表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『英雄』を狩る者  作者: オーエン
28/91

エピローグ【『死神』】




 また、あの夢だ。



「…………いで」



 誰の、声だったか。



「……じょ……。……ら、な……」



 あぁ、懐かしい……あの声。



「……きみは、……」



 安心する、あの声。

 少しずつ鮮明に……



「だい……ぶ。……いで」



 オレは、この夢が嫌いだ。



「……きみは、強い子だ」



 その声はいつも、父のように……オレを勇気づけようとするのだ。



「大丈夫だから、泣かないで」



 その声はいつも、母のように……オレを慰めようとするのだ。



「きっと……きみなら、大丈夫」



 そして、最後に……愛しい声で告げるのだ。



「きみなら、きっとまた進むことが出来るから……だから――」



 ……あぁ、わかってる。


 まだ、終わらない。


 まだ、終われない。



「……早く、来てね。……その先でずっと待ってるよ。……志音」


 ……わかってる。


 すべては……お前を殺す。……その為、だけに……。




     ◇◇◇




「…………」


 寝覚めは最悪だった。

 幸福な時間から、無理矢理現実に突き落とされるような消失感は、悪夢よりも質が悪い。

 志音が夢にまで見てしまうほど望んだ人達は、……もう、この世にはいないから……。

 ……現実はどこまでも非情で、残酷だ。


 起床と共に思い出したように全身を蝕む激痛も、無駄な多量出血による気だるさも、固い地面の上で寝たことによる筋肉痛も、最悪だ。

 木々の合間から覗く木漏れ日も、鼻をつく澄んだ緑の香りも、耳をくすぐるそよ風の音も、口の中に広がる血の味も……最悪だ。


 己の『命』を、嫌でも実感してしまうから。


 志音はまた生き残ってしまった。


「…………」


 違和感。


 身体が動かない事は想像していた通りなのだが、それにしても身体が重すぎる。

 《黒》【マヴロ】の反動による一時的な体力の低下だったとしても、ここまで酷くはなかった筈だ。

 まるで、人一人分の重りを身体に巻き付けたような……。



 志音は激痛に顔を歪めながらも無理矢理首を傾け、自身の腹部へと視線を向けた。


「……っ!?」


 志音の知る者が、ソコにいた。

 服を血で紅く汚し、ピクリと微動すらしない少女が――、守り通せた筈の後輩が、志音の身体に覆い被さるように倒れていたのだ。


(……何故だ)


 鼓動が早まる。


(また、なのか……?)


 視界が歪む。


(また……、オレは……っ!)


「……んぅ」

「っ!?」


 心臓が跳ね上がった。

 当然だ。たった今、失ったと思い込んでいた少女が……動いたのだ。

 身じろぎ、寝息をたて、心地よさ気に……そこにいるのだ。


「……っ……」


 志音は困惑していた。

 たった今、志音を満たした感情が――、かつてないほどの『安堵感』が、沸き上がった不安を一瞬にして消し飛ばしたのだ。

 わからない。

 何故、自分はこんなにも安心している?

 たかが女一人の命が、すぐそばにあるだけだというのに……。


 何故、……こんなにも……満たされる?


「……はぁ、ったく。……人の上で呑気に寝やがって……」


 志音にはわからない。

 その胸の内に芽生えた、心地好い温かさが何なのか。

 いくつもの命を奪ってきたその手で、ただ……その一つの命を――たった一人の少女を抱き寄せる。


 息をしている。


 体温を感じる。


 血が通っている。


 ……生きてる。


「……このバカが……。心配、させんなよ」



 志音は冷静に考えを巡らせる。

 問題は何も片付いていないのだ。

 殺し損ねた暗殺者達。それを指示した創正。リアーナを戦場へと誘導した者。……そして――



 ――志音の足元に突き立てられた、【エリュシオン】。


(…………お前、なのか……?)

 ただ突き立てられただけの剣に……、志音は確かに感じた。

 遠い記憶の……だが、志音が全てを捨ててでも追い求めた、あの姿を……。


「…………」


 最近の志音は、やはりおかしいようだ。


 平和ボケなんて言葉でも生ぬるい。





 だが、それでもいい気がしていた。



 今、この瞬間だけは……。




 ……志音は、満たされていたのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