064話
時間的に結構遅れてしまいました。すみません。
夕食はかなり微妙だった。
料理人達も、役人扱いだったヤツらは全員ブチ込まれちゃったせいか、見た目はともかく、出来の方がかなりおざなりだったですよ。
こんな貴族趣味な部屋で食べる様な出来の食事じゃないよなぁ。
と思いつつも、ワタシは超上機嫌っ。
お人形さんみたいなアリーを愛でながらの食事は、ニヤケ顔のレティさえ気にしなければ、それだけで幸せな感じだし、その上、お風呂で判明したんだけど、ワタシってばこの身体になって初めて、お胸サマで勝利しちゃったんだよねっ。
約12歳少女に勝って喜ぶとか、実年齢16歳の身としては大分情けないとは思うけど、理屈じゃないんだよ、こー言うのは!
にゅふふふ。これでこそ正に、名実共に「お姉さま」ってワケですよっ。
いやー、リーズに完敗して何かドヨドヨンとなってた気持ちも、ググッと上向きって感じですかねー。
「マリーお姉さまは本当に凄いですっ」
「凄い速さで通り過ぎるだけで、リザードマンがどんどん倒されて行ったのも凄かったですけど、大きな爆発でも起こった様なあの攻撃魔法は、本当に圧巻でした!」
食事が終わってレティが食後のお茶の用意に入ると、それまで口数の少なかったアリーが、何か一生懸命に喋って来た。
まぁ、アリーもお貴族サマ育ちらしく、食事中の会話ってあんまり無かったからねぇ。
でもそんなに一生懸命にワタシの事とか持ち上げなくてもイイのに。
そんな事を口にしたら、アリーがちょっと悲しそうな顔で首を振った。
「私がどれ程感謝しているか、お姉さまに判って頂けなくて、ちょっと悲しいです」
いやいやー、ちょっと待った! お人形さんみたいなアリーが悲しげに俯いちゃう姿はツラいですよぉ。
「ええっと、その、ね。アリー達を助けようと一生懸命だったから、ワタシも良く覚えてなくってさ、あははは」
思わず乾いた笑いで誤魔化すと、ちょっとだけ持ち直したっぽいアリーが顔を上げてくれた。
ううむ、危うい所であった。折角可愛い娘とお茶してるってのに、向こうが悲しそうだったりすると、唯の罰ゲームだもんな。
「あれ程の御活躍を忘れてしまわれる程に一生懸命だったなんて、お姉さまには悪いと思いますけれど、何か嬉しいですっ」
いやぁ、ニコっと微笑んだアリーが可愛いですよぉ。
誤魔化しが成功して良かった!
「でも本当にお姉さまは凄かったです! 動きが速過ぎて、止まったり消えたりしている様にしか見えませんでしたけどっ」
「ああ、うん。あれは騎士卿とかがやるワザだから、普通の人にはそんな風に見えちゃうんだよね」
「騎士卿様ですか!? そのお歳で騎士卿様方と同じ事が出来るなんて、さすがはアレの英雄様ですねっ」
うにゅう。英雄様だけは辞めて欲しいです、アリーさん。
握り拳までして力説する姿はとっても可愛らしいけど、そんなに褒め上げられちゃうと、そろそろ顔が赤くなって来そうで困るわ。
「でも・・・一体どれ程の修行をすればそこ迄強くなれるのですか? 私も強く成りたくて、色々やっては来たんですけど、全然駄目で」
んん? 何かちょっと話の風向きが変わって来たみたいだけど、そう言う話はまた別の意味で辛い話だよねぇ。
見ればアリーはまた少し俯き加減ながらも、こっちを見つめる目が何か妙な光を帯びてる感じだ。
ぬう。アリーってば、討伐騎士にでも成りたいのかなぁ。
「ううん、修行って言うかねぇ。コレと言って特別な事はして無い筈なんだけど、こう言うのって向き不向きがあるから」
いやぁ、何か歯切れの悪い物言いになっちゃうよな。
お風呂で洗ったせいで、背中と腕とか触ったりしたけど、この娘って、基本的に戦闘向きの身体じゃ無いんだよね。
大抵の場合、一定線を越えて強く成れる人って、生まれた時から決まってるんですよ。
