085話
「あぁーれぇー! ギャロワ様があぶないぃー!! お助けしますぅー!」
もうこれ以上は無いだろうって感じに棒読みの台詞を大声で叫ぶと、ワタシは即座に大玉を召喚して爆走関係の魔法を励起、直後に砦から飛び降りた。
こう言う場合、行ける時に行かないと、絶対後で後悔しちゃうパターンだからねっ。
下に落ちる途中で壁を蹴って、一気に大ジャンプ!
うっひょー!!
ジャンプの途中で次々に風系魔法が発動して、ワタシの身体は凄まじい加速で砲弾の如く一気に空に打ち上がって行く。
本来ならカウンターされて聞こえない筈の風が唸る音が耳に煩い。
眼下を見れば、この一瞬でワタシは地上40フィート(約12m)を楽々超える高さに打ち上がってる様で、人々どころか車両までが小さく見える。
まあ高さよりもスピードの方がシャレにならないんですけどねぇ。
時速換算でどのくらいになるのか判んないけど、感覚的にはアリーを助ける前に動く執務室から飛び降りて走った時よりも上だし、80マイル(約129km/h)は楽勝だろう。
しかし、ヤバいと思ったから一旦飛び降りたんだけど、これって砦の上で直接やってたら、凄い被害だっただろうなぁ。
アレの町で爆走した時の惨状が脳裏をチラついちゃって怖いわ。
「さぁてっと」
思考加速の魔法も励起して発動させ、風系魔法を力ワザでブン回す形から、一転してコントローラブルな形にすると、ワタシはホッと一息ついた。
何か凄まじいスピードと飛距離が出てるけど、魔法が完全に制御下にあるならば、せいぜいが着地の時にちょっと気を付ける位だし、恐怖感は全く無い。
右手でインベントリをまさぐって白剣を握ると、今回使う予定のブツ達の方も確認する。
うんうん。数も十分だし、これならイケそうですよっ。
前方に意識を向ければ、ワタシの身体はあっと言う間に半マイル(約800m)程はスッ飛んだみたいで、最初に目標にしてた半マイル先の想定一次ラインを飛び越して、二次ラインの即席防柵群が射程に入ってた。
うむっ。この勢いなら、この一発で1マイル(約1.6km)位は跳べそう。
何と言ってもトカゲ軍団の時とは高さが違うしね。
今は下降に入ってるけど、最高到達点は100フィート(約31m)近い高さまで上がったし、その上でスピードも衰えて無いから、このまま行けばほぼイケる筈だ。
実際の所、今回は余裕があったもんな。
トカゲ軍団の時は全くのぶっつけ本番だったし、紅蓮の翼とやらとやった時も余裕はほとんど無かったんだから、今回が前よりイイ感じで行けてるのは、むしろ当然だと思う。
「おっとっ」
そんな事を考えてる内に、新たな着地目標に切り替えた二次ラインの即席防柵群が、もう間近に迫って来ちゃいましたよっ。
ホイッ。
想定二次ラインにあった無人の即席防柵の上に片足で着地して、勢いのままに次の防柵の上にステップ!
三つ目の防柵で三歩目を踏んで、更に大ジャーンプ!!
