057話
支部の建物に入ると、予想した通り人影はまばらで、ラウンジもテーブル数卓に人が居る程度だった。
でも誰も客が居ないカウンターの方へ歩き出すと、早速ワタシを見つけたのか、数人の討伐士達の声が聞こえて来た。
「おい、千体斬りだぞっ」「バカ、声がでけぇ」「アレがかよ、マジか?」「バーカ。知らねえのはお前位だぜ」
むうん。何か色々と言われちゃってる様ですよっ。
思わず恥ずかしくなって、ちょっと俯く。
こう言うのって本当に慣れないよなぁ。逆に悪口を叩かれてる方が、気持ち的にはずっとラクな気がするよ。
ワタシを殺すにゃ刃物は要らぬ、人数揃えてホメ殺せば良いって感じだけど、恥ずいモノは恥ずいんだから、仕方が無いよねっ。
でもそんなワタシの気持ちも知らず、強面な討伐士達のボソボソとした褒め台詞は止まらない。
「あの若さで凄えよな」「大人になったらシャレになんねぇ」「グランツ以来の本物の英雄じゃね?」
うひぃっ、英雄とかマジで勘弁してーっ。
ああもうっ、また顔真っ赤になっちゃうよ!
耳を塞いで座り込みたくなっちゃう衝動を抑えて隣を見ると、レティのヤツはニコニコしながら平然と胸を張ってやがった。
はぁ。本当にコイツってば悩みが無さそうでイイよな。
「やっぱり来たか。取り敢えずこっちに来てくれ」
カウンターの向こうから声が掛かったので見ると、しぶちょーが奥の扉を開けて手招きしてた。
おおっ、助かった!
ワタシは速攻でカウンターまで行くと、受付の人に向こうへ入れて貰って、さっさと奥の扉を潜った。
「はぁ。何かダメなんだよね、あー言うの。助かったよ」
奥の廊下に出たワタシが取り敢えずお礼を言うと、しぶちょーが肩を竦めた。
「お前さんに渡す物やら何やら色々あるんで、正直遊んでる時間が無かっただけだ。そうじゃなきゃ連中と一緒にからかってたさ」
むう。この人ってば本当に物言いが変わらんね。
何か文句を言ってやろうかと思ったら、しぶちょーがさっさと歩き出しちゃったんで、しょうが無いから付いて行く。
ぬうう、仕方が無い。ここは一つ大人の余裕を見せて流してやろうかね。
とか思った瞬間、隣のレティが口を開いた。
「お嬢様は高貴なお生まれですから、あの様な場には馴染みが御有りにならないのです」
「ああ、そうなんだろうな。如何にも高位貴族っぽい雰囲気で、言動までそうだから、さすがの俺でも判るさ」
「高貴な御方と言う存在は、例えどの様な状況においても、高貴さが滲み出てしまうもので御座いますから」
レティのヤツ、ワタシが馬鹿にされたと思ったのか、口撃に出ちゃったみたいだけど、高貴な御方ってナンですかね。
マルシルじゃ一応王族の末席に居たけど、別に「高貴」って程じゃなかったと思うんだよな。
あんまりヘンなハッタリとか効かせちゃうと、いざバレた時に超恥ずかしいから、マジで辞めて欲しいんだけど。
そんな事を思いながらレティとしぶちょーのやり取りを聞いてる内に、ワタシ達は何時ぞやのダイニングの部屋に辿り着いた。
「おおっ、千体斬りのお姫さんか! こっちに持って来て良かったぜっ」
ダイニングテーブルが見える所まで進むと、この前の鎧屋のおじさんが、テーブルの上に新品の皮鎧を広げてた。
「あ、こっちに来てくれたんだ。ありがとう、おじさん」
しぶちょーに目線で仁義を切ってからテーブルに向かうと、おじさんは早速新品の皮鎧を両手で持ち上げて見せてくれた。
「イイって事よっ。それより、取り敢えずコイツを着けて見てくれねえか?」
見れば皮鎧はワタシがオーダーした通り、上下に分かれたタイプで、服の上からでも普通に装着出来る様になってる。
「いいねぇ、コレ。良くこんな短時間でこれだけのモノが出来たと思って、感心しちゃうよ」
上は頭から被って、両脇を締める形のモノで、肩当は別体になってて取り外しも自由な形だ。
ワタシはワークシャツの上から鎧を被る様にして着ると、両脇の小さなベルトを締めて、感触を確かめた。
うんうん。イイ感じですよっ。
時間が無かったから、もっとシンプルな感じかと思ってたけど、色々な細工や皮の貼り合わせなんかがしてあって、かなりの高級感がする仕上がりだ。
下はスカート状になってて、膝上くらいまでバッチリ守られる感じだけど、ズボンの上から着けてみると、見た目よりずっと軽快感がある。
レティに肩当も装着して貰って、おじさんが掲げた鏡を見ると、何か一端の討伐騎士(随分と小型だけど)っぽい感じのワタシが映ってた。
「うわぁ。何か思ってた物より数段上の出来だよ、おじさんっ!」
「おうおう、そう言って貰えると、こっちも徹夜した甲斐があるってもんだぜ」
何かとっても嬉しくなっちゃって、ワタシはインベントリから大金貨を二枚(約40万円)出すと、おじさんに渡した。
「本当にありがとっ。コレ、後金ね」
「いやいや、前金で一枚貰っちまってるってのにイイのか? 確かに気合は入れたが、加工賃に大金貨3枚は貰い過ぎな気がするんだが」
「イイってイイって。これだけの仕事を短時間でやって貰ったんだから、この位は当たり前でしょ?」
「かぁーっ、流石に気風がイイなぁっ! 千体斬りの英雄様は違うぜぇっ!!」
げっほ、げほげほ。英雄サマってのは辞めて下さいな、おじさん。
またちょっとヘコみそうになった気持ちを叱咤して、鎧の装着感を確かめる為に、その場で軽く動いてみる。
うんうん。コレは前の鎧と比べても、数段上のクオリティですよっ。
動きやすいし、防御力も高そうだ。まだ一切の魔法を掛けて無い所も好感が持てる。
本当のプロは、自分の畑以外の所は手付かずにするのが基本だけど、偶に勘違いしたプロもどきとか居るからね。
良い皮鎧が出来上がって良かった!
