

 主メンバーはこの十名、しかもランキングに変動があればその都度メンバーも変わる。変動性の高い、不安定すぎる生徒会だったりする。


 そんなことはさておき、静寂を貫く重苦しい空気の中、結歌は口を開いた。


「さて、まずは私の意見を言わせてもらうわ。事態の検討はその後でも構わないでしょう?」


 返事はない。

 つまりは『どうでもいいから勝手にしろ』と暗に告げているようなものだ。


「では勝手に言わせていただくけど、この被害は単に『実力不足の無能が勝手に危険区に入り込み、勝手に死んだ』というだけの話なのでしょう? 死ぬかもしれないと自覚した上で死んだ。コレの何が問題なのか、無能な私には理解できないのだけれど……。いつも通り、『単なる獣害』でしょう。その場にウチの生徒がいて、運良く生き残っただけ。……私はそう結論付けるけれど、異論のある者はいる?」


 魔獣による被害など、これまでに数えきれない程前例がある。

 今回のような夜間の被害も少なくはない。

 取り立てて大事にするような事実はないのだ。


 ましてや――


 学園の中でも最底辺と呼ばれる志音ごときが、数十人単位の実力者を相手に殺しあいをしたとして、生き残れる筈がない。

 闇討ちだったとしても、相手はプロだ。実力は勿論、生きてきた修羅場の数や経験が違う。


 どう足掻いたところで、志音とリアーナの二人程度でどうにかなる戦力ではない。


 ――コレが、結歌の振りかざした『一般論』である。


「そうですね〜。では、私からも……、異論ではありませんが、『もしかすると』という意味で、一つ……」


 挙手をしたのはアリシアだ。


 結歌はアリシアを信用していたりする。別に、特別仲がいいわけではない。学園以外での接点はほぼ皆無であるし、プライベートで言葉を交わすことなどまずない。

 お互いの本質など、一ミリも理解していない自信がある。


 だが……いや、だからこそ、結歌はアリシアを信用することが出来るのだ。


 アリシアには、信用するにたる実力がある。


 騙し合い、腹の探り合い、裏切り等は、実力の伴わぬ『弱者』のする行為だ。

 アリシアは『弱者』ではない。


 だが同時に、警戒すべき要注意人物でもある。


 結歌は自分を対象とした嫌がらせや強襲、あるいは裏切り等には、特にコレと言った関心はない。それこそ結歌にとっては日常茶飯事だ。

 学園生すべての頂点とは、裏を返せば、『学園生すべてが敵』ということだ。そもそも、結歌に味方と呼べる存在はほとんどいない。

 だから、すべての刃が自身に向く程度なら、結歌は問題視したりはしないのだ。


 だが、アリシアという少女は知っている。結歌の唯一危惧する事を……。


「そんなに怖い目で睨まないでくださいよょ〜。いやー……最近の生徒会長さんは怖いですね〜」

「くだらない推論でないことを期待してるわ。アリシア」

「そうですね〜、まぁ単なる推論には変わりないんですがぁ、……この島には、いるじゃないですか♪ こんな物騒な事件に関わってそうな……都市伝説的な存在が一人」

「……あぁ、『死神』のこと……。たしかに、何か関係している可能性はありそうね」


 『死神』。

 ここ最近は、アリシアの言うように都市伝説のように扱われているが、実態はただの殺人鬼である。

 善も悪も関係なく、見た者すべてを殺し尽くす殺戮者。

 その実力はかつての『英雄』に匹敵するとまで噂され、国からも危険度Sランク指定されるほどの化け物だとも言われている。


 単純な強さならば、結歌ですら勝てないかもしれない。


「……けれど、それならば、『二人の生存者』という問題が残るわ。知っているでしょう? 『死神』の通り道に、命は残らない。アレがそんなミスをするとは、到底思えないわ」

