058話
「ふむん」
柔らかめのバゲットに沢山の具が挟まれ、食べ易い大きさに切られたサンドイッチを食らう。
デッカく口を開けないと食べられない様なブツだけど、こう言うモノには、こう言うモノの美味さってのがあるんだよね。
やや濃い目の味が付けられて炙られたベーコン系の燻製肉を主材に、チーズ、ゆで卵のスライス、レタス、香草、etc.の具材が奏でるハーモニーがンマい。
西聖王国って全体的に魔物が出難い(特に北部の中枢は出ない)から、周辺諸国から比べれば裕福で食材も豊かだし、こんなサンドイッチ一つにもその豊かさが出てる気がするけど、このテって何でもカンでも具材を突っ込めばイイって物じゃない。
全体のハーモニーが重要なんだよな。その点、あのおばちゃんは流石って感じだと思う。
あっと言う間に一つを食べ切って、次のブツに手を伸ばす。
ついでに、籠に入ってたまだ若い赤ワインを一口。
瑞々しい感じの味わいがサッと口の中を流れる感じで、何か食が進みますな。
「御落胤サマは随分と優雅な御昼食じゃねえか。俺の分は無いのか?」
ワタシがおばちゃんの用意してくれた昼食を楽しんでると、無粋なおっさんが話し掛けて来た。
「んん? 勿論無いよ」
肩を竦めながら答えて、ワインをもう一口。
んんーっ。高価なワインでは無いけど、この瑞々しさはクセになる感じだね。食事の合間にはとってもイイですよ。
「勿論って、酷ぇなぁ。アレの町の英雄様はケチなモンだぜ」
「バルリエ様はもしかして昼食が未だなのですか?」
やや離れて隣に座って、同じくおばちゃんのサンドイッチを食してたレティが口を開いた。
「ああ。手下の連中と一緒に早めに食おうとしたんだが、俺だけ食いそびれちまってな」
「しょーがないなぁ。グラスを持って来れば?」
「おおっ、話が判るじゃねーか」
両手を広げてワザとらしく哀れみを誘うフェリクスおっさんに、仕方が無いから別けてあげると伝えると、おっさんはいそいそと椅子まで持って来て、籠に手を突っ込んだ。
まあ量的には軽く5人前位はあるし、最初からおっさんにも分ける積りだったんだけどさ。
「しかしこの車、本当に揺れないよね。走ってるのがウソみたいだよ」
「まーなぁ。何から何まで魔法仕掛けの車だから、ちょっと有り得ねえ様な動きをしやがるんだよな」
ワイングラスを片手に早速サンドイッチを頬張って、ご満悦な感じのおっさんが上機嫌に答えた。
ワタシ達が居るのは、例の「動く貴族執務室」の中だ。
窓から見える光景を見ると、かなりのスピードが出てる感じなのに、山岳森林地帯の細い街道を走ってるとは思えない揺れの少なさだ。
本当は窓では無く外の景色を映し出す魔導具で、実際の窓なんてこの車内には無いんだけどさ。
貴族趣味に作ってはあるけど、実際には魔物討伐戦の最前線で活躍する軍団指揮車だしね。
走ってるとは思えない程に揺れが少ないのも、魔法による物理抵抗力が効いてる事が大きい筈だ。
「そう言えばアレだな。愛人に渡すにしちゃあ随分と張り込んでやがったよな。流石に金持ちは違うよなぁ」
「ぶふぉっ! ち、ちょっと、いきなり何言いだすのよっ!」
あっと言う間にサンドイッチを食べ切っちゃって、レティが食後のお茶の用意に入った所で、おっさんがトンデモ無い事を言い出した。
見送りに来たリーズに、別れ際に香箱を一つ渡したのを密かに見てやがったらしい。
「オイオイ、別にイイだろ。確かにお前さんの歳じゃテレもあるだろうが、女同士なんて別に珍しくも無ぇ話だ。向こうだって、お前って言う恐ぁい彼女が居るって言えば、それだけで虫除けになるし、イイ事尽くめじゃねえか」
「だーかーらー、そう言う関係じゃ無いって言ってるのっ!」
何かニヤニヤし始めたレティに一睨みをくれてから、ワタシはリーズが魔法士の勉強にルーベル本家に行く事を、一からおっさんに説明してやった。
「右も左も判んない所へ行くんだから、ヘタをするとお金位しか頼れる物が無い場合だってあるでしょ?」
ちょっとムッとした表情で同意を求めると、何故かちょっと遠い感じの眼をしたおっさんが、頷く様に下を向いてから顔を上げた。
「成る程な、そう言う事か。まぁ確かに金ってのは頼りになるからな。香箱一つ(約500万円)位あれば、大抵の事は何とかなる」
んん、なんだろ? おっさんの反応がちょっと妙ですよ。
前にお金で酷い目に会った事でもあるのかな。
「高位魔法士を目指すってんなら、金は幾らあってもイイ。無論コネもな。成る程、お前は外見に似合わず世慣れしてやがるぜ」
お茶を断ったおっさんは、執務机の方に戻って椅子に座ると、紙巻に火を点けて、残りのワインを全部自分のグラスに注いだ。
「俺はこう見えても、まともな騎士学校なんか出ちゃいねえんだ。金もコネも無かったからな。見習いからの叩き上げさ。だからそう言う話を聞けば、そりゃあ応援してえって言うお前の気持ちは判るぜ」
不思議な事に、おっさんの煙草から出る煙は一切こっちに来ないどころか、天井に漂う事もないみたい。風系魔法の気配も無いし、どうやってるんだろ?
