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080話

 確かここに呼び出されたのって、ワタシの筈なんだよね。


 一貫して涼しげな調子を崩さないおじ様に、代理野郎がギャンギャンと噛み付いてるのを横目で見ながら、ワタシは溜め息を吐いた。


 おじ様がワタシを利用して、代理野郎の不意を突いた事は間違いが無いと思うけど、問題なのはそこじゃなくて、おじ様の身分だ。


 代理野郎が我を忘れて吼え捲くるのも、多分、理由はソレだろう。


 爵位を持つ貴族を逮捕するには、爵位を与えた王侯の命令や許諾無しには出来ない。


 そして逮捕する側も、王の勅命を受けるに相応しい人物でなければならない。


 本来なら、協会第二軍の軍監風情の出る幕じゃ無いんだよ。


 でも官位を持っている事(あの場合は準6位以上だね)を否定しなかったし、現実に逮捕状も持っていると言う事は、詰る所、おじ様は王の勅命を受けられる直参騎士か親衛騎士って事になるんだよね。


 って事は、第二軍云々ってのは仮の身分で、おそらくは協会中枢の参与とかなんじゃないのかな。


 もしかしたら「特務部隊」ってのも、そう言う部隊なのかも知れないね。


 そりゃあ支局とは没交渉にもなるわ。


 なんたって、その支局の連中を丸ごと捕縛に来た様なモノなんだからねぇ。


 ここに職員が揃ってるのも、その事に関係しているんだろうなぁ。


「おい、小娘っ! いい気に成るなよっ」 


 ボーっとした感じで考え事をしてると、代理野郎が今度はこっちに噛み付いて来た。


「私はお前の様な者は絶対に認めんっ。よって、これをお前に渡す事は出来ぬぞ!」


 メンド臭いなーと思いながらもそっちを見れば、代理野郎が封印された何かの書状を片手に持って息巻いてる。


 ああ、アレが件の総裁殿下のお墨付きってヤツなのかな。


 だとしたら、信じられない速さで着いたって事になるけど、総裁サマが結構近くまで来てるとすれば有り得る話だ。


 例のリプロンの話があるから、もしかすると総裁サマは今、リプロンに居るのかも知れない。


「代理如きが言って良い話と、そうで無い話ってあるんじゃない? アンタがどうにか出来る物じゃ無いでしょうに」


 おじ様のマネをして挑発すると、代理野郎は面白い様に真っ赤になって、地団太を踏む様にその場で足を踏み鳴らした。


「残念だがなぁっ、今はまだ私が支局の責任者だ! 誰が何と言おうとも、これは支局としてお前には渡せぬ!」


 はぁ。何だかなぁ、ホント。身体から力が抜けそうになっちゃうよ。


 さっきのおじ様の話通りなら、どの道、明後日にはコイツは逮捕されて失職するんだから、所詮はそれまでの話なのにね。


 でもこれって、思い掛けないチャンスが来たのかも知れない。


「ふーん。それって協会の指示だと思って良いワケ? しがない討伐従騎士としてはそう取るしか無いんだけど」


 更なる挑発って感じで言い放って、ついでにフフンと鼻で笑ってやる。


 これで引っ掛かってくれるとイイんだけどなー、なんて思ったのも一瞬で、代理野郎は茹でデビル・フィッシュもビックリな位に真っ赤になって、怒声を撒き散らした。


「はっ。下郎めが尻尾を出しおって! お前などを特別扱いせよなどと言う命令は来ておらぬわっ。よってこれは支局の責任者である私が、協会の命令として、お前に命ずる事が出来るのだ!!」


 貰った!


 思わずガッツポーズが出ちゃいそうになるのを何とか堪え切ると、ワタシは心の中だけでニヤっと笑う。


 引っ掛かるどころか、阿呆が決定的な台詞まで言ってくれやがりましたよっ。


「あ、そうっ。んじゃ要らないよん」


 一度挑発したら最後までねーって感じで、挑発の三連発目を口にすると、代理野郎が今度は得意になって笑い出した。


「ハァ、ハッハッハッ! 本当に要らないのかっ。お前如きには一生一度のチャンスかも知れぬぞっ?」


「だってアンタが渡さないと言うのだからしょうが無いでしょう? そもそもそれはワタシが頼んだ物じゃ無く、総裁殿下が勝手にくれるって言った物だから、支局の責任者が渡せないと言う以上、貰えなくなったのだと判断するしか無いじゃない」


