正体・発覚
招かれざる客というのはいつも唐突にやってくる。
声が身体に響いている。
開けろ、今すぐここを開けろと叫んでいる。
扉を叩く音は絶えず酷く不作法で、今にも破られそうだ。
オレちゃんは鎖や錠前でドアノブを固定し棚や椅子で扉の前にバリケードを張ってヤツを締め出した。
ヤツが扉を叩くたびに鎖がジャリっと鳴りバリケードがわずかに揺れる。
バカめ、そんなにやったって無駄だ。
なおも諦めようとしないヤツをそう嘲笑っているとゴトリッと揺れた拍子に棚の引き出しが開いてなにか一枚、下に零れ落ちた。
かがんでそれを手に取って読んでみる。
───おまえは誰だ?
…意味が分からない。オレちゃんはオレちゃんだ、それ以外でも以下でもない。あれ?自分の名前ってなんだったっけ?自分の名前を忘れるなんておかしいなぁ。そうだ、そういえば棚にアルバムがあったはずだ。
えーっと、オレちゃんのやつは…影武者♂?なんだこのふざけた名前?確かにオレちゃん影武者だけどなんで♂がうしろについてんだよおかしいだろ、違う。
ハテナ・ラヴミリアン・ジーナス、オレちゃんは姫の影武者であって本人じゃないよ、てかなんで姫のアルバムがここに?これも違う。
安生正道…これはあの頃の名前であって、もうオレちゃんのものじゃない、安生正道はあの時死んだんだ。違う…。
あれもこれもどれも違う、違う違う違う誰だお前は!お前も!お前も!お前も!全部全部全部全部違う!どこの誰だよ!誰なんだよお前は!!
「お前こそ誰だ?」
扉の先からの問いにカッとなって声を荒げる。
「うるさいなぁ!?俺ちゃんは!オレちゃんはっ!オレ…ちゃん、は…誰、だ…誰が。俺…/僕…/ワタクシ…/我…/なんだ…?」
勢いのあった威勢が次第に萎縮する。自分のどこを探しても、確信の無いどこの誰とも知れない名前が次々と浮かんできては頭をかき回して身体の五感は皮が無理矢理引っ張られるみたいに扉の先へ伸びていく__
「なんなんだお前はっ!!」
怒声を放った一瞬、平衡感覚が崩壊して足元が狂った拍子に****は扉の鍵穴を覗いてしまった。
200の目が僕を見ている。100の口が僕を語る。
「此処ハ灼ノ道ナリ」
「冥府なり」「顕世なり」
「ソは裁キ」「ソは八福音」
「永遠ノ幸福ナリ」「苦シミナリ」
「安穏タレ」「凄惨タレ」
「幾星霜ハ我ラガシモべトナリテ」
「我ラガソラヲ護ラン」
「秩序ヲ」「秩序ヲ」
「我ラガソラノ」「我ラガソラノ元ニ」
「秩序ヲ」
______________________
覚醒する。
開いた目に眩い光が差し込み二、三度瞬きをした。
ようやく目が馴染んできて視界がクリアになる、そこは見知らぬ天井。
先ほどまでグチャグチャだった輪郭が今ではハッキリと感じられ現実を実感して心の底から安堵する。
「嫌な夢だったな…アイタタ…っ」
真っ白な景色が飛び込んでくる。ズキズキと疼く頭に手を当てながら気怠い身体を起こす。汗ばんだ背中と服がベチョッとくっついて気持ち悪い。
そこでようやく自分のいる場所を把握した。
「病院だ…」
白いベッドの上、空気清浄機以外なにもない空間に一人オレちゃんは収容されていた。
それでも病院と判断できたのは患者服の裾に刺繍された【ブリッツ総合病院】という文字と、頭に叩き込んでいたブリッツ学園の敷地内にある施設の全構造と合致していたからだ。この病院で取り扱っている薬品の臭い、通気口、水道、導管の音。視界から読み取れる部屋の使い込み具合。
…間違いない、少なくとも怪物ではなく人間として扱われているようだ。
することがないのでそれからしばらくぼーっとしていた影武者♂だったが間もなくして防犯カメラから彼の意識が戻ったことを確認して部屋を訪れた看護師に説明を受けた。
