051話
「くふふふ。そんな事を言いつつ、ひぃ様も市井で羽を伸ばして、色々と御発展されておられるのではぁ?」
あーあ、こりゃ完全に何時もの調子を取り戻しやがったな、レティのヤツ。
ワタシの即座の否定も何のそのって感じで、ネタ話を続けるレティに、真剣に頭痛がするんですけど。
本当、コイツはこー言うヤツなんだよねっ。
しかもコイツのこの「趣味」ってヤツは、何やら怪しげな地下出版で本まで出す程にイっちゃってて、そのテの人達の間では結構知られてる存在らしいから、始末に負えない。
「だ、か、らっ! ワタシはそー言う趣味は無いって何度も言ってるでしょ!?」
「まったまたぁー。そんな事を言いながらも、学院でもひょいひょいと美少女をつまみ食いなさっておられたではないですかぁ?」
「挨拶程度の軽いチュー位しかした事無いわっ!」
「ま、まさか・・・そんな・・・」
掛け合い漫才かって感じのやり取りの中、久々に本当の事をズバッと言ってやると、レティは妙に大げさな仕草をしながら俯いた。
うむ、良い機会だ。今度こそはコイツにも、現実と言うヤツをきっちりと認識して貰わないとねっ。
「ああっ、成る程! ひぃ様の脳内での『挨拶程度』ですね? よっく判ります!」
俯いたかと思ったら勢い良く立ち上がり、ポンッと音を立てて手を打ったレティに唖然として、ソファーからずり落ちる。
「ぐへっ」
思わずそのまま床に座り込んじゃったよ!
ダメだ、コイツ。
「貝合わせも○回まではお友達~とかってヤツですねぇ?」
「一体全体、何をどう聞いたら、そーなるんだってのっ! って言うか、真昼間から生臭い単語を出すんじゃない!!」
「ほほう? では夜なら宜しいので御座いますかぁ、ひぃ様?」
うにゅううう。完っ全にダメだわ、コイツ。
こりゃ相当怒ってるなぁ。
幾ら小っさい頃からの付き合いって言っても、レティは侍女だから、主であるワタシに直接的な感情をぶつけて来る事って無いに等しいんだよね。
でもその代わりに、別の手段で攻めて来るんだよ。
で、大抵の場合の手段がこのテの話だってーのは、判ってはいるんだけどさぁ。
思い出してみれば、ワタシはコイツを領地から来る父上の迎えに行かせた隙に出奔したワケで、そりゃ「裏切られた」って感じで怒らない方がおかしいかぁ。
「まあ、確かに悪かったとは思うけどさぁ。こっちとしては、アンタの自由意志ってのを尊重しようと思っての行動なんだから、その辺は判って欲しいんだけど」
ワタシは気を落ち着けて何とか立ち上がると、ズボンに付いた埃を払いながら、レティの方に向き直った。
「・・・それは勿論理解しておりますが、ひぃ様は臣下と言う者に対しての感覚が、少々アマ過ぎる所がございます」
詫びっぽい言葉を口にすると、レティの気も落ち着いた様で、どうやら本題に入ってくれそうな気配だ。
「例え火の中、水の中~って訳じゃあるまいし、幾ら臣下って言っても、主を見限る自由くらいあるでしょ」
でも取り敢えず、ワタシは主張を曲げないでおく。
そもそも、出奔したのはワタシの勝手な感情論が原因なんだしね。
「ひぃ様は臣下と部下と奴隷の区別が明確に付きますか? 少なくとも、ただ下に居る者と臣下の者の違い位は理解して頂かないと、その内、今の世を生きて行く事その物が苦痛に感じる日が来てしまいますよ?」
しかし居住まいを正したレティは、珍しくワタシの言葉を正面から否定してきた。
ぬう。いきなりマジっぽい話になっちゃったけど、これは一本取られたって感じですよ。
だってこの言い争い(?)、レティの言う事の方が遥かに正論で的を得た話だもんな。
生活の為や自己実現の為に誰かに従ってる人と、誰かに従う事自体が目的な人とは、そりゃ行動理念が全く違って当たり前だし、そもそも喧嘩別れしたとかってワケでも無いのに、後者に前者にとっての理屈である「自己実現の為に主を捨てる自由」なんて言い出しても、お話にならない。
さすがにこれはワタシの負けかな。
「はぁ。判っちゃいるけどさぁ。そう言うの(忠誠とかってヤツ)を向けられる方の身にもなってよね」
取り敢えず「判った」って感じの事を言うと、レティは我が意を得たりって感じでニヤっと薄笑いを浮かべた。
「既に新たな武家を立てられる事を決定されておきながら、なぁにを甘い事を言ってやがりますかっ。まさかコーニス家の家臣がわたくし独りで済むなどとお考えではないでしょう?」
にゅううう。相変わらず痛い所を突いてくるよねっ。
確かに討伐従騎士に成っちゃったんだから、ワタシはコーニスって名前の武家を創立てちゃったも同然だ。
