096話
「魔物ドラゴン討伐を祝して、乾杯!」
閣下とエルンストさんが頭を上げてくれたので、取り敢えずは乾杯しましょーと言うワタシの言葉に全員が肯き、ワタシが音頭を取って乾杯した。
だってこのままだと折角のリューグの気が抜けちゃって、マジで勿体無いしさ。
そんなワケで、まずは味見って感じにちょっとだけ口を付けると、芳醇かつ繊細なお味が口の中一杯に広がっちゃって、ちょっと眩暈がっ。
いやー、これはンマいなんてモノじゃ無いわ!
グイっと一気に行きそうになる所を、ググッと堪えて我慢ガマガマ。
閣下達の話は多分まだこれからなんだし、今はこれ以上酔っ払っちゃうのはちょっとマズい。
にゅううう、仕方が無い。チビチビと舐める様に味わいますかねぇ。
「正直に申しますが、そもそもこの話は南部連合に私が絡む事になった当初からの問題でしてな。如何にして南部連合域内から、西聖王国絡みの腐った影響を取り除くかと言う事で、関係三家と討伐士協会、そして他ならぬこの私が会合を持った事が始まりでした」
「おい、流石にそれは!」
ワタシがリューグちゃんをチビチビと舐めながら、心の中で欲望と格闘していると、漸く閣下が話し始めたものの、そのいきなりの直球っぷりに驚く。
だって今の話し様だと、思いっきり南部連合運動の裏側に直結する話をダイレクトに言っちゃってる感じだし、コレってヤバくないですかね?
普通はもう少しボカすのが当たり前なのに、これじゃまるで懺悔の場だよ。エルンストさんが止めるのも判るよな。
「いや、いいんだ。マリー殿を魔法士協会の犬と疑った以上、私はこの件に対しての説明責任がある。無用な誤解を招いて要らぬ敵を作るのは愚行だ」
しかし、そのエルンストさんを片手で柔らかく制して閣下がそう言うと、エルンストさんも渋々と言った感じで肯いた。
「確かにな。かの女王陛下が、遠い外国の、しかも今は縁の遠いオマリー卿にわざわざ預けられたと言う事は、マリー殿は国元から逃しながらも個人的に庇護したい『隠された人物』である可能性が高い」
ゲッホゲッホ! いきなりナニを言い出しやがりますかね、このヒト(エルンストさん)はっ!
思わず噴出しそうになって涙目になっちゃったよ!!
幾ら何でも、それは深読みが過ぎるってーのっ。
「ああ。近い将来、シルバニアの中枢を動かすかも知れない人物に誤解を受けたままと言うのは如何ともし難いモノがある」
思わず手をブンブンと振って、違いますよーってアピールをしたのにも関わらず、閣下が追加で決定的な事を口に出したのでちょっとグッタリ。
はぁ。なんかドッとお疲れぇーって感じだ。
どうも閣下達はワタシの出自に付いて、盛大な誤解をしてくれてるっぽいですよ。
「成る程な。どうりでコイツの周りには、国際的に暗躍する大貴族共の影がチラつくとは思ったが、本尊はシルバニアの女王だったってワケか」
なんだかなーと思ってると、何故かおっさんまでが、閣下達の珍説に渋い顔で合いの手を入れて来た。
えっと、ちょっと待ってよ。それじゃワタシってば、まるで女王の実子みたいじゃないの。
「確かに。女王陛下が王配殿下を失われてから既に20年を超える歳月が流れておりますれば、隠し子の一人も居ない方がおかしいと言う物でしょうな」
更におじ様までが妙な事を言い出すと、ワタシとレティを除く全員が感慨深げにうんうんと肯いた。
「ストップ、ストップ! ワタシはそんな大それた者じゃ無いってば!!」
もう、みんな一体全体なんだって言うんだよ。
そもそも、女王陛下が何歳だと思ってるんだっての。こんな若い娘が居るわけ無いじゃん。
「ああ、いや。私は何も此処で貴殿の出生に関して云々言う積りはありませんよ。ただ、女王陛下に対して何も含む所は無いと言いたいだけでしてな」
閣下がこっちを見ながら詫び言っぽい物言いをして来たけど、珍説を否定するどころか、モロに言ってますよっ!
ああっ、もー!!
ふとレティのヤツを見れば、ヤツはとても味わい深い顔で固まってやがった。
くっそー、アレは今にも噴出しそうなのを堪えてやがる顔だ。
従者なら笑ってないで主人の窮地を助けろってんだよね!
