094話
「ドバリーさんよぉ、アンタがヘルミネン侯に逐一情報を流してたって事は、ネタが割れてるんだぜ?」
「ハッハッハッ! 味方の味方はまた味方ですよ。私は自分の将来の主の味方であると仰る御方に助力したに過ぎません」
「アンタ、もうマリーの下に入る事を決めちまってるのかよっ」
「善は急げと申しますよ? 既にレティ嬢とは色々な話し合いに入って居りますれば、独立騎士団創設の際は、私は外向きの交渉役となる予定です」
「マジかよっ。変わり身が早過ぎるだろうがっ!」
「はて? 私は協会では唯の参与。言わば貴族家の食客や寄騎に過ぎない身ですから、何時出て行くのも勝手自由だと思いますが」
おじ様が出したシャンパンで乾杯すると、早速フェリクスおっさんがふざけておじ様に絡み始めた。
飲んでみればおじ様が出したシャンパンはかなりの一品で、、それこそ雲の上の方々じゃなきゃホイホイとはお目に掛かれない様なシロモノだったから、おっさんってば一気に機嫌が直っちゃったんだよね。
しかし「将来の主」かぁ。
おじ様ってば、本気でワタシやレティと一緒にやる積りなんだな。
正直に大歓迎だけど、ワタシは外人部隊みたいな大規模集団を作る積りは無いから、その辺とかは後で聞いておかないとダメだね。
何時もの不貞腐れた様な表情に戻ったおっさんの口撃を、飄々とした態度でのらりくらりと躱すおじ様を見ながら、ワタシはシャンパンを飲んだ。
世の中には、世間で生きて行く為には何らかの団体に属している方が都合が良いからって、騎士の位を持ってる連中が寄り集まって作るちょっとした集団みたいなヤツがあるんだけど、ワタシが創りたい独立騎士団も、そう言った小規模な互助会団体だ。
このテのなんちゃって系独立騎士団ってのは、実は割と多い。
騎士ってのは誰の臣下でもなければ唯の浪人だけど、公認の独立騎士団に所属していれば、立派に騎士を名乗れるからだ。
騎士の位を持つ以上は、騎士で居た方が色々と都合がイイし、社会的に色々な特典がある上に身分保障まで出来るから、名前だけでも所属しておけば色々と便利だからね。
商売がウマいヤツ、政治事がウマいヤツ、職人気質のヤツ、と騎士だって色々と居るし、その種類も数え上げたらキリが無い。
そう言った「騎士以外の事の方が性分に合ってるヤツ」が、自由騎士(浪人)に成って好き勝手な生業で生きる場合の身の置き所が、このテの独立騎士団って感じかな。
ワタシはやりたい事がちょっと特殊だから、それを自前で創ろうってワケですよ。
まあ討伐騎士なら単独でも騎士を名乗れるけど、それでも全くのフリーとバックがあるのとでは、社会的な立場が段違いだしさ。
大体、誰だって全くの個人より、団体に所属する人間の方が信用し易いってモンだ。
それに討伐士協会では、討伐騎士三名以上が誰か大将(騎士団長)を立てて一つの旗の下に集まれば、それで独立騎士団の申請が出来るので、王侯貴族に擦り寄る必要(他の場合、独立騎士団設立には国家の承認が必要)も無く割りと簡単に出来るから、やらない手は無い。
勿論、本当は「戦闘集団」を組む方が魔物討伐をやり易いって方が正道で、世に数多ある小規模討伐団や、討伐士間で作られる討伐士組合の発展形戦闘集団が主流だけどね。
「おいマリー、助かったって顔でボーっとしてるんじゃ無えっ。イイか、今回の事で貸し借り無しだからな!」
まだ名前すら決まってない自前の独立騎士団に想いを馳せてると、おっさんの矛先が急にこっちに向いて来た。
「ええー? 男爵位と魔物ドラゴン一匹じゃ割に合わないよっ!」
