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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
独立騎士団?
97/221

097話


 ショコラの掛かったその小さな焼き菓子は、見た目も美味しそうだけど、食べるとそれは本当に素晴しいお味だった。


 溶けたショコラが包む外側はしっとり艶やかで、口に入れると特有の芳香と甘さが広がって、それだけでも幸せな感じになるのに、一噛みすれば中のクッキーがサクッと崩れ、途端に渾然一体となったその二つが得も言われぬハーモニーを奏で出しちゃう。


 にゅうん。これはンマい!


 とてもじゃないけど、取って付けた様なお茶菓子として出てくるブツじゃ無いですよっ。


「どう? 紅茶のお供としては割りと自慢の品なんだけど」


 目の前に座るアルマスのオネエが、言葉通りやや自慢げな顔で訊いて来た。


 此処は何時ぞやも通された、魔法士協会ランス支局の支局長私室だ。


 隣に座るレティ経由で連絡があったので、今日は朝から此処に来てるんだよね。


 レティはどうやらオネエとかなり密接な繋がりを作っちゃったようで、何らかの方法で連絡を取り合う手段を確立したらしい。


 相変わらず抜け目の無いヤツだとは思いつつ、一体何がこの二人を結び付けたのかはちょっと疑問だ。


 なんたってオネエは雲の上のヒトだし、となれば、特級の魔法士である以前にシルバニアを代表する政治屋の一人って事だから、趣味がどうこうとかそんな程度の簡単な事では、そうそう個人的な付き合いなんて確立出来ない筈なんだけどねぇ。


「いやぁ、これは本当に素晴しい一品ですよっ。アルマスさんにはお抱えの菓子職人でも居るんですか?」


 ま、レティとオネエの仲はともかく、この焼き菓子の素晴しさは早速褒め称えねばなるまいっ。


 そう思って本心からの褒め言葉を口にすると、オネエがテレ臭そうに笑った。


「マリーちゃんは随分とお上手なのねぇ。でもそれは間違い無く、この私が焼いた物よ」


 うわっ、何ソレ。これってオネエの手作りなんですかっ。


 驚いて目がぱちくりしちゃうよ。


 だってコレ、マジでどこやらの専門店で恭しく出て来てもおかしく無いレベルですよ?


 雲の上の大貴族サマのクセに、そんな特技まで持ってるなんて、このオネエって一体何者なんだよって感じだ。


 ホント、人って見かけに寄らないよね。ってまあ、ある意味では見かけを裏切ってはいないとも思うけどさ。


「ところで今日呼び出した理由の話なのだけれど、まずはコレね」


 絶品の焼き菓子をはぐはぐと貪ってると、オネエはそう言って、何時ぞやの手品めいたワザでローテーブル上に二つの箱を一瞬で出した。


「大箱! それも二つもですかっ?」


 箱は見れば判る通りのデカ香箱だ。二つって事になると、内容は大金貨200枚(約四千万円)って事になる。


「驚く様な事では無いでしょう? 魔物ドラゴンの討伐報酬にしては破格に安い金額じゃないの」


 何かと思ったけど、やっぱ魔物ドラゴンの討伐報酬か。


 心の中で溜め息を吐きながら、ワタシは不思議そうな顔をするオネエに向き直った。


「この討伐依頼書って、元はイタズラみたいなモノですよね? 討伐報酬額も明記されていませんし、単なるアリバイ作りだと思ってたんですけど」


 インベントリから出した例の依頼書をヒラヒラと振りながら、詰め寄る素振りで訊いてみる。


 オネエに言われる迄も無く、確かにこの程度の額じゃ魔物ドラゴンの討伐依頼完遂の報酬にはならない。


 通例なら魔物ドラゴンの首に掛けられる賞金だけで大箱5個(約一億円)は下らないし、前例を見れば総額はそのまた3倍程度にはなるからね。


 でも今回の依頼書って、本当に「なんちゃって」なブツの筈だから、報酬が発生するなんて少しおかしいと思うのですよ。


「マリーちゃんは本当に王族の発想に馴染みが無いのねえ。貴女が今回の件でどの位魔法士協会に貢献したか判ってる? 少なくとも貴女はこの件で魔法士協会本部やウチの陛下のメンツをこれ以上無い形で立てる結果を出したのだから、この程度の報酬が出るのは、むしろ当然だと思わないとダメよ」


