076話
翌朝目が覚めると、身体はとっても快調なのに、時刻は朝のまだとても早い時間の様だった。
懐中時計を見れば、時刻はまだ朝の6時過ぎですよ。
ぬう。三時間位しか寝て無い筈なのに、何でこんなに調子がイイのかね。
これも幼女化(人外化)の影響かなぁ。
だったらある意味、とても便利な身体になったとも思うけど、何か人間離れの度合いが加速して来た感じがして、ちょっと怖いカモ。
「何やってんのよ」
ふと見ると、珍しく寝ぼけ眼のレティが「ダッシュで着替えました」って感じの雰囲気で立ってた。
「ひぃ様が余りにも早くお目覚めなので、ちょっと驚いております」
「別にまだ寝ててイイよ。今日は別に予定も無いしね」
「いえいえ。主が起きておられるのに、寝てる従者など聞いた事もありません。それに、今の内に色々と話を詰める必要があるのでは?」
まーね。レティの言う通り、ここ数日は大きな事が連続して起き過ぎてる。
現状は二人きりの独立騎士団なんだし、寝不足っぽいコイツには悪いけど、この辺で意見をすり合わせておいた方がイイ事は確かだ。
ワタシはレティに肯いて見せると、寝台から出て続き部屋へ動いた。
この部屋って、代官公邸の客間なんだよね。おじ様も随分とワタシを高く買ってくれたと思うよ。
ジュアン亭で泊まってた部屋より広いから、色々と面倒も多いと言えばそうなんだけど、独りならともかく今はレティが居るしね。
どの道しばらくはランスで活動して行かなきゃいけないんだし、タダで拠点が抑えられるのは有り難い。
続き部屋の隅にある洗面台で顔を洗い、ゴシゴシとタオルで顔を拭きながら、笑っちゃう程に豪華なダイニングっぽい机の所にある椅子に座る。
そう言えばこの妖精顔も結構ヤバいよな。
灼熱地獄(仮名)を余裕でレジスト(無効化)したのは身体ごとだからともかくとして、トカゲ野郎の群れからこっち、ずっと戦闘三昧なのに傷一つ付かない。
それだけ技量が上がってるって証拠なのかも知れないけど、顔って攻撃以外でも色々と傷付き易いから、無傷って言うのはかなり異常だ。
大体さー、千人規模の敵兵の半数以上と敵将二名を討ち取る激戦を戦い抜いたってのに、その後ただお風呂に入って寝たダケで、翌日には髪はサラサラ、唇はツヤツヤ、肌はツルツルって、何処の妖怪変化だって感じだよ。
言っちゃえば、正しく女が思う理想の身体(幼女でなければ)だけど、睡眠時間の件と言い、この件と言い、ちょっとヤバい様な気もする。
「確かに、ひぃ様の御心配も判りますが、わたくしに言わせれば、むしろ吉兆だと思われますよ」
声に顔を上げると、相変わらずの以心伝心で、何時の間にか朝食の用意を終えて反対側に座ってたレティがこっちを見てた。
「それって、どういう意味?」
頬をつねったり引っ張ったりしてたのを見てたんだろうけど、何時もの意思確認って感じで返事を返すと、レティは「気にすんな」って感じで片手を振った。
「ひぃ様がお小さい頃からの魔法との親和性を考えれば、現状は当然の結果だと思うからです。トラブルが出ていない以上、今深く考えられても無駄と思いますが」
にゅう。成る程ね。
まあ確かに、コントロール不可のトラブルは出て無いし、今は「こう言うもの」と捨て置いて、考えない様にするってのはアリだ。
うーん。信頼出来そうな高位魔法士にでもコネが出来るか、魔法大学院に入るかするまでは、このテは思考の範疇から外すとするかなぁ。
ワタシは目の前に用意された、焼き締めた様なブレッドのトーストに噛り付きながら、同じ様にトーストに噛り付いてるレティをしげしげと見た。
「確かにね。考えたり思ったりする以前に、魔法を発動させちゃうクセがあるもんな。でもそんなの知ってるのはアンタくらいだし、他の人に指摘されたらヤバいじゃない」
でも何となくコイツの言うなりになるのもシャクだし、ちょっとジャブを打って見る。
「そこはそれ『ワタクシ、例え戦いの場に於いても、醜くある事が我慢出来ないのですわぁ』などと言っておけば、見えない内に治した等と、勝手に考えてくれるでしょう」
「オマエの中のワタシって、一体全体どういうヤツなのか、一度トコトン話し合ってみたい気がするんだけどっ」
ちょっとジャブを打っただけだってのに、渾身のフックを貰っちゃった感じでガクッとする。
まったく。何時もながら思うんだけど、コイツの頭の中に居るワタシって、ホントにどういうヤツなんだろ。
「ま、まぁ宜しいでは無いですか。最も無難な言い訳だと思いますよ」
条件反射的に軽く睨むと、レティが左手で頭を掻いて見せた。
ぬう。本当にコイツとは一度かっちりと、とことんまで話し合う必要がある気がするけど、今の言い訳は使えそうだと、心の中にメモっておく。
頭を掻いてはみせたモノの、シレッとした表情でレティはさっさと自分の分を食べ終わり、立ち上がってお茶を入れ始めた。
