三十一話 スズカ視点
ううう……疲れた――。用意してもらった部屋のベッドに倒れこむ。怪我はないけど本当にくたびれた。足がめちゃくちゃ痛いよー、解さないと酷いことになる奴だ。
フォレスティアンの転移ゲートまで、なんと五日もかかった。そのおかげで色々考えることはできたけど……とんでもない森だった。
「エミリオの呪いは解除できるのかな……」
聖女様で無理なら、もう打つ手はない。あの呪いは強力らしく、エミリオの体力を人並み以下にまで奪っていた。いつ死んでしまうかもわからないけど……これで解けてくれなかったら……。
「スズカ? 休んでるところごめんなさい、聖女様がお話があるそうなの、来てくれる?」
ノックしたスターシアは聖教会の一員だから、伝言役をしてくれたみたい。疲れてるのは同じはずなのに、気が休まらないんじゃないかな?
「うん、わかった。すぐ行くね」
スターシアはニニラも呼んできて、三人で聖女様の元へ向かった。
「エミリオ――」
聖女様と祭壇前に座って居るエミリオが振り向いた。死の術陣は……消えていなかった。
「皆様ご足労ありがとうございます。ご依頼の死の呪いなのですが、ご覧いただいた通り、解呪は叶いませんでした……力が及ばず申し訳ありません」
「スズカ――」
やだ、私今どんな顔してたかな。心配顔のエミリオから聖女様に視線を移す。
「聖女様の謝られることではありません、ご尽力頂いてありがとうございました」
「どうやらこの魔法は女神様の御力には因らないものらしく、何を試しても僅かな反応も示しませんでした」
スターシアの言った通りだったんだ。だったら……後は魔族に解呪してもらうしかない。
「わかりました。和平会談も決まったことですし、これから魔族の支配下にある村や町に行ってみたいと思います。急がなきゃ、エミリオが危ないかも……」
「スズカ、僕なんて……このまま死ねば良いと思っているんじゃないのか?」
叩いていた。衝動的に、怒りと同じだけ悔しさが湧いてくる。
「――馬鹿言わないでくれる? あんたは私のことなんだと思ってる訳? 自分のことどう思ってるのかも訊きたいから、後で顔貸してくれるかな?」
「スズカ、どうしたの?!」
「あ――平気だよ、喧嘩とか詰るとか、殴るとかはしないから。エミリオも、今のはちょっと怒ってて……変な言い方してごめん」
アンヌによく注意されるんだけど、私の言い方ってすぐにおかしくなるみたいなんだよね……流石に今のは誤解されるよね。気をつけなきゃ。
「いや、僕も……悪かった」
「よかった~これでスズカまで出て行く、とかなったらどうしようかと思ったよ。先越されるかと思った」
「ニニラ? それってどういう――待って、出て行くのは――引き留めないから。私の考えを話すまで……エミリオと話終わる間だけ、待ってくれない?」
ニニラは悲しそうに頷いた。フォレスティアンの実家に脱出をもらいに寄った時から変だったけど――それは、家族の人たちに会ったからだと思い込んでた。
このタイミングは本当にまずい。
「わかった。スズカがそう言うんなら……ちょっと待とうかな」
「ありがとう。聖女様、今回はありがとうございました。魔族との和平が上手くいくことを願ってますね」
「ええ、スズカ。貴方たちには辛い旅を強いてきましたね――やっと、争いの世が終わるやもしれません」
座ってるエミリオに立つように促して、全員で横並びになる。流れでエミリオが合図した。
「みんな」
「「ありがとうございました、聖女様。失礼します」」
全員で頭を下げて退室する。聖女様って本当にきれいで神聖さが漂ってて……目の前に居るだけで緊張するんだよね。
そう言えばアンヌは緊張した様子もなく、いつも楽しそうにお話してたなぁ。
「と、いう訳だからエミリオに大切な話があります。さっきも言ったように、責めるとかそんな話じゃないから聞いてくれる?」
「ああ、わかった。お邪魔するよ」
「スズカ、ちゃんと扉は開けたままにするのよ?」
スターシアの心配する言葉に、安心させるように頷いた。
「わかってる。でも今のヘロヘロなエミリオなら、腕力でも頭脳でも遅れは取らないから、安心して」
