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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
大規模スタンピード討伐戦
84/221

084話

「なあ、一体全体、どうしてこんな事になってるんだ?」


 ランス城外に即席で建てられた簡易砦の上に立って、遠い戦場を眺めてると、完全武装のフェリクスおっさんが近寄って囁いて来た。


 昨日の攻勢とやらが失敗に終わり、デラージュ閣下率いる討伐軍は結局ランスでの篭城を選択して、ワタシ達はその撤退支援の為に此処に居るんだけど、おっさんとしては予想外のエラ方さんが「視察」にやって来ちゃったんで困り顔だ。


「ん? さぁ、エラ方さん達の事はおっさんの方が良く知ってるんじゃない?」


 ワタシはおっさんに適当に答えながら、ここから魔物ドラゴンまでの距離を考えて、心の中で溜め息を吐いた。


 ランス城壁から戦場寄りにおよそ3マイル(約4.8km)は離れたこの簡易砦からでも、討伐士協会が集めた義勇討伐士約2500名を含む、総勢7千余名の討伐軍は更に2マイル(約3.2km)以上先だ。


 恐らく、魔物ドラゴン本体は3マイル(約4.8km)以上先なんじゃないのかな。


 さすがにこれだけ離れてると、戦闘の喧騒も遠くに聞こえる程度だし、魔物ドラゴンの勇姿(?)も全く見えないに等しい。


 魔法力の集中度合いから、どの辺に居るかくらいは判るんだけど、流石に遠すぎですわ。


「俺が知るかよっ。大体、今頃になって雲の上のおエラいさんが出張って来る事なんざ、知ってる訳がねえ」


「だったら、余計にワタシみたいな下っ端が知ってるワケ無いでしょ」


 まだまだ手が届きそうも無い魔物ドラゴンへの苛立ち紛れに、ちょっとムッとした顔で振り向くと、さもありなんとおっさんは頭を掻いた。


「いやぁ、まーそうなんだがな。お前の事だから、何か知ってんじゃねえかと思ったんだよ」


 なんだかなー。まぁイイ勘してるとは思うけど、おっさんのは単なるエラいさんストレスだから、こっちにぶつけて来るのは勘弁して欲しいよね。


「そんな事より、デラージュ閣下は本当にこの砦まで退いて来るんでしょうね?」


 ちょっと済まなそうな顔のおっさんに肝心な事を尋ねる。


 太陽はそろそろ中天に指しかかろうとしてるし、幾ら何でもこのままじゃ、今日もワタシの出番は無い事になっちゃう。


「そいつは本当だ。今だって徐々に撤退しているはずだが、前線を下げるってのは時間を掛けて頃合を見計らいながらやらねえと、一気に差し込まれちまうからな」


 まぁ、そうなんだけどね。


 多分一万は超えるだろう水棲魔物の大軍は、ここからでもおぼろげに見える。


 あれを押さえつつも撤退するんだから、慎重に慎重を重ねてるんだろう事は想像に難くない。


 ワタシはおっさんの言葉に肯くと、改めて周囲を見回した。


 この簡易砦の見張り台の上には、今現在、結構な数の人間が居る。


 主にはおっさん以下の討伐士協会特務部隊の幹部連になるけど、それ以外にもデラージュ幕下の騎士長一人とその取り巻き、更には従者を連れたアルマスのオネエまでが居るんだよね。おっさんがガタガタ言うのも判るわ。


 オネエは昨日、ワタシが死なない程度にサポートするとは言ってくれてたけど、こんな形で戦場に現れるなんて思っても見なかったよ。


 なんたってワタシ達は朝の9時前に此処に着いたってのに、オネエ達の方が先に来てて、挨拶されたおっさんが大慌てだったもんな。


 何時もの態度と打って変わってペコペコしてたし、何と言うか、中間管理職の悲哀ってヤツを感じちゃいました。


 しかし昨日と言えば、あの後も結構大変だった。


 何でもオネエはレスタンクール「先生」の大ファンなんだそうで、大事な話が終わるや否や、即座にレティを部屋に入れて、その後はもうゆりりんな話に花が咲き捲くっちゃったんですよ。


