060話
「ブゥギィャァァッ!!」
着地の直前、体を入れ替えてトカゲ野郎の攻撃を躱し、丁度良い所に居たヤツの首の上にケリをブチ込む様にして着地(?)すると、ワタシは反動を使って横っ跳びして、トカゲ野郎共が数匹溜まっているド真ん中に降り立った。
勿論、ケリをくれてやったヤツは即死に近い状況で、悲鳴の後でゆっくりと倒れる様を視界の端で確認済み。
しかしナンですな。思考加速のせいで、トカゲ野郎の悲鳴が長々と聞こえてウザいですよ。
膝を使って高さを変えながら、一回転して周囲のトカゲ野郎共の首を飛ばすと、トカゲ共の間をすり抜ける様に走る。
かなり素早い筈のトカゲ野郎の動きが、ハエが止まりそうな程遅く感じるんで、こんな芸当も朝飯前だ。
って言うか、ぶっちゃけトカゲ野郎共の動きが遅すぎて、逆に疲れそうな位ですわ。
笑っちゃう程遅い動きのトカゲ野郎共の間をすり抜けながら、バンバンとその首を刎ねて行く。
や、だってトカゲ野郎の素体って結構な値段が付くし、首刎ねって血抜きの手間が大分省けるから、そう言う効率もイイんだよね。
正面から突っ込んで来たトカゲ野郎の頭を掻い潜り、右側に出た瞬間にスパッと縦に首を斬り捨てると、そのまま身体を回しながら、更に右側から尾を振って来たヤツの尾を一瞬踏み台にして、真横から首を斬り飛ばす。
ぬうん。何か楽勝過ぎて、張り合いが無いわー。
思考加速の魔法ってヤバ過ぎですよ。
これならまだ、アレの北門でゴブやオークとぶつかった時の方がスリリングだったと思う。
思考加速の魔法を使う、本物の騎士卿と呼ばれる人達は「リザードマン程度はタダの的」って豪語するらしいけど、こんなんだったら、そりゃそー言うよなぁ。
やってみて、初めて判る世界だよ、ホントに。
ちなみに、トカゲの後頭部を削り取っちゃった鉄棒は大分曲がっちゃったんで、取り敢えず着地の寸前にインベントリに仕舞っているから、今のワタシの左手は無手だ。
それでも全く、これっぽっちも、戦闘行動に不自由が無い。
逆に余裕が出来過ぎちゃって、精密な首刎ねを実現する為に、時々白剣を持つ右手に左手を添えちゃってる位だし。
本来ワタシは剣を両手持ちする事が多かったけど、それは自分から動く事が前提だったからだ。
自分の動きに剣を付いて来させる為には、両手持ちじゃないとツラいからなんですよ。
でも相手の動きを待てる様になった以上、余程の強敵相手で無い限り、片手持ちで十分にイケちゃう。
剣を振るパワーなら余裕だし、片手使いの方が修行にもなるもんね。
性懲りも無く左側から突っ込んで来たトカゲ野郎の噛み付きを躱して、真横から首を斬り捨てると、その隙を狙ったのか、背後から食い付いて来た別のトカゲ野郎の顎の下に入り込んで、すり抜けざまに首を落とす。
ぬう。何かトカゲ野郎共の数が凄く多い気がするなぁ。
確か自走二輪の報告では30位って言ってた筈だけど、倍くらい居そうだよ。もう10は楽勝でヤってるのに、あんまし減った気がしないしねぇ。
探知魔法もどきのお陰で、ワタシは自分がほぼ戦場を飛び越して反対側に着地した事が判ってるんだけど、トカゲ野郎が多いせいで、生き残りの人らが居る方向に向けて進んで行くのが結構メンドい。
しかも思考加速のお陰で、トカゲ共の甲高い鳴き声が長々と聞こえて超ウザい。
段々と首を狙ってる理由が、コイツらの断末魔の叫び声を聞きたくないって方向に流れつつある位だ。
二匹が時間差っぽく頭を突っ込んで来たのを、更に下側に潜り込む様にしながら迎え撃つ。
多分連携の積りだったと思うんだけど、ゲロ遅いから欠伸が出ちゃう。無論ホイホイと間単に首を飛ばして、すり抜けた。
コレってなんかもう、ただひたすら疲れる作業(主に精神的に)を繰り返すって感じになって来ちゃいましたな。
「キィヤァァァー!」
何かちょっとダウナーな気分に入りそうになった所で、前方から絹を引き裂く様な、可愛らしくも間延びした悲鳴が聞こえた。
おおぅ!
見れば半分以上崩壊した防柵の所で、二名の討伐士っぽいヤツらが背後の数人を護ってまだ戦ってるじゃありませんか!
