053話
大変申し訳ありませんが、前話の052話を結構書き直させて貰いました。
お話の内容的には変わらないので、再読の必要は無いと思いますが、申し訳ありませんでした。
「マリー、御免ね?」
4人も乗れば一杯って大きさの小振りな町行き馬車の中で、ああ疲れたって感じで俯いてたワタシに、向かい側に座ったリーズがおずおずと話し掛けて来た。
「え? ああ、うん。別に良いよ。気にしないで」
顔を上げて微笑むと、リーズがちょっとホッとした顔をする。
まー、何て言うか、此処に至るまでが大変だったからねぇ。
本のサインが終わると、レティのヤツはまず、巧みな誘導でリーズを祝賀会でのワタシのエスコート役に指名した。
そりゃまぁ、町の有力者とかを知ってるリーズなら打ってつけだとは思うけど、レティってばリーズに彼女用の服を色々持って来させて、あっと言う間にリーズの支度を完成させると、馬車の手配やら何やらもささっとこなして、その勢いのまま、あっと言う間にワタシの服まで用意してくれやがった。
こっちはただボーっと立ってたダケですよ。
だってやる事無いしさ。
そしたらレティのヤツ、リーズと一緒になって立ってるワタシを着せ替え人形にしやがったんだよね。
一体何時の間にそんな数のワタシ用の服を用意してやがったんだっつ-の!
「にょほほほ。昨日には噂で聞いておりましたので、聞いた背格好に合わせてある程度は作っておりましたよ。ヒマでございましたし」
そう言いながらホイホイと数種のシャツだのジャケットだのズボンだのを出しては、その場でちょちょいと直しながらも、どんどんワタシに着せて来るんですよ。
リーズもきゃぁきゃぁ言いながら、レティを手伝って来ちゃって、もうゲンナリ。
「すっごーい! マリーってまるで何処かの王子様みたいぃーっ」
とかって、お目目をキラキラさせて喜ぶリーズには苦情も言い難いし、またしてもレティのヤツにしてやられたって感じだよ。
や、本当に疲れました(主に精神的に)。
しかし、流石にレティの見立ては完璧で、リーズも派手さは無い物の、結構な夜会服姿でキマってる(リーズは家名持ちだから夜会服を持ってた)し、ワタシなんかは本当にどっかの御曹司風でバッチリって雰囲気だ。
光沢のあるダークグレーのぴっちりとしたズボンに、ピラピラと派手なシルクシャツの上は、ズボンとほぼ同色の煌びやかな装飾付きのジャケットですよ。
何だこのお話に出てくる様な王子様スタイルはって感じ。
まあ成人前だし従騎士だから、色々な規定っつーか、常識的な服装みたいなヤツからは外れるんで、こんな感じの服装でもまだ地味目なんだけどね。
今の世の中、上級士族以上だと男性でも夜会服って結構派手だから、それ程目立たないだろうとは思う。
騎士卿のフェリクスおっさん辺りは、かなり派手な格好になるんじゃないかな。
ちなみに、レティのヤツは此処には居ない。何か用事があるらしく、後から代官所に来る事になってる。
また何か妙な事でも企んでなきゃイイけどねぇ。
「だって良く考えたら、本の話ってマリーも良く知らなかったんでしょ? 本当だったらレティさんとマリーの間で話す事なのに、私が出しゃばった感じなんだもん」
ちょっと考えに沈んでると、上目遣いのリーズが話を続けて来た。
って、リーズの「御免ね」は、そっちの話だったんですか。着せ替え人形の件はスルーなんですね。ええ、判ります、ハイ。
「ああ、うん。でもそのお陰で話も早く纏まったんだから、むしろリーズのお陰って感じだよ」
「ホント? 良かった。マリーにそう言って貰えると、こっちも気が楽になるよ。有難う」
うにゅう。話はともかく、ドレス姿でちょっと頬を染めて俯くリーズが可愛い!