 ワタシは言うべき事を口に出すと、インベントリからおっさんに貰った例の紙を出し、速攻で火系の魔法を励起して、目の前でそれに火を点けた。


「マリー殿っ!」「お嬢様っ」


 周囲が一斉にどよめくのを無視して、火の点いたその紙を宙に放ると、紙は瞬く間に燃え尽きて、微かな灰だけが床に舞い落ちた。


「貰えなくなったのなら、こんな紙切れは要らないでしょう?」


「ばっ、馬鹿なっ・・・」


 勝ち誇った顔から、一気に呆然とした顔に切り替わった代理野郎を無視して、ワタシは踵を返した。


「これ以上、用が無いのなら帰るから」


 そう言い捨ててその場を後にする。


「そんな・・・」


 代理野郎の放心した様な呟きが聞こえるけど気にしなーい。


 にゅっふふふ。これで総裁殿下のお墨付きとやらはワタシと縁が無くなったってワケだ


 あー、スッキリした。








 しかし、スッキリしたのも束の間、帰りの自走車内は何故かシーンと静まり返って、さっきの支局の通常エリアもビックリな雰囲気になった。


 うーむ。総裁サマのお墨付きを捨てた事って、みんなにとってそんなにショックな出来事だったのかなぁ。


 何時も明るい軍曹ロベールさんですら、まるで友達でも亡くなったみたいに俯いて、押し黙っちゃってるし。


「申し訳ありませんでした。と、本来であれば謝らねばならね所ですが、どうやら、その程度では済まぬ借りを作ってしまった様ですな」


 ランス支局が完全に見えなくなった所で、皆と同じ様に沈黙していたおじ様が口を開いた。


「ダシに使ったのはお互い様でしょ? そもそもワタシ、お墨付きとかいらないしさ」


 もう暗い雰囲気はイヤなので、口調も通常モードにして明るく言い放つと、おじ様は何故か逆に沈痛な面持ちになって、こちらの目を覗き込んだ。


「マリー殿はあの阿呆が、何故貴女にあそこまで攻撃的であったかご存知ですかな?」


「東聖王国のペド野郎の噂なら聞いた事がありますよ」


 ワタシはおじ様の問いに即答した。だってあのラブランってヤツが有名なロリペド野郎だって事は、昨日レティに言われて思い出してるんだもんね。


 東聖王国の王宮務めの若い官僚が12、3の「貴族の少女」を餌にした罠に掛かって失脚したって話は、一時かなりの話題になった話らしく、今でも「変態には気をつけなさいね」って感じで言われたりする話だもんな。


 事件の頃は乳幼児だったワタシですら聞いてた話だから、ホントに有名な話だと思うよ。


 ま、御本人の名前までは知らなかったけどさ。


「やはり御存知でしたか。あの阿呆は事件以降、少女を相手にすると我を忘れて怒り出すクセがありましてな」


 あーあー、フェリクスおっさんが最初の時に言ってた「悪いクセ」ってその事か。そりゃまた難儀なお話ですな。


 何となく曖昧な感じで肯くと、おじ様は姿勢を正して座り直し、話を続けた。


「私は今朝、支局に本日夜に顔を出すと通告しましたから、連中は準備に大わらわだった様です。そこで貴女と御一緒すれば、向こうは必ずボロを出すだろうと思ったのですが、失敗でした」


「ワタシに急遽呼び出しを掛けたのって、やっぱりその関係ですか?」


「おそらくは。総裁殿下のお墨付きを盾に、貴女から何らかの譲歩を引き出したかったのでしょう。馬鹿な男だ」


 譲歩、ねえ。


 ついおじ様の顔を見ちゃうよ。


 だってこの件、どうやらアリーを売ったとかそんな話じゃ無さそうだもんな。


 それに「連中」と言ってるって事は、やっぱりおじ様は支局ごと捕縛しに来たっぽいよね。


「だったら成功じゃないですか。代理野郎はボロを出すどころじゃなかったし、三階のあの様子って証拠隠滅の最中だったって事ですよね」


 何故かまでは判らないけど、三階があそこまで何も無かったのは、多分そう言う事なんだろうと思う。


 そう考えると、これって結構デカい事件なんじゃないのかなぁ。


「確かに、私の目的からすれば大成功でした。が、貴女にお墨付きを捨てさせてしまったのです。貴女にとっては総裁殿下のお墨付きなど、逆に邪魔なモノでしか無いのでしょうが、このままでは凡百の者達の中に、貴女が総裁殿下をバカにしたと取る者達が出て来るでしょう」