これでどっかの貴族の下に付いちゃったら、モロに武家の立ち上げになって、家臣とか揃えなくちゃならんハメになっちゃう。
しかもブレイブ勲章なんて貰っちゃったから、討伐騎士に成る時に超メンド臭い展開(関係する貴族の取り合いとか)になるのも明らかなんだよな。
「あーあぁ、何かすっごくメンド臭ぁぁぁいっ」
改めて考えると、思わず頭を抱えちゃうよ。
メンド臭い事から逃げる為に討伐騎士に成ろうとしてるってのに、面倒な事ばっかり増えて行く気がするし。
「漸く、現実を理解して頂けましたようで。しかしひぃ様は、小スタンピード程度なら単独で征伐出来る程の御力をお持ちですから、多少の事はその力で押し通してしまえるのでは?」
にゅう。妙な過大評価は気になるけど、相変わらずの阿吽の呼吸ってヤツで、レティには一言で色々通じちゃったっぽい。
「ま、最悪は協会を頼る事にするよ」
まあ協会にツテも出来た事だし、最悪はフェリクスおっさんにでも叙任して貰って、協会傘下の独立騎士団旗揚げ~ってな形で誤魔化すかなぁ。
そんな事を言ってみると、レティはやっと頷いてくれた。
「そうでございますね。現実の路線としては、取り敢えずそんな所で宜しいのでは」
ふう。なんか疲れた。
でも今の段階で、ある程度の指針を決めておくって事は確かに大切だ。ししょーのセリフじゃないけど、周囲に振り回されない為には重要な事だからね。
「ところで」
ホッとした所で、レティが何やらずずいっと近づいて来て、両手でワタシの肩を掴んだ。
「何やらまた随分と御可愛らしい御姿になられましたねぇ。わたくしは小さな頃からひぃ様を知っておりますし、匂いで確かめましたから判りましたが」
ぶほっ。今頃になってその話かよ、ってか、匂いってなんなのっ!
「ち、ちょっと、匂いって何、匂いって? アンタは犬かってのっ」
「にょほほほ。このレティ、伊達に長くお側にお仕えしてるワケではありませんから。無論、ひぃ様が他の人より匂うと言う意味では御座いませんよっ」
ぬうう。今のワタシの身長じゃ、5フィート8インチ(約177cm)のレティと間近に向かい合うと、完全に大人と子供って感じだから、それだけでやり込められそうになっちゃうよ。
まあ一瞬、自分で自分の匂いを嗅ぎそうになっちゃったワタシの負けだとは思うけどもっ。
「しかし、一体どんな魔法を使ったのです? 姿をそこまで弄る魔法など、聞いた事もありませんが」
「まぁその話は宿に行ってからにするよ。ここに長居してもしょうがないでしょ?」
「確かにひぃ様の言う通りですね。どの様な仕掛けがあるやも判りませんし」
さすがのレティも、此処に長居したくないってのは即座に同意してくれたんで、ワタシ達はそのまま車両を出た。
勿論、扉はきちんと閉めたし、支部の受付にいた人(ソレーヌさんは居なかった)にも仁義は切ってから帰ったけどね。
「で、この姿の話なんだけど」
宿の部屋に戻ってダイニングに落ち着くと、椅子に座って開口一番、ワタシはお茶の支度を始めたレティに本題の話を始めた。
宿の受付に居た初老の人の話だと、リーズはドニさんの所へ行ってるそうで、一刻(約1時間)位は帰って来ないそうだから、都合がイイ。
さささっとお茶の支度を整えて座ったレティは、暫くの間、ワタシの話をうんうんと聞いていた。
まあ今更隠すのもナンだし、ワタシは今までの事をドドンと全部話す事にしたので、話は結構長くなっちゃったんだけどね。
まず血盟兄弟とか言う連中とヤり合った事から始まって、結構な重症を負った事、幼女化した事、魔法力の事、クーちゃんズの事、バカ強く成った事、もう色々と話しちゃいましたよ。
「しかし、お姿の件は真剣にマズいかも知れませんね。特に魔法力の件は見過ごせません」
話が取り敢えず終わると、レティが深刻な顔で意見を口にした。
「でしょ? まあそんなワケで取り敢えずサラに会った後、シルバニアの大学院にでも潜り込んで研究しようかと思ってさ」
「サラ様ですか。何やら色々と画策しておられる御様子でしたが・・・」
「アイツの事だから、また妙な事をやってるんだろうけど、悪いヤツじゃ無いし、取り敢えずは行こうと思うんだよね。出来れば魔法大学院への推薦状も貰いたいしさ」
「確かにサラ様の御推薦が得られれば、魔法大学院程度は楽勝でしょう。しかし、ひぃ様は魔法位をお持ちなので?」
ああ、忘れてたよ。
ワタシは討伐士章と一緒になってる魔法士章を取り出すと、レティに見せた。
「まさか本当に、あの放浪の剣鬼オマリー卿の直弟子になっておられたとは、このレティも信じておりませんでした」
