054話
「そう言えばあの時、なんで査定師の真似事なんかしてたワケ?」
話題が変わったんで、ワタシは審議会の時から思ってた事を口に出した。
普通に考えれば、騎士卿サマが荷受のカウンターに居たなんて、結構ムチャな話だしね。
「ん? ああ、エラいさん方がパーティで居なくなっちまったせいで、俺が留守居の大将にされちまってたからな。メンド臭え話から逃げてたって所だな」
何時の間にかおっさんは、ほとんどソファーに寝転んでるかの様に身体を預け切ってて、足まで組んでますよ。だらけっぷりが凄いんですけど。
しかも返答も酷いし。なんだかなー、良くそんな事が出来ると思って感心しちゃうよ。
「・・・良くソレで協会の騎士卿が務まるね」
「俺は魔物の討伐屋だぜ? 査定師の免状取ったのだって、メンド臭い事から離れられそうだったからなんだ。一生現場でイイって言ってるのに、勝手に持ち上げやがったのは協会の方なんだからな」
物凄くイヤそうな顔をしたおっさんが、答えながらもグイーっとシャンパンを呷った。、
ウン、それは酷い。主におっさんが。
爵位を3つも持ってるヤツのセリフじゃないよなぁ。
英雄サマも頭抱えてるんじゃないのかね。
「おっさん程強ければ、まあ周りはそうそう許しちゃくれないんじゃないの?」
「ソレはお互い様だろう? それにお前は俺と違って『白剣』を持ってる。将来何処まで行くか楽しみってモンだ」
ニヤっと笑いながらグラスを掲げたおっさんに、「うへえ」って感じでソファーに凭れ掛かる。
ちょっと嫌味の積りで言ったセリフが、こうも見事にブーメランしちゃうと、マジで疲れちゃうよねっ。
白剣ってのはワタシがししょーに貰った例のカタナ剣の事で、お話にも出てくる有名な剣だ。
知ってたら絶対あの場で突き返してたよ!
「ちょっと小用に行って来る。もし俺が戻らん内に迎えが来たら、そのまま行っちゃってくれ」
ドッとお疲れぇ~って感じになってると、おっさんがフラッと立ち上がった。
「ああ、了解。道に迷わない様にした方がイイよ」
「大きなお世話だ」
どうやら結構な量の酒が入ってるっぽいおっさんに、一応気遣いのセリフを投げると、おっさんが笑いながら部屋を出て行った。
一人残されたワタシはしょうがなしにシャンパンを啜る。
いやー、でもこのシャンパン、マジで美味いですよ。
悪代官がどこやらから集めた物なんだろうけど、酒の趣味だけは良かったモノと思われる。
何本かかっぱらっちゃうかと周囲をキョロキョロしたけど、さすがに後はまだワインクーラーに入ってる1本のみみたいで、ちょっとガックリ。
ま、そうそうウマい話は無いか。
しかし冷静に考えると、随分とアレな話を聞かされちゃったもんだ。
なんか一々思い当たる様な話ばっかだったしねぇ。リーズじゃないけどイヤんなっちゃうよ。
例のリプロン伯の誕生日にアーベルさんが来てた理由も多分ソレなんだろうし、デラージュが都落ちした理由もそうなんだろう。
もっと言えば、前代官がアクス-マルスに逃げたのも、しぶちょーが現代官をヤろうとしてたのも、それが理由でほぼ間違い無いと思う。
しぶちょーが南部連合に関係してるとは思わないけど、前代官氏に誘導的に誘われただろう事は想像に難く無いからなぁ。
ま、近日中に嵐が吹き荒れる事にはまだ成り難いだろうとは思うから、リーズが東聖王国に着く来月中頃になっても、それ程の影響は無いとも思うけどね。
せいぜいリプロンでの暗闘が熾烈になるって位だろう。