「ある意味、一人で世の中の貴族共相手に打って出ようって言うんだから、生半な気合じゃ済まないけど、あの娘にはそれがあるからさ」
「そうなんだろうな。そういう意味じゃ、俺もお前もあの娘も、結構似た様な者同士って事なのかも知れねえなぁ」
何かおっさんは感慨深げに頷いてるけど、こっちはおっさんの煙対処技術が、気になってしょうが無いよ!
「それはともかく、それ、どうやってんの? 全然煙が広がって来ないんだけど」
思わず訊いちゃうと、おっさんは一瞬「はぁ?」って顔をしてから、思いついた様に手を叩いた。
「そいつはイイ! 流石のお前にも判らねえ魔法って事だよな? 何か一矢報いた気分だぜ。お前にはやられっぱなしだったからなっ」
ぬにゅう。急にニコニコし始めたおっさんがウザいですよっ。
でもホントにそれ、どうやってるんだろうな。謎だ。
簡単には教えてくれなさそうなおっさんを無視して、ちょっと考え込んでると、急に何かの警告音みたいな音が鳴った。
「閣下、先鋒の自走二輪がリザードマンの群れと交戦中の馬車隊を発見しました!」
「状況は?」
「約2マイル(約3200m)先にあるダレク村の、更に約1マイル先の防柵付近で3台の馬車隊がリザードマン約30と交戦中との事です」
執務机に何か仕掛けがあるみたいで、声はそこから聞こえて、おっさんもその机に向かって話してる。
「まず村の安全が先決だ。そっちに急行してくれ。こっちは騎士がほとんど居ない以上、現場には迂闊に手が出せん」
「了解。自走二輪には村に急行させます」
自走二輪ってのは魔石駆動の二輪車の事で、討伐部隊がモロに連絡用とかで使うヤツだ。
この指揮車ってデカいから、こんな細い街道を結構なスピードで走ると、前から馬車とかが来た場合にヤバいんで、かなり前を先行してたんだよね。
「他の車に騎士って乗ってないの?」
何か考え込んだ感じのおっさんに声を掛けると、おっさんはお手上げだって感じに両手を上げた。
「ああ。ランスにはお前と俺が行けば格好が付くからな。部隊本体の指揮に全員残して来た。人が乗ってない方が魔石の減りも違うから、兵も最低限度の数しか乗せてねえ」
なんだかなぁ。協会自慢の自走装甲車両を4台(内3台は中小型だけど)も連ねてるのに、肝心の兵が乗って無いってのも笑えない話だよなぁ。
しょうが無い。おニューの皮鎧の慣らしもあるし、ここは一つ、このマリーちゃんの出番かな?
鎧を着たままで居て良かった!
「取り敢えずワタシが行くよ。おっさんは村で守備を固めなきゃいけないでしょ?」
ワタシがそう言って出入り口の扉の前に立つと、おっさんは渋々って感じで、片手を挙げて了解の意を示した。
「そうだな。悪いが頼めるか?」
にゅふふふ。やっぱフェリクスおっさんは、アレのしぶちょーと違って話が早いわ。
「もっちろん! レティは?」
「無論、御一緒させて頂きますよぉっ」
見ればレティは、何時の間にか完璧な討伐騎士スタイルに衣替えして、やる気満々って感じですぐ横に立ってた。
うーむ。おっさんの煙対処術もそうだけど、レティの早着替えのワザも是非教えて欲しいもんだよなぁ。
「お前たちのサポートに最前列の一台を行かせるが、3人しか乗って無いから、イザって時の撤退用だと思ってくれ」
おおう、この臨機応変の対応! 流石は騎士卿っ。
「了解。じゃ、ダレクの村が撤収地点だね」
ワタシは扉を開けると、レティと共にその先にある更なる扉との間のスペースに立って、扉を閉めた。
この二重扉って、走行中に出撃するには便利だよね。まあ、流石にそう言う用途であるワケじゃ無いんだろうけど。
「んじゃ、ワタシが先に出るけど、レティは巻き込まれ無い様に付いて来て」
「ひぃ様のアレは本当に傍迷惑ですからねえ。味方もそうそう近寄れないのは問題だと思うのですが」
ぶへっ。何か初っ端から出鼻を挫かれる様な事を言われちゃいましたよっ。
ってまあ、確かにししょー直伝のあの走りは、アレの町でも大迷惑だったもんな。
でも、こんな裏街道で遠慮なんかする積りは無いし、初っ端から全開で行かせて貰うまでだよねっ。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、有難う御座いました。




