098話
ランスの街の中心街をぽてぽてと歩く。
魔法士協会を出ると昼近かったんで、レティの知ってる店とやらに昼食を食べに行く所なんだけど、街中は色々な人達でごった返してて、歩くだけでも大変な感じだ。
城外では未だ残り討伐で大騒ぎなものの、街中はそれとは全く別種の騒動の真っ最中なんだよね。
動きの早い商会や商人達を筆頭に、一旦は離脱を図った連中が引き返し捲くってるのがその原因で、街中てんやわんやの大騒ぎなんですよ。
いやー、一般の人達って逞しいわぁ。
馬車や牛車が大渋滞を起こし、その隙間を沢山の人々が押し合いへし合いで行き交う殺気だった雑踏の中、ワタシは一つ大欠伸をした。
ま、どれ程の狂騒の中にあったとしても、今のワタシにはその中を歩くなんて事は朝メシ前だ。
魔物の海の中を行く事を考えたら、こんなのはのんびりお散歩してるのと変わらないもんね。
前を行くレティのヤツは、こっちを振り返る事も無いまま、ズンズンと進んで行く。
再会直後の頃と違って、今じゃワタシの方が能力的に断然上になった事が判ってるから、こう言う時はこっちの心配なんて微塵もしてくれないんだよなぁ。
ある意味で抜群の信頼関係だとは思うものの、なんかちょっと寂しいかも知んない。
「しかしねぇ」
独り言を口にして、更なる欠伸をかみ殺したワタシは、今後色々な騒動の元になりそうな「新たな」魔法士章を取り出した。
なんかホントに色々とあったけど、今回も実際の戦闘よりその後の事柄の方が精神的に削れちゃう感じがするのは、気のせいなんでしょうかね。
今のワタシの魔法士章は「ブロンズ製」で、表記は古代文字で「Ⅷ」だ。
なんとワタシってば、8位の魔法士に成っちゃったんですよっ。
アルマスのオネエ(と魔法士協会)からは、今回有形無形色々な物を貰ったけれど、魔物ドラゴンを「魔法で」退治したと言う事で、魔法位も上げられちゃったんだよね。
んで、魔法士章は討伐士章と違って二位毎に材質が変わるから、今回の昇格で材質まで変わっちゃったってワケ。
「はぁ」
何か溜め息しか出ないわ。
13歳(実際は16だけど)でダブルの銅章(7級討伐従騎士&8位魔法士)とか、マジでトラブルの種だよなぁ。
これから町や村に入る時には、士族門で必ず衛士達と一悶着ありそうだし、色々と疲れちゃう事も多いかと思うと憂鬱な気分になっちゃいますよ。
(討伐騎士や従騎士は魔法位を持っている事を証明する必要があるから、魔法士章も見せないとダメなのよ)
しかもワタシはこれで、旧聖王国基準で言う暫定官位も準8位に成った事になる。
準8位の官位と言えば「じゅんぱち」と呼ばれる騎士の最低線と同格って事だ。
まだ騎士に成れるのに二年近く掛かるってーのに、暫定官位は騎士と同等ってどーなの?
正式称号なんて、どーせ15歳の仮成年を過ぎないと実際には名乗れないから、実はどーでもイイと思ってるけど、官位は別だから憂鬱だわ。
ちなみに、貰って最も嬉しかったのは「シルバニア魔法大学院の入学許可証」だ。
前にオネエに会った時に「出来れば入りたい」と言っただけなのに、オネエってば即座に連絡を取ってくれたみたいで、ホホイと渡してくれたんですよ。
魔法士協会の各支局は各魔法大学院への推薦枠を持ってるから、実はこう言う事って(コネとかで)良くあるんだけど、言ってから正味二日しか経ってないってのに、仕事が早すぎだよなぁ。
「マリーちゃんをシルバニアの魔法大学院に引き込めれば、私の手柄になるから急いだのよぉ」とオネエは言ってくれたものの、血筋とコネが幅を利かせる魔法士の世界では、多少有名になったとは言え、ワタシみたいなポッと出にそれ程の価値は無い筈だから、これは単純にオネエがワタシを大学院の後輩にしたいって言う好意が元なんだと思う。
だからなんか、とても嬉しい。
オネエみたいな人外の高位魔導師に魔法士として認めて貰ったって事だもんね。
別に印章指輪を貰ったってワケじゃ無いけれど、そもそも雲の上のヒト達はそうそう簡単には指輪なんて渡せないし、認めて貰ったダケでも嬉しいよ。
しかもこれで、ワタシの旅は道程が完全に定まったって感じになった。
まずは独立城塞都市地帯に入ってジュベインを目指し、百鬼夜行の大魔山脈を縦断して東聖王国のストガートへ。それから公国王都のオルフスを経由してサラに会った後でシルバニアに入るって順番ですな。
山脈を越えて海も越える、直線距離でも1000マイル(約1609km)を軽く超える長大な距離だけど、人跡未踏の荒野を行くってワケでも無いし、気楽なモンだ。
各地で美味しいモノを食べ捲くったり、可愛いモノを愛で捲くったりしちゃいますよ!
