三話(5)
時は遡り、一日前の夜。
聖都市《オーヴェイン》の唯一の闇、必要悪の溜まり場。
何処とも知れぬ酒場に、一人の男が訪れていた。
首の後ろで束ねた銀髪、眼鏡の奥で鈍く光る蒼眼、整った容姿を人目も憚ることなく晒し、その見た目に似つかわしくない場に赴く。
店内は夜中だというのに賑わっており、特殊な客で席が埋まるほど。
男はそれらを無視し、奇異の視線を浴びながら……真っ直ぐにカウンターへと向かう。
唯一、男の姿を見ても驚きを見せず、悠然とグラスを磨く見た目三十代前半ほどの、見るからに上品な男性。
「……いつもご来店される際は、前もってアポをとってほしいと言っておいた筈ですが……」
「時間の無駄だ」
「私用でしょうか?」
「ある意味でなら、私用だ。……依頼の発注をしたい」
「標的は?」
男はポケットから一枚の写真を取り出し、カウンターに投げる。
「捕獲はなし。死亡を確認でき次第金は払う。金額は言い値で構わん」
「……彼ですか」
「わかっていると思うが、相手は「二つ名」付きの『同業者』だ。くれぐれも――」
「私情は挟みませんよ。無駄な死人が出ないことを祈るばかりです……」
「話は以上だ。……邪魔したな」
「いえ」
去っていく男を見送り、男性は渡された写真に目を落とす。
ソレに写るのは、まだ二十歳にも満たない青年。
「彼ほど有能なコマは早々いないと思うけどね……」
依頼すれば確実に殺してくれる。
無感情に仕事をこなし、決して私情を挟まない。
他と違う点は、これまでに殺した数を傲らない事だろうか……。はたまた群れを為さない事だろうか……。
標的が複数でも、たった一人で確実に仕留める。青年はただ淡々とこなすだけだ。
「……残念だ」
男性はため息混じりに、その写真をコルクボードに貼り付けた。
『死神』とよばれた青年。
下品な笑みを浮かべた客は写真を見て笑う。『死神』を狩るのだと……。
それを目の当たりにし、男性はまたため息をもらす。
「……せめて、無駄死にしない人選をしなきゃいけないな……」