悲鳴の主らしい小さな女の子が、壊れた防柵の隙間から首を突っ込んだらしいトカゲに、身体強化魔法で強化したんだろう右手で張り手を食らわしてますよ。
イイねぇっ!
さすがに右手は一発でイカレちゃった様だけど、ああ言う絶体絶命の際に底力を出せるってのは素晴しい事だっ。
よっしっ。気を取り直して、援護に大技でもイッちゃうよっ!
思わず意気に感じて、ワタシは未だ実験中のショックウェーブ系のワザで援護の一撃を入れる準備に入った。
コレ、世間では剣技に分類されるけど、見た目は派手な攻撃魔法だから、前から密かに練習を重ねてたんだよねっ。
バラバラとスローな動きで襲い掛かって来るトカゲ共の首を飛ばしながらキーワードを呟いて、幾つもの風系魔法が連続励起されるのを刹那の間待つ。
連続して励起された魔法群を感じると、直後に一瞬のタメで白剣を振り被って、一気に振り抜く!
「どりゃぁぁぁっ!」
気合と共に剣を真横に振り抜くと、直後に凄まじい轟音が響き渡り、目の前のトカゲ共が皆、爆散したかの様に飛び散った。
「ひぃえぇぇぇ!」
思わずヘンな声が出ちゃったよっ!
ヤバいって、コレ。ヤバ過ぎるだろぉっ。
10は居た筈のトカゲ野郎共が、一斉に肉片と血飛沫に変貌して宙を舞ってるんですけどっ!!
あったま痛てぇぇぇ。
こんなワザじゃない筈なのに、一体全体どうなってるんだよっ!?
そもそもこれって事実上の範囲攻撃ワザだから、トカゲ位の防御力があると、ド真ん中辺に居たヤツ以外は飛ばされるだけの筈なのに、真ん中辺のヤツラはミンチになっちゃって宙を舞ってるし、周辺の連中もモロに吹っ飛ばされて、満身創痍で転がってるって言う酷い状況になってる。
ワタシから見た前半径が、一瞬で凄い地獄絵図になっちゃったよ。
無いわー。幾ら何でもコレは無いわー。
思考加速魔法との相乗効果ってヤツかも知れんけど、なんかヤリ過ぎ感が凄過ぎて、精神的に超絶ヘコんじゃうよなぁ。
「はぁ」
一つ溜め息をついてから、ワタシは舞い散るトカゲ共の肉片や血飛沫を掻い潜りながら、前方の壊れ防柵に向かって歩いた。
防柵はこっち側から見るとちょっとした段差の下にあるから、今使った謎の攻撃魔法の余波は少なかった様で、ちょっとだけホッとする。
防柵自体は何か全壊しちゃったっぽいけどさ。
防柵付近に居た生き残りのトカゲ共が、ちらほら襲って来るけど、そんな遅い攻撃じゃ今のワタシには傷一つ付けられないっての。
ダウナーな気持ちに苛まされながらも、ホイホイと首を斬り飛ばして歩く。
ああ、早くおうち(動く貴族執務室)に帰りたい。
何もかも忘れて、さっさと寝ちゃいたい。
「はぁぁ」
更に溜め息が漏れた。
カッコ良く少女の前で大技をキメようと思っただけなのになぁ。
突然地獄のド真ん中に転移した様な惨状を見せ付けられちゃったら、どんな人間でもドン引きだよね。
まぁそれ以前に、余波を食らって満身創痍で失神してるのがオチか。
何か精神的にすっごく削れちゃうよ。
正義の味方登場~の筈が、トンデモ攻撃で味方も全滅ってか? 笑えない話だよなぁ。
「おーねーえーさーまー、がーんーばっーってぇー!」
へ?
何やら前方から間延びした黄色い声援が・・・。
おおぅ! さっきの少女が、失神するどころか、こっちに無事な方の手を振ってますよっ!!
マジか? マジであんなトンデモ攻撃の余波を食らっても、手を振ってくれちゃったりするんですかっ!?
見れば討伐士っぽい二人も無事なようで、彼らもこっちに手を振ってくれてた。
いやー、みんなが無事で居てくれて良かった!
ドン亀の様なスピードで突っ込んで来た、トカゲ野郎の顎の下につま先でケリをぶち込みながら、こっちもゆっくりと左手を振り返した。
思考加速中だから、マジな動きで手を振ったら見えないからねっ。
伸び上がった感じのトカゲ野郎の首をスッ飛ばし、血飛沫を右に避けると、更なる生き残りを探す。
いやぁー、何か俄然やる気が湧いて来ちゃいましたよっ!
ってまぁ、やる気になっても、探知魔法もどきに映る生存魔物はもう5、6匹なんだけどさっ。
本日はこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、ありがとう御座いました。