ドグワァシャァァァッって、間延びしたデカい音がしたけど気にしないっ。
どうせ撤退するんだし、もう用済みだろうから壊れてもイイよね。
再度飛び上がったワタシは、眼前に見えて来た討伐軍前衛部隊の動きに注目する。
見れば彼らが撤退に入ってるのは間違い無い様で、ここまで最前線に近くなると、その動きがはっきりと判った。
完全装備の連中が大盾を持って隊伍を組み、魔物達からの壁に成りながら、すぐ後方の連中が長槍ではみ出た魔物を処理、その後方では車両の上から銃やクロスボウで援護射撃って戦術でどんどん退いてる。
魔物の海の中に突っ込んだり、人壁のこっちに戻ったりして、魔物共の動きを撹乱したり牽制したりしてる討伐騎士もかなりの数が居るみたいで、撤退は割りと順調に行ってる感じだ。
そもそも水棲魔物って水を離れたら生きて行けないから、内陸に引き込むだけで勝てる相手だし、例え数が居てもスタンピードとしては対処がラクなんだよね。
しかも最前線の更に先で、騎士卿級の二人が魔将を足止めしてるってのが凄く大きい。
通常、魔物討伐戦でもっとも警戒しなきゃいけないのは、魔物が損害無視で一気に大物量で押して来る「飽和突破攻撃」だ。
あっと言う間に大量のゴブやオークに突っ込まれて、殆ど何も出来ない内に後方へスルーされちゃうってヤツで、気が付くと魔物の海の只中に孤立しちゃうから、前衛の全滅は時間の問題って感じになるし、後方も阿鼻叫喚の地獄絵図になっちゃう。
純粋魔物が魔将になって起こすスタンピードの場合、大量の魔物は魔将に操られてるから、どんな無理だって押し通して来るし、それが飲まず食わずだろうとも、寝て無かろうとも、魔物共は損害無視で津波の様に押し寄せる。
だから規模の大きいスタンピード討伐戦だと、即席防柵を大量に配置して前線からの撤退導線を幾つも切るのが常道で、前衛は飽和突破攻撃が来た瞬間に下がれる様になってる上に、幾つもの阻止ラインがあるのが当たり前なんですよ。
しかし、本来の討伐戦の進め方はそうなんだけど、強者カードが切れるのならばそれに限った話じゃ無い。
だって魔将さえある程度押さえられるなら、幾ら魔物共だってそんな無茶苦茶な攻勢は掛けて来ないからね。
それどころか、魔物なんてのは元々身内の殺し合い上等って感じだから、まともな連携すら怪しくなって来るし、途端に討伐がやり易くなるですよ。
今の情況は正にそんな感じだ。
さっきの想定二次ラインにあった即席防柵群だけで無く、ほとんどの即席防柵は既に捨てられたみたいだし、討伐軍兵達はギャロワ卿達が魔物ドラゴンを押さえてる内に最短距離を撤退って指示が出たんじゃないのかな。
「さーて、そろそろかな」
またまた考えてる間に、前と同じくらいの高さまで上がった今度のジャンプも下降線に入って、ワタシは遂に討伐軍の前線を超えた。
でも越えたと同時にちょっとゲンナリ。
そりゃ討伐軍兵達は割りと形振り構わず撤退してるし、こっちもこっちで一歩一マイルの跳躍なんてムチャな事やってるんだから、二歩目で超えてこないとオカシイけど、気持ち的にはちょっと複雑だよな。
だって衆人環視の中でこんなバカ丸出しな事やってる以上、また新聞とかに大げさに書かれちゃったりするのが目に見えてるしねぇ。
前線に居たヤツらがジュリアンさん達みたいに「私は見た!」とかってやらない事を祈りたいけど…期待するだけムダか。
誰も見てないのを良い事に、盛大な溜め息を吐きながら着地点の見定めに入ると、予想外の魔物の数にちょっと驚く。
半減したって聞いてたのに、まだ一万は楽勝に居るっぽい。
ほぼワニ野郎とマーマンで埋め尽くされた辺り一帯は、正に魔物の海って感じですよ。
思考加速のせいで、そいつらがゆっくりと蠢いてるように見える様がマジでキモいです。
なんか帰りたくなって来たわ。
着地寸前、ジャンプして食い付こうとしたワニ野郎を斬り捨て、同時に襲って来た神の悪ふざけって見た目のマーマンにも飛び蹴りを食らわす事でワンクッションを置いて、ワタシは手近に居たワニ野郎の頭上に着地した。
足元の異様な感触と共に、グベシヤァァァッて感じの間延びした異音がして、ワタシはワニ野郎を踏み殺し、今度は何時もの爆走に変えて走り出す。
もう人間は前で魔物ドラゴンとヤってる二人以外は居ないんだろうし、吹っ飛ばそうが踏み殺そうが問題ナシだもんね。
地面で爆走状態になったワタシは、ゆっくりヌルヌルと動くワニ野郎やマーマンのキモさを押さえ込んで、バンバン斬り飛ばしながら走り続ける。
ああっ、もうっ。水棲魔物(主にマーマン)って、なんでこんなに見た目がキモいんだよ!
