厄介者
「そろそろ笹が刈り時だな」
「笹って、ヤギが食べない草」
「あぁ、まるで食べない事もないが、あんまり好きでも無い」
「じゃあ、刈って捨てるんだね」
「いやいや。そんなもったいない事せんよ」
「どうするの?」
「お茶にするんだよ。お前も前に飲んだだろ」
「あのお茶って、この笹って草なの?」
「そうそう。お茶にするのは、まぁ刈ってからだ」
そしてワシらは小一時間ひたすら笹を刈る。
「これをどうするの?」
「これをまず洗う」
「わかった」
ワシらは笹を洗った。
「次は?」
「次は蒸すんじゃ」
「わかった」
ワシらは笹を蒸した。
「次は?」
「次は干すんじゃ」
「わかった」
「あとは乾燥させると、お茶になるんだね」
「そういう事。ここでちゃんと乾燥させないと、カビの原因になる。カビが生えると売り物にならないからな。注意しろよ」
「うん」
ワシらは二週間ほど、クマザサを刈って、茶を作った。
「やっと終わったね」
「あぁ。クマザサは厄介者と言われてるんだ」
「そうなんだ」
「あぁ。でもな。こうやって少し手間をかければ、美味しいお茶になる。この世界には、そういう物が溢れてるんだよ」
「そっか。枯れた枝も薪にできるもんね」
「あぁ、誰かが役に立たないと言ったからといって、本当に役に立たないわけじゃない。その誰かが、役に立てる方法を見つけられなかっただけなんだ」
「そっか。役に立てる方法を見つけられなかっただけなのか」
「そうじゃ。それを覚えておけば、世の中、そんなに悪いものじゃなく見えてくるぞ」
「うん。覚えておく」
きょうは優しい笑顔を見せた。
(ニャ~)
「あぁ、また来たか」
「あの猫ちゃん、よく来るの?」
「追い返したのに、また来た」
「猫嫌いなの?」
「ワシが食おうと思った干し魚を奪っていった」
「だから嫌いになったの?」
「憎らしい」
「厄介者?」
「あぁ厄介者……、なんかの役に立つというのか」
ワシは思わず笑ってしまった。
「うん。猫は可愛いよ」
「可愛いだけじゃなぁ」
「猫はネズミを追っかける」
「ネズミを追っかける……、別に狙われるものないしな」
「ネズミが梅の木をかじってたよ」
「ウソ?」
「本当」
「あれヤギじゃなかったの」
「ヤギは囲いで食べないよ」
「本当か」
「うん」
「じゃあ、仲直りしようか」
「うん」
ワシは仲直りをし、ヤギのチーズを少しわけてやった。
梅が収穫前に、ハチミツを収穫する事にする。
「ハチミツを収穫するから見に来るか?」
「えっ刺されない?」
「この服を着てたら大丈夫だ」
「うん。じゃあ行ってみる」
きょうは恐る恐るついてくる。
巣箱につくと、巣箱には沢山の蜜蜂がついていた。
ワシは煙を吹きかける。
「なんで煙を吹きかけるの?」
木の陰で、きょうは大きな声を出した。
「蜜蜂が大人しくなって扱いやすいんだ」
ワシはきょうが見えやすいように、作業をする。
巣箱から巣を取り出し、容器の上に重ねた籠にのせる。
「なにしてるの?」
「こうやると、蜂蜜が落ちるんだよ」
ワシはこの作業を何度も何度も繰り返した。
危なくないのがわかったのか、徐々にきょうが近寄って来る。
「ねぇ、味見してみていい?」
「蜂に見つからないように、少し離れた所で、さっと舐めてこい」
ワシは巣の一部を渡す。
「この白いのも食べれるの?」
「まぁ食べれるが、そんなに美味くはないぞ」
きょうは受け取り、駆け足で遠くまで行った。
「美味しい」
大きな声が聞こえる。
ワシらは作業を終え、家に戻る。
「これで終わり?」
「いや。この巣を砕いて、布で濾して、さらにハチミツを取る」
「なんで砕くの?キレイなのに」
「内側にまだまだついてるが、砕くとさらに取れやすくなるんだ」
「この巣も食べれるんでしょ。もったいなくない」
「そりゃもったいないよ。これはな蜜蝋といって、溶かすと高級な蝋燭の材料になるんだ」
「じゃあ蝋燭も作るの?」
「蝋燭の材料をな。そして市場で売る」
「すごい!」
「そうだろ。無駄なく使えるからな」
「ねぇ。おじいちゃん。蜂さんは花から蜜を集めるけど、花は怒らないの?おじいちゃんが、魚とられたって怒ったみたいに」
「はははははは。それは参った。花はな。蜂に蜜をあげるかわりに、蜂に花粉を運んでもらってるんだ」
「花粉?」
「そう。ほら今梅の実がなってるだろ。あれはな。元は梅の花があった場所なんだ」
「へぇそうなんだ」
「そこに別の梅の花の花粉が付くと、受粉して実がなる」
「ウソ!」
「本当。その受粉を人の手でするところもあるけど、ほらこんなに梅が多いと大変だろ。だから蜜蜂が活躍するのさ」
「じゃあ梅の木にとって、蜜蜂は実をつけるのに必要って事?」
「そういう事」
「じゃあ、蜜蜂も厄介者じゃないんだね」
「そうそう。厄介者どころか、農家からすれば、仕事のお手伝いしてくれてるようなもんだ」
数日かけ、ハチミツは回収し終わった。
ワシは蜜蝋を回収し、熱で溶かし、そして布で不純物を濾し取った。
梅が収穫の時期を迎えたので、手伝いを三人ほど雇った。
「きょう!梅の収穫を始めるから、手伝いを三人雇う。お前も手伝ってくれな」
「うん」
梅の収穫は、落下させる手もあるが、それで品質が悪くなる。うちの梅林では、少し手間でも人を使い、手で収穫する。
収穫は手伝いに任せ、仕込みはワシらがすることにした。
「いいか。梅が届いたら、ゴミがついてないか確認して、ワシに渡してくれ」
「わかった」
梅が次々と運び込まれる。
きょうは真剣にゴミを探しては取り除く。そしてワシはハチミツに漬ける。
「ねぇおじいちゃん。梅は洗わなくて良いの?」
「酒に漬けるタイプの梅酒ならそれでも良いが、これは天然の種で酒にするタイプだからな」
「種ってなに?」
「種ってのは、発酵の種の事だ。この場合、ハチミツと梅の一部を種が食って、酒にするんだよ」




