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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
侍女来襲
56/221

056話

「ハッ! エラく気合が入ったみてぇじゃねえか。じゃぁ明日の正午までに南門に来てくれ。頼んだぜ?」


 おっさんはそこ迄言うと、さっさと部屋から出て、ほぼ無音で階段を下りて行った。


 流石は騎士卿! 酔っ払って階段を走り降りても音が小さいですよっ。


 ある意味能力のムダ使いだけど、こう言う所から協会の評判ってヤツが出回るから、手は抜けないんだろうなぁ。


 もしかしたら、ある種の修行の一環でやってるのかも知れないけどさ。


「マリー、明日の昼には町を出ちゃうんだ・・・」


 おっと、おっさんとの話を聞いてたリーズが、何かとっても悲しそうな顔になっちゃってますよ!


「う、うん。でも半日ちょっと早まったダケだし、どの道、リーズとはストガートでまた会えるじゃない」


 にゅう。可愛いが悲しそうにしてるのを見るのはツラいっ。


 思わず頭をナデナデしちゃうと、俯き加減だったリーズが、くすぐったそうに顔を上げた。


「そ、そうだね。近い内にまた会えるんだもんね。私、マリーに手紙を書くよっ」


 顔を上げたリーズが何か照れ臭そうに笑って、キュッと軽めに抱きついて来た。


 いやー、やっぱりリーズは可愛いわぁ。


 機嫌を直してくれて良かった!


