改稿中
「……イン」
微かに人の声が聞こえた。朝陽は感電したときのような痺れを感じるなか、薄くまぶたを開いた。なにかを持った少女が立っている。少女は朝陽に気づいた。
「無事だったんですね。よかった」
朝陽は見知らぬ少女の笑みに、見入っていた。青の瞳に吸い寄せられる。白い服は少し汚れていた。
「あなたが落ちてきたときはどうなることかと思いましたが、あなたのおかげで助かりました。その上あなたも無事で私とても嬉しいです」
状況のわからない朝陽は一方的な感謝に戸惑いながらも喜ぶ少女を見守った。
思い出したように少女は呟いた。
「あ、忘れてました。私ディアナと申します。あなたのお名前は」
「日野朝陽です」
「アサヒさん、ですね。改めて先程はありがとうございました」
「俺って、何かしました? あなたを助けたみたいな口ぶりですけど」
朝陽は自身が空から落ちてきたこと。落下の際に少女を救ったこと、気絶していたこと。漆黒の空間に落ちた後の状況を、ディアナの言葉で補完していった。自分自身になにが起こったのかは理解に及んだ。しかし、わからないことがある。
「ところでここはどこなんですか」
朝陽は、空から落ちてきた、というディアナの言葉に一抹の不安はあった。しかし現在自身の持つ情報の中に現在地の情報はない。次の瞬間それは判明した。
「ここはロンダールの北方ディメンですよ。ユグドラシルの中でも海産物が特においーー」
「ユグドラシル⁉︎」
嫌な想像が的中していることにめまいを感じる。外套の少年が言っていた。朝陽に向けられた言葉。貴方はこの世界の人間ではない、と。そしてユグドラシルで産まれたとも。部屋の窓に駆け寄った。外を見ると、明らかに見知った景色ではないものが広がっている。
ディアナは心配そうな面持ちで声をかけた。
「大丈夫ですか」
「大丈夫ではないかも」
「えっ!」
「驚かないで聞いてくれます?」
ディアナは大抵のことには驚かない、と自信満々に小ぶりの胸を突き出した。
「俺、別な世界から来たみたいなんです」
ディアナは自信満々の顔つきのまま固まっている。
「ディ、ディアナさん?」
「すみません……驚いてました」
驚愕を申告された。当然だろう、と朝陽は話を進めた。ディアナにはここにいる経緯を説明した。朝陽の話は、ディアナからすれば突拍子もないものだろうが、丁寧な相槌のもと最後まで話し終えた。
「外套の少年に、姿の見えない声の主、真っ暗な空間……ちんぷんかんぷんですね」
「やっぱりそうですよね」
「その話が本当だとしたら不思議ですね」
「何がですか」
「なぜ私達はお話が出来ているのでしょう」
朝陽は再び少年の言葉を思い出していた。もし少年の言っていたことが事実ならば、この世界で会話が出来ている辻褄は合う。だが、次の考えでこれは否定された。産まれはユグドラシルだとしても、俺が言葉を話せるようになったのは東京で拾われたあとだ。拾われた記憶も全くないのに、異世界の言葉は覚えてましたはさすがにないだろう。でもなんで相手の言葉が日本語で聞こえるのだろう。疑問は止まない。
「もしかして」ディアナが朝陽の胸を指差した。「これではありませんか」
自身の胸元を見ると、剣のネックレスが青い光を帯びている。
「アサヒさんはこれをどちらで手に入れられたんですか」
「これは拾われた時に持っていたもので……あっ!」
朝陽は一つの可能性にたどり着く。外套の少年が言っていることが全て正しい場合の話だ。この剣のネックレスは、朝陽の実の親が持たせたものなのではないかと。やがてこの世界、ユグドラシルに来るときのために。
拡大解釈気味の妄想に着地した朝陽は一層頭を悩ませた。
「ディアナさん。結局のところ、二人に会ってみないと答えは出そうになさそうです」
「二人と言うと、外套の少年と姿の見えない声の主ですか」
「そうです」
単純明快な答えに帰着した。朝陽の中には霧のかかったような気持ちが溢れていた。拠り所のない感情に満ちたとき、部屋の入り口が豪快に開かれた。