「そこはまぁ……、夕凪くんと一年生首席ちゃんですし〜」

「最底辺の志音と、私程度に負けるリアーナでしょう? あの程度じゃ『まだ』相手にすらならないと思うわ」

「……。……んぅ〜、私の杞憂ですかね〜」

「可能性はゼロではないわ。念頭に入れておくとしましょう」


 笑顔のまま引き下がるアリシア。

 結歌は他のメンバー全員に目配せするが、返ってくるのはやはり沈黙。

 要するに、生徒内ではあくまで『単なる獣害』として決着させるということに、誰も異論はない。ということだ。

 そもそも、ココにいる者どころか、学園内すべての生徒が『志音の実力』を、『最弱』という形で知っている。

 今さら、志音を矢面に出したところで誰一人として信じる者はいないだろう。


 それに、この事件に対し、ほとんどの者が関心のない者ばかりだ、長々と議論する話題でもない。


 結歌の意見に満場一致の中、だが唯一……、あろうことか、意見を提示してみせた筈の結歌だけは、それが本質でない事に感づいていたのだった。




     ◇◇◇




 時を同じくして、場所は理事長室。

 部屋の主である創正を含め、ソコには三人の男女と、一匹の白猫がいた。

 応接用のソファに腰掛けた創正、その対面のソファに座る包帯だらけの志音。

 一応、学園の保健室にて《治癒魔法》による治療は施してもらったが、全快には程遠い。

 それは《治癒魔法》の力不足などではなく、治療を受ける側の志音の……《黒》【マヴロ】に侵食され続けた肉体に問題があったのだ。

 むしろ、今回の《治癒魔法》で致命傷クラスの傷を全て塞ぐことが出来たのは、一重に保険医の実力によるもので。

 普通なら自然治癒すらするかしないか、と言われる程の重傷だった。

 そんな志音が、頬を引きつらせ睨むのは創正……ではなく、その隣で、白猫と戯れる一人の少女。


「みやびー! ひっさしぶりー♪ 元気にしてた? 創正に虐められたりしなかった?」

「にゃー」

「にゃーって、猫かーい♪」

「にゃー」

「猫だったね〜。ニボシいる?」

「にゃーにゃー」

「ししゃもは持ってないんだよ〜。ニボシなら志音の部屋からくすねたやつがあるからさ♪」

「にゃー」


 なんかもう、難しい話をする雰囲気がぶち壊しだ。


「……アリス」

「なぁに? どったの志音」

「ゴーホーム」

「犬扱い!? 酷いな〜」

「せめて席を外してくれないか……、今からする話は――」

「構わない」

「……創正……」

「どうせ、コイツにも関係のある話だ。むしろ、その為にオレが呼び出した」

「どういうつもりだ……」


 苛立たしげに問い詰める。

 だが、創正は「黙って話を聞け」とでもいうように、ただ志音を目で諭す。正確にはただ睨んでるだけだが……。

 対する志音は、いつもの敗北主義者な一面など微塵も出すことなく、黙って睨み返す。


 志音が創正の言葉に従う理由は、創正を信頼している……なんていう下らない理由ではけっしてない。ただ単に、反論することで無駄に増える、「このクソ眼鏡との対話」を極力減らしたいからに過ぎない。

 それほどまでに志音は創正が嫌いなのだ。


「犬は従順なのが一番だ」

「寝言は寝て言えクソ眼鏡」

「吠えるな駄犬」

「…………」

「…………」

「ちょっとちょっとっ! 二人とも険悪過ぎだよ! ケンカ良くない。仲良し一番♪」

「「黙ってろ」」


 創正と言葉が被ってしまった事に、また機嫌を悪くする志音。

 創正は創正で、まるでゴミを見るかのように志音を睨む。

 そんな二人を交互に見つめ、盛大にため息を溢すアリス。抱えられた猫も似たような反応をしていたが、志音は「勘違い」の一言で切り捨てることにした。


「話があるならさっさと話せ……。無いなら帰るぞ」

「……はぁ……。まずは、だ。役に立たずのお前に小言を一つ。何故、朝までの数時間、アリスを一人にした? 知っていると思うが、コイツはオレの客人の中でも最上位のビップだ。もし何かあれば、お前はこの世にいなかった。……それくらいわかっていた筈だろう?」

「…………さぁな」


 当然知っていた。

 どのような人物なのかはともかく、港から学園までの護衛に結歌とアリシア……学園の主戦力であるトップの二人を惜し気もなく使う程だ。

 どのように凄いかは知らずとも、どれほど凄いかはわかる。

 要するに、『世界の命運』に関わるレベルの存在なのだろう。


「……? なになに♪ ボクの顔に何かついてたりする?」

「……」

「それとも可愛い女の子に見とれちゃったとか♪ も〜、志音ってば、思春期♪」

「……はぁ」

「なんでソコでため息なのさー! こんな美少女を前にして失礼だよっ!!」


 コレのドコにそんな価値があるのか、やはり志音には理解できないわけだが。

 志音がどう思おうと、事実はそうなのだ。従う他あるまい。


「……それは――」

「答える必要はない。理由など貴様が無能だった。それで十分だ」

「……ちっ」

「だが、当然ペナルティは受けてもらう。勿論、クズのお前には拒否権などないが……文句はないな?」

「……勝手にしろ」

「……だそうだ、アリス。あとは勝手にしろ」

「なっ!? 待て創正! それは――」

「拒否権はない。……そしてココでは理事長と呼べと言ったはずだ。以上、理解していなくても話は終わった。さっさと、このバカを連れて出ていけ」

「うん♪ じゃあ志音貰ってくねー♪」

「……おい」


 勝手に進められる話に、なんとか抗議を述べようと食らいつく志音だったが……。

 片や、もう話す気が無いどころか、完璧に無視を決め込む男。

 片や、ずっと欲しがっていたオモチャをやっと買って貰えた子供のような、そんな無邪気な笑顔で志音の腕を引く少女。


 どうみても志音の異論が通じる状況ではなかった。


「あぁ、それと……『ゴミ掃除』ご苦労。報酬は追って渡そう」


 事のついでと言わんばかりに呟かれた、創正の言葉。


 ……ゴミ掃除。


 志音はちゃんと正しく理解している。

 昨夜の戦闘は、この男が言うように……ただの掃除でしかないのだ。

 必要のない存在を、ただ切り捨てただけ。……この男には、ただそれだけ事に過ぎない。

 正義だ悪だ等という幼稚な考えなど、この男にはない。……創正とはそういう人間なのだ。

 だからこそ、この男は『強い』。


 命を命とも思わない。

 そんな創正を、志音は嫌いだ。


「…………」


 志音は答えない。

 志音も同じだから……。


 同族嫌悪とでも言うのだろうか?

 志音は、創正以上に……自身を嫌悪している。




     ◇◇◇


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