073話
色々と詫び言を口にしても仕方が無いので、こんな時間ですが、取り敢えず投稿してみました。
出来れば今日中にもう一本投稿して、数を合わせたいと思うのですが、出来なかった場合はご容赦をお願いします。
もう真夜中も近い11時過ぎになって、やっとランスの城門に着くと、近くまで魔物の大軍が迫ってると言うのに、城門は静かなものだった。
まあ魔物が迫ってるのは河側で、こっちは正反対に位置する山側の門だからかも知れないけど、まさかもう衛士連中まで逃げちゃったって事じゃないよね?
でもそう感じたのは城内に入るまでで、門が開いて車列が中に入ると、城門内部は結構な数の人の気配がして、ホッと安心する。
ふうむ。何かつい悪い方悪い方って考えちゃうクセは改めた方がいいのかなぁ。
窓(の様に見える魔導具)から外を見れば、城壁内には完全武装の衛士さん達が大勢居て、数人が先行車両に乗ってたジュリアンさん達と話してた。
どうも衛士の人達は全く逃げてはおられない御様子で、しかも中々に気合の入った雰囲気だ。
ううみゅ。何か「御免なさいっ」って、謝りたくなっちゃったよ。
しかし、此処がこれだけちゃんとしてるって事は、案外街中は平常通りに治安が保たれてるのかも知れない。
ちょっと不安だっただけに、嬉しい誤算だ。
「ちっ、やっぱ夜は目立った攻撃が無いみてえだな」
ワタシがソファーに戻ると丁度指揮車が停止して、ワタシに代わって外を見たおっさんが呟いた。
「普通逆じゃないの?」
衛士の人達に心の中でゴメンしながら、何気なくおっさんの呟きに突っ込みを入れると、こっちを振り向いたおっさんが投げ遣り気味に片手を放り投げた。
「魔将が手負いだからな。夜はこっちの攻撃が薄くなる事が判ってやがるんで、回復に努めてるんだろうよ。衛士達が此処にこれだけ居るって事は、そう言う事だ」
「成る程ね。まあ魔物だって寝る訳だし、人間より夜が得意ってダケだもんな」
魔物が普段夜に活動するのは、夜になると人間の活動が薄れるからってのが理由で、連中だって生き物なんだから睡眠は必要だ。
魔将に魔法で操られれば魔物達も夜昼無く攻めては来るけど、そうなればそうなったで向こうの消耗度が上がるし、その場合は耐えれば勝てるんで、幾ら脳筋バカ丸出しの魔将だって、休みは入れてくるのが普通なんですよ。
ただ、おっさんの物言いにはちょっと引っ掛かる所が有るよね。
「ちっ」て、どう言う事なんでしょうか。
「まあそう言う感じだな。しかしやり難くなっちまったぞ」
「夜戦じゃない方がラクでしょ? ワタシ達みたいに夜昼構わず戦えるヤツなんて極々僅かなんだし」
何か投げやりな態度のおっさんに、取り敢えずは正論で攻めてみる。
大体、魔物相手に夜戦を挑むなんて、常識外れもおこがましい話だ。
魔法力に頼れない人達が主な、軍隊や一般討伐士達は夜間の戦闘に向いてない。
だから夜間に大規模戦闘が無いって言う事は、彼らにとって大きな救いだと思うんだけど、おっさんには何か作戦でもあるのかね。
「そう言う話じゃ無えよ」
ワタシの指摘に、おっさんが溜め息をつきながらワインを飲んだ。
「俺達は、言っちまえば外様の応援部隊だろ? よっぽどの負け戦にならねえ限り、前線になんか出られっこねえんだ。だが夜戦なら、闇に紛れて突っ込めるじゃねえか」
へ? 思っても見なかったおっさんの言葉に驚いて、ワタシは仕舞おうとしてたグラスを取り落としそうになった。
何でしょね。おっさんのこの異様な迄のヤる気は。
って言うか、一般兵の被害とかガン無視でそんな台詞が出るなんて、脳筋とか言うレベルじゃない気がするんですけど。
思わず睨んじゃうよ。
「何かヤル気が凄くない? おっさんの事だから、後方でワインでも飲みながらのんべんだらりって感じだと思ったんだけど」
「オイオイ。俺を何だと思ってやがる? 大体な、この俺だってハイドラなんて珍しいヤツとやれる機会はそうそう無いんだぞ」
えっ、はいどら?