今のワタシの身体は完全な例外だけど、幼女化前だってそれなりに騎士向きの素地があったからなぁ。
「お姉さま、私に強く成れる素質が無いなら、はっきりとそう仰って下さい!」
アリーが何か食らい付く様な目付きでこっちを見ながら、最後通牒を発して来ちゃいましたよっ。
はぁ。もうしょうがないか。変に期待させるより、ハッキリ言っちゃった方が本人の為だよね。
「うーん、そうだねぇ。ハッキリ言うと、アリーは騎士には向いて無いよ。個の強さを目指すなら魔法士に成るしか無いと思う」
もうなんちゃらの舞台から「エイヤッ」て飛び降りる気持ちで言い切ると、何かアリーは落ち込んだ様でいながらも、妙に達観した様な表情になった。
「やっぱりそうですか・・・以前、ある討伐騎士の方にもお聞きした事があったんですけど、その時も似た様な事を言われました」
うーむ。既に一度言われてた話なのかぁ。
まぁ何て言うか、前の人に感謝って感じかも知んないな。
「それって、もしかしたら今回のスタンピードで亡くなっちゃった方?」
何となくそう思ったので、何か味の有る様な表情になっちゃったアリーに尋ねると、彼女はゆっくりと頷いた。
「ハイ、そうです。正直に言って、鼻で笑われてしまいました」
なんだとぉっ。そんなヤツ死んで良・・・し、とも思うけど、むしろそう言う言い方で突き放す方が善意ってモンだからなぁ。
ワタシみたいに「嫌われたくない」って思っちゃうヤツの方が、曖昧な物言いになるし、よっぽど誠意の無いヤツって感じだよ。
「でもねえ、個の強さなんて所詮は限界があるモンだよ? アリーはアリーに向いている形で強く成ればイイと思う」
ちょっと気持ちを改めて、ワタシはアリーをさっきまでとは違う、強い目線で見詰め返した。
「えっと、それ、は・・・」
急に強い目線を返されたアリーが、少しキョドった反応を返して来たけど、そんな事に構ってる時じゃ無い。
言うべき時に言うべき事を言うのが本当の優しさだと思うしね。
それに今をおいて、こんな話が通じる時は無いと思う。
「綺麗事で言ってるんじゃないよ? 本職の騎士だって、普通はチームプレイが基本だし、個の力なんて所詮はそんなモンなの」
ワタシだって個の強さだけで生きてるワケじゃない。
クーちゃんも居ればピーちゃんも居るし、今はレティだって居るしね。
「個人が幾ら強くたってダメなんだよ。ワタシだってそうなんだし、アリーは貴族なんだから、信頼出来る人間を集める事で強くなればイイと思うけどね」
ああぁ。ワタシってどうしてこう直球野郎なんだろな。
きっともう少し「良い言い方」ってのがあるんだろうと思うけどさぁ。
「それ程までにお強くても、そうなのですか?」
でもアリーには、何とかワタシの言いたい事が通じた様だ。
味のある表情ながらも、キリッとした雰囲気でワタシを見返して来てくれた。
「そうだね。実際、周囲の助力が無ければ、ワタシなんてとっくの昔に死んでたと思うよ」
ワタシの最後のセリフが効いたのか、俯き加減だった顔を上げて、ググッとまた拳を握り締めたアリーが可愛いっ。
「そうですか・・・何かお姉さまに言われて、何と言うか、こう、頭の中のもやが晴れた感じです。私、これからの目標が出来た思いですっ」
ぬにゅうううん。アリーが何か良い感じの笑顔になってくれて良かった。
こんなお人形サンみたいな娘が、悲しげに俯いてるのを見るのは本当にツラいからねっ。
「でも、魔法師は目指してもイイと思うよ。自分で自分を護れるってのは大きいしね」
でもまぁって感じで、一応の付け足しは入れとく。
ウチの父上とかもそうだけど、イザと言う時にそれなりに自分で何とか出来るってのは、大きなプラスに働くからねぇ。
「ハイ、そうですねっ。頑張ります」
にゅうん。明るく言い切ったアリーが可愛いですよっ。
もう抱き締めちゃいたい位!