にゅふふふ。楽しみだわー。
無論、殆どの所は街道なんて通る積りは無いよ。討伐騎士なら、魔物共をブッ飛ばしながら山中を行くのが基本だしねっ。
絶え間ない人々の喧騒の中、これからの旅の事を思って憂鬱になったり笑ったりしてる内に、ワタシは建物に囲まれた広場の様な所に出た。
かなりの広さがあるその広場は車両が入れない様で、人間ばかりが大量にウヨウヨと居る。露店も建ち並んでるし、どうやら街の中心の広場らしい。
こうした広場は、人を集めて領主や代官の命令が発布されたり、罪人の公開処刑が行われたりする様な用途で、城塞都市には必ずあるモノなんだけど、この手の広場に面した建物に入る店ってのは、大抵スンゴくお高い店なんだよな。
格式って言うんですか? そんな下らない事に無駄なお金を払うのはイヤだよねーと思いつつも、歩調の変わらないレティに付いて行くと、皆が移動を急ぐ街路と違って、情報交換に余念が無い人々の声がイヤでも耳に入って来る。
「千体斬りのマリーが単独でドラゴンを討ったそうだ」「二度目の千体斬りも達成したらしいぞ」「正にグランツ殿下以来の英雄の誕生だなっ」
うへぇって感じになりつつも、完全に他人のフリで聞き流す。
一々気にしてもしょうが無いし、これでも少しは慣れて来たんだよね。
しかし雑踏と喧騒の中で、一際元気な新聞の号外売りの声が聞こえてきて、その余裕は脆くも崩れ去った。
「千体斬りのマリーに討伐士協会から正式称号が出るぞっ! 銘は驚きの『討伐姫』だ!! 王族でも無いのに『姫』とは如何に!? 詳細はこの中だっ、さぁ、買った買ったぁ!」
ぐはぁ。もう正称号の話がリークされてるのかよ!? 思わずヨロけて、側に居たおばはんにぶつかっちゃったじゃないのっ。
ムッとした表情のおばはんにペコッと頭を下げて通り過ぎると、ふつふつと怒りが涌いて来た。
討伐士協会のエラい連中、どんだけ人を隠れ蓑パンダにすれば気が済むんだってーの!!
ぬにゅううう。コレはフェリクスおっさんに文句の一つも言わなきゃ気が治まらないよねっ。
しかし怒りに握り拳を固めながらも前を見れば、レティのヤツは嬉しそうに口笛なんか吹いてやがった。
思わずガックリ。
なんだかなー。コイツってば本当にこう言うヤツだよなぁ。
一緒に怒ってくれとまでは言わないけど、せめて憐れむ様な表情くらいしてくれてもイイと思うんだけどねぇ。
ガックリしたせいで毒気が抜けたのか、色々とどうでも良くなっちゃったワタシは、広場に面した建物の一つに入ったレティの後に付いて、そのままその建物に入った。
入る前にチラッと見た隣はとても大きな建物で、デカデカと「ゴットリープ商会」の看板を掲げてましたよっ。
うーん、流石はG商会だわ。こんな西聖王国南部の街でも、拠点は豪勢極まりないですなぁ。
しかしワタシ達が入った方の建物だって、他と比べても遜色無い規模の立派な造りだ。
一階はレストランに見えたので、この店かと思ったんだけど、ワタシ達が入ったのは建物の端にある通用口みたいな所で、奥にはなんと昇降機が見えた。
コレは凄い。昇降機なんてブツが付いてる建物なんて、普通なら両協会の支局とか貴族絡みの建物くらいですよ。
なんたって維持費がハンパじゃなく掛かるから、一般人じゃそんなものは持ってられないんだよね。
「どうやらアルマス様は本当にひぃ様と親交を結ばれるお積りの様です。尾行が一切付いておりません」
こんな建物の中の店なんて、さぞかしお高いんだろなと思ってると、昇降機の前で立ち止まったレティが得体の知れ無い事を言って来た。
「あのさぁ、此処まで連れて来て開口一番のセリフがそれってどうなのよ?」
脊髄反射の様な速度で突っ込みを入れると、しかしレティのヤツは不敵な表情でニヤりと笑った。
「此処は今回のドラゴンもどき騒動の際に私とドバリー卿で抑えた物件なのです。言わば、ひぃ様がお創りになられる独立騎士団の準備拠点の一つと言った所でしょうか」
はぁっ? ナ、ナニ、それ?
ちょっと待って。何か思考が追い付いて行かないんですけど、一体全体、何がどうなってこうなったってーのよっ!?
今宵もこれまでに致しとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。