 うーみゅ。それを言われるとナンだけど、その言い様だと、このお金ってもしかして女王陛下のポケットマネーなんですかね。


 まあそんな理由なら、くれると言う以上は貰っておくけどさ。


 シルバニア金貨って聖王国系金貨とイイ勝負の信用力があるし、滅多に無い大儲けには違いないから、嬉しくないと言えば嘘になるもんな。


「それから、討伐士協会は貴女に正式称号を出す様だけど、こっちの協会からも正称号が出るわ。銘は『討伐姫』、討伐士協会も同じになる予定よ」


 ワタシがいそいそと書類にサインして大箱をインベントリに仕舞い込んでると、オネエが矢継ぎ早にトンデモ無い事を口にして来た。


 はぁ? 正式称号って、まさかあの爵位に匹敵する本物の「称号」の事ですか!?


 思わず目を見開いてオネエを見ると、向こうはさも当然って顔で肯いた。


 うわぁ、これはどうやら本当の話みたいだわ。


 もしそれが本当なら、これは正しく大事だ。


 世の中には幾つもの「権威」を象徴する肩書きがあるけど、中でも王侯が出す爵位と称号は別格の力を持つ。


 まあ爵位ってのは、ぶっちゃけ臣下に与える仕事の内容に応じて出される様な所があるから、権威と言うよりは王に委譲された権力の大小を測る物差しって感じだけど、称号となると話は全く違って来る。


 何故かと言えば、爵位は与えられるモノだけど、称号は贈られるモノだからだ。


 王に代わって何かを成すのでは無く、王に出来ない様な事を成した者を王が称えると言った雰囲気ですな。


 だから直接的に王侯が贈った称号を持つ人の宮廷序列はとても高くなっちゃうの。ぶっちゃけて言えば、直参男爵と同等って感じ。


 しかも討伐士協会と魔法士協会は、国家を凌駕しかねない程の権威を持ってるんで、その二つが出す正式称号は、王侯の出すモノと同格かそれ以上とされちゃうんですよ。


「災厄」と呼ばれる魔物ドラゴンを単独討伐しちゃった以上、予想はしてたんだけど、いきなりの正式称号贈呈なんて考えてもみなかったよっ。


「普通は出ても準称号(直参騎士爵・魔法爵と同格)がせいぜいだと思うんですけど?」


 取り敢えずは思った事を言ってみるテスト。


 幾ら魔物ドラゴンを討伐したって言っても、出自不明の落胤風情にいきなり正式称号なんてちょっとおかしいし、何か違和感があるもんな。


 するとオネエは、おっさんとは全く違う優雅な仕草ながらも「心外だ」って感じのポーズを決めながらこっちを見た。


「マリーちゃんって、本当の世事に疎いのねぇ。アナタには今回の件で、少なくとも公国とシルバニアから魔龍討伐者ドラゴンスレイヤーの準称号が出るのですもの、正式な依頼を果して貰った両協会としては、それ以上の称号を出さないとカッコが付かないでしょ?」


 ああ、成る程。そう来るんですか。


 そう言う風に言われちゃうと納得するしか無いんだけど、未成年の内に正称号って、一体何処の英雄様だよって感じだよなぁ。


 しかもその称号の銘、結構ヤバい感じだしさ。

  

「あのぉ、王族でも無いヤツの称号に『姫』とか入ってるのは不味いんじゃないですか? 各方面から色々と文句が付くと思いますよ」


 思った事を言ってみるテストの第二弾を口にして、ワタシはそっと溜め息を吐いた。


 何か色々な意味でドンドンと外堀が埋められて行く様な感じがするのは気のせいなのかなぁ。


 隣で黙々とお茶を飲んでるレティのヤツは何も言わないから、まだ危険水域って所でも無いとは思うけど、ちょっと不安になるよね。


「うふふふ」


 言ってみるテスト第二弾に対して、オネエは意味有りげに薄く笑った。


 ううーむ。何か人食い虎でも前にしてる様で、ちょっとコワいです。


「だってマリーちゃんって、うちの陛下の隠し子って言われ始めてるでしょ? だからあの方自身が面白がって付けられたのだそうよ。女王陛下がそう呼ぶ以上は、誰も批判なんて出来ないわね」


 ぐはぁっ! そんな話、もう女王にまで伝わっちゃてるのかよ!!


 マジで勘弁して下さいよぉ。


 おっさんやリーズじゃないけど「やってらんないポーズ」でもカマしたくなって来たわ。


今宵もこれまでに致しとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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