曰く、警備システムの異常に気付いた警備部隊が会場に駆け込むとそこには気を失った人々が折り重なるように倒れている異様な光景だけが広がっていたこと。
曰く、影武者♂と同じように意識が戻った者はみな化け物のせいだと証言しているが彼らの言うような身体の異常は検出されなかったこと。
曰く、今回の事件は警備部隊が厳戒態勢で調査に当たっていて、医師からの許可が降りたので十数分後にその取り調べに影武者♂も協力することが義務付けられていること。
そして婚約者であるティーダ王子は現在、当事者として警備部隊の調査に加わり現場指揮を執っているということだった。
(アイツ現場指揮なんてできたんだな…)
どうやら昨夜の出来事の全容は誰も把握できていないらしい。
あの真実を知るのはオレちゃんだけという訳だ。
全てはあの爆裂サイボーグ野郎の仕業だ。
オレちゃんが緑色の怪物に変貌してしまったのもアイツが絡んでいたに違いない。
たしかウルトノイド、とか言ってたかな…まさか人を吸血鬼みたいな怪物にする薬かなんかじゃないでしょうね?情報が少ないからなんともいえない。
あのサイボーグ野郎を爆殺したのは悪手だったか?いや、情報引き出すとか以前にそんな余裕なんてなかったし、あの時は人命優先だったし、ラバーズ…と呼ばれていたあの子も助けることが出来た、万々歳じゃないか。ああいう時に欲張ると碌なことがないのだ。自分は最善を尽くしたはずだ。
しかし、いつ自分がまた血を求める渇きに抗えなくなるか分からない以上一刻も早く人間に戻る方法を見つける必要がある。
あの時はラバーズさんが血をくれたおかげでなんとかなったとはいえ、自分が危険な存在だということは変わらない。
それはラバーズさんだって例外じゃないはずで、オレちゃんはなんとか見つけ出して助力を得ようと考えている。
あの風の中を舞うような身のこなしは見事なものであったし、フットワークが軽いに越したことはない。
とにかく今は少しでもウルトノイドについての情報が欲しい。
…だが、本当にそうするべきか悩んでもいる。
こんな個人的な理由で、あの子を巻き込んでしまっていいのだろうか。
そしてなによりもラバーズさんには過去に凄惨な経験をした分、幸福でいてもらいたい。
自分といるとむしろ不幸にしてしまうのでは?
いやでもお礼だってまだ言えてない、オレちゃんはどうするべきなのだろう?
「ハテナさま?」
「あっはい!」
心配した看護師さんに呼びかけられ咄嗟に返事をする。
いけない、思わず考えに耽ってしまった…。
「お預かりしていた私物の消毒が終わったのでお返ししますね」
「あ、どうもご丁寧に…感謝しますわ」
看護師さんは黒いビニールで包装された私物を手渡すとペコリとお辞儀をして部屋から出て行った。
部屋に一人残された影武者♂はとりあえずビニールの口を開けて、中身を確認する。
「………マジか」
手に取った瞬間、体が強張る。
入っていたのは【影法師備忘録】だった。どうやら影武者♂の私物だと勘違いされているらしい。
これを介して影武者♂とラバーズはウルトノイドへ変貌することが出来るのだ。
なので他の手に渡らなかったことを幸運に思うべきか、自分の手に渡ってしまったことを不幸と思うべきか…影武者♂は眉間にシワを寄せる。
《My Starr、そこにいますか?》
そこへ突然、影法師備忘録がラバーズの声を発した。
「………え………えっ………えぇっ!?」
影武者♂はワンテンポ遅れて驚愕する、そして影法師備忘録を回し見るのだがどこから声が出ているのかさっぱり分からない。
やはり気のせいだったのだろうか?