本当に可愛い娘って、何を着ても可愛いよねっ。
「お客さん、御指示通り裏門に着けやすが、帰りもこっちからでイイんですかい?」
そんなこんなしてる間に、馬車は代官所に着いた様で、馬車が止まって御者の人の声が外から響いた。
ワタシは御者の人に「そうして下さい」と頼むと、着けられた馬車から降りて、軽く手を引きながらリーズも馬車から降ろした。
御者の人に大銀貨のチップをはずんで辺りを見回すと、裏門にも関わらず、周囲はかなりの数の馬車だの人だのが居て、結構な混雑っぷりで驚く。
これ、町中の人間が集まってるんじゃないだろうな。
どうしようかと、リーズ共々、思わず回りをキョロキョロしちゃう。
「おーい、やっと来やがったのかよ。こっちだこっち」
キョロついてると聞いた声が掛かったので、そっちを向くと、ド派手な井手達のフェリクスのおっさんが手を振ってた。
「エラくフットワークの軽い騎士卿サマもあったもんだね」
助かったと思いながら、リーズの手を引いておっさんの前まで行くと、取り敢えずは挨拶代わりに軽口を叩いてみる。
「ソレを言うならお前もだろう。大貴族サマ方の印章を預かる御落胤サマが、ロクに共も連れずの御入来じゃねえか」
軽口を返しながら笑うおっさんは、ワタシ達が側まで来ると顎をしゃくって、門の向こう側へ歩き出した。
さすがの騎士卿の貫禄で、おっさんやそれに続くワタシ達からは人が距離を取ろうとするんで、混雑の中でも歩くのがラクだ。
「それにしてもハデだねぇ。何処の王侯貴族サマかと思ったよ」
おっさんが着てる上着は、暗い赤系のベルベットに金糸銀糸で彩られてて、ジャラジャラとくっ付いてる装飾品やら勲章やらがキラキラと眩しい。
もうそれだけでも一際目を引いちゃう程の派手さだ。勿論、シャツだのタイだのズボンだのは言うまでも無い。
「おいおい、俺だって一応三つの国から爵位を貰ってる貴族の端くれだぜ? まあ確かに派手だとは思うが、これも義務みたいなモノだからな」
軽口を叩き合いながらも、混雑を抜けて代官所の建物に入ると、おっさんはワタシ達を連れてズンズンと廊下を進んで行く。
「爵位を三つって、結構凄くない?」
リーズを紹介するタイミングを見失っちゃったんで、取り敢えず軽口を続けると、おっさんはこっちを見ずに笑う。
「今の協会の騎士卿なんて大抵そんなモンさ。要はバランスってヤツだ。笑っちまう話だがなっ」
ほほう、成る程ね。騎士卿なら協会幹部の端くれなんだろうし、聖王国系三国の何処かダケの爵位を持ってるのはマズいって感じなのかな。
「さて、あの部屋で待機だ。まあ俺と一緒になっちまうが、別にイイだろ?」
「ああ、うん。別に何処でも構わないけどさ」
おっさんが一際立派な部屋の前で立ち止まると、部屋の前に立ってた兵士達が部屋の扉を開けてくれたので、ワタシもリーズを連れて中に入った。
「ふう。取り敢えず落ち着いた所で、まずはこの娘を紹介させてよ」
部屋の中に入って扉が閉まると、ワタシは開口一番、さっさとシャンパンっぽいボトルを手にしたおっさんに声を掛けた。
「うん? おお。それは構わねえが、もしかしてそっちの趣味かと思って訊かなかったんだよな。手とか繋いでるしよっ」
スポンッとシャンパンの栓を抜いて、ホイホイと置いたグラスに中身を注いでるおっさんが、こっちを見てニヤりと笑う。
「ちーがーうっての! この娘はワタシが泊まってる宿の娘でリーズ。こう見えても立派な魔法士の卵で、ストダート侯家の直臣騎士爵家の縁者だよ」
ちょっと赤くなりながらも、リーズを前に出すと、リーズは少し笑いを浮かべながら、おっさんの前に進み出た。
「リーズ・ルーベルと申します。お目に掛かれて光栄です、騎士爵様」
きちんとした所作で挨拶をしたリーズに驚いたのか、おっさんが慌てて飲もうとしてたグラスを置いた。
にゅふふふ。ウチのリーズを甘く見たらイカンぜよ。
「おいおい、こいつはお見それってヤツだなぁ。俺はフェリクス・バルリエって協会の騎士卿だ。宜しく頼む」
流石は騎士卿って感じの完璧な所作で挨拶を返したおっさんが、その後こっちを一瞬睨んだけど、気にしなーい。
だってちゃんと騎士爵家の縁者だって言ったじゃん。子供だからってナメてるから恥じ掻きそうになるんだよ。
「ところでバルリエ様、少し此処を離れても宜しいですか?」
おっさんに薄笑いで対してると、リーズが妙な事を言って来た。お手洗いですかね。
思わずリーズの方を見ると、リーズは可愛らしい両手の拳をギュって握って、何か気合を入れてる感じだ。
おしっこを我慢してる様にも見えなくはないけど、これってなんだろ?
