価値
「それでは価値が減る。輸入してきたから価値があるんだって」
「なるほど。そういうものか。よしわかった、じゃあどうする?どのくらい欲しい」
「酒はどのくらい欲しいって?」
「まずはここで作る分の一割欲しい」
「一割だって」
「一割か……、よしわかった。じゃあこれからどうしたら良い?」
「わかった、これからどうしたら良いかだって?」
「明日画家を連れてくるから、おじいさんの顔をスケッチさせて欲しい」
「明日画家を連れてくるから、おじいさんの顔をスケッチさせてだって」
「おぉわかった。じゃあ明日待ってる」
ワシは酒屋と握手をした。
酒屋はほっとした表情で帰っていった。
きょうは、その場に座り込んだ。
「どうした?緊張したか」
「うん。お父さん以外のアルメニアカ人と話したの初めてだったから」
「そうなのか。ずいぶん自然に話しておったぞ」
「普通に話せたけど、緊張はしたよ」
「明日も頼めるか」
「もちろん」
きょうは笑った。
次の日、酒屋は画家を連れてきた。
画家はワシの横顔をスケッチして、帰っていった。
「瓶が出来たら、お持ちします。その出来栄えを見ていただいて、契約はそれ以降という事で」ということらしい。
二週間ほどして、酒屋が瓶を持ってきた。
「うわぁ、おじいちゃん恰好いいね」
「そうか。なかなか高級そうな瓶じゃな」
「これなら良さそうだね」
「あぁ、これで満足したと伝えてくれ」
「おじいちゃんが満足したって」
「そうですか。わかりました。では契約書をお渡しします。ムメ人の法律と翻訳の専門家に書いてもらったので、大丈夫だとは思いますが、確認してください。海外との契約なので、お知り合いにこの契約書で大丈夫か確認してもらっても構いません。私は誠実で長い取引を望みますので」
「うん、難しいからちょっと待ってね」
「あのね。おじいちゃん。満足した事わかったって」
「おぉそうか」
「それで、これが契約書だって、ムメ人の法律と翻訳の専門家に書いてもらったって」
「あぁそうか。ちょっと読んでみよう」
ワシは契約書を読み込む。特段変な事はなく感じた。
「じゃあ、サインすればいいんだな」
「ちょっと待って。酒屋さんが言うには、大丈夫だと思いますが、海外との契約なので、お知り合いにこの契約書で大丈夫か確認してもらっても良いって」
「誠実な人だな」
「うん。誠実で長い取引を望みますだって」
「そうか。わかった。じゃあこう伝えてくれ。ワシはあんたを信じているが、言葉には壁がある。だから念のため確認させてもらう」
「わかった」
「あのね。おじいちゃんが、ワシはあんたを信じているが、言葉には壁があるから、念のために確認させてもらうだって」
「わかりました。では後日あらためてくるとお伝えください」
「後日あらためてくるって」
「あぁ」
ワシは手を差しだし、握手をした。
その後ワシは知り合いのつてで法律の専門家に見てもらい、この契約書で問題がない事を知った。
そして、ワシは契約を結んだ。
スペースと瓶の製造と酒の詰め込みの関係で、瓶は十回にわけて運びこまれ、出荷も十回にわけることになった。
少し時間ができたので、ワシらは市場に、蜜蝋と笹の茶を売りに行くことにした。
市場の片隅にスペースを借りる。
「いらっしゃい。蜜蝋と笹の茶だよ」
ワシは声をかける。
「いらっしゃい。蜜蝋と笹の茶だよ」
きょうも声をかける。
「きょう。ワシはムメ語で声をかける。お前はアルメニアカ語で声をかけるのはどうだ」
「面白いね」
ワシらはさっそく始める。
ムメ人には蜜蝋が、アルメニアカ人には笹の茶がよく売れた。
「なんでアルメニアカ人には笹の茶がよく売れるんだ」
「知らない。聞いてみるね」
アルメニアカ人の客が来た。
「あのね。アルメニアカの人によく笹の茶が売れるんだけど、なんでなの?」
「あぁ、アルメニアカには、笹の茶が売ってないんだ。だからね。本国へのお土産に良いんだよ」
「そうなんだ。ありがとう」
「いえいえ。どういたしまして」
「おじいちゃん。アルメニアカには、笹の茶が売ってないから本国へのお土産だって」
「なるほどな。そういう事か、ありがとうな」
量が少なかったのか、午後になる頃には、全ての商品がなくなっていた。
「商品もなくなったし、ちょっと市場をくるっと回って、帰るとするか」
「うん」
ワシらは市場を回る。
きょうが、髪飾りの屋台で足を止める。
孫娘もよく足を止めていた。
「なにか買ってやろうか」
「いらない」
きょうは屋台から離れる。
それ以上、かける言葉が見つからず、ワシも再び歩き始める。
あぁいう時、どう声をかけたらいいのだろうか。
ワシにはまったくわからなかった。
本の屋台が出ていた。
同じ童話のアルメニアカ語版とムメ語版があった。
「おぉ爺さん」
店主が声をかけてくる。
「あぁお前本屋だったか?」
「違う違う。クズ売りだよ」
「なんで本屋をやってる」
「本の仕入れ先を見つけてな。だから今は本屋だ。お孫さんか?」
「いや違う」
きょうはワシの裏に隠れる。
「じゃあなんだ?」
「家族みたいなもんだ」
きょうはワシの裾を強く握った。
「そうか。どうりで似てねぇと思った」
「ワシみたいな偏屈に似ても困る」
ワシはきょうの頭をなでる。
「おじいちゃんは優しい人だよ」
きょうは目を伏せる。
「おじいちゃんか、ずいぶん好かれてるな」
「そうよ。私おじいちゃん大好きだもん」
きょうは恥ずかしそうに呟いた。
「おい店主!その本いくらだ」
「こんだけだ」
「お前には貸しがあったよな」
「覚えてやがったか、しかたねぇな。じゃあこんだけだ」
「あぁそうか。わかった。じゃあそれを貰おう」
「はいよ。ありがとな」
「行こう」
「うん」
ワシらは市場を離れた。
「なぁきょう」
「なぁに?」
「ワシはお前を家族みたいなもんだと言ったが、嫌じゃなかったか」
「嫌じゃないわ」
「そうか」
きょうは、ワシの裾を強く握った。




