陰謀・目的
「ウィルスに気づかれた…?まさか、そんな、バカな、ありえるのか、そんなことが。」
暗がりの中で動揺している犯人はブツブツと呟く。
殿下が莫大な金を動かしてまで学園内に持ち込まれたアレは末弟の始末する為の兵器だ。
勅命としてその運用を託されたわたしは粛々と命令権を行使し、アレに実行させた。
しかしウィルスを仕込んだ料理を食べさせ殺す計画は、あのラヴミリアンの令嬢によって阻まれたのだ。
あの末弟の婚約者となったハテナ・ラヴミリアン・ジーナス…あの女は一体何者だ?
奴の動向は末弟と同時に常にモニターしているが…
・編入早々に末弟王子とイチャつく。
・よく手当たり次第に雑草やゴミを袋に詰める。
・あのプライドが高いボンクラの多い高級クラスを制し、一気にカーストトップとなる。など不可解な点があまりに多すぎる。
そもそもラヴミリアンの令嬢に危害を加えた者は最後、二度と姿を現さないと言われているがそれはあくまでもラヴミリアンコーポレーションの力であって彼女自身はそこまで脅威ではない。
そう思っていたのだ。つい、この時までは…。
殿下に仕える同志への定期報告を行なっていた時にそれは起きた。
『あー!あー!えーっと?犯人の人!聞こえてるかな〜?』
ヤツは限られた者にしか知り得ない筈の何重にも複雑化された暗号通信の回線に割り込んできたのだ。
「っ!?貴様どうやってこの回線にっ!!」
得体の知れない脅威を前にして焦りで荒げたこちらの言葉をヤツは遮って言う。
『ごめんっ!!時間ないから要件だけね!そこの君にプレゼントがあって〜、あ!もうすぐ始まりますわ♥』
ビーッビーッビーッ!?
突如として警報音が鳴り響くと、この場所はあっという間に隔壁によって閉鎖された。
「なにっ!」
『じゃー頑張ってねぇー!!…プレゼント、気にいると良いけど…まっ!君死んじゃうかもしれないけどさ!!アハハハハハッ!!』
ドン!ドン!バゴォーンッ!?数回の破壊音の後に壁を突き破ってガードメカの群れがこの場所にわらわらとなだれ込み、わたしはあっという間に包囲される。
ガードメカが腹に抱えていたレーザー小銃をこちらに向けて展開する。
(まずい!瞬殺モードだ!!)
犯人の判断は早く、デバイスに命令がアクセスし彼はアレと呼んだ超人兵器をこの場に呼び寄せると自分が助かる為の肉壁とした。
ガードメカから無数に掃射される熱線は超人兵器の漆黒の身体には歯が立たず、超人兵器の放ったいくつもの投げナイフによって中枢部をやられて沈黙した。
「……は、はははっ!何が死んじゃうかもしれないだバカめ!こっちにはウルトノイドがいるのだ!」
犯人は窮地を脱した瞬間、全身の力が抜けて地面にへたり込んだ。そして、どちらからともなく、せきを切ったように笑い声が漏れ出した。
「ラバーズ!ターゲットをティーダ・カンド・ザナルからハテナ・ラヴミリアン・ジーナスへ変更。盛大に殺せ、確実にな」
ラバーズという名のウルトノイドの微かに寄せられた眉と、冷ややかな、けれどどこか物憂げな双眸。
「殺してやる…殺してやるぞハテナ・ラヴミリアン・ジーナスッッッ!!」
犯人の細められた瞳の奥に、言葉通りの「激情的な殺意」が揺らめいている。
彼女はあからさまに億劫そうな、そして、明確に不快そうな色を顔に浮かべていた。唇から漏れ出たのは
「御心のままに」
という、感情の籠もらない冷たい絶対服従の言葉だった。
どれほどその命令を嫌悪していようとも、飼い主の言葉に背くという選択肢は、その脳内のどこを探しても存在しない。呪縛にも似た絶対的な忠誠心が、その四肢を、意思を、完璧に支配している。
ラバーズは超人としての姿を変貌させる。
肌を大胆に晒し、見る者の理性を狂わせるための瑞々しくしなやかな容姿を身に纏う。
スノーホワイトのような滑らかな髪に琥珀の太陽の光をそのまま固めたような、深い蜂蜜色の美麗を孕んだ瞳、艶やかな褐色の肌。
それは、この忌々しい任務を遂行するための「死人の皮を被った影法師」に過ぎない。
自分の美貌も、他者を惑わす仕草も、病魔の塊であるこの身体も、すべてはただの暗器。
わたしをわたしとして見ていない、そんな飼い主の酔狂的な目を思い返す。
────機械扱いされても寂しくはない、でもただ哀しいの、だからわたし…笑えていないのかな。
鏡の前に映る妖艶な姿の自分に向かって、声にすらならない毒を吐く。
しかし、ターゲットの前に足を踏み入れた瞬間、その物憂げな顔は跡形もなく消え去った。
溢れんばかりの愛嬌と、計算し尽くされた蠱惑的な微笑みがその貌を覆う。
嫌悪も、退屈も、すべては仮面の下深くへと埋め殺し、ただ忠実なる人形として、甘い罠へと獲物を誘い込んでいくのだった。




