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十六話

 ふふふ、これであの憎き勇者も苦しみにのた打ち回り死に至るでしょう――その姿を想像しただけで胸がすく思いがしました。

 ディマの使う強力な魔法、油断させるための舞台、伏兵、そして苦しめるための台詞――数々のパターンを予想し、あらゆる事態に対応できるように一つ一つの案を練り上げながら修正して――ようやく自信が持てる計画ができ上がりましたわ。

 とっておきの計画に関してはこれからの私の努力次第ですので、まだ合格とは言えませんけれど、完成する前にさしもの勇者も不様に死のう……と言うものですわ。

 計画の他にも、下準備として幾つかの根回しが必要ですけれど、最初の作戦後にそちらは動かしましょう。死んだ人間のために根回ししても意味ありませんもの。フフ♪


「レプケ!」

「はい、こちらに」


 私が手を叩いて呼べばすぐに来る私の侍従に、計画書を渡して告げます。


「これが勇者を葬り去る計画書です。重要度と共に記してありますが、これを機密書類として保管し最重要書類は私とレプケのみ読むことのできる物として、許可なく閲覧した者には厳罰を与えます。他の機密書類と同じように扱ってくださいな」


 レプケは正式な婚約発表祝いとして、ヴァーミナスが私の侍従にしてくださいました。ヴァーミナスが気に入っていると言うのも頷ける、素晴らしい気配りのできる魔族ですわ。

 最近では呼び出すのに魔力を飛ばして魔道具に合図を出す習慣にも慣れましたし、これに慣れると破裂音を魔法発動の引き金に使うようになる、というのも頷けますわ。地上の魔法の呪文代わりに当たりますかしら。


「了解しましてございます。それでは計画の第一段階は……なるほど」

「そういうことですので、和平のための会食に私が勇者ご一行様をお招きしますわ」

「畏まりました」

「下がってよろしくてよ」

「失礼致します、転移《ヴィン》」


 転移で帰って行くレプケに任せて置けば、最初の下準備は整うでしょう。私は私で、まだまだ準備しなければなりません。勉強も手を抜く訳には行きませんもの。真の教養は一日にして成らず、当然ですわね。

 そういえば晴れて婚約発表したというのに、ディマ国には婚約式がなくて驚きましたわ。いいえ、婚約なんて期間自体がそもそもないのだと伺いました。

 最初は驚きましたが、誓う神がいないと聞けばすぐに納得しました。文化の違いとはここまで凄まじいんですのね。でも結婚に当たって伴侶の宗教に合わせる心づもりはできていましたから、改宗の必要がないのは良い知らせでもありますわ。

 ヴァンスは私がしたければ式をしても良い、と仰ってくださりましたけれど、よく考えなくても無理でした。まだお父様にさえご報告していませんのに……どうやってご報告に参りましょう……結婚式までにはなんとしても認めていただかなくては。

 そう、今まで疑問だったのですけれど、ヴァーミナスという一界、一城の主に妃が居なかった理由もわかりましたわ。ディマでは求婚を受ける条件が自分の認めた魔力量や技術、戦闘力を持った方……というのが貴族、市民を問わず“一般常識”なのですって。おそらく誰もヴァーミナスの実力に匹敵しなかったのでしょうね。

 椅子から立ち上がって、計画書に目を落とします。


「フフ、あはははは! 勇者が私の前に崩れ落ち、苦悶の末に死する日が待ち遠しいですわ!」


 この後はヴァーミナスと夜会に出席するのでしたわね。準備をするために、指を鳴らして魔力を飛ばしマスユを呼びました。

 ディモルト界での夜会というのは、地上と“変わったところしか”ありませんでした。まあ、正装を着て男女が出会ったり顔を繋いだりというところくらいは同じかしら。

 そこここで“初会の試し”が行われ、求婚のお返事は決闘してからが一般的……、武器は訊くまでもなく持ち込み可能ですわ。誰かが死んだら? 弱い者が選ばれた場に居てはならないのですって。

 一番は“ジュリアナ”という時間があって、未婚の女性が扇を持ったりしてミラーボールという照明の下、己の強さを男性にアピールするためバトルロワイヤルを繰り広げるのです。あの薄着で、もちろん魔法を駆使して。最後の勝者にはデートの申し込みが殺到するそうです……。

 恐ろしいでしょう? 婚約の決まった私たちには関係ないと言われ、どれだけ安心したか。魔族の血は必ずしも赤くないので、お酒を含め毎回様々な色の液体が飛び散りますわ。もちろん、皆様優雅にしっかり集中障壁で防ぎますのよ。

 “クラシック”の時間は私の知るダンスと同じでした。ヴァーミナスはいつも私と何曲も、時には続けて踊ってくださいます。手や頬にキスなさるのも、睦まじい様子を貴族たちに見せつけたいらしいですわ。

 私にも優しいお言葉をかけてくださいますし、レプケの言ったお優しい方、というのも段々理解できつつありました。


「お手を、我が婚約者殿」

「ありがとう、ヴァーミナス」


 ディマのお酒は人間の私には合わないかと思いましたら、魔力が強ければ大丈夫らしく、これも楽しませていただいて居ます。あまり酔わないのは魔力が強すぎるせいのようで、醜態を晒さずに済むと聞き嬉しく思いましたわ。

 そうして今夜の夜会も、三度“初会の試し”をさせられて恙なく平和に終わりました。王妃になる私と懇意にしたい方は多いので、試す方も大切なお仕事。……とはいえ塵や埃が立って大変ですわ。

 すぐに浄化魔法をかけてきれいに保つのもディマ貴族の嗜みですのよ。


※実在の団体、建物などと一切の関係はありません。関係は。

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