「まあまあ、宜しいではありませんか。マリー殿の出自がどうであれ、今はまた別の話。皆でアンベール殿の話を聞こうではありませんか」
少しニヤっとした顔ながらも、おじ様が助け舟を出してくれて漸くホッとする。
「そうでしたな。いや、失礼した。どうか陛下には御内密に・・・」
閣下、しつこい!
ちょっとムッとした顔で睨むと、閣下はハハハと苦笑いして話を続け始めた。
まあでも、閣下が気にするのも判るんだよね。
ワタシがかなりの魔法力を持つ事が判明してる以上、相当な血筋であると考えるのが普通だし、何よりもグランツさんのお墨付きは断って女王の方は貰った上に、渡しに来たのが女王の側近中の側近であるアルマスのオネエと来れば、ワタシはとぉーっても女王に近い誰かさんの子供だと考えるのが自然な形だ。
しかも師匠が、今は縁遠いとは言え、女王の旧知である白銀の騎士オマリーだもんな。
世間から隠して育てるにはもって来いの人選と言えるし、普通に考えたらそうなるわ。
その上に、何と言ってもシルバニアと言えば、現代国家間のパワーバランスにおいては最強国家と言って良い存在だ。
旧聖王国の動乱に一切巻き込まれていないから戦力は温存されてるし、国土だって西聖王国より広い。
またその上更に、女王個人は魔法士協会総裁なんかもやってるんだから、正に敵に回したくないヒトのナンバーワンって感じだもんね。
ワタシは南部連合運動のかなりヤバい深層の話を開陳し始めた閣下を見ながら、そっと溜め息を吐いた。
もしこんな珍説が世に出ちゃったりしたら、ワタシってば、その敵に回したくないヒトナンバーワンを敵に回しちゃうかも知れないですよっ。
この場のメンツには、後でよくよく念を押しとかないとマズいわ。
ワタシは部屋内に入った時から展開してる風系魔法を更に強化して、周辺空間を結界状に隔離すると、取り敢えずは閣下の話の聞き役に徹する事にした。
「しかし、この大規模スタンピード討伐の裏側に、そんな話があろうとは思いませんでした」
閣下の話に区切りが付くと、笑い衝動から復帰してたレティが場を締めくくる様な一言を口にした。
「ええ。このような場で政治的な話など無粋だとは思いますが、話す以上は全てを話す事が礼儀ですので、取り敢えず話させて頂いた次第です」
味わい深い表情でレティに答える閣下の話を要約すれば、事の顛末はこうだ。
その一。閣下が南部連合三家からヴィヨンを預かる条件だった「水面下でのヴィヨン掌握」が中々巧く行かずに難渋していた所、ハイドラがスタンピードを起こして来て、その際に浮き足立ったクズ共が面白い様にお掃除出来ちゃった。
その二。気を良くした閣下達は、そのまま三家や討伐士協会と話を付けてハイドラを下流に追い遣り、南部地域一の悪の巣窟と化してたランス掌握に動く事になった。
その三。ところが軍を進める内に、討伐士協会から来てた部隊の司令官が司令部ごとクズの集まりで、閣下の作戦が筒抜けな事が発覚。
その四。速攻で司令部のクズ共をエルンストさんが斬り捨てたものの、それをハイドラにヤられた事にしたら、軍司令としては結構優秀だったソイツらがヤられた事にビビッて、討伐軍全体が浮き足立っちゃったから、さあ大変。
その五。まごまごしてる内にハイドラに手足が生えちゃって、もっと大変な事になっちゃったんで、一時撤退を決定しての撤退中にワタシが参戦して、討伐戦終了。
ざっとこんな感じですかね。
いやぁ、オネエも言ってたけど、このスタンピード討伐戦にも色々なウラがあったんだねぇ。
アレの町の時もそうだったし、何か全てのスタンピード討伐戦に政治的なウラがあるんじゃないかと、ついつい勘ぐりたくなっちゃうよ。
「正直に言うが、コイツは昔っからバカっぽい所があってな。今でも偶にその癖が出る事がある。撤退戦に際して、ドラゴンもどきの陽動が出来る騎士がもう私位しか残っていないと言ったら、自分が出るとか言い出してな。散歩に行く訳でもあるまいし、バカ丸出しだ」
「幾ら何でも、魔物ドラゴンの牽制を騎士卿一人に任せられるかっ。そもそもの原因は私であるし、かつては金章に王手を掛けた元討伐騎士として、当初はヤツの首を取る積りだったのだっ」
