083話
申し訳ありませんが、昨日は投稿出来ませんでした。
モノがあるのに来週に回すのもナンですので、今日投稿させて頂きます。
すみませんです。
ワタシは取り敢えずその場に跪くと、隠蔽の魔導具をオフにして、口を開いた。
「隠蔽の魔法を切らぬまま入室したこちらの方が、無礼極まりない態度であると思われます、閣下」
二回も声を掛けられたのに返事をしないと、モロに不敬になっちゃうしね。
「いやあん。そんな妙な言葉使いは要らないわぁ。とにかく口調は普通にして、こっちに来て座って欲しいのよん」
ぶふぉっ。このオネエ、マジでキモいんですけど。
こっちに向かっておいでおいでと手を振る仕草も何か、芝居がかってる様な気持ち悪さですよ。
はぁ。でもまぁ仕方が無い。
「普通にしろと言われるならそうしますけど、だったら閣下もそうして貰えると嬉しいですね」
立ち上がりながら、これでどうだって感じに普通の口調で喋ってやると、オネエがちょっと嬉しそうな顔で肯いた。
「ああ、そうね。女言葉っぽいのは育ちのせいなのだけれど、確かに今までの口調だとバカっぽいわよね」
ぬう。ヘンだとは思ってたけど、やっぱり作ってやがったみたいですな
なんだかなーと思いつつも、意を決してオネエの向かい側のソファーに座ると、ローテーブルの上には何時に間に用意されたのか、湯気の上がる紅茶が置かれている。
オネエの前にもカップがあるし、中身は一体何処から出て来たんでしょうね。
ううむ。手品か何かかな。
「で、自己紹介ね。私はアルマス・ヘルミネンって言う二位の魔導師で、国籍はシルバニア、年齢は内緒」
しかし頭が紅茶の謎の方に行きかけた所で、目の前のオネエから有り得ない言葉が聞こえて、ワタシは目が点になった。
「はぁっ!? ヘルミネン侯爵閣下ぁ?」
思わず声が出ちゃったよっ。
「あら、ご存知なの?」
ワタシの妙な声を咎める訳でもなく、オネエはまた更に嬉しそうな顔になって聞き返してきたけど、この名乗りが本当ならシャレにならない事態ですよっ。
「シルバニア四侯のお一人であられるヘルミネン閣下ならば、知らぬ者など居らないと思われますが」
「いやーん! だーかーらー、その妙な口調を戻さないとぉ、私も口調を変えないわよん?」
ワタシの言葉に、即座にクネクネと身を捩ってイヤイヤをするオネエにガックリ。
ちょっと精神的に色々と削れちゃった感じですよ。
うーみゅ。これ、ホントに本人なのかな。
ヘルミネン侯と言えば、魔法士協会きっての実力者の一人で、シルバニアの四大魔導師の一人で、ついでに女王の側近って言うトンデモ無いヒトだ。
そんな雲の上の御方が、ランスの支局長なんかやってる筈が無いと思うけどねぇ。
「あー、もうっ。判りました! それより、こんな所でシルバニア女王陛下の側近が何やってるんですか!?」
度胸一発、普通の口調で喋ってやると、オネエはすぐにクネクネを辞めて、紅茶を口にした。
こっちにも勧めてくるんで改めてローテーブルの上を見ると、また何時の間にか焼き菓子とかまで置いてあって、狐に摘まれた様な気分になる。
思考加速の早業でも、認識阻害の魔法でも無いのに、コレってどうやってるんだろう。
「うんうん、そう来なくっちゃ。でもマリーちゃんはすこーし想像力が貧困ねぇ」
オネエがまた何時の間にか右手に持ってた細長い箱をローテーブルの上に置くと、チラっとこっちを見た。
はぁ。その視線で言いたい事は判っちゃったけど、そんな事より、ワタシの呼び名は「マリーちゃん」で決定ですか。
お断りしたいんですがダメなんでしょうね。エエ、判ります、ハイ。
「女王陛下の免罪符を渡すのですもの。そこらの阿呆たれになんか任せられないでしょ?」
やっぱりそうかぁ。
ワタシは机の上の箱に目をやって、辛うじて溜め息が出ちゃうのを堪えた。
「それはまた随分と手回しの宜しいことで」
しかしフットワークの軽い総裁殿下なら判るけど、王城引き篭もりの女王陛下のお墨付きもこんなに早いなんて、どう言う事なんでしょう。
どんな手段を使えばこんな事が出来るのかね。
魔法士協会ってハンパ無い!
「貴女、昨日討伐士協会でバカ相手に見事に総裁殿下のお墨付きを断ったそうじゃない? だから、こっちもさっさと渡しておこうと思ったのよ」
「あれはその場の流れですよ。支局長代理が渡さないと言ったので、要らないと返した迄の事です」
「そうでしょうねぇ。あの男、処刑は確実だし、色々とアセってたんじゃないかしら」
え、処刑?
