062話
「はぁ」
レティの入れてくれた紅茶を飲みながら、ワタシは今日はもう何度目になるかも判らなくなった溜め息をついた。
今ワタシが居る結構な貴族趣味って言うか、高級感溢れる部屋は、ダレク村にある迎賓館的な建物の一室だ。
時刻は午後六時前。
ワタシとレティがこの部屋に辿り着いたのはついさっきで、今はやっと一服って感じですよ。
それもこれも、色々とドタバタあったせいなんだけどね。
何かちょっとしょげた感じのフェリクスおっさんが部屋に入って来たけど、無視してお茶を頂く。
そもそもこのおっさんがもっとしっかりしてれば、ワタシ達がドタバタする事なんて無かったんだからさ。
あの後、直ぐにサポートの自走車が来たまでは良かったんだけど、降りてきた軍人さん達はワタシ達のサポートをするどころか、生き残りの男共を連れてさっさと帰っちゃったんだよね。
こっちには重傷者も居るってのに、そのまま放置ですよ!
自走二輪に積んでた無線の魔導機械は壊れてるし、どーせいってんだよ、全くっ。
ふざけんなと思ったけど、侍女っぽい人の治療に専念してるレティを除いて、ワタシとジュリアンさんと軍曹さんで、トカゲ共の死体回収から肉片の集積と焼却、人遺体の回収に馬車の残骸処理まで、色々な後処理をやってやりましたよ。
一刻(約1時間)程後になって、漸く別の自走車で人員が来たけど、そんな頃に来たってやる事なんかある訳が無い。
ジュリアンさんが彼らにそれを言ってくれて、ワタシ達は漸く現場を離れる事が出来た。
女の子と侍女っぽい人は、魔法で強制的に眠らせて車両の後部に積み込み、ワタシとレティは彼女達の側に付いて乗り込んだんだけど、何か自走車の人達が平身低頭って感じで謝るモンだから、こっちは怒るに怒れないし、結構参りましたよ。
でも本当に疲れたのは、ジュリアンさん達と作業をしてる時の会話だったよなぁ。
だって作業の間、ジュリアンさんと軍曹さんが物凄い調子でワタシの事を褒め捲くるんだもん。
もう顔真っ赤って感じ。
まあ、あの謎の攻撃魔法の時って、かなりトカゲ野郎共に追い込まれてる所で、爆風みたいな余波が無かったら結構危うかったらしいから、命の恩人扱いされるのは判るんだけどさ。
怪我の功名ってこう言うのを言うんだろうなって思ったけど、モノには限度ってモンがあるよ。
頼むからもう少し控えめな褒め方にしてくれませんかって、痛切に思いました、エエ。
しかし、意外にしっかりとした城壁もどきに守られた、ダレクの村に着いてからがドタバタの本番だった。
着いた早々、女の子と侍女っぽい人が部隊の医療チームに連れて行かれた後、ワタシとレティは自己紹介すらしない衛士連中に、地下牢っぽい部屋にブチ込まれちゃったんですよ。
しかも手枷付き!
何かの間違いだと思ってたから、抵抗しなかったのもマズいと思って抗議すると、衛士連中が7、8人やって来て、今度は得体の知れない質問攻めに会っちゃった。
ま、この頃になると、流石のワタシもピンと来てたんで、足技だけで全員を血祭りに上げて手枷をブッ千切り、牢屋の扉を叩き斬って外に出たんだけど、何とまあ、腐れ衛士共の他の隊の連中がレティに乱暴しようとしたみたいで、全員が酷いザマでお亡くなりになってましたよ。
如何にも強請りタカリ上等の腐れ衛士共だったから、死んで良しと思えども、良くコイツにそんな事をしようと言う度胸があったよな。
知らないってコワいわー。
しかもレティのヤツ、自分がヤった連中のみならず、ワタシがヤった連中まで財布やら何やらを総ざらえで懐に入れてるし。
ジュリアンさん達が乗り込んで来た時、ワタシとレティは衛士隊詰め所に居た残りのバカ共(隊長含む)を半殺しにして地下にぶち込み、隊長執務室にてレモン水で乾杯してた。
レティのヤツはバカ共をブチ込んだ後で色々と謎の行動をやってたんだけど、どうもそれは相当の実入りになった様で、終始ニコニコしてて気持ちが悪かったですよっ。
「まあなんだ。随分と迷惑を掛けちまったみてぇだな」
人がほぉっと溜め息をつきながらゆっくりしてるってのに、目の前に座ったフェリクスおっさんが、何やら詫び言を言って邪魔してきた。
「べっつにイイけどさ、取り敢えずの仕事は終わった感じ?」
何時までも無視してるワケにも行かないから、取り敢えず返事はするけど、このおっさんはまだ色々と気が付いて無いみたいなんだよなぁ。
村の役人連中はワタシ達だけで無く、例の女の子や侍女っぽい人も奪おうとしたらしく、部隊の人達に反撃を食らってヤられちゃったらしい。
討伐士協会の部隊に楯突くなんて、衛士もどきや騎士もどきに出来っこ無いと思うんだけど、まあ切羽詰ってたんだろな。