「そう言ってお荷物になったのは何処の誰だ。あそこでマリー殿が引き受けてくれなかったら、今頃は自分の首が無かったぞ」
しかし何か感心しちゃったのも束の間、閣下がレティに答えた直後、早速と言った感じでエルンストさんが突っ込みを入れると、二人は豪快な掛け合い漫才の様な会話を始めた。
ええっと。今までの結構シリアスな話の流れが丸っきりブチ壊しなんですけど。
つい笑い出しそうになっちゃって、ググッと堪える。
「それを言うなっ。まあ確かに、少々日頃の鍛錬が足りなかったとは思うが、全盛期なら絶対にそっ首を叩き落していたぞ!」
「何時の時代の話だ! 全く、何時まで経ってもガキっぽさの抜けない男だ。マリー殿、こいつは普段澄ました顔をしているが、中身はこんな男なんだよ。笑ってやってくれ」
エルンストさんがこっちに話題を振って来たので、堪え切れなくなって大声で笑っちゃうと、場の全員が釣られて笑った。
「いやぁ、なんか豪快でイイですよぉ。お二人は昔からのご友人なんですか?」
ワタシが笑い涙を拭きながら閣下に訊くと、閣下は少しバツの悪そうな顔でこっちを見た。
「この男は養子に出た私の元従兄弟でしてな。歳が近いので昔は良く遊んだモノでしたが、ここまで口が悪くなるとは思いませんでしたよ」
「ハッキリと物を言わねば判らぬ、何処かの誰かのせいだと思うがね」
「全くですね。火急の際はともかく、日頃はボケッとした主人を持つと、大抵の者は口が悪くなると言うモノです」
閣下の答えに間髪を入れずに突っ込んだエルンストさんの嫌味に、さらに間髪を入れずにレティが続いてガックリ。
ちょっとレティ! 何いきなり乱入してんのよっ。
思わずレティを睨むと、ヤツは涼しい顔でシャンパンを飲みつつ、フフンと鼻を鳴らした。
「おおっ、判って貰えるとは嬉しい。レティ殿も色々と苦労は多いんだろうなぁ」
突然に賛意を表したレティに面食らうかと思ったら、エルンストさんは豪快に笑って続きながら、新たなシャンパンを抜いてレティのグラスに注いだ。
ぬにゅう。ちょっとムッと来るけれど、イイ雰囲気になって来ましたよ。
多分閣下達のやりとりは、ともすれば深刻な雰囲気になりがちな討伐話を、無理矢理に笑い飛ばす事で笑いに変える討伐士達特有のモノのアレンジなんだろう。
レティのヤツは、逸早くソレに気が付いてノッてみせたって感じかな。
だったら、もう遠慮はいらないよね。
「ちょっと待ったぁ! 何時もコイツに迷惑を掛けられてるのはこっちだってーの!」
ワタシは持ってたグラスに残ってたリューグを一気に煽ると、片手を挙げて参戦の意思表示をした。
おおっ、ンマい! やっぱシャンパンはチビチビ飲るより、グイッと行くのが正道だよねっ。
「おおっ、面白えぞっ。もっとやれ!」
流石に気付いたのか、即座におっさんもノッて来て、一気に盛り上がり状態に入った場は笑いと喧騒の中に包まれた。
その後、なし崩し的に笑える言い争いの場になった祝賀会は、そのまま二刻(約二時間)くらい続き、イイ感じに酔っ払った面々の誰かが「そろそろ」と口に出すと、そのまま散会となった。
うーん、なんか久々に酔っ払っちゃったわー。
話には聞いてたけど、強者同士の宴会ってこんなに楽しいモノだとは思わなかったよ。
しかし、ちょっとフラ付きながらもお互いに支え合うように立った閣下達が、挨拶の後で部屋を出る際、最後に一度だけ真顔でこちらを振り向いた。
「マリー殿、私は一人の人間として、エルンストの背中から見た、あの時の貴女の勇姿を一生忘れないでしょう」
「私もだ。マリー殿、何時かまた同じ戦場で会おう」
グワッ、ヤられたって感じだ。
最後の最後にそんなカッコイイセリフを吐くなんてズルいっ!
もうこっちなんか「あ、ハイ。有難う御座います」とかって、間抜けなセリフしか出て来なかったよっ。
なんだかなー。何か最初から最後までやられっ放しの宴会でしたわ。
今宵もこれまでに致しとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。




