072話
「まあとにかくだ。お前は色々と大変な事に成りつつあるって事だが、そこが今回の話のキモでな。なんとこの件、グランツのじいさまが乗り出して来ちまったんだよ」
なんかイヤな汗をかきながらも話を聞いてると、おっさんの口から「イイ話」っぽい話が出て来た。
「へえ。この話って、総裁サマまで知ってるんだ」
「当然だろう。今回の件で、協会はリプロンへの大規模派兵に対する大義名分を握った。これで事実上、南部連合は成ったも同然だ。デカい話なんだよ」
ああ、そうか。なんかやっと判ってきたよ。
これってワタシ個人の話と言うより、周りの動きの話が大きいんだ。
なんたって西聖王国の巨頭公爵家が、子飼いの傭兵部隊を使って協会の討伐部隊を襲ったんだから、協会は西聖王国に文句言い放題だし、下手すりゃ戦争だもんね。
しかも約千人の対人プロの部隊が30人かそこらの討伐部隊に全滅させられちゃったんだし、改めて協会の武威を世に知らしめたって感じでもある。
大義名分どころか、協会がリプロンの実効支配に乗り出したとしても、誰も何も言えないよねぇ。
気持ち悪い程の笑顔で、おっさんの酌なんかしちゃってるレティを横目で睨みながら、心の中で溜め息をついた。
何気でテレ気味のおっさんは知らんけど、レティのヤツはこの辺りの事に初めから気が付いてた筈だ。
通りで今回の件、変にヤル気に溢れてるとは思ったんだよ。妙な覚悟まで決めてたっぽいしさ。
どっかの物語じゃ無いけど「主に星を取らさずして、何が従者かっ!」ってのを、地で行くヤツだからなぁ。
ある意味でカッコいいとは思うものの、ここ迄来ると、もうほとんど病気の世界だとも思うよ。
「で、総裁サマが出て来たって話の後はどうなったワケ?」
レティにお酌されてニヤニヤ笑いが止まらないおっさんに話の続きを催促する。
なんかお酌される度に動きが止まるから、おっさんの話が全然進まないんだよね。
「おおっ、悪い悪い」とか言いながらもニヤけ顔のおっさんがウザくなって来ちゃいましたよ。
「まあなんだ。この件は協会としても詳細は表に出したくねえ。だから公式には、部隊全員に過分な褒賞を出して誤魔化し、お前や侍女には端金が出るだけなんだよ」
居住まいを正したおっさんが、やっとまともな表情になってこっちを向いた。
「おっさんはどうなるワケ?」
「俺か? 俺はな、公国から準男爵位が出るんだとよ。お前のお陰で俺サマも遂に本物のお貴族サマってワケだ! ったく、やってられねえ話だぜっ」
ほほぉ、それは凄い。
前の話だと、おっさんはほとんど平民に近い出って事だったけど、そこから「準」が付いたとしても男爵になるなんて、凄い大出世だよ。
「イイ話だと思うけど」
何の裏も無く素直に言うと、何故かおっさんが急に立ち上がって、大声を出した。
「大活躍のお前が端金で、本部でチョロチョロしてた俺が男爵サマだぞ!? クソ貴族共のやり口と一緒じゃねえか! 馬鹿馬鹿しぃっ」
うわぁ、何かおっさんからまた妙な熱気が漂って来ちゃいましたよ。
暑苦しいから辞めて欲しいんですけど。
「別にイイと思うけどね。横から浚ったんならともかく、真正面から実力で取った功績だし、誰も文句は言えないと思うよ」
「まぁ・・・お前にそう言って貰えるのは有り難いんだがな」
実際どうでもイイ話なんで、シレッとした顔で冷静にツッ込むと、おっさんはちょっと顔を赤くしてまたソファーに座った。
しかし、おっさんが憤ってる理由ってコレだったんだね。
しょうがないおっさんだよな、この人も。黙って受け取っとけばイイのにさ。
「だが協会だって馬鹿の集まりってワケじゃねえ。お前に不貞腐られて、縁切りでもされたら事だしな。とは言え、表立ってお前に何かやるワケにもいかねえってんで、揉めてやがったんだよ。そこで御大の御登場ってワケだ」
「なーるほどね。ワタシは別に何も無くても良いと思うんだけど、そう言う話ってコトは、お金以外にも何かくれるってコト?」
「それなんだがな・・・」
何やらインベントリに手を突っ込んで、ゴソゴソ始めたおっさんを他所に、盛大な溜め息が出そうになる。
なーにが「馬鹿の集まりじゃない」よ。
結局はブレイブ勲章取ったヤツに冷遇して、他所に行かれたら責任問題になるから、その押し付け合いをやってたダケじゃん。
貴族社会も協会上層部も似た様なもんだわ、と呆れてると、インベントリから手を出したおっさんが、ローテーブルの上に二枚の書状を出した。
「この二枚は同じ物なんだが、まずは読んでみてくれ」
ほお、書状ねえ・・・と思いつつ、一枚を手に取って読んでみると、書かれている事は実に簡単明瞭だったんだけど、そのあまりの内容に、一瞬頭がクラッとした。
「何コレ! 嘘でしょ!?」
ビックリして思わず声が出ちゃったよ!