こっちの睨みなんか何処吹く風って態度のおっさんから、何かトンデモ無い単語が聞こえた様な・・・。
「今、ハイドラって聞こえたんだけど、もしかして、魔将ってハイドラなのっ!?」
速攻で聞き返すと、ワイングラスを置いたおっさんが、何かとってもイヤそうな顔で肯いた。
「ああ、そうだっ。って、お前! 何嬉しそうな顔してやがるんだよっ。普通のヤツなら走って逃げる様な話だろうが!」
ワタシの顔に喜びを見て取ったのか、おっさんがこっちに人差し指を突きつけて大きな声を出してるけど、そんな事はどうでも良いっ。
だってハイドラだよ!?
討伐士になって幾星霜(3年だけどさ)、遂に本物の竜種の魔物とヤれる機会が巡って来ちゃった!
思わず踊り出したくなっちゃうっ。
確かに、ハイドラなんて難物中の難物と言ってイイ魔将だ。
巨大な魔法抵抗力と物理抵抗力を併せ持ち、知能だって人間並みと迄は行かないけど、猿と同程度は有ると聞く。
その上で持ち前の膨大な魔法力を使って、各種のプリミティブな攻撃魔法を使って来るから、魔法師級を数揃えて対抗魔法を掛けながらの討伐になるし、攻城兵器による陽動攻撃も欠かせない。
通常なら、数と種類で押さない限りは絶対に討伐なんて出来ない本当の化け物だもんね。
でも、ワタシならイケると思うんだよ。
物理現象化しちゃったらダメだけど対魔法無敵だし、例の「人間バリスタ」から「灼熱地獄(仮名)」まで、各種の対抗手段がある上に、白剣まであるんだしさ。
例えハイドラ相手でも、絶対に押せる自信がある!
おっさんじゃないけど、こんなチャンスは絶対に外せないよねっ。
「まあったく、お前ってヤツは! イイか、俺達は勝手に前に出るワケにゃ行かねえんだ。ソレを忘れるんじゃねえぞっ!?」
喜び勇んで思わず本当に踊り出しそうになってるワタシを見て、おっさんが怒鳴り声を上げた。
にゅふふふ。怒鳴ってもどうにもならないよ?
何と言っても、ワタシとおっさんじゃ立場が違うんだしねぇ。
「だってぇー、おっさんは騎士卿サマで司令官閣下だからそうかも知んないけどぉ、ワタシってば下っ端でタダの従騎士風情だしぃ」
まあ、おっさんは後方で高みの見物とシャレ込んでやってて下さいな。
その間にこっちは、ハイドラちゃんに正々堂々と突っ掛けちゃうからさぁ。
「ふっざけんなっ!! 勝手な事しやがったら、絶対に容赦しねえぞ!?」
ワタシの言葉はやっぱり的を得てた様で、おっさんが顔を真っ赤にして本気で怒り出した。
でも怒り出したおっさんの姿すら、頑張れぇーって応援してる様に見えちゃうよっ。
実際に戦況を見てからじゃないと何とも言えないけど、衛士達はとても押してる雰囲気には見えないし、これってかなりイケる感じなんじゃないかな。
いやぁ、これはちょっと、ホントに、凄いチャンスが回って来ちゃったのカモ!