 ワタシにとっても、リーズは出奔後に初めて出来た友達だし、文通は望む所だよっ。


 討伐士協会の支部で頼んで貰えば、大した金額も掛からないし、確実性が高いから便利だもんね。


 そんな事を話しながら、ワタシ達は昨日と同様に一緒にお風呂に入って、同じベッドで寝た。


 何か色々と話が続いちゃって、結構夜更かししちゃったけど、ワタシってばこー言う感じの付き合いは今まで無かったから、楽しかったよっ。


 勿論、何やら目を爛々と光らせたレティは、さっさとダイニング脇にあった侍女部屋に放り込んでおいたけどさ。








「ひぃ様、昨晩はお愉しみでしたね」


 朝起きて、ご飯を食べてからチェックアウトすると、ジャンさんが出て来て、何か色々とお礼を言われちゃった。


 うーん、チップとザリガニ君以外はタダで寝食のお世話になってたんだし、お礼を言うならこっちだと思うけどね。


 リーズの事だって、魔法士を目指す件はジャンさんが既に手配してたワケで、こっちは町の案内から表彰式の件まで結構こき使っちゃった形だからなぁ。


「さぞかし昨晩はお疲れになったのでしょうねぇ」


 てくてくと大通りを歩きながら、協会の支部を目指す。


 時刻は11時前だから、支部も結構空いてる時間の筈だ。


 別にそんな必要は無いんだけど、表彰式とか迄やったんだから、一応、支部に町を出る仁義を切ろうと思うんですよ。


「ああ、あの可憐なリーズ嬢が、ひぃ様の毒牙にかかってしまっただなんてっ」


 リーズって言えば、朝食後に既に使わなくなった初歩の魔法書を何冊か渡したんだけど、何か呆然としちゃって、その後のフォローが大変だった。


 考えて見れば、マジな魔法書なんて平民なら絶対に手に入らないブツだもんな。所持者には保管義務とかまであるしさ。


 単なる学園生だったリーズだと、多分今までに見た事も無かったんだと思う。


 ちゃんと色々話してから渡せば良かったと、ちょっと反省。


「ひぃ様に躾けられてしまった身体が疼いて、今頃は御自分で・・・」


「ちょっと! 後ろで得体の知れないヨタ話をブツブツ喋るの辞めてくれるっ!!」


 ワタシは道端でクルっと振り向くと、すぐ後ろに居たレティを睨んだ。


 ずっと無視して来たんだけど、さすがに内容がアレになって来たし、放っとくとどこ迄まで行くか判んないからねっ。


 得体の知れないハードなビアン話でもされた日にゃ、真剣に気が滅入っちゃうしさ。


「ひぃ様がわたくしを無視なされるからです」


 ワタシに睨まれたレティが、シレッとした顔で答えた。


「しかし中々盛り上がって来た所ですので、もう少しこのまま聞いて頂けると嬉しいのですが」


 勘弁してよっ。


 ナンだってこの女はこう、ワタシを伝説のレスボス島の住人にしたがるのかね。


「やーめーてーっ、頼むからそんな生臭い話を口にしないでくれる?」


「口にしなければ宜しいのですね?」


「実在の人物に関する話は、脳内でも展開して欲しく無いんですけど」


 むむぅって感じで正面きって睨みを入れると、さすがにこれは効いた様で、レティは両手を上げて恭順の意を示した。


 うむうむ。最初っからそう言う素直な態度だったら、こっちもイライラせずに済むんだよね。


 だけど・・・このテの話が出るって事は、またぞろレティのヤツはワタシに何か言いたい事があるんだろうなぁ。


「で、何が言いたいってワケ?」


 道端で立ち止まったまま、ワタシはレティにもう一度睨みを入れた。


「言いたい事などと言うのもおこがましい話で御座いますが、先のリーズ様の件はあれで宜しかったのですか?」


 ああ、やっぱりその話か。


 そんな気はしてたんだよね。


「うん。イイと思うよ」


 取り敢えず一言で答えながら、ワタシは宿での一件を思い起こした。


 レティの言うリーズの件ってのは、朝食後にワタシがリーズに施したインベントリの魔術の話だ。


 魔法書の保管に困ったリーズに訊かれて、思わず「ワタシなら施術出来るよー」って言っちゃった所、頼まれてその場でやっちゃったんだよね。


「ひぃ様のインベントリの魔法陣はオリジナル色がとても強い物です。簡単に他人に施して良い物とも思えませんが」


「べっつに友達なんだからイイでしょ? どーせリーズだって魔法士になるんだし、インベントリ位無かったら恥ずかしいよ」


 見ればレティは珍しく真面目な顔になってる。


 ま-ねぇ。レティの言う事も判るんだけどさぁ。


 レティが言う様に、確かにワタシが使ってるインベントリの魔法陣って、結構な特別製と言ってイイ。


 ワタシの魔法的な感覚って、結構世の中の一般的なモノからは掛け離れてるから、魔法陣も独特な運用形式に成り易いんだよね。


 例えば、ワタシがレティに刻んでるインベントリ魔法陣は二つあるけど、普通なら二つのインベントリ魔法陣を刻むなんて非効率も甚だしい事はしない。


 二つ分の大きさで一つを使う方が、使用魔法力が少なくて済むからだ。


 でも全く用途の違うモノを二つ欲しいと言う、レティ自身のリクエストに応える為に色々と試行錯誤した結果、二つの魔法陣を相互補完させる様な形が出来たから、今のレティにはそれを刻んでるんだよね。


 コレ、使用魔法力が実に同等の大きさの物の約2/3で済むと言う省エネっぷりで、我ながら良く出来たと思うんだけど、今回リーズに施したブツはその理論の応用で、普通に橙の魔法力の人が使う魔法陣よりずっと収納力が大きいのに、使用魔法力は普通程度に収まる様なヤツだ。


「ひぃ様、リーズ様は臣下の魔法陣を刻んでおらない方です。その点をお忘れなく」


 ふと見ると、レティは珍しく真面目な顔が続いてた。


 ぬう、なんだかね。そもそも、レティの臣下の魔法陣だって、消してあげるって言うのに、レティが嫌だってダダ捏ねるからそのままなんじゃんか。


「ワタシは元々、レティの隷属魔法陣だって消すって言ってるよね? あんな非人道的なモノを刻むのって精神的な苦痛なんだよ」


「ひぃ様はわたくしの騎士叙任の印を奪おうとお考えですか?」


「だーかーらー、ワタシはアンタを信じてるから、そんなモンに縛られたくないって言ってるの! 大体、犯罪奴隷でもないのに隷従系の魔法陣を刻むとか、何の罰ゲームだっての」


