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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
ランスの街にて
74/221

074話

ええと、何か連休中は本当にダメダメな感じで、ご迷惑をお掛けしてます。



 ジュリアンさん達を連れて、装甲自走車3台で代官公邸に着くと、屋敷はもうとっくに協会部隊の管理下になってた。


 門の所に居た兵士に聞けば、彼らは本来は代官一家の警護で来たんだけど、代官と行き違った上に、着いた時には残ってた筈の令嬢も誘拐された後だったそうだ。


 協会からは別命あるまで待機って言われてるようで、隊長以下の全員が、ここ数日は屋敷の維持活動だけをやってたらしい。


 しかしそんな所にアリーを連れてやって来たワケだから、ワタシってば、一躍正義のヒロイン扱いですよ。


 門の兵士の連絡で出迎えに出てくれた人達が、ワタシの姿を見るなり大歓迎って感じで持ち上げてくれて、もう嬉しいやら恥ずかしいやら。


 代理野郎の扱いが酷かっただけに、落差が身に染みるよねぇ。


 でも、この部隊の人達のワタシに対する反応は、これだけに留まらなかった。


 装甲自走車を敷地内に駐車して外に出ると、新たにやって来た部隊の人達までがわらわらとワタシに集まって来て、凄い調子でちやほやしてくれるんですよ。


 しかも、やれ握手してくれとか、サインをくれとかってまで言い出して、丸っきり何かの有名人扱い!


 流石のワタシもこれはオカシイと思って訊いてみると、なんと、協会は正式に「令嬢をトカゲ野郎の大群から救ったのはワタシ」って発表してるんだそうだ。


 で、アレのスタンピード討伐の件とか、叙勲の話とか、色々な話に尾ひれが付いて出回ってて、巷でも「期待のニューヒロイン爆誕!」って感じで、かなりの噂になってるって話だった。


 なんだかなー。


 一気に脱力しちゃいそうな話だよね。


 協会本部の連中、ワタシを失態隠しの生贄にしやがったらしい。


 ふっざけんなっ! と思ったけど、確かに、ここ数日でホントに色々と仕出かしちゃったのは事実だし、多少名前が売れるのはしょうが無いかぁと考え直した。


 おっさんのセリフじゃないけど、何時までも妙な羞恥心とか背負ってるワケにも行かないし、ここらで多少は免疫を付けとか無いと、後々大変な目に会いそうだもんね。


 とまあ、なんやかやで「ホホホ」とにこやかに笑いながら、留守居部隊の人達と談笑しながらも、ジュリアンさん達とも話して、今後の事を考えようとし始めた時だった。


「コーニス殿! コレにサインをお願い出来ますかっ?」


 10代と思しき兵士の人が、新聞らしいモノを持って小走りでやって来た。


「イイですよー。どの辺に書きま・・・すか、ね」


 スマイル、スマイルって感じで、努めて平静を装いつつ応対すると、目の前でババッと広げられた地元ランスの新聞に異様な文字列を見つけて目が点になる。


「千体斬りのマリー、デラージュ閣下を救わんと遂にランス入り!」


 な、何じゃこれぇぇぇっ!?


 瞬間的に固まっちゃいながらも、なんとか目だけを動かして新聞を読むと、ヘッドラインだけじゃなく、新聞の一面はほぼ全部ワタシの話で、オマケに金属鎧で完全武装したワタシっぽい感じの少女の絵までがデカデカと載ってる。


 ウソでしょっ!?


 イ、イカン、何か立ち眩みが。


 これってマジなんですか?


 必死で平静を装いつつ、言われる通りに署名を入れながらも訊いてみると、彼が言うにはアレの討伐以降、こんな記事が出る事は珍しく無いらしい。


 思わず周りにも確認すると、全員が一様に肯いちゃってるし。


 ヤバイ。身体から急速に力が抜けて行く様な感じが・・・。


「皆さん、ちょっと聞いて下さいっ」


 真剣に力が抜け始めながらも、ワタシはせめてアリーの件の真実は知って貰おうと、大きな声を出した。


「御令嬢を奪還したのは、第17旅団のジュリアンさんとロベールさんで、ワタシは援護しただけなんです! それに・・・」


「ちょっと待ったぁ!!」


 ぶふぉっ。


 何とか気合で体勢を立て直したってのに、突然の大声に邪魔されて、再度腰が砕けそうになる。


 見ると、部隊の人達とワタシの間に滑り込んで来たのはジュリアンさんだった。


「ジュリアンさんっ」


 何て事すんのよ!って言いそうになって口を噤むと、ジュリアンさんは息を荒げながら、握り拳を振り上げてワタシを睨んだ。


「何を仰ってるんですか、コーニス殿!! 貴女の活躍がなければ、我々も御令嬢もとっくにこの世には居ませんよ!」


 うわっ。


 珍しく迫力の有るジュリアンさんの剣幕に押されちゃって、腰が砕け気味だったワタシは後ずさるしかない。


「あ、いや、ですから今、その説明を・・・」


 狼狽して口篭ってると、まるでワタシを護るかの様に彼らとワタシの間に立ったジュリアンさんが、彼らの方を向いて大きな声を出した。


「私はジュリアン・ドゥストと申す17旅団の従騎士です! コーニス殿が御令嬢を救った一件を間近で見た者として、その真実をどうか聞いて頂きたいっ」


 うわっ、ちょっと待った。何かとってもイヤな予感が!