《My Starr》
気のせいじゃないっ!?やっぱりコレから声が出てる!!!!いったいどういう仕組みなんだ…?と影武者♂が終始困惑しているのを知ってか知らずかラバーズの声は遠慮しがちに言葉を続ける。
《貴方とお話ししたいです、付き合って、もらえますか?》
「ん?ん?ん?…もちろん構わないけれどこれってどう___」
困惑真っ最中にも関わらず一瞬にして全く別の空間へ飛ばされた、光り輝く星々が浮かぶ青空の下、鏡面の地平線の上に影武者♂は立っている。
「___やって、待ってここどこ?」
気配もなく背後から誰か近づいてくる、おもむろに振り向くとそこにはラバーズさんが立っていた。
黒い頭巾を深く被ったまま、動かずに立っている。その布の下から、彼女の輪郭がありありとなってこちらを向く。
一枚の深いワインの赤が、浮くように動いて、こちらに寄ってくる。胸元で斜めに交差した帯が、歩みに合わせて艶褐色の肌をはらみ、露な肌の上を、赤い酒の色が滑るように渡っていく。女の体温を吸って、布は少しだけ、しっとり光っている。
腰で短く結ばれた帯の端が、歩くたびに艶褐色の太ももをなぞり、その先へと、すべるように流れていく。結び目が呼吸のたびに微かに動いて、帯が締まって、緩んで、締まって——ただそれだけが、彼女が生きている証みたいで、目が離せなかった。
一滴、垂れるように、蜂蜜色の瞳だけが、赤の闇からこちらを覗いて、帯の結び目より先をずっと見ている。
もしかしてこれがラバーズさんの普段着かな?いや確かにあの白いドレスよりかは布面積があるがかなりエッチだ。
こう、ドレスの時よりも更に視線がソッチへ誘導されるだろうし、もし今の彼女と戦うことになったらかなり気が散りそうだ。
でも、なんだろう、その、あれだ、今はエッチな気分よりその服を着ている背景がなんとなく想像ついて泣きそうでキツい…………アカン鼻の奥が痛くなってきた。
「ここはジェイルスペースといって…その、ええっと、なんと申し上げれば…」
一生懸命詳細に語ろうとしたけど彼女自身もこの空間についてはよく知らないことに気付いたのか途中で申し訳なさそうに口を尖らせている。
「大丈夫っす!今ので大体分かりました」
ジェイルスペース…牢獄空間、なるほどつまり必要な時以外はあの本を使ってここに閉じ込めておけば超厳重な検査だろうと通過できる訳だ。
あの本自体は留め具のついた備忘録にしか見えない。
爆裂サイボーグ野郎はコレを制御デバイスと言っていたが厳密には超ハイテクな【媒体】といったところか。
だとするとラバーズさんを操っていたカードも、オレちゃんを怪物にしたのも全てコレが引き起こした機能なのか?
う〜ん、まぁそこは一旦置いといて…今すべきなのは。
「ラバーズさんの話!聞きたいっす!」
影武者♂は穏やかな表情でそう言うと右腕を突き出すように親指を立ててラバーズにサムズアップを贈る。
しかしそれでも後ろめたさを抱えるラバーズの顔は晴れないままだった。
「はい…わかりました」
そして何かを決心したように両手で胸を押さえつけながら彼女は震えていた唇を開いた。
「14年前、長野県中央アルプスで地中に埋没していた地殻変動の影響で超古代遺跡が地上へと姿を現し、発見されました。その遺跡から出土したミイラは人間ではなく、それはのちに擬態型宇宙究極生命体と呼ばれる正体不明の生物でした」
ラバーズの説明を聞いた瞬間、影武者♂の脳内で様々な思考が交錯し始める。
なんかエイリアン映画のあらすじみたいな話になってきた。しかも超古代とか遺跡とかミイラとか明らかにヤバい要素の盛り合わせな上に。
なんだその擬態型宇宙究極生命体?なるほど分かったぞさっきのミイラが蘇って人々を虐殺するSFホラーだな?
昔見た映画みたいで懐かしい………。
あれ?これそもそも現実の話してる………マジかよ。ひょっとしてラバーズさんそのエイリアンに寄生されてるってこと?
え、ということはオレちゃんも寄生されてるってこと?
意識を意のままに操られたり栄養チューチュー吸われたりしてるってこと?
だから血が吸いたくなったり化け物に変わったり出来るってこと?
突拍子のない内容にますます理解が追いつかないままラバーズの言葉は続いていく。
「その細胞を使って、アーミーテクノロジーは実験によって擬態型宇宙究極生命体のクローンを製造しました………」
いや絶対暴走するやつ!!
