061話
既に気が付いている方が多いと思いますが、段々と一話の量が長くなって来ちゃいましたので、ここ数話は元の長さを意識して書いています。
これからはこの位の長さで行こうと思いますので、宜しくお願いします。
「ふんふふーんっ」
上機嫌で、残りのトカゲ野郎共の首を残らずスッ飛ばすと、ワタシは思考加速の魔法を解いて、迷わず壊れ防柵の所へ走った。
でも着いて見れば、そこは結構な惨状で、生き残りは戦ってた討伐士二人以外は6、7人しか居らず、女の子も緊張が解けて気絶しちゃってるみたいだった。
女の子は右手以外無傷に近いけど、隣に倒れてる侍女っぽい人は、右肩から二の腕までの肉が齧り取られちゃった感じでかなりヤバい。
うーん、これって結構な重症だよな。
取り敢えずインベントリから敷物を出すと、血止めや殺菌系の魔法陣を想写してから、身体の下側に手を入れて、魔法陣を起動しながら彼女の身体をその上に乗せた。
肩から腕まではまだ何とか皮とかが繋がってるから、腕のイイ魔法医に掛かれば元に戻せると思うけど、それには何処まできっちりとした応急手当が出来るかってのが重要だ。
ワタシって自分は治せても、他人は治せないからなぁ。
他人の身体を弄る行為って、すっごい難しいんだよね。
多少の事なら何とかなるけど、ここまで重症だと手の施し様が無いのが事実だし、このままレティが来るのを待つしか無いと思う。
レティは外人部隊の出身だから、このテは結構頼りになるんだよね。
あそこの連中って一人で何役も出来るヤツばかりだし、資格を持っていないだけで、他人を治療出来る魔法士だって何人も居る。
まぁレティは治療系魔法士って訳でも無いけど、通常医師と同程度の処置が出来るから、ワタシなんかより余程信頼出来るんだよな。
「コ、コーニス殿でありますかっ?」
んん?
侍女っぽい人の応急手当に一段落付いた所で、後ろから声が掛かった。
振り向くと、戦ってた討伐士っぽい人の一人が傍らまで来てて、何か直立不動って感じで突っ立ってる。
アレ? よく見るとこの服装って、協会の討伐部隊の制服じゃんか。
「そうだけど、討伐部隊のヒト?」
取り敢えずって感じで返事をすると、ご当人は何かとっても恐縮した様な感じで、背筋を伸ばした。
「ハッ。自分はランスに異動する第17討伐旅団所属尉官で、従騎士のジュリアン・ドゥストと申しますっ」
「別にマリーで良いよ。従騎士だったら同格でしょ?」
ぬにゅう。若そうだけど立派な体格の軍人さんが、ワタシなんかにヘンに緊張しないで欲しいんですけど。
まぁ、今の戦闘を見てたんだろうし、そりゃ恐がるのも判るけどさぁ。
「と、とんでもありません! マリー殿は年少であるが故の従騎士でありましょうっ。それにブレイブ叙勲者の方は上級佐官と同等ですからっ」
ありゃ、そうなのか。初めて聞いたよ、そんな話。
尉官とか佐官ってのは、軍隊の中で指揮官をやる、将校とか士官とか呼ばれる人達で、尉官は小さな部隊の指揮官、佐官は大きな部隊の指揮官って感じかな。
協会軍の佐官って、大抵は討伐騎士がやるし、上級佐官となると率いる部隊も千人を超えたりするから、軍隊の中ではかなりエラいんだよね。
13に成ったばかりのワタシにそんな権限与えちゃうなんて、討伐士協会って大丈夫なのかな?