何か珍しく驚いた様子のレティに「へ? そっちですか」って思ったけど、良く考えて見ればししょーって白銀の騎士なんだもんな。
そりゃ驚くか。
ワタシの魔法士章って「弟子章」だから、師の名前がバッチリ入ってるしね。
でも放浪なんちゃらって何って感じにレティに訊くと、レティは「ご存じ無いんですか!?」って感じで、また驚いた顔をした。
うぬう。やっぱししょーって、知らない方がヘンって言うくらい有名なヒトっぽいのか。
「そもそもオマリー卿は傍流とは言え、一応は高貴な御血筋に連なるお方です。その上、あのグランツェン殿下が無二の御親友と公言しておられましたので、単身で各地を放浪して暴れ回っておられても、誰も手の出せぬ立場だったと聞いておりますから、その辺りが有名なこの二つ名の由来と思われますが」
うわぁ・・・。
レティの説明を聞いて、何か何時ぞやのししょーのセリフが蘇って来ちゃいましたよ。
『ワシは父や兄やあの男ですらも盾にして生き延びておった事に気が付いて、慄然としたモノよ』
あの話って、そう言う事だったんだな。
そりゃ自分が得意になってバカやり捲くっても、何処からもお咎めがなかったのは、血筋と友達のカバーのお陰だったと知れば、愕然としちゃうよね。
「はぁ。ししょーって脳筋だとは思ってたけど、ホントにそう言う所って笑えないよなぁ」
しみじみと呟いちゃうよ。
「そっくりそのまま、ひぃ様にも言えるお話ですからねぇ。判っておられるようで、このレティも安心です」
ぶっほ、げほげほ。いや、まぁ、頭では判ってるんですよ、頭では。ハハハハ。
乾いた笑いで誤魔化して、レティにもう一度討伐士章を突きつける様に見せた。
「それはともかく、コレよく見て貰えば判るんだけど、なんか今回暴れ捲くったら、こんな星がついちゃってさ」
ちょっとやそっとでは誤魔化されませんよって表情だったレティが、それでもワタシの銅章に目を移すと、いきなり目が点になって大声を上げた。
「何とコレはブレイブじゃありませんかっ! さすがはひぃ様っ、市井に降りられて数日で、もう英雄に御成りになられるとわっ!!」
ばっか、ちょっと何騒いでるんだってのっ。恥ずかしいから辞めてよね!
「英雄じゃないよっ、勇者勲章だっての!」
ガルルルゥって噛み付かんばかりに威嚇して、はしゃぎ出したレティを何とか抑える。
「はぁ。何を恥ずかしがっておられるのか判りませんが、英雄も勇者も大して変わらないですよ? どの道、ひぃ様ならば天下に名を轟かせる武人に御成りになる事は決定事項ですしぃ」
大きく違うわ! って言うか、さっきもそうだったけど、その異様な期待値の理由ってナンなのよ、マジで。
ジト目で見ながらブツブツ呟くと、レティが呆れた様な顔でこっちを見た。
「まあ主が嫌がるのですからこのお話は又の機会にいたしますけど。そう言えばひぃ様、今宵の祝賀会のお召し物は如何される御積りですか?」
んん、お召し物ぉ?
「まさかその格好で地元の名士が集まる場に主賓として出る御積りではないでしょうね?」
なんかジト目を返してきたレティに言われて、ハッとした。
言われてみれば、ワタシってまともな服とか持って無いじゃん!
思わず頭を抱えたワタシを、レティが「やっぱりね」って顔で見る。
「本来であるならばドレスと行きたい所ですが時間がありません。季節も夏ですし、少年貴族風の上下で行きましょう。一刻(1時間)もあればデッチ上げられますから」
ぬうん。流石は侍女の鏡。例の魔法級の裁縫のウデで何とかしてくれるみたい。
「と、取り敢えずソレっぽいブーツなら持ってるよ」
そう言ってワタシが昨日買ったブーツをインベントリから出すと、引っ手繰る様にして手に取ったレティから「これなら何とか」とお許しが出た。
ううむ、ちょっと助かったカモ。実は昨日、コレ買おうかどうか少し迷ったんだよね。
買っておいて良かった!
ホッとするワタシをその場に立たせて、身体を触り捲くって採寸したレティが、さっさと寝室に篭って裁縫作業に入った。
はぁ。何かワタシ、今日コイツに会わなかったら、結構メンドい事になってたかも知れないな。
下手すると、ワタシが服を持ってない事を知ってるリーズに、自分のドレスでも着せられかねなかっただろうし。
別にドレスがイヤってワケじゃ無いけど、さすがにブレイブを貰う式でドレスってのも、カッコ付かない事夥しいもんねっ。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、有難う御座いました。