「ちょっと色々と挨拶にね。マリーがそのまま人前に出たら、人が一杯寄って来て大変だから、根回しに行って来るよ」
あ! ああ、そうか。ワタシって唯の従騎士だから、前みたいに身分を笠に着た人避けとか出来ないんだ。
今頃になって気づきましたよ。うーん、何かリーズにすら一本取られちゃった感じですよ、コレ。
「流石は地元の名士の娘だな。頼むわ。もしこの部屋が判らなかったら、その辺の兵に訊いてくれればイイ」
「ハイ。じゃ、行って来ます」
ちょっと唖然としちゃったワタシを他所に、おっさんと話を合わせたリーズが、さっさと部屋を出て行く。
ぬにゅう。何かワタシって、宿からずっと役立たずな感じが続いてる気がするよなぁ。
ちょっと反省。
「はぁ。しかしこの町って大した事無いと思ってたのに、随分人が居るんだね」
何となくそんな気分になっちゃったんで、おっさんが注いだグラスのシャンパンをグイっと飲みながらソファーに座ると、おっさんも反対側のソファーに座った。
「なんだ知らなかったのか。この町はこれからどんどんデカくなる予定なんだぜ?」
「こんな辺境で? ちょっと考えられないんだけど」
口に含んだシャンパンは中々の上物だった。泡立ちも良ければ味も繊細で、コレって結構値の張るブツなんじゃないのかな。
これならグイグイ行けちゃいそうだと思いながら、暇潰しにおっさんとの話を続ける。
「お前、この町がなんで出来たか聞いてないのか?」
「何か前代官がハッスルしちゃったって聞いてるけど」
「前代官は話にノったダケだぜ? この町をこうしたのはゴットリープ商会だ。商伯の差し金さ」
ぶふぉっ。思わずシャンパンを拭きそうになっちゃったよ。何ソレ?
「要はロダーヌ河に頼ってた物流を陸路もちゃんと作ろうって話なんだよ。この町を基点にして、取り敢えずはランスまでな」
へええ。聞いてビックリって感じだよ。
確かに、陸路もあるけど結局河沿いだし、水棲魔物が暴れてたら、どっちも意味無しになるのは判るけど、そんな計画があったんだねぇ。
「セヴンから北へ連なる山岳森林地帯は確かに魔物が多いが、強い魔物はほとんど出ねえから、設備さえちゃんとあれば、大キャラバンを組めば楽勝だ。今だって細いがそっち経由の道はあるしな」
シャンパンを手酌で飲みながら、おっさんが別のボトルをこっちに投げて寄越した。
こっちも手酌でやれってコトか。
ワタシはポンッと貰ったシャンパンの栓を抜くと、取り敢えず一杯はおっさんのグラスに注いでから、自分のグラスに注ぐ。
「成る程ねぇ、商伯絡みだったんだ。でもソレでなんで、前代官に討伐指令まで出ちゃったのかな」
暇つぶしの筈の話が俄然聞きたい話になって来たんで、取り敢えず訊きながらもシャンパンをグイッと煽る。
ま、元の身体でもワイン一本位は飲んでも平気だったから、この身体なら楽勝だろう。
「おいおい、キナ臭い事を訊いて来るじゃねえか。そもそも商伯が何でこの町に目を付けたと思ってやがるんだよ」
あからさまに目をキラーンと光らせたおっさんが、ちょっとウザい。
でもキナ臭い話になるのはヘンだよね。陸路が通って喜ぶのは西聖王国中央だと思うけど、違うのかな。
「一言で言っちまえば、南部連合だ。何だが知らないが、ここんとこ急にあちこちで色々と動き出しやがってな。こっちはてんてこ舞いなんだよ」
「はぁっ!? 南部連合なんて嘘八百のサギ話がまだ罷り通ってるってワケ?」