水面下はともかく、皆バカじゃないから少しづつ既成事実を積み重ねて、最終的に西聖王国から離反する形になるんじゃないかな。
荒れるのはヘタすると最終局面だけかも知れない。
魔物の脅威がある以上、大軍を動かすのは難しいし、クズ公爵3人が争う西聖王国には、元々大きな伯爵領を攻める余力なんて無い筈だもんなぁ。
「で、レティは今の話、どう思うワケ?」
ワタシは窓辺の床まである分厚いカーテンの裏側に声を掛けた。
「さすがに気が付かれましたか」
ちょっとはバツの悪い顔でもして出てくると思ったら、厚顔のレティさんは、シレッとした顔でカーテンの裏から出て来やがりましたよ。
「ソレで気が付かない方がどうかしてるよ。おっさんだって気が付いてただろうし、トイレに行ったのも、レティが出て来易い為の配慮だったと思うよ?」
「仁義を切ったダケでございますよ。忍び込んだのはひぃ様警護の為と、向こうに判らせる必要がありますので」
なんだかなー。そのシレッとムチャな事を言う所は本当に昔から変わらんよね、この娘。
「先のご質問ですが、情報はほぼ間違いの無いモノで御座いましょう。ただし、肝心な所が抜けていると思われますが」
「肝心な所?」
「王の存在です。王を立てぬとあらば、南部連合など、早晩今の西聖王国と同様の現状に陥りましょう。聖王都守護騎士団などは敵に囲まれておるが故に結束し続けられている稀有な例とお考え下さい」
王の存在ねぇ。王なんて居なくてイイとも思うけど、今の世の中じゃ旗印が無いと色々ツラいのも事実だしなぁ。
「そんなモンかねぇ」
思わずそう呟いて、レティにもソファーに座る様に促すと、レティはニッコリ笑って座ったと共に、机の上にあった未使用のグラスにシャンパンを注いだ。
ぬにゅう。やぱし狙ってやがったか。
「それも傀儡の王では成りませぬ。確固たる実力を待つ王を立ててこその国家です。連中は多分、その王たる人物に目星をつけたからこそ動き出したのだと思われます」
しかもレティのヤツ、速攻で残りを飲み干して、最後の一本まで栓を開けやがった。
真面目な話をするのか、酒を飲むのか、どっちかにして欲しいよなぁ、もうっ。
「王たる人物、ねえ。西は有り得ないから、東の直系筋とかかな」
西聖王国に正面切ってケンカを売る様な事をしでかしてる以上、連中が西の系統を担ぐ事は有り得ない。
それに西の系統を引っ張るなら、クズ公爵の誰かがもれなく付いて来ちゃうしね。
「それは判りかねます。もしかしたら、何かが起こってオストマークが見切り発車にGOサインを出したのかも知れません。リプロンとアクス-マルスを繋いでいるのは、紛れも無く彼でしょうから」
「ま、それはワタシもそう思うけど、なーんかすっごくメンド臭そうな話だよね。目星を付けられちゃった人も大変だよ」
王サマなんてやりたいヤツがやればイイとは思うけど、中々どうして、王サマってのもマジでやるなら結構大変だからなぁ。
「ワタシはチラッとしか知らないけどさ、王サマとか貴族サマって、マジでやったらかなり大変な仕事じゃん。屑がやったらすぐに潰れちゃうしさ」
「そうですね。こう言ってはナンですが、マルシル王家はブロイ家などの実力のある大貴族達が支えているからこそ存在しているのです。王家あってこその貴族、貴族あってこその王家、その様な形があったればこそ、国家の繁栄が約束されていると言うモノでしょう」
オヒオヒ。またそんなぶっちゃけた事言っちゃって、大丈夫かね。レティのヤツ、もう酔ったとかじゃないだろうな?