「そ、そうなんだ」
「ハイ。この場はマリー殿の指示に従う様にと、本部から連絡が来ましたので、今後を伺いに参った次第ですっ」
何かずっと直立不動のジュリアンさんは、要するにワタシの指示を聞きに来たって事らしい。
オヒオヒ。フェリクスおっさんは、一体何を考えてやがるんですかねぇ。
「んじゃ、3点ね。取り敢えず生存者の手当てが優先。100ヤード以内に魔物が来れば判るから哨戒は不要。余裕が出来たら魔物死体の細々した方を集めておいてくれると助かる」
「了解しました!」
ヘンに考え込むのもナンだし、取り敢えずの指示を出すと、ジュリアンさんはビシッと敬礼をして、走って行った。
「軍曹! 哨戒はマリー殿が探知魔法でやってくれるそうだっ。まずは生き残りの確保に全力を上げよとの指示だ!」
「了解ぃっ! 流石に歴戦の方は判ってらっしゃる!」
ジュリアンさんはもう一人に声を掛けて、早速二人で生存者の救助と応急手当を始めた。
って、もう一人は軍曹か。だとするとこの二人、先行してた自走二輪に乗ってた人達なんだろな。
先触れとか先行部隊って、それなりの立場がある人がやらないと意味を成さない場合があるから、一般兵の人がやる事はほとんど無いって聞くもんね。
しかし尉官や軍曹の指示をするなんて、ワタシってば早速、協会部隊に取り込まれちゃってる気がするよなぁ。
何かこのまま、ランス駐屯部隊の役職者とかにされちゃいそうで恐いんですけど。
ちょっと溜め息が出ちゃいそうだよな。
改めて周囲を見渡すと、多分馬車だったんだろなって感じの残骸があちこちに散らばってて、その周囲を人だのウマだのトカゲ野郎だのの死体から、元が何だか判んない肉片まで、大量に血の海の中に鎮座してる状況で、慣れてるワタシにとっても結構キツい惨状だ。
一部の馬車の残骸は多分、ワタシがやった「アレ」で吹き飛んだっぽいけど、ほとんどの残骸はトカゲ野郎の群れにやられた感じだから、バカ共が馬車に立て篭もろうとしたってのは見ただけで判る。
スタンピードが近隣二箇所で起こってる最中に馬車で移動するってだけでも無茶なのに、トカゲ野郎を相手に馬車程度で何とかなると思うなんて、素人臭いにも程があるよ。
ふと目の前で気絶してる女の子に目を移すと、右手はかなりの損傷具合で、結構な内出血を起こしてた。
思わずその右手を取って、治癒魔法&回復魔法を掛ける。
可愛らしいおててが粉砕骨折でぐちゃぐちゃですよ。
でもこの位なら、ワタシでも何とかなる。
おてての形が元に戻って行くに従って、紫色だった顔色も徐々に戻って来ると、女の子の表情もグッと柔らかくなって来た。
にゅう。良く見ればこの娘、すっごく可愛いですよっ! まるでお人形さんみたいっ。
11、2歳と言った所だと思うけど、整った顔立ちに、良く手入れのされたクセの無いセミロングの金髪が似合う、結構な美少女さんだ。
将来が楽しみだわーって感じだよなぁ。
こんな如何にも貴族子女っぽい女の子を連れて、素人丸出しの無茶苦茶をやるってのは、一体どう言う積りなのかね。
生き残りの男共を問い詰めたいよ、ホントに!
「お嬢様っ!」
そうこうしてる内に、レティが何かすんごい形相でスッ飛んで来た。
「酷いですっ! あんなキ○ガイみたいな速度で突っ走らなくっても良いじゃないですかっ!?」
あー、判った判った。どうどう。怪我人がいるんだから大人しくして下さいな。
ワタシが状況を説明すると、「仕方が無いですねぇ」とか言いつつ、レティは早速インベントリから色々と出してきて、侍女っぽいヒトの治療を始めた。
「しかし、あの爆走っぷりと言い、この惨状と言い、お嬢様の御成長振りは喜ばしい限りで御座いますっ」
何か素晴しい手際でホイホイと治療を進めてたレティが、一段落付いたのか、女の子の方をやってたワタシに話し掛けて来た。
え? そう来るの?