焼き菓子を摘みだしたオネエをマジマジと見ながら、ワタシは昨日の出来事を思い出した。
あのペド野郎、一体何をやらかしたんだろ?
「ワタシは事件の詳細を知らないんですけど、それ程の事件だったんですか?」
「大事件と言えば大事件ねぇ。だって奴隷売買ってだけで重罪なのに、支局ぐるみで手広くやってたみたいだから処刑は免れないわよ。私が此処に来た理由の一つも、それに絡んでたバカ共の粛清なんだし」
うわぁ。マジですか、それ。
ワタシは思わず頭を抱えそうになった。
奴隷売買を筆頭に、人身売買は各国で禁止されてる重犯罪だ。それが例え犯罪奴隷でも、売買は禁止されてる。
理由は簡単で、もし人身売買が合法化された場合、それは必ず魔法力のある人間の売買に繋がるからだね。
魔法力を持つ人間の国外や地域外への流出を避けたいおエラいさん達から見れば、そんな事やってる奴らは死んで良しと思うわな。
「と言う事は、魔法士協会はとっくにランス支局の粛清は終わったって事ですか?」
「そうね。上の連中は全員絡んでたから、サクッと灰になって貰ったわ。爵位をもってる貴族は、貴女を案内したヤツが唯一人の生き残り。無能の極みみたいなヤツだから、声が掛からなかったみたいね」
ああ。あの阿呆がビビってた理由はソレかぁ。
そりゃ協会本部からドエラいヒトが来て幹部連が灰にされちゃったら、ビビるどころの騒ぎじゃ無いよな。
そんな所へ呼ばれて来たヤツを子供だと持って舐めたら、金色指輪の5連発だし、さもありなんって感じだ。
でも爵位を持ってる貴族を根こそぎ灰にしちゃったなんて、モロに極秘事項だと思うけど、ワタシに喋ってもイイのかね。
「どう考えても、そちらが本命ですよね。成る程、それで急いだ訳ですか」
オネエが「早く仕舞え」って視線で言ってくるので、ワタシは仕方無く箱を受け取ってインベントリに仕舞いこむと、お茶を飲んだ。
いやぁ、何か想定外の事があり過ぎて、ちょっと頭がクラクラして来ちゃいましたよ。
魔法士協会が支局の幹部連を灰にしたのは、支局が奴隷売買に関与してたのを隠蔽する為だと思うし、爵位を出してた王侯だって、臣下(爵位を出すと言う事は臣下と認めると言う事)がそんな事に絡んでたのは秘匿したいワケだから、干渉は有り得ない所か、逆に弱みになっちゃう。
この一件、昨日の討伐士協会支局の様子から見ても、表沙汰になるのは避けられないだろうから、その前に手を打てたのは魔法士協会としてとても大きい。
これで魔法士協会本部は各国王家に借りを作るどころか貸しを作った事になるしね。
「それは違うわよ。あくまでも本命はマリーちゃんの件で、ランス支局の粛清と掌握は二の次ね。貴女だって魔法士協会がバラバラな事くらい知ってるでしょ?」
ズズッとお茶を啜るワタシを見て、オネエがインベントリと思しき所に手を突っ込んで、ポットを出して来た。
おおぅ、そう言う仕掛けでしたか。でもインベントリで保温なんて、シャレにならない能力の無駄遣いだよ。
何たってインベントリは魔術だから、そう言う仕掛けで魔法陣を刻まないとこんな事は出来ないもんね。
このオネエ、もしかしたらレティもビックリな趣味人なのかも知れん。
「国や地域の魔法社会を取り仕切るボス達が加盟する、一種の互助会ですからね」
「そうそうっ。中々判ってるじゃない!」
結構ぞんざいな物言いをしたのに、「お前、中々見所があるな」って感じで返されてちょっと引く。
多少なりとも窘められるモノと思って言ったんだけど、こんな反応を返されると困るよね。
でもまあ、魔法士協会って所を一言で説明すればそんな感じになる。
討伐士協会の様に謎のロストテクノロジーで繋がってるワケじゃ無いし、国や地域を仕切る連中の寄り合い所帯ってのが実情だもんな。
要するに、魔法士協会本部は他の勢力、特にこのランスを牛耳ってた勢力に王手を掛けて、ついでにランスを奪う事が出来たって事になる。
良く考えたらかなりの大事だ。女王の側近が出張って来るのも判る気がするよ。
勿論、ワタシにお墨付きを渡す為ってのは大義名分だね。
「現状だと、南部連合を睨んで拠点作りって事の方が大事だと思いますけどね。少なくとも、貴方が此処に居られる限り、魔物ドラゴン一匹で今のランスが落ちる事は有りえませんし」
「そうね。私と貴女とバルリエ卿とギャロワ卿の四人が居て、ランスが落ちる事は無いでしょう。でも、だからこそ今ここで貴女に女王の免罪符を渡しておきたかったの」