南部連合ってのは、西聖王国の南部北限のリプロン伯と南限のアクス-マルス伯が組んで、間の王領各都市とかを傘下に入れて独立を図るって言う、前からある根拠の無い噂話だ。
商人達や下級貴族達の間で、出ては消えるって感じの話なんだけど、そもそも間が離れすぎてるし、両家の仲は悪いし、ぶっちゃけ詐欺話に使われる事はあっても、現実になる話とは到底思えない話なんだよね。
「ロワトフェルドがデクスと手打ちをして、オストマークと手を組んだと聞いたらどうだ?」
目を光らせたままのおっさんが、こっちの方に身を乗り出して、小声で囁いた。
うげぇぇぇ。その話が本当だったらシャレになんないんですけど!
ロワトフェルドってのはリプロン伯の事で、デクスはアクス-マルス伯だ。
もし、この一大領地を持つ西聖王国でも指折りの地方実力者二人が本当に組んだとなれば、話は俄然現実味を帯びちゃう。
その上、独立城塞都市群の事実上の大将をやってるオストマーク家(例のアーベルさんの所だね)とも組んだとなったら、コレはヤバい事この上無い。
「・・・シャレになんない事態に発展すると思うけど」
だってリプロン以南の各城塞都市が事実上の連合を組んだら、それだけでも独立国家として成立しかねないのに、隣接する独立城塞都市群まで巻き込めば、それはもう確実に西聖王国の息の根を止めかねない一大勢力になっちゃうしねぇ。
ワタシの回答に満足したのか、おっさんは一つ頷くと、そのままの姿勢で続けて来た。
「ここだけの話だがな。協会はリプロン死守に全力を上げる方針だ。流石に何時までも北部のバカ公爵共には付き合えんらしい」
うわぁ・・・。キナ臭いどころの話じゃ無くて、決定の話なのかぁ。
協会までがその流れに追従するってんなら、こりゃあデカい嵐になっちゃうのは確定だわ。
こりゃさっさと西聖王国はトンズラするに越した事はないな、ウン。
「協会の精鋭部隊がリプロンに駐屯するって事? シャレになんないね、ソレ」
「まったくだ。お陰で俺はランスに異動だよ。メンド臭え事極まりない」
前のめりになってたおっさんが、ソファーに後ろに倒れこむ様にして座って、背を預けると、お手上げだって感じに両手を上げた。
成る程ね。協会は魔物に強いおっさんをランスに下がらせて、対人に強い部隊をリプロンに送ったワケだ。
「でもさ、なんでこんな話をワタシにしたワケ?」
ヤバい話の内容に気を取られてたけど、そもそもこのおっさんがワタシに話す内容じゃないよね。
どう言う事なのかな。
「お前、オストマーク家とは縁があるらしいじゃねえか。精々取り込まれない様に注意しとけよ? そんな恩着せ話さ」
にゃるほど。指輪絡みのお話ですか。
ワタシが南部連合に組しちゃうと、将来引っ張る目が無くなるって事なのかな。
そこ迄見込まれるってのも、ちょっと気分のイイ話だよねっ。
「ついでに言えば、ランスには同道して貰うぜ? どっちにしろ通り道だろ。水棲魔物の後始末に付き合って貰おうと思ってよ」
おっと、なんだよ。そっちが本命の話か。
イイ気分になっちゃって、ソンしたよ。
ワタシは頷いて肯定の意思を示しながらも、ゆっくりとグラスに残ったシャンパンを味わいながら、おっさんに肩を竦めて見せた。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、ありがとう御座いました。