つい何時もの癖で売り言葉を買うと、おっさんはニヤッと気持ちの悪い笑いを浮かべて、言い聞かす様にこっちを指差した。
「ヘルミネン侯が『マリーちゃんと従者のレティ嬢はお友達ですから』って、こっちに耳打ちして来やがったんだぞっ。だったら、てめえは最初っから俺を出し抜く積りだったのが見え見えじゃねーかよっ!」
「ゲッ! そ、それを言われちゃうと何にも言い返せないんだけど・・・」
ぬにゅう。オネエもまた余計な事を。
ワタシが魔物ドラゴンの討伐依頼書を貰ったのは、おっさんと個人協定を交わした後だから「最初っから」じゃ無いんだけど、言い訳は出来ないよなぁ。
思わず言葉に詰ると、おっさんは指差し状態のまま腕を伸ばして、ワタシの額にデコピンして笑った。
「しょうがねえなぁ。そう言えばお前、ヘルミネン侯とボソボソやってた時、一瞬こっちを見ただろう。アレで気が付かなかった俺が悪いって事にしといてやるよ」
ぬう。なんか地味に痛い。
でもまぁ、許して貰ったんならヨシとするか。
ホントはおっさんを見たんじゃなくて、あの時は何時の間にか消えてたレティを探してたんだけどさ。
再度ゴメンネと謝ると、おっさんがまた慌てて手をバタバタと振ってテレたので、おじ様と二人で笑う。
なんか色々あったけど、おっさんと仲直り出来て良かったよ。
「お前が独立騎士団を作る時に話を持って来れば、俺が公国の公認を取ってやるよ。男爵の件はそれでチャラだな」
テレから立ち直ったおっさんの言葉に、ワタシはそれはイイと膝を打った。
協会公認ってだけじゃなく、旧聖王国直系国家の公認まで取れれば、正に申し分が無いもんね。
にゅふふふ。夢が広がるよなぁ。
「そうなったら、おっさんがワタシの騎士団の顧問だねぇ」
「おうよっ。俺は義理があるから勝手に協会を抜けられねえが、そう言う形で貢献する事は出来る。またいつか一緒に戦場に立とうぜ」
「その際は私も是非ご一緒したい所ですな」
三人が三様の事を言って笑い合った。
いやぁ、イイ雰囲気ですな。ほんの一年前のワタシには想像も出来なかったけど、世に出れば、こう言う面白いコトもあるんだね。
「何やら、既に随分と盛り上がっておられますね」
扉がノックされたので許可を出せば、ワゴンと共に入って来たレティがニコニコと微笑みながら入って来た。
おんや。なんかレティのヤツも随分と機嫌が良いようですな。
「おおっ、そいつはナンだ!? まさかハイマーマンかぁ?」
「ご名答です。ハイマーマンのマリネ・ショーユソースと言った所でしょうか」
見ればワゴンのトップ、それもド真ん中の銀盆の上に、オイルでヌラヌラと光る赤い身のブツ切りが山と乗っている。
他にもサニーレタスと思しき青菜で包み焼きされたブツや、ステーキ風の焼き物など、ワゴンの上は正に全てがハイマーマン尽くしだ。
「これは凄いですな。こんなモノは例え王侯貴族と言えども、そうそうは口に出来ませんぞ」
おじ様が溜め息を吐く様に言う中、レティがそれらをどんどんとローテーブルの上に置いて行く。
「向こうもこんなのを食べてるの?」
料理を並べ終わったレティをソファーに座らせて訊くと、レティは「料理としてはそうですね」と答えた。
どうやら、こっちのは例の即座に活け締めにした一匹で作った様で、同じ料理でも他の物とは別に作ったみたいだ。
ホントにコイツってば凝り性だよな。でもまぁ、今回はその凝り性に感謝ってヤツかも知んない。
このワタシだって「活け締めハイマーマンのサシミもどき」なんて、生まれて初めて食べるんだしさ。
「オイオイ。向こうってコトは、他の連中はどっかで別に盛り上がってるってコトかぁ?」