そしてラバーズさんの口から出たアーミーテクノロジーという言葉。
うちのラヴミリアンコーポレーションより古参かつライバル超大企業であり顧客を選ばず軍事兵器を世界中にばら撒きあのクソみたいなスラムを増やしまくった元凶だ。
まさかやつらが関わっていたとは………確かにアミテクならやりかねない。
こういうのは映画だとクローン達が自我とか意思とかを持ちだして研究所が統制できずに事故が起きて、開発者とか博士の業が「私が生み出した」的な懺悔したり、主人公がその十字架を背負うハメになるパターンか、それとも人間扱いの葛藤的なアレか、クローンと人間の誰かが愛し合ってしまって、その異種族との間にハーフの子供が産まれたりするパターンもあり得る。
でもそういうのって大体怪物側からも人間側からも居場所がなかったりして、待てよ?ということはもしかしてオレちゃんがスラムのゴミ溜めに捨てられたのもそういうことなのかも………最悪だ、これが一番最悪の予想だ。
影武者♂は段々とラバーズの話を聞くのが怖くなってくると深呼吸をして気分を落ち着かせた。
覚悟は…出来ている。
「それは死人の生前の人格や記憶、肉体を擬態させた14体の超人兵器、ウルトノイドシリーズ………私はその第6号、ウルトノイド・ラバーズ。
その原初にして始まりの第0号………ウルトノイド・フル。それがMy Starr、貴方です。」
___目の前が真っ暗になった。
影武者♂は肩を落とし、さきほどのラバーズが語った事実が反芻する。容赦なく降り注ぐ強い雨に身体が濡れて重くなって冷えていくような感覚に侵されていく。
答えはどこだ、必死に探しても、心臓が迸るだけ。
───嗚呼…嗚呼そうか、そういうことか。
ようやく爆裂サイボーグ野郎が色々喚いていた言葉の意味を理解し始める。
つまり自分は死んで転生したわけじゃなくて記憶も心もなにもかも赤の他人から借りただけの偽物だったわけだ。
覚えのない懐かしさを自分のものだと抱いていた。口を衝く言葉、癖、笑い方、どこからきたかも知らないで。
似せて騙して息をしてさ、今日までうまく生きてきたんだよ。剥がしてみればその下には、何も、残ってない。
いままで自分を支えてきたものが根本から崩れる音がした。
(気が狂いそうだ…それはダメ、だ、あの子の前で涙を見せるわけには、いかない…)
自分に抗えずラバーズの肌に牙を突き立て貪ったあの時と同じ深い絶望が彼の心を押し潰していた。
「ああっ!ヤバいッ!!またネガティブになっちゃってる!ハッ!!喪失感だわ!これ!喪失感!きっと自分が消え失せてるんだわ!!消え失せてしまう!!あッ!でもワタシ自分じゃない!自分じゃないのに自分ってどういうこと!? セルフとセルフ!消え失セルフーーーール!!」
その直後に一瞬の“静”、彼女からフッと表情が抜ける。
そしてポロポロと大粒の涙が見開いた瞳から溢れていくのを見て、影武者♂はハッと我に返った。
「あぁ、いけない………だめ…っ……も、申し訳ありません、すぐ………、泣き止み、ますから………」
ラバーズは泣いていた。
ウルトノイドが自身を人間だと思い込んだまま成長してしまっているなんて悲劇そのもので、このままでは彼はきっといつかどこかのタイミングで最悪の形で壊れてしまう。
だから真実を告げるなら今しかない、まだ引き返せるうちに彼は自分自身について知る権利と義務がある。それが必然だと重々理解しているつもりだったのに…でもそれは結局ラバーズの驕りだった。
彼が、影武者♂が今のようにああして子供のようにふざけ倒すのは、むしろ“限界まで無理をしている”証拠なのだとハッキリと感じてしまったから。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
ラバーズは罪悪感でいっぱいになって、胸がとても締め付けられて苦しくて、本当なら訓練ですぐ泣き止めるようになったはずの涙は止めようすればするほど沢山流れてきてどうしても止められなかった。
