068話
何かとても難産で、気が付いたらこんな時間になってました。申し訳ないです。
「もう敵の配置に当たりを付けておられるのですか?」
ワタシが合図と共に街道から外れた森の中に突っ込んで、木々の間を走り始めると、すぐ後ろを付いて来たジュリアンさんが耳元で囁いて来た。
「まーね。今は連中の布陣の外に出ようとしてる所かな」
流石に「300ヤード(約274m)の探知魔法もどきプラス、クーちゃんの先導があるから楽勝ですっ」なんて言えないので、誤魔化しておこう。
しかし森の中をちょっと走っただけで、敵の兵隊共がウヨウヨと探知魔法もどきに引っかかって来ましたよ。
防柵の方から5、6人規模の固まりが幾つもこっちへ移動して来てる感じだから、やっぱ次の防柵はワナだったみたい。
やや急な斜面を一気に駆け下りると、ワタシは大きな樹の陰にしゃがみ込んだ。後の二人も合図してしゃがませる。
「ちょっと不味いね。周辺警戒っぽい連中がいるから、まずそいつらを片付けるわ」
「ハイッ」「了解です」
街道からここ迄、ほぼ直角に約500ヤード(約457m)を、風系魔法で音を殺しながら一気に走って来たってのに、レティはともかく、ジュリアンさんも息一つ切らしてない。
うんうん。中々頼もしい感じでイイですな。
ジュリアンさんはやっぱり当たりだったなと思いながら、探知魔法もどきに意識を集中すると、斜面の上に如何にもな動きの5人の人間を捉えた。
完全に武装してる歩き方だけど、山道を歩き慣れてないのか、5人全員の動きが妙にぎこちない。
うーん。そうかもとは思ったけど、こりゃかなり素人クサいな。
幾ら人間の部隊を襲うと言っても、魔物がそれを黙って見ててくれるワケじゃないから、傭兵部隊の連中だって包囲の外周では魔物警戒ぐらいはやる。
でも大抵の場合、そう言うのって部隊の二線級や三線級のヤツらの仕事で、ヘタをすると「死んで良し」な連中を使ったりもするらしいんですよ。
町中で小さな暴力に喜んでる様なバカ共を連れ込んで、こう言う役をさせるって感じなんだけど、何かモロにそんな風ですな。
念の為に二人を離れさせると、ワタシは風系魔法で、自分を取り囲む大きなボールの様な空気の層を作った。
銃の試射はやって来たからある程度のクセは掴んでるし、この場合、問題なのは銃声だけだ。
この空気の結界(?)って、弾が抜ける瞬間に弾の幅分の大きさで外と繋がるだけだから、これでほとんどの銃声が消せる。
そのまま少し待つと、約100ヤード(約91m)位先の斜面の上に、5人の人影が見えた。
うむ。間違い無く町のダニっぽい連中ですな。
まず一番後ろにいた奴を狙って、頭をフッ飛ばす。
いきなり斜面を転がり落ちたそいつを、前のヤツが助けようとして斜面を降り始めた所で、そいつもヤる。
その後は続けざまに三発撃って、全員の処理を終了!
「凄い腕ですね。本隊にだってこれ程の射手はほとんど居ないと思いますよ」
空気の結界を解いて銃に新たな5発のカートリッジを装填してると、ジュリアンさんが驚いた様な顔で言った。
「そうかな? でも有難うって言っておくよ」
何となく顔が赤くなりそうになって、照れ隠しでそう言うと、ジュリアンさんがニッと笑って返してくれた。
いやぁ、こう言う事(狙撃)やるのって後味が悪いんだけど、そう言う対応をされると、何かちょっと気持ちが軽くなってイイよねっ。
それから10分位の外周探索で傭兵連中の布陣の概略が判ると、ワタシとレティは一旦ジュリアンさんを置いて、個別にそれぞれ反対方向へ偵察に出た。
勿論、途中で音も無くヤれそうなヤツが居れば、スパッとヤっておく。
しかし結構参って来ましたよ。
精々200位と思ってた傭兵連中の数が、倍くらいはいそうだし、攻城兵器にもなる噴進弾まで持ち込んでて、かなり大掛かりな作戦っぽいんだよね。
コレってかなりヤバいよなぁ。
兵士達の装備もかなりイイし、余程名のある傭兵部隊なんじゃないのかねぇ。
目の前にあった大きめの樹の枝上に跳んで、ちょっと考える。
もしこいつらが名も規模もある部隊なら、返って個人で引っ掻き回す方が有利だとも思うけど、連中の本部と作戦の本筋が判んない事には、そうそう迂闊には出られない。
ぬにゅう。どうしたもんですかね。
懐中時計を見ると、そろそろレティとジュリアンさんの居る所で落ち合う時間だし、取り敢えずは落ち合ってから考えるかと思って、ふと樹の下を見ると、半透明のクーちゃんが街道の方を指して何か訴えてた。
「クーちゃん、どうしたの?」
取り敢えず辺りに人影は無いので、スパッと地面に降りて尋ねると、実体化したクーちゃんがいきなり両手でワタシの手を握って来た。
うわっ、コレってヤバい!
何時ぞやの悪夢(ゲロゲロ吐き捲くった件)が蘇って一瞬身構えちゃったけど、今回は前の様にならなくて、例の、視界とは別の視界っぽい感覚で防柵が見えた。
と同時に、何故か判んないけど、地下がスッカスカなのも理解っちゃった。
ええーっと、コレって、大規模な落とし穴、とか?
「クーちゃん、有難うっ」
思わずクーちゃんのおててを握り締めてお礼を言うと、クーちゃんはキュキュッと鳴いて、また半透明に戻った。
いやあっ、むっちゃ可愛いぃっ!!