ギャロワ卿って言うのはデラージュ閣下の直臣で、金章三位の討伐卿だ。
コイツが居るから、ワタシ(と多分おっさんも)はハイドラを諦めかけてたんだよね。
色々な武勇伝で知られる有名なヒトだし、先にそんなヒトがやってる所に、ホイホイと前を遮って突撃とか出来ないよ。
「ワタシは今名前の出た方々と一緒にされる様な者じゃ無いですよ。それ程強くもありませんし」
何か妙に期待されるのもイヤなので、取り敢えず予防線を張ると、オネエはニヤニヤ笑いで返して来た。
「あらあら。随分と謙虚な事を言うのねぇ。ウチの陛下の免罪符と違って、討伐士協会総裁のお墨付きなんて言う珍しいモノが出る程の人物でしょ。少なくとも、新聞ではそう扱われてるわよ?」
ぶへっ。
ニヤニヤしつつも、空になったワタシのカップに手ずからお代わりを注ぎながら言うオネエの言葉に、思わずガックリ。
そう言えば今日の新聞はまだ見てなかったけど、そんな事が書かれてるんだったら、マジで逃げ出したいんですけどっ。
「いやっ、本当に、勘弁して下さい」
心の動揺を抑えながら言葉を出して、ついでにオネエにお代わりのお礼も言うと、ワタシは紅茶を飲んで気を落ち着けた。
実を言えば、シルバニアの女王は今まで何人にも個人でお墨付きは出してるから、割りと気楽に考えて貰っちゃったんだよね。
でもさっきのオネエの物言いだと、まだまだ結構な裏があるっぽい様な気がする。
何て言うか、色々あり過ぎて、考えが追い付かないよ。
討伐士協会での奴隷売買の件、二つのお墨付きの件、スタンピード討伐の件、魔法士協会のゴタゴタの件、ちょっと数え上げただけでもこれだけある。
ホント、色々絡み過ぎなんだよね。
「少なくとも、私は貴女をこの目で見たいと思って、出張で来てたリプロンから此処に出張って来たのよ。デラージュがランスの丸洗いを企んで魔将の討伐を先延ばしにしてるでしょ? そんな中で貴女みたいな娘が揉まれるのは見ていられないもの」
うわぁ。ここでまたまた更に別の案件ですか。
ワタシはもう構うもんかと思って、盛大な溜め息を吐いた。
しかしこれで漸く納得がいったよ。デラージュはランスの各勢力を潰そうとして討伐戦を長引かせてたんだね。
ギャロワと手勢が居るのにおかしいとは思ってたけど、奴隷売買組織潰しに始まる一連の話が裏にあるなら、それはもう肯くしかない。
総裁殿下や南部連合の三巨頭とも話は付いてるんだろうし、これでデラージュはヴィヨンとランスの太守に就任が決まったって感じだわ。
「何か色々と厄介な事になってるんですね」
万感を込めて、溜め息と共に言うと、オネエが可笑しそうに笑った。
「貴女をダシに使ったんだから、女王陛下は貴女に借りが出来たって事よ。他所の事は知らないけどね。でもそんな事より、私はマリーちゃんが好きになっちゃったし、此処で一つ、貴女をコケにした連中を纏めて笑ってやるのもイイと思わない?」
ぬにゅう?
好きになっちゃったとか言われても、ちょっと困るんですけど。
まぁ流石にヘンな意味は無いんだろうけどさ。
「今の箱の中には、陛下のお墨付き以外に、魔法士協会本部からの正式な依頼状が入ってるわ。内容は単純『ランスの悪龍を退治せよ』よ。どう?」
マジか!?
思わずオネエの顔を見ちゃうよね。
だって、それって抜け駆け上等のお墨付きって事ですよ。
「ソレが本当ならば、明日、正々堂々と魔物ドラゴンに挑戦出来ますが、本当に良いんですか?」
ナシはついてるとは言え、討伐士協会がまごついてるんだから、確かに魔法士協会としては「何をやってるんだ!」って怒ってもイイ。
その権利をワタシにくれるって言うんですか?
「勿論よ。一応ワタシも密かにサポートで付くけど、それは最悪の場合にあなたの命を救う為だと思ってね。余計な手出しはしないわ」
エラ方さん達の妙なお墨付きは要らないけど、そんなお墨付きなら大歓迎だ。
しかもそんな配慮までして貰えるなんて、これで前に出なかったら女が廃るよっ。
「勿論、やらせて貰いますともっ!」
ワタシは今日初めて本当にニッコリと笑うと、本当の意味での明日の決戦を想って、グッと拳を握り締めた。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、有難うございました。