しかし真剣に帰りたい衝動に襲われながらも、何とか魔物の群れの中を走り続けてると、唐突に魔物の群れが切れた。
いきなり何も居なくなりやがったと思ったら、灰色のバカでっかい大蛇がもう目の前ってくらいの距離でこっちを睨んでるじゃありませんかっ。
おおっ、やっとハイドラちゃん改め、魔物ドラゴンちゃんとご対面ですよ!
魔物ドラゴンもワタシの接近に気付いてた様で、こっちが気付いた直後、幾つものスラッシュ(に見える魔法技)を放って来たので、スルスルと避けてやる。
風系魔法上等!のワタシにスラッシュなんて効かないよーだっ。
でもコレ、連撃じゃ無くて同時攻撃じゃないですかっ。
ひゅうっ。いいねえ、滾ってきちゃいましたよ!
返礼にインベントリから二連銃をスッパ抜いて二連発。
勿論、先行で戦ってるギャロワ卿達に援軍が来た事を音で知らせる為でもあるよっ。
どおおん!
こっちの合図に気が付いたようで、ギャロワ卿達も銃を撃って健在表明&現在位置を知らせて来た。
うんうん。流石は騎士卿、戦場での挨拶作法を良く判ってらっしゃる!
「我、マリア・コーニス! 魔法士協会総裁陛下の勅許により、助勢致すっ!!」
一拍の間をおいて、見えた人影に向かって大声で叫びながら、直後に牽制のスラッシュ5発同時攻撃をかまして横っ跳びし、再度バウンドする様に跳躍する。
グギョォォォン!
さっきの銃弾は当たったみたいだったけど、スラッシュ同時攻撃は難なく無効化した魔物ドラゴンが吼えた。
へっ、その程度は最初っから読めてるっての!
跳躍に入りながら、一瞬の時間差で影斬飛ばしをして更なる牽制に入り、人影にチラッと目線を送ると、直後に挨拶返しの声が響いた。
「デラージュ家騎士卿、エルネスト・ジル・ギャロワ! この苦境にあって絶好の助勢に感謝する!!」
おんや? 挨拶の仕方が変ですな。
普通ならこのテの挨拶って、先行してる方が誰何っぽい感じで始めるのが慣わしだ。
なんたって獲物の占有権に直結しちゃうし、ワタシが一拍の間をおいたのもそれを待ったからなんだけど、これは結構ヤバいのかも知んない。
先行者が挨拶を返礼で、しかも謝意で返すってのは、大抵の場合、この場を譲るって言う意思表示だからね。
魔物ドラゴンがガンガン飛ばして来る、何やら得体の知れない風系魔法をホイホイとカウンターしながらも近付いて見れば、ギャロワ卿は既に相方を担いでいる状態で手を振って来た。
うわぁ。そりゃ間違い無く苦境だわ。
「一旦体勢を立て直して下さいっ。その間の陽動はワタシが承ったっ!」
3倍は間違い無く行ってるだろう思考加速の中、ワタシはギャロワ卿にそう言うと、更なる牽制ワザの準備に入る為、ジグザグ走法に入った。
「かたじけない!」
視界の隅でギャロワ卿が相方を事実上抱える様にして離脱する姿を捉えながら、心の中でガッツポーズを決める。
よっし、相方さんには悪いけど、これで此処はワタシの独り舞台になったよ!
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、有難うございました。




