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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
ランスの街にて
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077話


「ま、そうだろうね。ワタシは本来魔法士だし、騎士は憧れ&方便であって、目指す物とは違うもんな」


 流石はレティって感じで、ワタシは机の端を叩いた。


 ワタシが討伐騎士を目指してるのは「その方が生きて行くのに都合がイイから」であって、別段目標とか言う訳じゃ無い。


 剣技とか大好きだし、脳筋だし、そんなヤツが世の中に居場所を得るには、討伐士しか無いと思ったのが最初なんだもんね。


 ししょーが従騎士に任じてくれたから余計にその気になっちゃって、結構頑張ってるとは思うんだけど、ワタシが本当にやりたいのは本当は魔法研究だ。


 魔法士の世界が群雄割拠で、かつ魑魅魍魎の世界だから魔法士協会に近づかないだけで、本当はそっちに行きたいんだよ。


 サラなんかもソレは知ってるし、だからこそ金になる研究ってヤツを勧めて来たりして、色々と便宜を図ってくれたんだしさ。


 地位もコネも無い流民上がりなんて、どうせ真っ当な研究者になんて成れないけど、自分の研究が出来ればソレでイイの。


 だってワタシにとっての魔法は、それが魔法と呼ばれる物だと知る以前からの相棒で、本当のライフワークなんだもん。


 しかし、そんなワタシの本心を知ってる筈のレティは、何か妙な顔をして片手を振った。


「そう言う意味では御座いません。もしひぃ様が討伐士協会とある程度の距離を保ちたいならば、総裁殿下のお墨付きは貰わない方が得策と判断したまでの事です」


 ぬうっ。コイツってば、また何か妙な事を言い出しそうな雰囲気ですよ。


 ワタシが「判らん」って顔をすると、レティは「仕方が無いですね」と前置きをしてから、やや小声になった。


「ひぃ様は、次代の討伐士協会総裁が誰になるか、考えた事がお有りですか?」


「はぁ!? 次代総裁サマァ?」


 何やらとっても真面目な顔のレティの口から、思いも寄らぬ言葉が出て来て、ワタシはつい鸚鵡おうむ返しに言葉を返した。


 意外と言うか、全く想定から遥かに離れた話だよ。


 一体全体、何処からそんな話が出て来たんだっての。


「討伐士協会の総裁は、力が全てです。過去もずっとそうでした。圧倒的な暴力を保持する個人ならばこそ、総裁として君臨出来るのですよ。しかしながら、現在はグランツ殿下のご子息である現公王が、その強者と言う資格無しに最も有力とされております」


 ふうん。討伐士協会の総裁って、バカみたいに強くなくちゃダメって事ですか。


 でもこの話って、モロに討伐士協会の政治的なやっかい事の話だよね。それもかなり重大な。


 そんな話を何でここで話すのかね。


「しかし正直に言って、それは誰も積極的に推す事の無い消去法の話ですので、危機感を持ったグランツェン殿下は、密かに『年少の圧倒的な強者』を探しておられる様なのです。それも高貴な御血筋に近いお方であれば、更に良しと言う形で」


 うわぁ、そう来たかぁ。


 成る程ねぇ。中に居ないなら、外から連れて来て養子にでもしちゃえばイイんだしね。


 ただ、だからと言ってそんな雲の上の話がワタシに関係するとも思えない。


「でもさぁ、話は判ったけど、それってもうとっくにリストアップが終わってる話なんじゃないの? 有名所の名家とかだと、強者の一人や二人は居るのが普通だしさ」


 表情が鉄面皮状態になってるレティの顔をシゲシゲと見ながら、反論を試みる。


 そもそも旧聖王国の王族だって、直系筋からちょっと離れれば凄いのが結構居るって聞くし、元より協会所属の討伐騎士にも、すんごい強者が何人も居るからね。


「既存の名家名族の何処かから人を呼んだ場合、間違い無く協会は大きく派閥が割れるでしょう。そも現公王が最有力と言われる所以は、誰にとっても損が薄いからです。これ以上の説明が必要ですか?」


 あー、まあそうかぁ。


 かつてのワタシがそうだった様に、基本的に貴族と言う存在には職業選択の自由は無い。それが王族なら尚更だ。


 だから騎士なんて物騒なモノになれるヤツは、大抵は主流から完全に外れたヤツになるんだけど、それでも血族だの一族だのを筆頭に色々有るし、そもそも騎士って事はあるじが居るわけだから、必ずどこかと繋がってるんだよね。討伐騎士なら後援者だの師だのが居るしさ。