「確かに。エムったら森の中で、僕を置いて先に行ってくれ……! なんて勇者に有るまじき台詞言ってたもんね~」
いつも通りにニニラが茶化す。スターシアも笑って、「勇者が最初に脱落するなんて、聞いたことないわね」と冗談にしてくれた。
こうして話すと、アンヌが――『勇者様でしたら、もっとご自分を高めてくださいまし』とか言うんだろうな――呪いをかけたのはアンヌなのに。何故か懐かしく思っていた。
「じゃあ、色々聞きたいことがあるから、なるべく冷静に正確に答えてもらえる?」
「ああ、わかった」
この話は誰かに聞かれて困ることもないから、スターシアの忠告通りドアは開けて置く。
「さっき私が誘ったみたいに、アンヌが話したいことがあるから二人になりたい、って言ったらどう思う?」
「えっ? どうって――信じられる訳ない、だろ?」
「どうして?」
「こ、殺されるかもしれないのに……」
「やっぱりか――私の知ってるエミリオなら、殺されかけてでも話し合って赦してもらおうとするんだけど……違う?」
エミリオは固まった。何を言われてるのか理解できていないみたいで、何度か口を開きかけたり、首を横に振ったりと忙しなくして、ついに黙り込む。
「……確かに。スズカの言う通りだ――なんで、なんでかわからないんだが、アンヌのことを考えると、おかしいんだ……疑わないといけない、とか疑うのが正しい――そう思ってしまって。薬を割った時も……言うつもりのない言葉が出てきて……」
「うん。わかった、次はアンヌが昼食会でした話なんだけど、変だと思わなかった?」
「変って、復讐のことを隠したことか?」
ダメだこりゃ。そこは普通でしょ、ほんとに頭がどうかしてるとしか思えない。判断能力が落ちてるのかな? そんな気がした。
「アンヌが飛び出してすぐに魔王の使いが来るなんて、いくらなんでも出来過ぎてるでしょ! それに、アンヌは人の過ちを命で償わせようなんて考え方は絶対にしない……もし自分が殺されそうになってもあり得ない、って言ったんだよ。私に直接」
あんな、アンヌをエミリオに傷つけさせて……その手で殺させるように仕向けるなんて……もしそれが真実だとしたら、絶対に魔王を赦さない!
私の大切な人を、かけがえのない二人を――いがみ合わせたんだとしたら。今度は私が魔王に復讐する番だよ。
「ま、まさか魔王が――仕組んだこと? だって言うのか?」
「やっと話が通じたね。それでね、聖女様なら異変を見つけたり、もしかしたら解呪できるかもしれないって思ってたんだけど――両方ダメだったでしょう?」
「ああ、他にも何も異常は見つけられなかったって」
「魔法でも呪いでもない何かなら、アンヌにもわからないんじゃないかな? エミリオが悪いんじゃなくて……エミリオを変えた誰かが悪いんだよ!」
「そ、そうか。スズカ――! っく、なんて言えば――っ。ありがとう、ありがと――僕は、みんなに嫌われたって。赦してもらえない、って……当然のことをしてしまった……そう思っていたんだ」
エミリオは格好悪いことに泣き出してしまった。まあ、予想してたけどね。
私だってあの直後はエミリオなんか!! って思ったよ実際。でも――アンヌがあんなに異常だったら、エミリオの異常も……同じ原因のような気がしたんだよね。あまりにも出来過ぎたストーリー――。
「私はまだみんなと一年くらいしか過ごしてないけど、それでもちゃんと全員のこと理解してる、ううん。流石におこがましいね。理解しようとしてるよ? 泣き虫な勇者さん!」
「ああ、ああスズカ。そんな君が、僕は……大好きなんだ!」
くあ~! ヤラレタ……惚れた弱みなのかな? 振ったはずの泣いてる男励まして惚れ直させて、どうすんの私……。
しかもときめくとかね……いや、別れようって言ったのも別に嫌いだからじゃないんだけど――。
「じゃ泣き止んだことだし、スターシアとニニラを呼んで来るから、その顔なんとかしときなさいよ?」
「わかった。重ね重ね済まないな、本当に」
やっと笑った。私の前ではよく泣く癖に、パーティーのみんなには絶対に知られたくないんだもんね。リーダーだから、とか今更格好つけても遅いですよー。
廊下を歩きながら、騙されているアンヌを思って胸が少しだけ痛んだ。