「コレで装飾剣でもブラ下げて、騎士マントの一つでもなびかせれば、立派な討伐騎士様の出来上がりだな」
ワタシが鎧の出来にニマニマしてると、横で見ていたしぶちょーが、何か衣装ケース鞄みたいなヤツを開けて、こっちに見せてきた。
「何これ?」
鞄の中には、マントらしい布地と幾つかの煌びやかな金具、そして見事な細工のサーブル剣が一本入ってた。
「ブレイブ勲章に付いて来るブツだ。式には間に合わなかったが、昨晩遅くにやっと届いてな」
ふーん。昨日遅くって事は、フェリクスおっさんに連絡を入れに来た人が持って来たって事なのかな?
「協会が勲章に付随してくれる礼装には剣の刀身がありませんから、後で何か適当なモノを入れておきましょう。マントの方もわたくしが後で仕立てておきます」
後ろに立ってたレティがそう言って、しぶちょーから鞄を受け取ると、鞄ごとインベントリに仕舞った。
「ちょぉーっと待った! 刀身ならココにあるぜ!!」
レティが鞄を仕舞った直後、厨房の方から大きな声が聞こえて、ドニさんとおばちゃんが顔を出した。
「コイツはもし娘が騎士になるって言った場合に作ったヤツなんだが、ならないって言うんで用済みに成っちまったブツでな、貰ってくれると嬉しい」
そう言ってドニさんがインベントリから出して来た刀身は、片刃のちょうどイイ長さの物で、しかもかなりの業物っぽいブツだった。
「いいの? コレ、かなりのモノっぽいけど」
「確かにきっちりと手順を踏んで魔法剣化してあるから、実戦でもバリバリ使えるが、手入れ要らずだから礼装剣にゃもってこいだ。使ってくれ」
受け取った布で包まれた刀身は青光りしてて、如何にも魔法剣ですよって訴える様な出来だ。
「さすがにカタナ打ちの剣じゃ無いが、礼装剣だったらイイだろ?」
「いやぁ、イイどころか礼装剣には勿体無い様な出来の剣だよ。本当にイイんなら貰うけど」
「ギガリッパーも一匹貰っちまったし、さすがにこれ位のブツは渡さないと、お前へのツケが払い切れんよ」
両手を上げて肩を竦めるドニさんに笑いながらもお礼を言って、ワタシが刀身をインベントリに仕舞うと、今度はおばちゃんが近づいて来た。
「色々忙しくて、ごめんなさいねぇ。コレ、昼食代わりに食べてね」
おばちゃんが大きなカゴを渡して来たので受け取ると、中には沢山のサンドイッチとワインが一本入ってた。
「マリーちゃんに言われて、私も気が付いたわ。自分たちの暮らしは自分たちで守って行かないとダメなのよね。これからは私達も頑張って行く積りよっ。ありがとう」
「あ、いや、こっちこそ、何か色々とエラそうに言っちゃって御免なさいって感じ? でもそう言う風に言って貰えると嬉しいよっ」
握手をしてお礼を言うと、おばちゃんはテレ臭そうにしながら厨房に戻っていった。
うーん。何か終わり良ければ全て良しって感じだよねっ。
次の町でもこんな風に色々ウマく行けばイイんだけどねぇ。
「さて、それじゃそろそろ南門に行くか。馬車を用意してあるから余裕で着く」
しぶちょーがそう言って扉の方に歩き始めたので、ワタシはドニさんと握手を交わして別れの挨拶をすると、しぶちょーの後に続いた。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、有難う御座いました。




