十七話 スズカ視点
手探り状態のまま旅を続けていた私たちの前に、魔界からの使者が現れた。
今、こちらの世界では魔界との和平について連日連夜話し合いが行われている。
罠だと主張する人、一旦話してみようと主張する人、逆に和平を結んだふりをして魔界に攻め込もうと主張する人……方針が決まらないのも無理はないけど、近々各国の首脳が集まって会談をする。その結果で人間側の方針を決めるそうだ。
「名目は和平交渉のため、とはしておりますが、これはもちろんそちらに受けて頂けたらの話でございます。アントワーヌ様はかつてお仲間であられた皆様に、今回の婚約と和平に関して説明する場を持ちたいとご希望なのです」
「本当ですか?!」
「ねえ使者さん、こんなこと訊くのは失礼だってわかってるけどさ、アンヌが怒ってたか……ううん、勇者様について何か言ってたか教えてくれないかな?」
ニニラの言葉に、一つ角のある小さい魔物は答えた。
「そうでした、そちらについてなのですが、何でもアンヌ様は大変ご立腹で、謝って頂かないことには気持ちが収まらない……と零しておられました。もしお心当たりがおありでしたら、この機会に歩み寄られては如何でしょうか?」
「怒ってた……当然だよね。でもそっか、私たちと会いたいって言ってくれるくらいなら、裏切りとはやっぱり違うんだよ。ね、スターシア」
「そうね……どうやら杞憂だったみたい。アンヌなら心から謝れば赦してくれる人だし、良い機会じゃない。こっちで会ってくれるんだから、ぜひ話し合ってお互いのわだかまりを解きましょう」
「エミリオは?」
「ああ――僕も誠心誠意謝りたい。ぜひその会談の場を設けてもらおう」
「それはようございました。詳しくはこちらに書き記しております、アンヌ様手ずからの招待状ですのでなくされないようにお気を付けてください」
「ご親切にどうもありがとうございました。あの、アンヌに、私から……『ずっと親友だと思ってる』って伝えて頂けますか?」
「もちろんでございます。それでは失礼致します」
ちょこちょこと歩く使者さんは、ある程度離れてから転移魔法で去って行った。彼を捕まえても意味がないだろうことはわかるし、和平をぶち壊したくないからそんな乱暴なことはしない。
「スズカ、早く読んでみてよその招待状!」
「そうだね、わかった……えーと」
招待状は使者さんの言った通り、アンヌの手書きだった。相変わらずきれいな字を書くなぁ。
「読むよ。『かつて共に冒険した仲間の皆様へ――』」
この度の私の、魔界に行くことになった経緯や魔王――ヴァーミナスとの婚約などについて、私の口からご説明差し上げたいと、この招待状をしたためました。
もし会談の日にちを変更したい場合は当日で構いませんので、誰かを会場まで寄越してくださいませ。
まだまだ書きたいことはあるのですが、それはお会いしてからのお楽しみとしておきましょう。日時――使者と会った当日から二週間後の十二時より、会場――実家のあるムッカナン領の廃城にて――昼食会を兼ねての気軽なものにしますので、どのような格好でいらしても構いません。――アントワーヌ・ド・サミキュリア・フォン・ムッカナン・ドルツストイア。
「二週間後の十二時に、ムッカナン領ね……廃城としかないけど、ミシェル様かムッカナン公爵にお伺いすれば大丈夫かしら。早めに現地に行って、場所を特定しましょう」
「大賛成! 良かったねー、復讐とか物騒な話じゃなくて。そうと決まれば、いざムッカナンへ!」
「そうだな。本当に良かった。僕も謝罪の品などを用意しないと……」
アンヌ――凄く安心した。礼節に則った招待状からはアンヌの気持ちはわからないけど、この会談を用意してくれたことがアンヌの気持ちの表れだ。
私は大切に招待状をしまい込むと、出発のためにまた装備を確認し始める。確認するのが癖になっていて、暇があると不足品を買ったり手入れをしたりしちゃう。
「ここからムッカナンまではだいたい一週間くらいだから、遅れようがないようにしないとね! エミリオ、あんたは変な物贈ったら許さないからね?!」
「大丈夫だ、ちゃんとアンヌのことを考えて贈るよ」
久々にエミリオの明るい笑顔を見られた。後は会談を成功させるだけ――私たちはアンヌが出て行ってしまってから抱いていた不安を、ようやく和らげることができたのだった。本当に良かった。早くアンヌに会いたい……二週間後が待ち遠しかった。