 レティもレティで、オネエと妙に意気投合しちゃって大騒ぎだったしさ。


 リーズの時も思ったけど、何時の間に世の中ってゆりりん賛美主義者が増えたんでしょうか。


 知り合うヤツのゆりりん好き率の高さに唖然とするわ。


 しかも帰り際、オネエはワタシの魔法士章を奪い取って、Ⅸって文字も眩しい新しいヤツをホイっと渡してくれた。


 渡されたこっちはもう目が点になっちゃって、思わず自分とししょーの名を確認しちゃったくらいだ。


 魔法位ってこんなに簡単に上がるものだったっけか?


 そもそも魔法位ってヤツは、上がる基準が「魔法社会への貢献」とかって言うあやふやなモノだから、逆にそうそう上がるモノじゃ無い筈なんだよね。


 魔法大学院卒業とか、医師免許取得とか、博士号取得とか、論文が賞を取るとか、そう言う判り易い物を外せば、後は大抵血筋とコネとカネの世界だもんな。


 でも理由を訊いて二度ビックリ。


 なんと、何時もワタシがやってる「走法」が理由なんだそうで、オネエが言うには「あら、『人間憤進弾オマリー』の技を再現したのだから、それだけでも昇格に十分よ」と言う事でした。


 道理でししょー直伝のあの走りって他では見ないと思ったら、あれはかなり特殊な魔法技術なんだそうで、ン百年前に活躍した大魔導師ディオクレスがやってた技をししょーが現代に再現したモノらしい。


 マジか!? って思ったけど、どうやら本当らしくて、何と言うかちょっと複雑な気持ちになっちゃいましたよ。


 ししょーも、良くそんなトンデモなワザを12、3の弟子に仕込もうとしたよなぁ。


 考えて見れば、ししょーの他の魔法ワザって割りと簡単にマネ出来たのに、あの走法は中々習得出来なかったから、その難しさにも納得なんだけど、ムチャ振りにも程があるわ。


 ホント、ししょーの鍛え方ってハンパ無い!


 だけどこれでワタシってば、普通に魔法大学院を卒業した人と同じ9位の魔法士になったんだもんね。


 エラくなっちゃって困りますなー、ハッハッハッって感じだ。


 討伐士章の方も、今朝早く、何時の間にか閉鎖に成ってたランス支局でおじ様が7級に書き換えてくれた。


 聞けばペド野郎を筆頭に支局の主だった連中は、おじ様達が全員捕縛して暗い穴にブチ込んじゃったそうだから、そりゃ閉鎖にもなるよな。


 だけどそんな事は置いといて、討伐士章作成機って触れる人はかなり限られてる筈なのに、おじ様がそれを出来た事にちょっと驚いた。


 おじ様って本当に協会中枢のヒトなんだなって、思い知りましたよ。


 そんなこんなで色々とあったよなぁと思いながらも、ふと気が付けば、どうやらやっと討伐軍の後退が進んで来た様で、眼下の簡易門に車両が入り始めて来てた。


 牛やサイノスに引かれた各車両の上には負傷兵も結構乗ってるから、そこだけ見ればモロに負け戦って感じだ。


 まあ実際に今は負け戦なんだけど、途中までは勝ってたんだから、今の所はまだ五分五分って所だと思うけどね。


 と、その時、彼方で大きく魔法力が揺らめいた。


「ちっ、いっちょ前にブレスまで吐きやがるのかよ。メンド臭えなぁ、もうっ」


 即座に反応したおっさんの言葉に、ワタシは速攻でインベントリから取って置きの双眼鏡を出して彼方を覗き込んだ。


「オイオイ、凄えのを持ってやがるな」


 テレスコピック式の望遠鏡を持ち出したおっさんが、ワタシの双眼鏡を見て唸る。


 それも当然。精密な光学レンズの様な魔法絡みで作られる品は、世間にはそれ程出回って無いし、こんなの持ってるのは軍隊なら将軍位でも持ってる様な連中だけだ。


 ワタシのコレだって、サラ絡みでレンズを手配して貰って、それを元に出入りの職人に組み上げて貰ったブツだと言うのに、本当は割とショボい性能なんだよね。


 でも、頭に来て魔法的に色々弄ったら、結構な性能になったんで、主に実験観測用に愛用してるんですよ。

 

 そんなワケで魔法力をくれてやると、光学系の魔法陣が起動して、ショボい双眼鏡が一気に高性能に早変わりする。


 おおうっ!