小振りでカチカチなトースト数枚にジャムとチーズと言う、丸っきり兵隊の行軍食な朝食をワタシもさっさと終わらせると、レティの入れてくれたお茶を飲む。
早メシ早ナントカ早走りは、戦場における騎士の基本だ。
目と鼻の先で、半減したとは言え大規模スタンピード討伐戦をやってるのに、のんびりと朝食なんて食べていられないもんね。
「さて、問題点の整理なんだけど、その前にシルバニアの女王サマとししょーの関係って有名なの?」
食事が終わり、いよいよ話し合いって所で、まず最初にこの前聞きはぐれた、自分にとっては最も重要な話をレティにぶつけてみる。
ワタシは若い頃の写真しか見た事ないけど、美人で有名な女王サマと「あの」ししょーが恋仲だったとか、ちょっと信じられないんだよね。
「とっても有名な話ですよ? 恋仲かどうかは別問題としても、オマリー卿は大学院における女王の事実上の個人顧問だったと言う話ですから」
「余計な事は知ってるクセに、誰でも知ってる事は知らないんだから」ってなオマケまで付けたレティのヤツの答えに、ちょっとイラッとしながらも、ワタシは成る程ね、と納得した。
恋仲とか言う言葉に妙に反応し過ぎちゃったよ。
冷静になって考えると、シルバニアの現女王サマと言えば、博士号どころか幾つもの賞を取ってる様なヒトで、魔法研究バカとしても有名だ。
そんなヒトがあのししょーを見れば、ヒト(人外)同士で嫌うか好くかのどっちかになるだろうと思う。
ウマが合えば、それこそ二人きりで研究三昧に没頭しちゃってもおかしく無いし、知らん人がそんな所を見たら「うわっ、王女様(当時)に虫が付いたっ!」って騒ぐのが目に見えちゃう。
「そんな事より! わたくしは昨夜、とても感動したのですっ。絶望的な交渉力とまで言われたひぃ様が、あの様な狐の如き中年男と会話で互角に渡り合うなんて!」
はぁ!? そんな事あったっけ?
女王とししょーの関係に、取り敢えず納得の行く落とし所を見つけて、腕組みしながらウンウン肯いてると、レティのヤツがいきなり立ち上がって、得体の知れない事を言って来た。
「何ソレ? もしかして、支局長代理ヤロウの事?」
いきなり言われても、思い当たる節は無いよなーっと、今にもクルクル回り出しそうな勢いのレティを訝しげに見る。
「違いますっ。ひぃ様の下に付くなどと言っておいて、傲岸不遜な態度を崩さなかったあの中年男の事で御座います!」
ああ、おじ様の事か。
この様子から察するに、何でか判らんけどコイツってば、おじ様を敵認定したのかな。
「でもさぁ、おじ様は協会の命令で渋々第三の位置に付いてるワケだし、そもそも全然渡り合ってもいなかったでしょ。こっちも向こうも初手で最も訊きたい話は済んじゃった形だったし、向こうの作戦勝ちって考える方が普通だと思うよ」
多分なんだけど、おじ様はワタシが総裁サマとどの程度の繋がりがあるのかを知りたかったんだと思う。
例のお墨付きの話を知ってる筈なのに、出して来なかったんだしね。
で、少なくとも、ワタシが総裁サマとの個人的なコネを利用して、協会に対して色々な我が侭を言う程の繋がりは無いと踏んだんじゃないのかな。
後はワタシへの人物判定って所だと思うけど、そっちは意外に良かったっぽい。
じゃなかったら、こんな部屋は宛がわないだろうし。
「ああっ。ひぃ様のクセにそこまで気が付いておられるなんて! とてもかつてのひぃ様と同一人物とは思えませんっ」
本当にクルクルと回りだしちゃったレティにウンザリとしながらも、コイツが昨日の話し合いをちゃんと分析してたって事に少しホッとする。
何か再会して以降のコイツってば、妙に軽くなっちゃってて、かつてのおっかない雰囲気とか、切れてる感じが薄れてる気がするんですよ。
これでもレティはワタシの教育係の一人だったんだけどねぇ。
前はもう少し切れ者って言うか、寄らば斬り捨てるって言うか、そんな張り詰めた雰囲気があったのに、今じゃバカっぽさの方が強いし。
スーパー侍女っぽりは変わんないだけに、ちょっと不安だ。
「馬鹿な話はさておき、とにかく今までに出た話の整理だよ。やれ雲の上の人達のお墨付きだとか、色々あったでしょ?」
思わず強引に閑話休題して、本来するべき話に戻すと、回転が止まったレティが漸く真面目な顔になって椅子に座った。
「そうですね。わたくしに言わせれば、お墨付きの件は女王のモノはともかく、殿下のモノは避けるべきかと思います。理由は言わずともお判りでしょうが」
ほほぉ、理由ですか。
そりゃまぁ、ワタシは討伐従騎士なんてやってるけど、本当は魔法の学徒だもんね。
討伐士協会より魔法士協会の方にシンパシーがあるのは当然だよ。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、ありがとう御座いました。




