読み聞かせ
ワシらは家に戻り、飯を食った。
「きょう!市場で買った本読むか?」
「いいの!」
「あぁ一緒に読もう」
「うん」
ワシらは椅子に腰かけ、本を読みだす。
「きょうはどの程度読める?」
「わからない」
「そうじゃな。とりあえず、読んでみろ。ワシに聞かせてくれ」
「うん。じゃあいくね」
「あぁ」
「むかしむかし、あるところに、猫がいました。猫はライオンでした」
「ちょっと待ってくれ。猫がライオン?うん……」
「おじいちゃん、間違った?」
「ちょっと待ってくれよ。猫はライオンじゃなくって、猫にはライオンというあだ名がついていましたじゃ」
「この字があだ名かな?」
「そうじゃ」
「あだ名って何?」
「そうか……、あだ名がわからんか。例えばな、ワシはバイカだろ」
「うん」
「でも、きょうはおじいちゃんと呼ぶ。それがあだ名だ」
「そっか。じゃあ、パパとママもあだ名なの?」
「いや……、ちょっと待てよ。間違ったかもしれんな。パパやママは役割の名前だから、役職名かな」
「役職名?」
「あぁ。町長とか、村長とか、役人とか、いろんな仕事があるだろ、役割とかも、その名前だ」
「おじいちゃんは、おじいちゃんという役職なの?」
「役職ではないな。役職でいうと、梅林の管理人だろうな。おじいちゃんは役割だな」
「難しいね」
「そうだな。ワシも疑問を持ったことがなかったが、よく考えると難しいな」
「それで、結局あだ名は何なのかしら」
「本当の名前ではない。別の名前のことかな」
「別の名前?」
「そう人は、他人のことを本名以外で呼ぶだろ。例えば、ワシはバイカだが、きょうには、おじいちゃんと呼ばれる。別の人には、バイさんとか、バイじいさんとか、そんな風に言われる」
「なんか、おじいちゃんがいっぱいいるみたい」
「ははは、そうじゃな。ワシは一人なのにな。まぁしかしワシが思うワシと、きょうが思うワシ、それ以外の人が思うワシとは別人だからな」
「えっ?おじいちゃんはおじいちゃんでしょ」
「そうだ。おじいちゃんはおじいちゃんだ。しかしな」
「うん」
「きょうは、おじいちゃんの事をあまり知らないだろ」
「そうかな。熟成したヤギのチーズが好きだとか、怠け者になりたいのに、働き者だとか、優しいとか、知ってるよ」
「そうか。でも昔のおじいちゃんは知らないだろ」
「うん、知らない」
「ワシだって、そうだ。今のきょうは知ってても、ここに来る前のきょうは知らない」
「そうだね」
「きょうが以前に何を好きで食べてたのかも知らない」
「そうだね。私もおじいちゃんが何が好きで食べてたかは知らない」
「そうだろ。ワシが見とるきょうは、きょうの中の一部でしかない。きょうが見とるワシも、おじいちゃんの一部でしかない」
「そっか」
「酒屋さんは、酒造りの上手いじいさんという風に見とるだろ」
「そうだね。熟成したヤギのチーズが好きだとか知らないもんね」
「そうそう。だからな。あだ名というのも、その相手がある一面だけ見て、名付けたモノなんだ」
「そっか」
「この話もな。ほら猫は臆病だったが、大喧嘩して、他の猫に勝ったことから、ライオンとあだ名がついたとあるだろ」
「本当だ」
「臆病な事を知ってる連中は、ライオンだなんてつけない」
「そっか。それでおじいちゃん。ライオンって何?」
「ライオンがわからんか。獅子と言ったらわかるかな」
「お肉が美味しいやつ?」
「それは猪のほうだな。すごく大きな外国の猫だ」
「どれくらい大きいの?」
「おじいちゃんくらいはあるかな」
「すごい!」
「そうだろ」
「おじいちゃん。人ってよく知らないのに、勝手な決めつけをするんだね」
「あぁそうだな」
「なんでかな?」
「長い時間を過ごす前に、離れちゃうからじゃないかな」
「どういう事?」
「ほら。例えば梅林に来るお客さんがいるだろ。中にいるには数時間ってところだ。ワシが話すのは二言三言。それで帰るだろ」
「そうだね」
「その間に、おじいちゃんの事がわかるか?」
「わからないと思う」
「そうだろ。世の中には人が多い。全ての人を詳しく知ろうと思ったら、とんでもない時間がかかる」
「そうだね」
「だからじゃないかな」
「そっか。時間がかかるから、勝手な決めつけをするのか」
「だと、ワシは思うがな」
「そっか」
「次、行こうか」
「うん」
きょうは物語を読み進める。
「ねぇ、おじいちゃん。これはなんと書いてあるの?」
「うん?これは案山子だな」
「案山子って何?」
「案山子を知らないか」
「うん」
「小麦畑の中に立てる人形のようなものだ」
「小麦畑見たことがない」
「そうか」
「市場にある神様の像と同じ?」
「あれも人形みたいなモノだが、違うな」
「どう違うの?」
「案山子は獣や鳥を追い払うものだ」
「動き出すの?」
「違う違う。人間がいるように思わせて、獣や鳥を追い払うんだ」
「案山子は見張りみたいな感じ?」
「そうだな。お化けみたいなものだよ」
「お化け?」
「あぁ、あそこの家にはお化けが出るぞと聞いたら行かなくなるだろ」
「うん。怖いもの」
「そう、獣や鳥も人が怖いんだ。だから人がいる所には近寄らない」
「そういう事か。でもヤギさんも猫さんも、私に近づいてくるよ」
「あれは小さい頃から人間に慣れてるからな。野生の獣や鳥とは違う」
「そっか。神様の像も獣や鳥を追い払うの?なんか鳩とかが肩にとまったりしてるけど」
「あれは完全に動かんからな。それに案山子も絶対に効果があるものでもないしな」
「そうなんだ」
「おじいちゃん!一つわかった」
「何をわかった?」
「人も動物も、よく知りもしないのに決めつけるって事」
「……そうじゃな。人も動物も同じだな」
「おかしいね」
「おかしいな」
ワシは考えた。ワシも知らないクセに色々決めつけた。そして知りもしない連中に、勝手に色々と決めつけられた。
それをワシは我が身の不幸と嘆きもしたが、それが生き物の特性なのだとしたら……、
取り越し苦労だったのかもと、思えてきた。