 大体、それでバカみたいに強ければ、繋がりを持ってる連中がそれなりに影響力を維持しようとするし、必ず何かしら既存の協会派閥とも関係があると考えるのが普通。


 年少、つまり未成年って言うのも、その辺と同じ理由だろうな。


 色々と自由が利き易いし、何より責任だのしがらみだのが薄いから、養子にして他との関わりを切っちゃえばイイ。


「うーん。要するに、既存の門閥とかと関係が薄くて、バカみたいに強くて、でも血筋は良くて、ついでに年少のヤツを探してるって事かぁ」


 思わず口に出して言うと、我が意を得たりって感じのレティがニヤっと笑った。


「そう言う事です。ところで、今ひぃ様が仰った条件は、何処かの誰かにとてもマッチするお話だと思いませんか?」


 ああ、ハイハイ。たーしかに、ソレって考えるまでも無く、モロにワタシだわ。


 鉄面皮からニヤけ顔に変わったレティに、しょうが無いから肯いてやる。


 ワタシってば、マルシル王族でもかなりの末端だし、実母があの正体不明の御落胤コーネリアさんだから、とてもじゃないけど高貴な御血筋ってヤツからは離れるんだけど、普通、王族って必ず色々と特殊なしがらみとかがあるんで、そう言う所がフリーなヤツなんてほとんど居ないもんな。


「既にリストに入って居られる方々から比べれば、ひぃ様は確かに格が落ちますが、重要なのは『圧倒的な強者』と言う所ですので、その一点でズ抜けておられますからね」


 オヒオヒ、リストって何よ、リストって。


「ちょっと、そのリストって出回ってるモノなの? 幾らアンタだって、そんなヤバ系のブツ、そうそう手に入んないと思うんだけど」


 ワタシの問いに、チッチッチッ、と人差し指を立てて左右に振りながら、レティが笑う。


「簡単な話で御座いますよ。総裁直下の騎士卿達が接触した『それらしい人物』を当たれば良いだけですから、そこらの新聞にだって出ております。ちなみに、わたくしが存じているのは4人ですので、ひぃ様が5人目になりますね」


 なんだかなぁ。それはまた随分と世知辛いって言うか、難儀な話だねぇ。


 って、良く考えたら、大多数を納得させられる様な人物じゃないとマズいんだろうし、逆に世間を巻き込む作戦って考えた方がイイのか。


 声に出して言わないだけで、事実上「自薦他薦を問わず、広く門戸を開けてお待ちしてます~」って感じの方が、手間が掛からなくて良いもんね。


「その5人の中で、誰しもが認めざるを得ない結果を出しているのは、今の所、多分ひぃ様だけです」


 うはっ。マジですか。


 腕組みしてウンウンと肯き出したレティを無視して、頭を抱え込みそうになる。


 考えて見れば、出奔からこっち、ワタシってば活躍し捲くっちゃってるもんなぁ。


 アレの町で千体斬り(980だけど)、その後にデカザリガニ退治、その次はトカゲ野郎の群れを蹴散らしてアリーの奪還、最後は有名傭兵団潰しって、思えば何処の英雄サマだよって感じだもんねぇ。


 その上に出身が御落胤で、年少ながらも大物貴族数名の印章指輪持ちと来れば、そりゃあリストとやらに入ってもおかしくない。


 ぬう、成る程ね。


 何時ぞやのししょーのセリフじゃないけど、これは真剣に総裁サマに近寄るのはマズいわ。


 もし総裁サマに捕まれば、次期総裁サマに祭り上げられちゃうかどうかは置いといて、こっちの自由意志なんか微塵も無くなっちゃうだろうし、その場合、父上は躊躇無くワタシを売るだろうから、身バレも確実だ。


「どうやらご納得頂けた様で幸いです。が、お墨付きは既に決定された事項ですので、ひっくり返すのは並大抵の事では無いかと」


 まーねぇ。何たって、グランツ殿下はこの世で逆らってはならないヒトの筆頭格だし、その御決定に異を唱えるなんて、並大抵の覚悟じゃ出来ないよ。


「そのお墨付きってのを貰った場合、リストのメンバーの中では一歩リードしちゃう感じ?」


「間違い無いと思います。総裁殿下個人による『強者の認定書』ですから、リードどころか一躍本命に躍り出る事でしょうね」


 はぁ。一躍本命、ね。


 机に肘を突いて、ガックリとうな垂れる。


「魔法士協会の女王サマとセットってのがミソだね。今までの話で良く判ったけど、ここまでの大事なら、討伐士協会は魔法士協会に話を通しておかないとマズい。なんで女王サマが出て来たのか良く判らなかったけど、こんな裏側があるんなら、むしろ当然って感じだもんな」


「別に『裏側』ではありませんよ。単にひぃ様が世間知らずであっただけかと思われますが」


 思いっきりダウナーな気持ちになるのを喋る事で誤魔化そうとしたら、レティのヤツに更なる追撃を食らって、ガクッと机に突っ伏した。


 ちょっと! アンタってワタシの従者なんじゃ無かったっけ!?