 ダッシュで止めようとしたんだけど、場の流れを完全に持って行かれちゃった感じで止められるワケも無く、あっと言う間にジュリアンさんの名調子(?)で即席辻講談が始まっちゃった。


「トカゲ共に囲まれ、私がもう駄目かと覚悟を決めた時だった! 凄まじい勢いでトカゲ共を蹴散らしながら突入して来る、疾風の様な独りの少女騎士が・・・」


 いやぁぁぁ、辞めてぇぇぇ!


 鎧屋のおじさんの件で懲りてた筈なのに、また止め損なっちゃったよぉ。


 思わず頭を抱えると、何か後ろの方からも聞いた声で別の名調子(?)がっ。


「両側から一度に襲い掛かって来たトカゲ野郎共をっ、目ぇにも止まらねえ速さで一気にブッた斬ってぇ、返り血一つも浴びねえ神業の様な剣捌きがぁ・・・」


 うひぃぃぃ。軍曹ロベールさん、アンタもかぁっ!


 特大に的中したイヤな予感に、真っ赤になってオロオロしてると、屋敷の中から人(協会部隊の人)がわらわらと出て来て、見る見る内にジュリアンさんとロベールさんの辻講談は大盛況になって行く。


 も、もう勘弁して下さい。


 何かまた頭がボーっとして来ちゃったし、これは真剣にマズいですよ。


 縋る様な目でレティを探せば、レティのヤツは喜色満面でジュリアンさんの辻講談に聞き入ってやがった。


 しかも真ん前に陣取ってやがって、こっちの声なんか聞こえる位置じゃ無いし。


 た、頼りにならないヤツめ。


 ううっ。だけどこのままだと本当に倒れそうだよ。


 もう顔真っ赤なの自分でも判るし、耳から自分の血流の音が聞こえる位、心臓がバクバクいっちゃってるもん。


「千体斬りのマリー、褒め殺しで死す!」


 何気で明日の現地新聞のヘッドラインが脳裏に浮かんで、独りで力無く笑う。


 何とかしないとマズいとは思うものの、身体に力は入らないし、フラフラと幽霊の様に歩くのが関の山だ。


 しかし、フラフラと辻講談の現場から離れて行くと、助けの神ならぬ助けの自走車が目に入った。


「バタンッ!」


 もう意識が飛ぶ位の素早さで、ワタシは目に入った装甲自走車の扉を開けて、中に引き篭もった。


 運転席らしい座席に崩れ落ちる様に凭れ掛かって、ホッと一息。


 うにゅううう。ちょっと耐性を付けようなどと思った事が災いしたわ。


 ランスだって人口5万は超える大都市だから、地元紙とは言え、あんな一面でデカデカと取り上げられちゃう程、ワタシの事が世間に知られてるなんて、思ってもみなかったよ。


 これからどうやって世間を渡って行けば良いのか、真剣に悩んじゃうんですけど。


 ジュリアンさん達だって、まさかワタシの事で、あそこまでの騒ぎを起こすなんて考えてもいなかったし。


 まぁ幾ら職業軍人だって、アリー達を助けた時みたいな絶体絶命の機会なんてそうそうは無いだろうし、他人に武勇伝っぽく語りたいって気持ちは判るんだけどさぁ。


 それにワタシだって活劇本とか講談とか大好きだから、現実の冒険談とかに群がる人達の気持ちだって判るんだよ。


 でもねぇ、まさか自分が冒険活劇っぽい話の主人公になるだなんて、ホント、一ヶ月前でも想像だにしてなかったですわ。


 しかもソレが、こんなに小っ恥ずかしいモノだとも思わなかったよっ。


「はぁぁぁぁぁぁ」


 何か魂が抜け出ちゃいそうな長ーい溜め息を吐いて、自走車の運転席にグッタリと凭れ掛かってると、自走車の扉がコンコンと叩かれた。


 うおっと! 思わず飛び起きてドアを開けると、如何にも歴戦の将校って感じのおじ様が立っていらっしゃる。


 ぬう、これはマズい。


 ワタシってば勝手に協会の自走車に乗り込んじゃってるワケだし、怒られるのかなぁと思って身構えると、おじ様はニコっと笑って手を差し出した。


本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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