「いいか! 突っ込む時は絶対に俺に断ってからにしろよっ。勝手に突っ掛けるんじゃねえぞ!」
ワタシがニマニマしながら考えてると、真剣にハイドラを横取りされる脅威を感じ始めたのか、おっさんが更なる勢いでガアガアと喚き始めた。
うーん。さすがにマジで煩いですわ。
おっさんだってハイドラと闘りたいんだろうし、気持ちは判るんだけどね。
こうなったら、おっさんには変装でもして貰って、二人で前線に突っ込むって感じで妥協するかな。
おっさんの怒声に閉口しながらも、何時妥協案を出そうかなと隙を伺ってると、不意に人の気配がして出入り口の扉が開いた。
これにはおっさんも気が付いたらしく、喚き声が一瞬で止む。
「何やら凄い剣幕の様ですな。何かあったのですか、バルリエ卿?」
少し驚いて扉の方を向くと、頭髪が不自由で神経質そうなおっさんが、冷ややかな目でこっちを見てた。
おっさんの話を信じるなら、指揮車の扉を外から開けられるのは、騎士卿以上の協会幹部だけだ。
と言う事は、こいつがおっさんが言ってた、ランスの支局を仕切る政治屋騎士卿の片割れか。
「あ、ああ。別に何でも無い。食後に少し飲んだんでな。ちょっと酔ったのかも知れん」
振り上げてた両手を所在無さげに下ろしたおっさんが、今までの怒声が嘘の様な口調になって、政治屋騎士卿に返事をした。
「ほほぉ。この非常時にまた随分と優雅なお話ですな。貴方程の御方になると、魔物共など大した脅威では無い様で、頼もしい事です」
おっさんの詫び言っぽい物言いに嫌味で返しながら、政治屋騎士卿はもっさりとした感じで室内に入って来た。
「おいおい。嫌味は辞めてくれ、ラヴラン。ああ、そう言えば紹介しておくが、コイツが例のマリア・コーニスだよ。マリー、こいつはラヴランだ。一応、暫定でランス支局の支局長代理をやってる騎士卿でな」
結構な嫌味を言われて恥ずかしくなったのか、おっさんが脈略も無しに双方の紹介をして誤魔化しに入った。
おっさんのヤツ、人を場の誤魔化しに使うなんて酷いよね。
でも仕方が無い。御紹介に預かった以上、例えそれが体の良い人身御供でも、応じないと不敬になっちゃうしな。
「8級討伐従騎士のマリア・コーニスと申します。どうかお見知りおき下さいますよう、お願い致します」
しょうが無いから挨拶してみると、なんと代理野郎はチラっとこっちを見て片手を挙げただけで、ロクに挨拶返しもしないで済ませて来た。
うわぁ、ヤなヤツだわぁ。
ま、こっちはしがない一従騎士だし、貴族サマがこう言う態度ってのは、むしろ普通と言えばそうなんだけど、一応おっさんの紹介なのにこの反応って、なんだかなぁ。
そこはかとなく敵意を感じるし、嫌な感じだ。
おっさんに目をやれば、おっさんは頭を抱える様な態度で代理野郎を見てる。
ああ、これは何かあるな。
一瞬で「何か」には気付いたものの、結局はおっさんとコイツの間の話だし、ワタシは何事かも判らないまま立ってるしか無い。
「なんとまぁ、バルリエ卿にしては珍しく麗しい少女をお連れと思えば、これが『あの』マリア・コーニスでしたか」
「おい、初対面で喧嘩を売るのはよせっ、悪いクセだぞ。コイツは本物だし、バックも怖ええ。敵に回すな」
「従騎士風情などどうでも宜しいでしょう、バルリエ卿。私は貴殿を迎えに来たのであって、有象無象と馴れ合う気など有りはしませんよ」
うはぁ、有象無象扱いかよっ。
こっちをロクに見もしない代理野郎の言葉に、ヤバいと思って入れた感じのフォローっぽい台詞が言下に切り捨てられて、おっさんもちょっとムッとした顔になった。
うーむ。これは完全に喧嘩を売られてるな。
「これ」とか、フルネーム呼び捨てとか、初対面にしてはちょっと尋常じゃ無い扱いだ。
どう言う経緯なのかは判らないけれども、この場はさっさと辞去した方が良さそうだね。