「それって、要するにワタシがあの紙を燃やした事で、誰かを敵に回したって事ですか?」


 話の内容にちょっと驚いて、ワタシが即座に切り返して尋ねると、おじ様はゆっくりと肯いてみせた。


「何しろ、総裁殿下の代理人としてバルリエ卿が署名した書類を焼き捨ててしまったのですから、総裁殿下の署名を焼き捨てたも同然と取られても仕方がありません」


 あちゃぁ。言われてみればその通りじゃんか。


 ワタシは思わず右手で顔を覆って、座席に仰け反った。


 証拠ごと無くしちゃえと思ってついやっちゃったけど、焼き捨てはマズかったよ。


 そりゃ総裁殿下ラブって感じの人達が黙って無いわ。


「ですから、ここは私に借りを返させては頂けませんか?」


 仰け反って反省中のワタシに、おじ様がゆっくりと言葉を繋いだ。


「貴女は私のせいであの阿呆に酷い扱いと暴言を受け、何もかも終わったと絶望してあの紙を焼いてしまったのです。どうか、そうさせて下さい」


 なにゅう? ソレじゃおじ様が悪者になっちゃうじゃんか。


 飛び跳ねる様に姿勢を起こしておじ様を見る。


 幾ら何でもソレじゃ、こっちが大分借りって感じになると思うんだけど。


「あの阿呆の言葉は完全に越権行為です。総裁殿下の名をかたったも同然ですから、それだけで今日これからでも引っ張れますよ。つまりはそう言う事です」


 おじ様はワタシの視線にも全く怯まず、少し楽しげな様子で目を合わせてきた。


 確かに、総裁殿下の名を騙った罪で代理野郎を引っ張れば、世間も協会内部も「悪者は代理野郎でワタシは被害者」って形で納得し易い。


 代理野郎が勝手にお墨付きを渡すのを拒んだ事を大々的に発表する様なもんだからね。


 ワタシが口篭ったまま、ただ目を合わせたままの状態でいると、おじ様は更に楽しげな表情になった。


「正直、あれ程痛快な気分にさせられたのは久方ぶりでしたよ。しかし、もしこの私の行為にお釣りが来るのであれば・・・」


 おじ様がそこで言葉を区切ると、何故か後席のレティが急に唸り始めた。


 おーいおい。一体全体、レティの奴はどうしたって言うのよ。


 今の今まで黙ってたのに、おじ様の話が聞こえ辛くなっちゃう。


「貴女が独立騎士団を創設した際には、その末席にでも私を置いて下されば、と思います」


 にゅにゅう? 


 き、聞き間違いかな。何かトンデモ無い話がおじ様の口から出た様な・・・。


 あぁっ、もう! レティのせいでハッキリと聞こえなかったじゃないっ。


 思わず後席を睨むと、レティのヤツがガルルルッて感じでおじ様に食い付こうとしてて、両隣の騎士さん達に抑えられてる。


 ぬ、ぬにゅうん。一体全体コイツってば、何でこんなに喧嘩腰なんだろ?


「えっと、おじ様、何かレティのヤツが煩くて良く聞こえなかったんですけど、ワタシの騎士団に入りたいとか、冗談も程々にして下さいよぉ」


 しょうがないから、こっちもちょっと笑いながらおじ様に突っ込んでみる。


 もうっ、おじ様ったらっ! ってな感じだ。


「無論、冗談などではありません。年甲斐も無く惚れてしまいまして、貴女の活躍を側で見たいと思ってしまったのです」


 ところがおじ様は、レティの唸りもワタシの突っ込みも、そよ風の様に受け流し、ワタシの顔を見てハッキリと宣言した。


 ええ! ほ、惚れたって、あの、マジですか?


 自慢じゃ無いが、ワタシは野郎サマに告られた事なんて過去一度たりとも無いっ。


 一挙にあたふたしちゃうわ!!


「当然ながら、色恋の話では無く、騎士としての話です。私も一人の騎士として、遂に真のあるじを見つけた思いなのですが、如何な物でしょうか」


 ワタシが一気にキョドった態度になったのでマズいと思ったのか、おじ様が訂正を入れて来た。


 あ、ああ、成る程。そう言う「惚れた」なんですねぇ。


 いやぁー、アセったわ。


 おじ様って、中年スキィさんな女子から見たら、結構垂涎な感じだし、ワタシも危うくときめいちゃう所でしたよっ。


 って、ホッとしてるバヤイじゃ無いよ!


 コレって、かなり超絶級の爆弾じゃないですかっ。


少し長かったですが、本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。

読んで頂いた方、ありがとう御座いました。


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