「ひぃ様はその様に言われますが、騎士にとってこの魔法陣は、あるじに絶対の忠誠を尽くすと言う強い意志を示す物で誇りなのです。そもそもこのテの物は本人の強い意志が無い限りは何年も定着しない物である事位、ひぃ様も御存知の筈ですが」


 ぬにゅう。なんか珍しくレティの真面目な顔が続いてちゃってて変な感じだけど、ワタシも脳筋な人間だから、ヤツが言わんとする事は判らないでも無い。


 騎士ってさ、主に従属する者だから、その忠誠を示す為に好んで必要以上の隷従系の魔法陣を刻むヤツが多いんだよね。


 騎士の間じゃ、わざわざ刺青染みたそのテの魔法陣の見せ合いをする位だって聞くしさ。


 ただねぇ、確かに王侯貴族の騎士叙任には隷従系の魔法陣を刻む事が必須だけど、大抵の場合、その内容は知れてるんだよな。


 ワタシがレティの騎士叙任の際に刻んだ魔法陣も「主を殺さない事」と「主の秘密を漏らさない事」の二つだけで、普通なら大体こんな程度だ。


 まぁ、本当なら「主を害さない事」になる所を「殺さない事」にしたのはちょっとアレなんだけどさ。


 レティのヤツはそれが不満らしくて、事ある毎に文句を言って来やがるんですよ。


 言いたい事は判るんだけど、そんなのを刻む側の身にもなってみろってんだよ、ホントに。


「もうこの話は終わり! 大体、ワタシがリーズに刻んだヤツって、別にそれ程高度なブツじゃないから、余所にバレた所で何の問題も無いよ」


「本当に本当ですね? もしあれがレアな物ならば、リーズ様御自身の安全にも繋がる話になりますよ?」


「だーいじょうぶ! 確かにあんなのを刻むとしたら、普通ならコネ使い捲くった挙句に結構な金額が掛かるけど、所詮はその程度だよ」


 まだ真面目な顔が続いてるレティにそう言い切ると、ワタシは無理やりに話を終わらせた。


 だって実際に、ワタシの描く魔法陣って、別にレアモノってワケじゃ無いんだもんね。


「やり方」がヘンなだけで、魔法陣自体はそれ程変わった物じゃないんだよ。


 レティのヤツは魔法位は持ってても、本質的に魔法士じゃないから、そういう所に気が付いてないんだよな。


 大体、魔法大学院生でも無いワタシに、そうそうレアな魔法陣とか開発出来るワケ無いと考えるのが普通だと思うのに、こいつはワタシの魔法陣の効果を知ってるからか、ワタシが何か特別な魔法陣を作れるモノと勘違いしてる所がある。


「ワタシの描く魔法陣は別にそんなに変わったモノじゃないんだよ。その内に真実は教える積りだけど、今はまあ、そう言う事で納得しといてよ」


 無理やり話を切ったせいか、何か叱られた犬の様な表情になっちゃったレティに負けて、終わらせた筈の話にちょっとだけ蛇足を付けると、何故かレティが急に元気を取り戻した。


「にょほほほ。ひぃ様には常人には理解しえぬ秘密が多う御座いますからね。その内にこのレティにも、その一端をご教授頂けるなら幸いですっ」


 ううーん、なんかちょっと妙なスイッチでも入ったかの様なレティが、恐いと言うかウザいんですけど。


 コイツのこー言う所の方が、よっぽど常人には理解出来ないと思うんだけどねぇ。


本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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