 あるじが欝になりそうだって時に、トドメを刺すって何処の裏切りヤロウだってのよっ。


 思わず怒りがこみ上げて来て、ガバッと上体を起こすと、ワタシはそもそもの元凶になった男を思い出した。


「ぬううっ。それもこれも、おっさんのヤツがワタシを騙くらかしやがったからだよ! つい気を許しちゃったワタシが馬鹿だったんだろうけどさっ」


 此処には居ないおっさんに握り拳して悪態を吐くと、ヤレヤレって感じにレティが首を振る。


「バルリエ卿はひぃ様を騙してはおられないと思いますよ? 言葉の裏側で色々と御警告なさっておられましたし、ひぃ様がここまで世情に疎いとは思われなかったのでしょう。協会を代表する七大騎士のお一人ですから、口に出来ぬ事が多いのは仕方がありません」


「あーあー、そうでしょうとも! 悪いのは全部ワタシだよっ。空が青いのも夜が暗いのも、みんなワタシが悪いんでしょうよ!!」


 ふうふうと息を吐きながら怒声を吐いて、怒りに身を任せそうになっちゃう。


 ぬにゅう、イカン。


 今後が掛かってる重要な話をしてる時に、こんな感じじゃマズい。


 そうだ! こう言う時こそ深呼吸だよねっ。


 立ち上がって腰に手をやり、スーハースーハーしてると、何かそれだけで気分が落ち着いて来るから不思議だ。


 うむっ。やっぱり深呼吸は無敵だわっ。


 気分が落ち着いて来て、頭の中がクリアになると、ふとさっきのレティの言葉の中に違和感がある事に気が付いた。


「そう言えばさ、今、ななだいきしとかって、変な単語が出なかった?」


 普通なら噴出して笑っちゃう様なカッコだと思うんだけど、レティのヤツは慣れてるからか、シレッとした表情で紅茶のお代わりを注いでる。


「ひぃ様は討伐士協会について、本当に何も知らないのですねぇ。協会七大騎士と言うのは、協会における強者の番付の最上位、つまり最強の騎士の方々で、総裁殿下直下の騎士卿であられる七名の事で御座いますよ」


 ぶふっ!


 フェリクスおっさんが強いのは判ってたけど、七大騎士とか言う学院病っぽいモノだったなんて知らなかったよっ。


 思わず笑っちゃうよね。


 これは良いネタを拾ったと思って笑い出すと、レティのヤツが大仰な仕草で頭を抱えて見せた。


「ひぃ様、バルリエ卿がひぃ様に接触されたのは、先の理由で間違いが無いと思われますが、斯様な人物が突然やって来た背景に御心当たりは無いのですか?」


 んん? 所詮はおっさんの事だしって思ってたけど、レティのヤツの物言いがヘンだ。


「うーん。無い事は無いけど、フェリクスおっさんの事なんてどうでもイイでしょ」


 ワタシがそう言って話を切ろうとすると、レティは頭痛を堪える様な表情になって、首を横に振った。


 ぬう。コイツがこんな顔をするって事は、おっさんってホントは結構ヤバいヒトなのかね。


「七大騎士は個人として破格の暴力装置ですが、同時に総裁殿下の懐刀でもあるのです。そのような人物がいきなりひぃ様に接触して来るなどとは、到底思えないのですが」


 片手で頭を押さえて、本当に頭痛を堪える様に話すレティに、ちょっと驚く。


 コイツの話し振りから察するに、協会の七大騎士ってのは、どうやら王家の勅任専従騎士とかに近いモノって事みたいですよっ。


「アンタの物言いからすると、おっさんってば総裁サマに近い協会の大物の一人って感じに成るんだけど」


「だからそう申しておるのですっ。わたくしなどは、ひぃ様とバルリエ卿の会話を聞いて、その忌憚の無さに随分と驚いた位なのですから!」


 ほえー、成る程ね! おっさんってば、協会内じゃ結構な大物だったんだね。


 派閥を持ってるかどうかまでは知らんけど、少なくとも、総裁サマの権力をバックに色々やれるヒトって事だもんな。


 確かにワタシってば、討伐士協会とも個人的には没交渉で、純粋培養で従騎士に成った経緯があるから、色々とそのテの情報が薄いのは確かだけど、あのおっさんがそんなにエラいヒト(無論人じゃなくてヒトだ)だったなんて知らなかったよ。


 ワタシは椅子に座り直すと、レティに閑話休題を告げて、他の話に関する意見のすり合わせに入った。


 どうせお墨付きの件は断れる物じゃ無いし、貰った後で対処を考えるしか無いから、今ああだこうだ言っても仕方が無いもんね。


 あの態度は到底演技とは思えないから、実際にフェリクスおっさんはある程度信頼出来るんだろうし、明日にでも直接聞いてみればイイと思う。


 でも明日会ったら、初っ端は「ななだいきし」とやらの事を、思いっきりからかってからにしようっ。


本日もこの辺で終わらせて頂きます。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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