影武者♂は自分の至らなさに忸怩たる思いを感じずにはいられなかった。
───ああ…自分はなんてバカなんだ
女の子を泣かせてしまった。
そうだ、自分が偽りであろうとなんだろうと目の前にあるその真実は何も変わらないじゃないか。今はそれで充分だ。
「ごめんよ悲しませるつもりじゃ…泣かないで」
影武者♂はラバーズの涙をハンカチでポンポンと拭いながら頭を撫でてやり、宥めていく。
「あぁ、いけません。ハンカチが汚れてしまう」
「いいのいいの、ラバーズさんは自分のヒーローなんすから」
影武者♂の口から出てきた予想外な言葉にラバーズは少しの間、ポカンと呆気に取られたがすぐに俯いて辿々しくそれを否定した。
「いえ………殺すことしか、できない私が、そんな………」
そんな彼女に影武者♂はその隣に腰掛けて話し始める。
「やだなぁ自分のこと助けてくれたじゃないっすかぁ。昨夜ラバーズさんの首筋からエネルギー吸った時に言った名前のヒーローがいるんす、その名の通りアンパンで出来てて、彼はお腹を空かせた人に大切な自分の一部であるアンパンを分けてあげる自分の憧れの優しいヒーローなんすよ。
だから自分を助けてくれたラバーズさんも、自分にとってはそうなんすよ?」
「………え」
ラバーズは呆然として涙がピタリと止まる。
「ラバーズさん。助けてくれて…ありがとう。」
ちょっと気恥ずかしそうにしながら告げられた、飾り気のない、でも素直で、真っ直ぐな感謝の言葉。
ラバーズは胸が暖かくなるのを感じた。
ただ彼を死なせたくない一心で動いていた。
助けたつもりなんてなかったし、それどころか病魔の塊である私の身体、ウルトノイドですら死に至らしめるその血を飲めば、本当に死んでしまうかもしれなかった、でも彼は死ななかった、この人なら私を満たしてくれると思った。
たったそれだけだったはずなのに………それは叶わなかったはずなのに………夢でしか起き得ないと思っていたはずなのに。
私は初めて“命を救った”その実感が湧いてきて、また目頭が熱くなる。
涙ぐんだまま彼の瞳を真っ直ぐ見つめた。
どこか仄かで暖かな瞳に私はMy Starr(私のお星様)への永遠を誓った。
「わたしのエネルギーは、いつでも貴方に…捧げます」
「いや乙女の肌はなるべく傷をつけたくないんで遠慮するっす、あれって普通の食べ物で代用できたり?」
「効率は悪くなりますが…」
「なら沢山食べればなんとかなるか」
「そう、ですか………そっかぁ」
───どうしてそこは頑ななんだろう…
ラバーズは私を通して彼という存在の証を残して欲しいという気持ちの行き場を失い、シュンと寂しそうな表情を浮かべる。でも、迷惑はかけられない。
この焦がれるように昂る熱情、それだけは口にできないまま、しっとりと光る布の中に隠した。
そんな様子を見兼ねた影武者♂はイタズラな笑みを浮かべながらラバーズに歩み寄っていく。
「寂しんぼみ〜け〜!」
頭に深く被っていた黒頭巾を脱がせて彼女の頭をワシャワシャナデナデと撫で回した。
「あぁ〜っあぁ〜っあぁ〜っMy Starr なにをぉ〜っおっお〜っ」
「なにってチャージっすよ、チャージ、王子も入用みたいだし取り調べ終わったらすぐ戻るんで!それまで寂しくないよーにっと、じゃ、行ってきマンモース!」
深い闇で輝く星のように温かい手で触れてくれたのが嬉しくて、でもずっと触れてくれないのが寂しくて、それがどうしても…辛い。貴方の手が離れていく、背中を向けて遠くへ行ってしまう……貴方に焦がされた情動が溢れて、制御不能になって熱く激しく迸る。
そうして固く閉じていたはずの口を突き破った。
「My Starr 貴方が、好きです…!!」
「…オレちゃんも可愛い子は好きだよ〜」
背中を向けたまま手を振る。振る回数でごまかしながら、唇の端が逃げるみたいに上がるのを、ラバーズには絶対悟られまいと手を最後まで彼女に振りながら牢獄空間から消え去っていった。
その顔には、ほんのり朱が浮かんでいた。