って、そうじゃ無くって!
今、理解っちゃった事って、結構大変な事なんだよね。
道どころか辺り一面40ヤード(約37m)位が、20フィート(約6m)近く陥没する程の大仕掛けなんですよっ。
連中、密集隊形になった部隊を車両ごと落として、上からこっちを潰す腹なんじゃんか。
幾ら指揮車に対魔法結界があっても、直下じゃなければほぼ効かないし、コレやられたら全滅必死ですわ。
しかもこの方法なら、証拠品の奪取も楽勝だし、ウマくやればアリーだって奪取出来ちゃうかも知れない。
ヤバいわ。だとしたら連中、噴進弾を使ってでも、おっさんの部隊を防柵まで進めさせようとするに決まってるよ。
思わず一気に走り出して、ジュリアンさんが居る場所を目指す。
この情報、速攻でジュリアンさんに持って帰って貰わないとマズいわ。
「本当ですか!?」
ジュリアンさんの居る場所へ戻ると、ワタシは既に戻ってたレティも含めて、二人にこの事を話した。
流石のジュリアンさんも、この話には真剣に驚いた様で、すぐにでもフェリクスおっさんに報告に戻ると言ってくれた。
「気を付けてね。後、噴進弾とか敵部隊の規模の方も宜しくね」
「はっ、了解しました!」
ジュリアンさんがスッ飛ぶ様に走り去るのを見送ると、ワタシは落ち合ってから終始ほぼ無言だったレティに視線を移した。
「なーんで黙ってるワケ? 何か言いたい事があるなら言いなさいよー」
真面目モードで無表情状態のコイツって、本当に融通が利かないから、重要な情報でも他人の前では口にしないんだよね。
「ジュリアン様には聞かれたくなかったお話ですので」
むむって感じでにらみ合いに突入すると、案の定の言葉がレティの口から出た。
「あのさー。ここって戦場なんだから、味方を大事にしないとヤバいよ?」
メッて感じで軽く怒っても、ワタシを無視する様な感じで視線を逸らすレティに、違和感を覚える。
おんや。レティさんがこんな態度なんてお珍しい。
こりゃ、よっぽどヤバいモノでも見ちゃったのかね。
「ひぃ様、敵の部隊には魔法師と騎士卿が居ります。幾らひぃ様でも、その二人を同時に相手取るのだけはお辞め下さい」
再度顔を上げたクセに、なお目を伏せたままで口を開いたレティが、聞いた事も無い様な低い声を出した。
にゅうん。コイツがこんな物言いをするのは初めて聞いたよ。
今のセリフだと、敵の正体に気が付きやがったのは間違い無いと思うんだけど、そんなにビビる様な相手なのかな。
「騎士卿かぁ。本物の討伐騎士卿って事だよね。だったらテはあるから心配無いよ。それに魔法師の方は多分、大仕掛けに掛かりっきりなんじゃないかな」
「例えそうであったとしてもです! フォルダンは生易しい相手ではありませんっ」
おおっとぉ! レティのヤツ、ワタシの言葉を即座に全否定して来ちゃいましたよっ。
何か滅多に無い事尽くしですなぁ。
でもこんな反応って事は、ヘタするとレティはそいつに何か因縁があるんじゃないのかね。
「もしかして、レティさんってば、そのふぉるだんとか言うヤツにヤられちゃった事があるワケェ?」
ちょっとニヤつきながら目を覗き込む様に言うと、何か意を決した様な顔で、レティがワタシの目を見返して来た。
「・・・確かに、一度後れを取った事があります。父と同等と言って良い使い手でしょう。しかもあの男はその技量の上で、更に勝てさえするなら何でもする男なのです」
レティの父親って言うのは、例のコワ顔で妖怪なじじいの娘と結婚したヒトで、やっぱり妖怪染みた実力の持ち主だ。
アレと同等ねぇ。そりゃちょっと、楽しみだわ。
思わず顔がニヤけちゃうよね。
フェリクスおっさんとの対戦があんな感じで終わっちゃったから、実際、まだまだそのテのストレスが癒えてないし、こんなチャンスは滅多に無いですよ。
「ふぅーん、成る程ね。じゃあ訊くけど、アンタはその男とワタシと、どっちを信じるってワケ?」
目を合わせてきたレティに結構ズルい物言いで尋ねてみると、流石のレティも無表情が消えて「それはズルい」って顔になった。
「くっ・・・ひぃ様、です」
「魔法師の方は初撃でヤれなかったら譲るよ。ソレでイイでしょ?」
何やら「人生最大の苦渋の決断」って感じに声を絞り出したレティに妥協案を出して、ワタシはインベントリから例の銃を出した。
遠くの方で結構な銃声が響き始めて来た事だし、モタモタしてる暇は無い。
ここからは隠密活動じゃなくて、大暴れの時間だ。戦場に成っちゃった以上は、もうヘンな遠慮なんか一切要らないしねっ。
「ひぃ様、今の御約束、お忘れにならないで下さいね」
何かを悟り切った様な顔のレティが、ワタシと同じ様に銃を出すと、今の妥協案に念を押して来た。
あーあー、もうっ。最初っから盾になる気マンマンじゃんか。
そんなにワタシって頼りないのかなぁ。
「うんうん。んじゃ本部の案内頼むけど、そんなに心配しなくっても大丈夫だよ? 今のワタシって正直、ホントに化け物っぽいからさ」
レティには、幼女化後のワタシの真の実力を未だ見せてなかったから、ここで披露してやるとしよう。
にゅふふふ。ビックリして目を回すなよ?
本日もこの辺で終わらせて頂きます。
読んで頂いた方、有難う御座いました。