「閣下、そもそもの命令からは明後日の方向とは言え、任務部隊は誰一人欠ける事無く最上の結果を出したのです。今日くらいはハメを外させてやりましょう」
おっさんの疑問に、ワタシが答えるより早く、おじ様が切り返す様に答えた。
にゅう。流石はおじ様、判ってらっしゃる。
「ああ? あぁ、まーそうか。部隊のエラ方さん達が居たんじゃ、盛り上がりも薄いよなぁ」
おじ様の言葉を即座に理解したおっさんが、納得した顔でマリネの一部を自分用に置かれた小皿に盛った。
この「ワタシ達だけ隔離した宴会」は、実はワタシの発案だ。
重要な話をしたかったってのもあるけど、ホントはアリーも入れて、また食べさせっことかしたかったんだよね。
色々な人達が居れば、どうしてもその相手をしなきゃいけなくなっちゃうから、ゆっくりとしてらんないしさ。
でも、こんな強者達だけの宴会ってのも悪くない。
「マリー殿だけならば、下級兵どもすら大歓迎で迎えるでしょうがね」
「そりゃそうだっ。奴等の殆どはコイツの信者になっちまってるからなぁ」
ゲラゲラ笑うおっさんにちょっと辟易としながらも、ワタシはフォークを握って、切り分けられた焼き物からまず手を付ける。
「おっ、これは・・・」
マリネに絶句したおっさんとほぼ同時に、ワタシも絶句した。
下味を付けて表面だけ焼かれた焼き物は、得も言われぬ芳醇なお味で、プロの料理人が作る凝ったブツもビックリと言った素晴しさだ。
「これは・・・素材の素晴しさもありますが、レティ殿の腕が光る味でございますなっ」
おじ様が呟くように言うと、そのままレティを除く全員が肯いた。
レティはこのテの野趣溢れる感じの料理が得意だからねぇ。
いやー、フォークが止まらんわ。
包み焼きの方には塩漬けのアンチョビが混ぜ込まれて居て、これもまたウマい!
レティが新たに抜いたシャンパンを飲む心の余裕もブッ飛んで、バクバクと料理を食い捲くる。
ふと気が付いて見てみれば、結構な量があった二種の焼き物はあっと言う間に食べ尽くされ、残りは銀盆のマリネと幾つかの酒の肴のみになってた。
「いやー、食った食った! こんなウマい物は初めて食ったぜっ。お前さんはイイ嫁になるよなぁ」
シャンパンを水の様に飲みながら、おっさんが膨れたお腹を抱えてそう言うと、レティのヤツがホホホと笑って答えた。
うんうん。レティはイイ嫁になると思うよぁ。おっさんにはあげないけどさ。
そんな事を口にすると、おっさんが「それは違えねえ」と大笑いしたので、釣られてその場の全員が笑う。
うーみゅ。なんか本当にイイ雰囲気だよな。
おっさんが別格に強いのは当然としても、おじ様もレティも歴戦の強者だから、こう言う感じの場では遠慮が無い。
ししょーには強くなれば孤独になると言われたけど、少なくともこの場では、強いからこそ対等で居られると言うか、安心して居られる様な気がするね。
なんかちょっとイイ気分ですよ。
しかし、ワタシがイイ気分でソファーに凭れ掛かり、シャンパンのグラスを傾けた直後、密やかなノックの音が響いた。
ぬにゅう。なんじゃい無粋な。
そう思って出入り口の方を見れば、即座に立ち上がって扉を開けたレティに挨拶をして、二人の男の人が入って来た。
一人はギャロワ卿だ。昼に見たばっかりだし、見間違う筈も無いけれど、問題だったのはその後ろから入って来たもう一人の方だ。
「デラージュ閣下!」
その人物に気が付いたワタシは、思わず声に出すと同時に、グラスを落としそうになった。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、有難うございました。