「まーねぇ。ワタシはそんなマジな貴族はムリだと思ったから逃げたんだけど、王サマってのはそれ以上に大変そうだよ」
「今のマルシル王ならば、国内で超級スタンピードが起これば間違い無く、家臣や貴族達を纏め上げ、その総力を挙げて討伐の前面に立たれる事でしょう。王たる者、当然であると言えましょうが、その様な気概があるからこそ、貴族達は見捨てられる事を恐れず、王に随身出来るのです」
ほう。中々イイ事言うじゃんレティのヤツ、とか思ってたら、何時の間にかもう最後のシャンパンがほとんど残ってないんですけど!
「目星を付けられている方に心当たりは御座いませんが、まずはその様な覚悟をお持ちかどうかが問われるでしょうね」
「王サマって本当に大変だよねぇ。って言うか、誰かが一人でガブガブ飲んだせいで、もうシャンパンが無いんだけど?」
だからイイ事を言うか、酒を飲むかどっちかにしてくれっての! って感じで言うと、レティはニヤッと笑って、インベントリから汗をかいたシャンパンボトルを取り出して栓を開け、テーブルに置いた。
やっぱり持ってたかと思いつつ、ワタシはそれをホホイと引っ手繰って、自分のグラスに注ぎ、まず一杯飲んだ。
何コレ? 今までのヤツより更に上物の味がするんですけど!
「ま、ひぃ様ならば笑いながら突っ走る事が出来ましょうが、大抵の方々は逃げておしまいになるでしょうからね」
ぬにゅう。コイツ、もう屋敷のどっかから結構な数の特上シャンパンを調達(かっぱらうとも言う)して来たんですか。
全く何時もながら抜け目の無いヤツだ。
「魔物とガチでやり合う討伐騎士と王サマを同列に語るなっての。ま、言いたい事は判るけどさ」
一体どんだけ調達して来たのかと、ボトルを持ってちょっと睨むと、レティは指を三本立てて、またニヤっと笑う。
「3本?」
「ゼロが抜けてると思われますが」
30本かよっ! 良くもまあシレッとした顔で居られるよねっ。
どうせ真っ当な手段で集めたブツじゃないから、リストも無くてかっぱらい放題だったんだろうけど、ホント、レティだけは敵に回したくないよ。
そんな事を思ってると、入り口の扉がノックされてから開けられた。
おっさんかと思ったら、入って来たのは疲れ切った様なリーズだった。ぬう、大丈夫なんかな。
「只今戻りました・・・って、バルリエ卿は?」
「小用らしいよ。おかえり、リーズ。何か色々と御免ね」
ワタシが立ち上がって両手を広げてリーズを迎えると、リーズは急に笑顔になってワタシの腕の中に飛び込んで来た。
「はぁぁぁ。何かすっごい疲れたけど、何とかマリーの露払い位は出来たよっ」
ぬにゅう。頑張っちゃったんですね。
「有難うっ。でも、リーズの調子の方がこっちは心配だよ?」
リーズの頭をナデナデしたいけど、髪飾りが付いてきちんと纏められた頭はホイホイとは撫でられない。
ぬう、ちょっと不満ですよ。
「だってこれからは誰かの陰に隠れてる事なんて出来ないんだし、予行演習みたいなモノだと思ったのっ」
にゅうっ。可愛い事を言ってくれやがりますよ!
しょうがないから、抱き締めて背中をナデナデしちゃう!
「えへへへ、何かマリーってホントにお姉さんみたいっ」
背中を撫でると、リーズがくすぐったそうに笑った。
ああ、可愛いなー。超癒されるるるぅ。
何か今までの嫌な話の影響が綺麗さっぱり消えて行く感じっ。
これでこっちをガン見してるレティが居なければ、更に良かったんだけどねぇ。
ヤツの脳内が想像出来るだけに、ちょっとゲンナリしちゃうんだよな。
なんか邪悪な妖気を感じるし、まさかアイツ、次はワタシとリーズが主人公のビアン本とか書こうとしてるんじゃないんでしょうね?
ホントそれだけは勘弁してよね、マジで。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、有難う御座いました。




