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改稿中

 夜に包まれた森の中を、一人の少女が駆けていた。闇に染まり黒々とした茂みをかき分けては前へ前へと進んでいく。吐く息には疲労が滲んでいるが、止まる気配はない。背後から迫る追っ手から逃げるために、ディアナは疾走する。


 足は止めずに空を見上げた。木々の隙間からは月明かりが差し込み、金の髪に光を反射させる。数時間前に袖を通した服は所々葉に擦れたのか緑の線が走っている。白色の軽装は、今や泥に汚れていた。だが、どれだけ身なりが汚れようとも立ち止まるわけには行かない。


 ふくよかな茂みを突破したときディアナは広々とした場所に出た。先ほどまで周りを囲っていた樹木は円形状に姿を消している。空間の半分を埋めるように泉がそこにはあった。逃走中でなければ、とディアナは思う。激しい動悸を抑えるように歩を緩め、泉の前に立った。そして先ほど自身が突き破った茂みを見る。一瞬空に青い閃光が見え、視線を空に飛ばした。


 その時、三つの人影が茂みを通過した。全員が黒い外套に身を包んでおり、目元だけが皮膚を晒していた。外套には網膜に焼きつくのではと思うほど見たカーライル帝国の紋章が縫われている。盾の中央を交差するように二本の剣が縫い付けてある。攻勢に出ようと杖を手にしたが、紋章を見たせいか、杖を握る手に力がこもった。


 本来ならディアナ自身が戦うことはない。しかし逃走の際、護衛を勤めていたヴァンケは、国境越えの直後に現れた追っ手との交戦により離れ離れとなっていた。そのせいでディアナは武器をとった。


 追っ手は、ディアナの攻勢を感じたのか、腰に挿した短剣の柄を手に持ちにじり寄ってきた。緩やかではあるが、数の利をとり、ディアナを囲んでいく。泉を背にしたディアナは片足を水面に浸けていた。冷たさに身をすくませながら更に後退する。水面は膝まで達していた。


 追っ手の一人が口を開いた。


「ディアナ殿。あなたが抵抗なさらなければ痛みに涙をこぼす必要はありません。どうか、国へお戻りください」


 ディアナは眼前の追っ手に同情した。ディアナがどのような理由で牢屋の中で生活し、なぜ、国外への逃亡に至ったのか何も聞かされていないのだと。騎士長はこの者達に理由なき追走をさせているのだ。


「私は貴方達が懇願しようとも国へ戻る気はありません。それでも連れて帰りたいのでしたら、その短剣で私を切るといい。今の私は、命ある限りあなた方に抵抗してみせます」


 毅然とした態度から繰り出した言葉に、追っ手は怯んだ。無論それは、少女の力に恐れを抱いたのではない。命を限りの抵抗を想像してのことだろう。


 張り詰めた空気を切るように、追っ手は短剣を抜いた。刃の擦れる音が三つ響いた。先ほどまでは、森の妖艶さを演出していた月光は、凶器の鋭さに一層の磨きをかけている。


 必ずこの者達は飛びかかるはずだ。そう願い、月とは別の閃光に一縷の望みをかけてディアナは泉へ飛び込んだ。


 揺れる水面を見つめ、困惑する男達の背後に青い閃光は飛び込んだ。


 ディアナは閃光の余波で揺らめく水面から顔を出した。手足を必死に動かし体勢を維持する。そして、先ほどまで自身の立っていた場所を見ると、そこにはただめくれ上がった地面だけがあった。顔を左右に動かすと、追っ手の姿を探した。右に一人、左に二人の人が転がっている。安堵し泉から上がる。


 一か八かの賭けに勝利した要因はあの閃光だ。その正体を見るべくめくれる大地に近づくと、そこには紺色の髪をもつ少年の姿があった。敵かもしれない、ヴァンケがいたらきっと言うだろう、などと考えながら少年に近づいた。周囲に倒れている者達と同様に、どうやら気絶しているらしい。


 見捨ててヴァンケとの合流地点となっている村に行くのが先決だ。そう頭には浮かぶものの、ディアナの中に生まれた感謝の念が、ディアナの中にある薄情さに蓋をした。男達に動きが無いことを確認し、少年の肩をとり森の出口を目指して歩き始めた。

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