てっきり、色々と怒られるのかと思ってたよ。着いたばっかの時の形相から考えてもさぁ。
「ううーん。普通ならさ『無茶苦茶やり過ぎだろ!』とかって怒る所なんじゃないの?」
「何を仰いますか! これだけの破壊跡を見れば、わたくしにもこれが『大気割り』をやったのだと判りますし、そこらに転がるリザードマンの死に様を見ても、思考加速魔法を使われたのだと言う事は判りますっ。主がこれ程の力を持った事を誇りに思わない従者など居りませんよ!」
鼻息も荒く捲くし立てるレティにちょっとウンザリ。
何時も思うけど、コイツのこう言う所は例の「病気」と同様、玉に瑕だよなぁ。
しかも「大気割り」と来ちゃいましたよ。考えない様にはしてたけど、幾ら何でもソレは無いって。
ワタシはチラっと睨みを入れて、興奮気味のレティに釘を刺した。
「大気割り」ってのは、金章1位とかの人外魔境の人達が使う大技の事で、物語にも良く出て来る超有名な最高峰の剣技の一つだ。一瞬とは言えかなりの空間から何もかも、それこそ空気すらも力ワザでブッ飛ばす程の圧力を作り出すワザで、まるで大気を斬り飛ばした様に見える事からその名が付いたって言われてるんだよね。
一体全体、どうやったらそんな事が出来るのか悩んじゃうくらいの人外ワザだよなー。
勿論、ワタシはそんなワザは知らないから、使える筈も無い。
しかし・・・。
釘を刺したってのに、まだまだ興奮気味なレティから目を逸らして周囲を見渡せば、自分のワザが起こした破壊跡が嫌でも目に入って来る。
地面の段差のお陰で人には被害が出なかった感じだけど、半壊してた防柵は全壊だし、周囲の木々は酷いブッ壊れ様だし、一時的に凄まじい「何か」が荒れ狂ったんであろう事は想像に難くない。
うーん。何かシャレになんない被害だけど、ショックウェーブ系のワザって、こう言うモノとは本来違うモノの筈なんだけどなぁ。
あれって大気に波を作る魔法なんですよ、基本は。剣を振るのはその切っ掛けを作る為だしね。
ショックウェーブ系のワザの本当の攻撃主体は真ん中辺に真空を作る所にあって、衝撃波自体は実は添え物だ。
ま、大勢を相手にする場合はその添え物の方がキくんで、範囲攻撃ワザとして使われる事が多いのは事実だけどさ。
言っちゃえば、衝撃波自体には本来なら魔物の殺傷能力とか無いんだよ。だから例えゴブ相手でも、せいぜいブッ倒れる程度でしかない筈なの。
だからもう、あんな事になるなんて、検証するどころか、考えただけで頭が痛いんだよねっ。
あの轟音だけなら、多分剣の先端が音の速さを超えたせいで、動いた大気の速度差も一緒に音速を超えちゃって出た音だろうと思うけど、他はまだ想像すら出来ないしなぁ。
「はぁ」
ホントに溜め息が出ちゃう。
大体さぁ、剣先が音速に達するとか、物理的に考えてほとんど有り得ないし、そもそも肉体が保たない気がするんですけど、ワタシの身体ってまだ人間だよね?
何かちょっとこの可愛らしいおててに見入っちゃうよな。
全く何事も無い白魚の指が、逆に恐いわ。
しかしこれはマジで反省だよ。爆炎地雷の時もそうだったけど、ブツに限らず、検証の済んでいないワザの方も、実戦では使うべからずって事だしね。
女の子のおててや腕もほぼ直ったし、反省しながらトカゲ野郎共の死体でも回収して来ますか。
ワタシは未だに鼻息が荒いレティに断りを入れると、随所に転がるデカいトカゲ野郎共の回収に動き出す為、腰を上げた。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、ありがとう御座いました。