ワタシがそんな事を思ってると、代理野郎がこっちに向けて片手を払う様な仕草をした。
さっさと出て行けって感じですかね。
ちょっとムッと来たけど、丁度良いから消えちゃおう。
「ああっ、ちょっと待て。俺はコイツと支局に行かなきゃならんから、お前は令嬢を連れて代官屋敷に行ってくれ。ジュリアン達も頼む」
馬鹿馬鹿しいんで、指図通りさっさと指揮車を出ようとすると、おっさんが慌てて声を掛けてきた。
むう。指揮車以外の面子は連れてけって事かね。
別に良いけど、ジュリアンさん達って協会の部隊なのに、勝手に使って良いのかな。
「閣下の御命令とあれば従いますが、宜しいので?」
さっさと動き出して、一枚目の扉から出た所で振り向くと、とっても味のある表情で頭を掻きながらも、代理野郎に見えない角度でおっさんが指サインを出してた。
サインの意味は「やっちゃえ」だ。
成る程ね。一足先に代官屋敷を制圧下に置いといてくれって事か。
しかしなんだろね。おっさんはどうも、ワタシと代理野郎、双方の顔を立てようとしてる感じだけど、代理野郎に何か恩義でもあるのかな。
「おやおや。随分とまともな口を利く様ですが、お前風情がバルリエ卿の御命令に質問で返すなど不敬ですよ。『畏まりました』と言う言葉も知らぬとは、所詮は子供ですか」
おっさんの顔も有るし、ここは一礼して去ろうかと思った所で、代理野郎が更なる追い討ちを掛けて来た。
にゅうん、コイツってなんなの?
おっさんの言う通りに初対面だと思うんだけど、何でこんなに喧嘩腰なのかね。
「何やら、女性を人買いに売り飛ばす様な人モドキの鳴き声が聞こえますが、閣下も御用心召されます様に」
さすがにカチンと来たので言い返す。
どうせ支局長代理なんてのも一時の間だけの事で、アリーの一件で責任取らされて降格が目に見えてるってのに、何でコイツってばこうエラそうなのかね。
「その程度で勝ったなどと思って貰っては困りますね」
フフンと鼻で笑ってやると、代理野郎が初めてこっちを見て睨んで来た。
弱っ! コイツ、マジで気配が弱いわ。
だって睨んでるのに、そよ風程度の威圧しか来ないんだもん。
逆にここまで気配を消せるとしたら凄い事だと思うレベルだけど、こいつは「騎士もどき」で間違い無いってカンが囁いてるし、ゲロ弱級で決まりだわ。
しかもさー、子供の喧嘩じゃあるまいし、言うに事欠いて「勝ったなどと思うなよ」なんて、思わず噴出しそうになっちゃうんですけど。
「閣下、人モドキの鳴き声が煩くなって参りましたので、本日はこれにて失礼致します」
代理野郎の睨みをついっと無視して、ワタシはおっさんに嫌味入りの辞去願いを口にすると、更に一歩下がった。
「どのみち早々に俺達の出番は無いからな。明日はゆっくりしててくれてイイ」
「それは有り難き事で御座います。では、また後ほど」
言葉の裏の「明日はどーするの?」って部分だけを答えて、真剣に頭を抱えだしたおっさんを尻目に、ワタシはさっさと指揮車を降りた。
ああっ、なんかすっごいムカつくんだけど、この憤りを何にぶつけてやろうかな。
外に出て見れば、レティのヤツは何時の間にか先に指揮車を降りてて、傭兵共との戦闘時に魔法で眠らされたアリーをお姫様抱っこしながら外で待ってやがった。
ぬう。相変わらず素早いよな、コイツってば。
まあイイか。馬鹿の相手はおっさんに任せて、こっちは代官屋敷でのんびりさせて貰うとしよう。
外に出て判ったけど、衛士達の気合の乗りは、どうも悲壮感が根底にあるっぽいしね。
この分なら、ハイドラはそうそうヤられたりしないだろう。
ワタシはこっちを見たジュリアンさん達に合図を出して、さっさと代官屋敷に向かう事にした。
本日はまだこの次があるかも知れませんが、一旦はこの辺で終わらせて頂きます。
読んで頂いた方、有難う御座いました。