ジュリアンさん達がワタシ達を助けに来たのも、村の掃討作戦の一環だったそうだし、連中があっと言う間に制圧されちゃったのは想像に難くない。
「仕事ときやがったかよ。まぁ、村長を筆頭に役人って名前が付く連中は全員引っ張って、牢に繋いである。問題は連中が何でこんな事をしたかって事なんだが・・・」
ワケが判らんって感じに両手を上げたおっさんがウザいです。何でこんなにニブいのかなぁ。
協会の騎士卿ってのは、脳筋部門と頭脳部門にでも分かれてるんでしょうか。
馬車隊の連中が怪しいと睨んで、身柄を即座に確保した迄は良かったと思うのに、その先が全然続かないんだよな。
「まだ気が付いてないの? 此処の連中ってアレの代官とグルだったんだよ。ついでに馬車隊の生き残り共もそうなんじゃないかな?」
幾つもの町や村を経由すれば、物資の横流しから、予算の水増しから、何でもござれだ。
平民なんて家畜同然にしか思ってない連中がやる事なんて、何処でも一緒だしね。
アレの次官が思い通りにならない時点で、代官は周辺の腐った連中に声を掛けてた筈だし、さぞかし御発展だったんだろうな。
この豪華な部屋を見回しただけでも、連中の腐り具合が判ろうってもんだ。
「西聖王国の中央の権威を笠に着てやりたい放題だったんでしょ? でも南部連合が決定的になって、中央権威の象徴だったアレの代官が潰され、協会の軍隊までやって来た。協会部隊に西聖王国の権威なんて通用しないし、慌てない方がおかしいと思うよ」
多分、連中は馬車隊の生き残りが協会の部隊に確保されちゃった時点で、動き出したんだと思う。女の子は誰かは判んないけど、何処かの貴族との取引条件だったんじゃないかな。
「あぁっ!? ちっ、そう言う事かよ。じゃあ面倒臭えから、全員処刑しちまうかっ」
ワタシの解説に、漸く色々と気が付き始めたようで、おっさんがいきり立った。
いや、ちょっと今頃になってそんな事言ってもねぇ。幾ら何でも気付くの遅すぎじゃないの?
「一応証拠はちゃんと押さえた方がイイよ。連中、証拠隠滅に走ってたみたいだし、ワタシとレティを捕まえたのもその一環でしょ。ああ言う連中はね、自分達がどれだけ酷い事をして来たかが判ってるから、それが暴かれる事を極端に恐れるものなんだよ」
「胸クソの悪い話だなぁっ、おおっ!?」
しょうがないから、冷静になってねーって感じで念を押すと、何か逆効果だったみたいで、おっさんは遂に立ち上がっちゃいましたよ。
いやいや、騎士卿サマなんだから、冷静に行きましょうって。
「こっちに怒ってどうするってのっ。腐れ貴族を相手にするならこの程度は並だよ? ランスの代官が逃げた理由も、案外この辺に理由があるんじゃないのかな」
ワタシのシレッとした表情を見たのか、一瞬アツくなってたおっさんが、何か力が抜けた様な感じでまた椅子に座った。
「はぁっ・・・全くお前は世慣れしてやがるよな」
別に世慣れなんてして無いよん。ただ単に、クズ役人を取り締まる側だったってだけだしさ。
「そんな事より、明日以降どうするかだよ。討伐部隊でこの村に軍政を引くなら、本隊は此処からしばらく動かせないでしょ?」
まずは目の前の現実を処理する事が肝心だもんね。
まだアレの町に居た部隊本隊から100人位は呼び寄せたらしいから、この村を抑える事自体は容易いけど、ランスまで進軍するのはどう考えてもムリっぽい。
「ああ。まぁそっちはどうにかなる。どっちにしろ、俺とお前がランスに行けばイイ話だから、部隊のほとんどは此処に置いても暫くは問題無い」
ぬにゅう。おっさんはともかく、何かワタシへの期待とか評価みたいなのが凄い気がするんだけど、気のせいだと良いなぁ。
ワタシ、確かに結構強いけど、歴戦の騎士卿サマ達と肩を並べて戦える程の実力とか経験とか無いからね?
おっさん相手だって、部屋の中だから自信があった(小回り利く方が有利)んで、屋外だったら自信無いしさ。
また妙なあだ名とか言われるのもイヤだから訊かないけど、ちょっと気になるよねぇ。
「じゃ、明日出発だね。時刻はどれ位になりそう?」
「10時は過ぎるだろうな。心配しなくても誰かを呼びに来させるさ」
取り敢えず明日の事を決定すると、おっさんは立ち上がって再度詫び言を口にした後、部屋を出て行った。
はぁ。なんか色々とため息が出ちゃう様な事が多いけど、明日は明日の風が吹くって言うし、今日はさっさとご飯食べてお風呂入って寝ちゃいますか。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、ありがとう御座いました。