アリーに見えない角度でこっちを向いて、ニヤニヤと笑うレティがウザいけど、この娘って貴族として立ったら絶対成功すると思うんだよ。
なんたってこの外見だし、最悪の事態に侍女を庇ってトカゲ野郎に張り手を食らわすクソ度胸だってある。
それこそ命知らずの騎士達が寄って来て、コワい親衛隊が出来たっておかしくないと思うんだ。
「さすがはひぃ様、リーズ様と涙の別れの直後に、もう新しい美少女にお手をお付けになるなんてっ!」
アリーが小用に立つと、レティのヤツが本性を晒してクルクルと回り出した。
「別に手とか付けて無いからね?」
うーん、ホントにコイツってば見境いが無いって言うか、何て言うか、ビアンネタになれば何でもイイのかっつーのっ。
折角真面目な話をしてたのに、何かもう色々ブッ壊しって感じなんですけど。
「まったまたー、お風呂で味見くらいはなさっちゃってるクセにぃー」
あったまが痛いです、マジで。一体全体、どうしたらそう言うセリフになるんかな。
大体さぁ、髪の毛洗って、背中を流したダケっての、見てた筈だと思うんだけどねぇ。
「見てたんなら、そんなのこれっぽっちも無かったって、知ってるでしょ!?」
クルクル回るレティをむむっと睨んではみるけど、コイツには基本、そんなの通じないからなぁ。
呆れ返るワタシを他所に、レティのヤツは何か踊りの回転の様にゆっくりと回転を辞め、腕を大きく振りながらお辞儀をした。
「やはり今宵はリーズ様と同様、同じ寝台で熱い夜をお過ごしになられるご予定ですか?」
はぁ。たかがソレを言う為ダケに、ここまで大仰な前振りが必要なのかよ、この女わぁ。
しかしまあ何て言うか、言いたい事は判った。
「一応そうする積りだよ。何があるか判らないからね。こっちにはアンタもいるし、イザとなればクーちゃん達だって居るしね」
初夏で使われていない暖炉の中に、うっすらとしたクーちゃんの影を見つけて、軽く手を振ると、クーちゃんも手を振ってくれた。
うむ。相変わらずかわゆい!
この子達ってホント、そう思うだけで来てくれるから嬉しいよねっ。
「ひぃ様にはクーだのピーだのがおりますから、寝込みを襲ってもほぼ返り討ちで御座いますからねぇ」
クーちゃん達は、実体化が斬られたりしても屁みたいなモノだし、敵には容赦が無いし、実はこう言う場合は結構頼りになるんだよねっ。
「まぁそれだけ危ないって事でしょ? アリーから聞いた話も結構裏がキツそうな感じだったしね」
「そうで御座いますね。わたくしに敵いそうな者はおりませんでしたが、慢心は禁物です」
「アリーはランスに連れて行く積りだし、暫くはしょうがないかぁ」
ちょっと真面目な顔になったレティに、取り敢えずの予定を伝えておく。
明日の朝、フェリクスおっさんに伝える積りだけど、協会のメンツもあるし、多分アリーの同道は許可される筈だと思う。
「ワタシの考えが真実に近ければ、連中、ランス迄の間に一度はマジで仕掛けて来ると思うよ。レティもその積りでいてよね」
「無論で御座いますともっ。美少女の敵はわたくしの敵で御座いますし!」
本気なんだか冗談なんだかも判らん感じで、レティが朗らかな顔で頷いた。
まっ、コイツは平常運転でイイだろう。どっちみち敵にすると恐ろしいヤツだしさ。
「はぁ」
多分、本番は今夜では無いと思うけど、ワタシはほぼ確定と言って良いイヤな予感に、溜め息をついた。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、有難う御座いました。