 1万を下らないんじゃないかって数の魔物の大軍による前線の更に先、

一匹の巨大な灰色の蛇の周囲を2人の騎士っぽい人間が飛び回ってるのが目に入った。


 騎士達は思考加速を使っている様で、その動きの速さから姿がぼやけて見える。


 多分片方がギャロワ卿なんだろうけど、前線の撤収支援の為に、一部の強者つわものが魔物ドラゴンを足止めしてるって感じですな。


 直後に大蛇の口から直線的で光線の様なモノがビーって感じで発射されて暫く続き、大蛇がソレを巨大な剣の様に振り回して騎士達を追い回し始めた。


 あれがブレスかっ。


 口から炎を吐くのがブレスって聞いてたけど、全然違うじゃん!


「あんなの100%完全な魔法の産物だよ!」


 思わず声が出ちゃう。


 だって炎とか火系の魔法とは全然違うし、正直、どうやってあんな事をやってるのか想像も付かない。


 当たった所の被害を見ると、熱線である事は間違い無い様だけど、それが魔法の行使である事以外はさっぱりだ。


「そうね。ドラゴンのブレスは連中が使う魔法の最たる物だもの。空も飛べない程度の不完全体とは言え、あれならちょっとやそっとの魔法防壁なんか一撃で貫通されるわ」


 背後から声がして振り向くと、双眼鏡を目に当てて戦場を見るオネエが立ってた。


「もしかして、あれでもかなり弱い感じなんですか?」


 思わずワタシも再度双眼鏡を覗くと、ブレスはまだ続いてて、凄い速さで振り回す大蛇の首が何本もある様に見える。


「それはそうよ。完全体のブレスならもっとずっと太いし、距離だって此処まで届くわよ」


 ゲッ、此処までってマジか!?


「あれは騎士達を追い回す為に出力を絞って長引かせてる様だけど、とてもじゃないけれど、完全体のモノにはほど遠いわね」

 

 はぁ。そりゃぁまた、シャレになんない化け物なんだねぇ、魔物ドラゴンって。


 首の動きから見て、どうも思考加速全開のギャロワ卿達の動きに付いて行ってるみたいだし、これは難物ですよ。


「ギャロワ卿がアイツに完全に近づけてないのは、撤退の陽動やブレス避けだけで無くて、アイツ自身の魔法障壁が物理的にも反応するからよ。綺麗にカウンターしないと、近寄る事も出来ないってワケ」


 ほう。そうなると魔法無効女のワタシには、ちょっとしたアドバンテージがあるっぽいですな。


 魔物ドラゴンの魔法障壁ラクラク突破は考えてた事ではあるけど、直に目で見ると判りやすくってイイ。


 今まで見てた感じから、大体の範囲は判るし、効いてるフリしていきなり突っ込むのもイイかも知れん。


 最初の作戦としては悪くないよね。


 そんな事を考えながら見てる間に、どうやらブレスの魔法は終わった様で、騎士二人の動きもさっきまでより少しマイルドな感じになった。


「少し不味いわね。片方、ブレスが掠ったみたい」


 ぬう、流石は百戦錬磨の強者つわものだわ。ワタシは気が付かなかったのに、オネエは騎士の不調に逸早く気が付いた様だ。


 ブレスが終わったから動きを弱めたんだと思ったよ。


「って事は、そろそろアップを始める頃合ですかね?」


 ワタシが即座に切り返すと、オネエが更に近付いて、耳元で囁いて来た。


「別に今行っちゃってもイイんじゃない? ただ、一応小芝居は打ってちょうだい」


 おおっと!


 まさかこの段階でオネエからGOサインが出るとは思わなかったよっ。


 んじゃ、そろそろ見てるのも飽きてきたし、突っ込むとしますかね。


本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。

読んで頂いた方、ありがとうございました。


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