ゆるかげびぼーろく⑴ ひっつき王子
前略、退院して寮の部屋に戻ったらティーダ王子が抱きついてきた。
「あの………王子」
「やだ」
「まだ何も言って…」
「離さないもん」
そう言うティーダ王子の腕は取り上げられたぬいぐるみを取り戻したとばかりに抱きしめる力を更に強めてくる。
(子供か!?いや、そういやオレちゃんたちまだ子供だったわ………さてはコイツ体力使いすぎて頭働いてないな?)
フーッとため息をつくのを堪えてティーダ王子の背中に手を回し優しく抱き返す。
「大丈夫ですよ王子、私は生きてここにいます。けれどそれでも不安なら気が済むまでこうしていなさい。ただし心を乱すような気持ちは全てここで吐き出してしまいなさい、心に毒ですよ?」
オレちゃんが優しい声音でそう言うとティーダ王子は弱々しい声で辿々しく喋り始めた。
「………守れなくて、ごめん」
「私は守られるほど弱くはなくてよ?」
「ごめんね………弱くて…………」
「貴方基準の“弱い” はマッハ三で動きますか?動きません、強すぎます。」
「でも、負けた………」
「生き残った者が勝者です。」
「僕が、僕が、息抜きしようなんて言ったからあんな事に………」
「カクテルは美味でしたので許します。」
一連の会話で張り詰めていたティーダ王子の表情が和らぐ。
頭を胸元に抱きとめられている影武者♂には彼が今どんな顔をしているかは分からなかったが震えていた呼吸が徐々に緩やかになっていた事でそれを察する。
まったくオレちゃんはメンタルカウンセラーじゃないつーの…でもまぁ年頃の男子ってこういうもんかね?
「…………つかれた」
こっちのセリフだよアホ、婚約生活一日目からアレはハードすぎだわっ!?ここ最近は警備部隊が巡回してくれてるおかげで平穏に過ごせたけれども…。
あ、そういやコイツが指揮してたんだっけ?
じゃあ、まぁ、一応労ってやるか………。
「では、少し早いですが寝屋につきましょうか。」
疲れたらしっかり睡眠をとる、コレ大事。
そうして、何がなんでもオレちゃんのひっつき虫をやめようとしないティーダ王子を引きずりながらキングサイズのベッドのマシュマロのような柔らかさと手触りの毛布の中へ身体を潜らせた。
レモンの匂い!身体ほっそ!体温熱っつ!要素要素に不快感は無いが野郎の身体と密着させられてテンション最低値!モゾモゾ動くな気持ち悪い!!
「いい匂いするぅ」
キッッッショ!?
おいお前の王子キャラどこ行ったぁ?
そりゃこの寝巻きには男とバレないよう体格を誤魔化すフリルに香水吹きかけまくってんだからそりゃいい匂いするでしょうよ!?
「これぐらい淑女の嗜みですわ」
「しゅくじょってすごいねぇ…」
「すごいですねぇ」
アッカン見てられへん、コイツ疲れすぎて幼児退行してますやん、マジでさっさと寝かせないと。
影武者♂はティーダ王子の身体を毛布の上からぽんぽんとゆっくりとしたリズムで叩いて眠りへと誘っていく。
「今度こそ守るんだ………今度こそ………死なせない、か、ら………ZZZ」
「案外すぐ寝ましたわね…」
というか寝言が物騒すぎだよ全く…。
コイツ、ティーダ王子には過去に以前一人の婚約者がいたらしい。
だがその子は事故で死亡した…というのが表向きの話、しかしなんともまぁ酷い話だ。そこらへん色々調べた結果の考察だが、おおかた夜会で襲撃された時と同じようにティーダ王子を狙うヤツらに殺されたのだろう。気の毒なことだ。
なすすべなく婚約者の命を奪われたこの末っ子は守る為の力を欲し、SPEC強度エンプレスのサイバーウェアを全身に施した。何億の金が動いたか知らんけどリパードク(サイバーウェア専門の外科医)ブチギレ不可避、マジで狂気の沙汰だサイボーグとほとんど変わらない。
が、生物的弱点はどうしようもなかったらしい。
操られたラバーズさんの病魔には勝てなかった。コイツはまたそれを克服しようとサイバーウェアを増やすんだろうか?まぁその時はもちろん新しい婚約者として止めてやろう、サイバーメンタルロストで自己喪失にでもなろうものならウチ(ラヴミリアン)が困るしな。
なにより、オレちゃんが証明してやればいいのさ!“末っ子王子の婚約者に関わるとロクな事がない” ってな。
さて、そろそろ寝るとするか。
明日から学園へ復帰するからあまり遅いと差し支えるしね。
周囲への感覚を敏感にしつつ意識を落としてっと…あーいいぞ〜眠くなってきた。
「おやすみなさいティーダ王子、良い夢を………スヤ~」