だってこの書状、トンデモ無い内容なんですよ。
「流石に驚くか。そりゃそうだよな。俺も聞いた時は何度も確認した位だ」
呆然とした顔でおっさんを見ると、おっさんは笑いながら両手を上げて「降参」のポーズを返して来た。
はぁ。まー、これが真実ならもう笑うしかないよな。
だってコレ、討伐士協会総裁であられるグランツェン殿下と、魔法士協会総裁であられるシルバニアの女王陛下が、個人的にワタシの後援者に成るって話なんだよ。
「幾ら何でも、簡単には信じられない話だよ。大体、こんな話今まで見た事も聞いた事も無いしさ」
驚きすぎて、返って冷静っぽくなっちゃうよな。
王族どころか、元王サマと現役女王サマだよ?
そんなヒトらが臣下でも無い一介の従騎士の後援に付くなんて、普通なら絶対に有り得ない。
「おいおい。気持ちは判るが、そいつは本物だ。数日後には実物のお墨付きがランスの支局に来るから、この書状はそれまでの繋ぎとお前の保険って所だな。片方は俺が預かって、グランツのじいさまの所に送らなきゃならん」
ホントかよ!
いやコレ、ちょっと、本当に信じられない様な話だ。
確かに、この世界の二大勢力の筆頭二人のお墨付きがあれば、ワタシは本当に世の中を自由気ままにやって行けるし、色々な面倒事からも離れて生きて行ける。
貴族だろうが王族だろうが、簡単に手出し出来ないアンタッチャブルだもんな。
本当なら嬉しいどころの騒ぎじゃ無いけど、一体、何がどうしてこうなったのか、さっぱり判んないのは不安だ。
「良く判んないんだけどさー、何でこんなポッと出の従騎士風情に、元王サマの総裁サマが目を付けたのかなぁ。世界が違い過ぎくない?」
取り敢えず疑問に思った事を口に出すと、ヘラヘラと笑ってたおっさんが、おかしな顔になった。
「はぁ? グランツのじいさまからすりゃ、お前はかつての親友が世に出した最後の直弟子だぞ? 存命してるのもお前だけだし、興味持つなって方がおかしいだろうよ」
ああっ! そう言えばししょーって、お話に出て来る白銀の騎士なんだっけ。
全然忘れてたわ。
だとしたら、まー、そうか。興味を持たない方がおかしいかぁ。
しかしなぁ、ししょー絡みの貴族とかが色々寄って来るかも知れんとは思ってたけど、いきなり元王サマで協会総裁サマって、どうなの?
段々と疲れてきた様な気がするんですけど。
「じゃあさ、総裁サマがお墨付きをくれるのは百歩譲って納得するけど、女王サマの方はおかしくない? ワタシって女王サマには何もしてないよっ」
ぬうん。とにかく今の内に疑問はどんどんぶつけておかないと、何か得体の知れない不安で押しつぶされそうになっちゃうよ。
「ああ、その原因もお前の師匠だよ。オマリー卿は大学院時代、ずっと女王の研究の相方をやってた親友で、恋仲だったって話もある位だ」
はぁ!? こいなかぁー。女王サマとぉー?
鯉の仲間って事じゃ無いよね、恋仲って事だよね?
マジですか。
「そんな事も知らんのか」って顔で、不思議そうにこっちを見てるおっさんを無視してレティを見ると、そっちも似た様な表情でこっちを見てた。
レティよ、お前もか。
がっくり。
あー、もうっ! ししょーのクソじじいめっ!!
うーん、何かもうだめだ。色々考えようとするんだけど、頭の中がグルグルして来ちゃって、冷静になるどころじゃ無くなって来たよ。
ワタシは仕方が無く二枚の書類にサインして、指輪代わりに親指で押印すると、おっさんに一枚を手渡した。
何気なく窓(の様な魔導具)の外を見れば、そろそろランスの街が近づいて来た様で、外はとっくに森林地帯を抜けてる雰囲気だ。
時刻も何時の間にか午後11時近いし、本気でランスの街は目と鼻の先だと思う。
もうしょうがないよね。
今は何か物が考えられる様な感じじゃ無いから、ランスの街に着いてから、ゆっくりとこれからの事を考えるとしますか。
ローテーブルの上に置いたワイングラスを再度手に取ると、レティが腕を伸ばしてワインを注いで来た。
うむ。流石にレティのヤツ、ちゃんとおっさんのブツとこっちのブツを分けてやがる様ですな。
グルグルと色んな事が回る頭の中を落ち着ける為、ワタシは一つ息を吐くと、上物のワインに口をつけた。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、有難う御座いました。




