陰謀・序
影武者♂とティーダ王子が食堂へ向かう道中。
なんだろう…この、しつこいナンパみたいな距離感は…いや婚約者だからナンパじゃないけど。歩いている自分を追いかけながらこちらの顔を横から覗き込んでくるような感じがまんまそれだ。
「なにか奢ろう、苦手なものはないか?アレルギーなどがあれば言ってくれ。」
お!タダメシだって!?他人の金で食う飯が一番美味いってね!
「ご安心を!なんでも食べられますわ♥」
「そういえばクラスには馴染めたか?」
「出鼻を挫いてやりましたわ♥」
「フフッ、それなら良いが。君が助けを必要とするならいつでも言うといい。」
ティーダ王子は魅惑的に笑いかけてくる。
「恐れ入りますわ」
しかし言ってることは素直に気が利いてて本当に優しいし、気にかけてくれているのは分かる。
苦手なんだよなぁこういう光属性キャラみたいな奴。
これだからイケメンは嫌いなんだ。メロついてなんかまったくないんだからなっ!!
クッソ顔がイイからちくしょう。というかこの人腰ほっそいな…ちゃんと食べてるのか?
さ〜て飯や飯〜数少ない学園での楽しみや〜しかも食べ残しじゃない出来立てのあったかいやつ!!
見せてもらおうか、王子の味覚のフードとやらを!^_^。
「サンドイッチ?」
今、オレちゃんの手元にはサンドイッチがある。
ついさっきティーダ王子が出店で買ったやつだ。
ハムは厚くレタスはみずみずしくチーズはテカテカと照っていてそれを挟んでいる麻色の食パンがより一層食欲を引き立てる。
てっきり舌が肥えてて高級料理とか食べてるイメージだったのに、意外と庶民派なんだろうか。
「食堂は良くも悪くも騒がしいからな、こうやって静かに陽に当たりながら食べるのもたまには悪くないだろう?」
そうやってどこか窮屈そうに言う王子。
「そうですワネ♥」
……なんかコイツはコイツで苦労してそうだな、色々。まっそれがなんなのかは知りたくはない、厄介ごとはゴメンだ。
そういえば気になることがある。ティーダ王子にはお付きの姿がどこにも見当たらない。
そりゃ王族なのだからもちろんいるだろうけど、どこかで待機でもしているのか?だとしたら相当な手だれだな気配がまるでない。
「いただきます。」
「それは食前の祈りか?たしかニッポンのものだな。」
あ、ヤッベいつもの癖で!?
「習慣のようなものデスワ。」
そうしてこれ以上の追求から逃れるようにサンドイッチをかじる影武者♂。
刹那、違和感に気付いて咄嗟にサンドイッチを口に入れようとした王子の腕を掴む。
「い、許嫁殿…?どうしたんだ?」
これを食べれば…王子は死ぬ、間違いなく苦しむ暇もなく一瞬であの世行きだ。
オレちゃんはスラム育ちで死ぬほど耐性持ってるからちょっとあらゆる感覚が鈍る程度で済んでるけど。
まったくもって古典的な方法かつもっとも最悪な方法だ。
クソ!マジかよ!こんなことなら毒を盛られてた方が遥かにマシだ!!
あと少し遅ければ手遅れだったかもしれない。
……ウイルスだ、それも致死性の。
外からの出入りを極度に制限するほど衛生管理がかなり厳重なブリッツ学園にウィルスが持ち込まれた。
「王子、落ち着いてクダサイマシ。どうか騒がないで…毒です。」
「っ……」
流石王子。こういう事態には慣れているらしい、ここでパニックにならないのは大変ありがたい。
変に騒ぎを大きくすれば状況はより最悪になる。それをよく理解出来ているようだ。
てーことは毒盛られること自体は初めてじゃないらしい、これに関してはまた後で聞く必要がありそうだが…一番ヤバいのは王子を殺す為に殺人ウィルス、つまり条約違反のバイオ兵器が使用されていること。
彼にウィルスを毒と嘘をついたのはこの為だ。
このウィルスの性質によってはこの学園の全校生徒と教師たちと心中する羽目になるが…。
もし学園食材全てにウィルスが付着していたら何故騒ぎになってない?潜伏期間があるのか、いやだとしたらウィルス盛った実行犯もただじゃすまないだから盛られたのはワタクシと王子だけで空気感染する可能性は低い…と信じたい。
だとすれば、ワタクシと王子だけを狙った計画犯か…いずれにせよ洒落にならない。
ああもう癒しの食事の時間を邪魔しやがって!!
「王子、それをこちらに」
王子からウィルス入りサンドイッチを受けとり、こんな時もあろうかと持ってきていたジップロックに入れる。
ウィルスはサンドイッチに挟まれた中心に付着していた。だから王子には感染してない…はず。
「ハテナ…君は…」
王子がなにかに気付いたような様子で動揺している。
こんな事態だ、演技なんてしてる場合じゃない。影武者だとバレたら殺される?そんなラインとっくに通り越した。
しかも、このサンドイッチを買ったあの出店は忽然と消えていた。跡形もなく、まるで元からそこにはなにも存在しなかったように。
狐に化かされた気分とはこういうことをいうのだろう。
オレちゃんはようやく、自分が大きな陰謀の渦中にいることをハッキリと自覚した。
「上等デスワ…やってやろうじゃアリマセンノ。」




