050話
すみませんが、昨日の049話を少しだけ書き直しました。話の内容は変わっていませんので、再読される必要は無いと思いますが、申し訳ありません。
また、早くも設定の方も書き加えましたが、こちらは内容に大きな変更が無い限りは、以降は一々報告致しませんので、そう言う形で宜しくお願いします。
『はぁ』
心の中で溜め息をついて、膝の上でヘタばってるレティを睨んでると、こっちの反応も待たずにおっさんが続けて来た。
「ブロイ様っていやぁ、下位だが王位継承権まで持ってて、あの外人部隊の総帥だぜ? とてもじゃねえが、俺みたいなポッと出が逆らえるお方じゃねぇ」
外人部隊ってのは例のヤバい部隊の事で、元外国人が多い所から、対外的にはそんな名前が付いてるらしいんだけど、やっぱ西聖王国でも有名なのかぁ。
「あ、ああ、うん。そうだね。結構有名だよ、ね」
そうだろ、常識だよな?って感じのフェリクスおっさんに、顔が引きつりながらも答える。
「お嬢様は、ロスコー伯爵閣下の知己に当たられる、さるお方の御落胤なのです。ね、お嬢様?」
はえ?
いきなり復活して、ワタシの隣にスパッと飛び座ったレティが、妙な事を口走った。
ぬう。どう言う事かね。
どう考えても、コイツは父上に言われて、ワタシを連れ戻そうと動いてる筈だと思うけど。
もしかして家の恥になるから、ここはあくまでもブロイ家預かりの御落胤で押し通す積りか?
さっきからワタシの呼び名も「お嬢様」だし、何時もの「ひぃ様」と変えてるってのは、そう言う事だと解釈するのが妥当かな。
「う、うう、うん。そうだ、ね」
あぁ、なんかますます顔が引きつっちゃって、声が出し難いですよ。
「はぁ良かった。これでお嬢様がお忘れになった、閣下の印章を渡せますうー」
レティがそう言って、黒い小さな巾着袋を手渡して来たので、中も改めずにインベントリに仕舞う。
本当にブロイ家の印章だったらシャレにならないけど、どうせこっちは本物じゃ無いだろうし、見たってしょうが無い。
「オイオイ、さすがに凄えコネを持ってやがるなぁ。何処の、なんてとても聞けねぇが、さぞかしとんでもねぇ生まれなんだろうなぁ」
その様子を見てたおっさんが「こりゃ敵わんって」感じの手振りをして、おどけて見せた。
「お嬢様はこう見えても、既に錚々たる顔ぶれの方々の印章をお持ちですからっ」
ち、ちょっと! 何を横からホイホイと余計な事を言っちゃってくれてんのよ、この女わぁっ。
即座に横を睨んだけど、レティはおっさんに対して「どーだぁ?」って状態で胸を反らしながら、にこやかにワタシの方を見るだけで、ちっとも効きやしない。
そう言えばコイツは昔っからこうだった。
睨みも唸りも柳に風の如く受け流しちゃうんで、そのテは全く効かないんですよ。
「かぁー、そいつは凄ぇ。俺もあやかりたいモンだぜ」
片手で顔を覆って天を仰ぐおっさんに、レティは未だ胸を張ったままだ。
ぬにゅう。コヤツ、まさかお胸サマが減っちゃったワタシに対する当てつけの積りなんじゃないだろうなぁ?
レティは別に巨乳ってワケじゃないけど、普通位にはありやがるので、そう言う意味では、ある意味天敵と言ってイイかも知れない。
大体、普通位と言うヤツが一番厄介なんだよ。
巨乳の人とかが相手なら、別に対抗心とか湧かないけど、普通程度のヤツ相手だと、何かとても「負けた感じ」がするんだよね。
「まー、アレだ。取り敢えず積もる話もあるだろうし、俺は席を外すわ。出る時は扉を閉めてくれればイイが、一度閉めちまったら俺が開けないと開かないから、そこは注意してくれ」
ワタシがレティを睨んでると、おっさんはそう言ってワインボトルとグラスを持ったまま、そそくさと外に出て行った。
「あのおっさん、酒を持ってくるついでに、ワタシを此処に呼んだんじゃないんだろうな?」
そう口に出ちゃう程の鮮やかな退出っぷりだった。
「はれ?」
僅かな間おっさんに呆れた後で、視線を戻すと、何故かレティはさっきの立ち位置のまま、しゃがみこんでそっぽを向いてた。
「置いてきぼりにされた」
うわっ、レティってば何かメンド臭い雰囲気になってますよっ。
「置いてきぼりにされた」
にゅう。二度も続けるとは、コイツ、本気でいじけてやがりますな。
何か一瞬でとっても疲れた気がするけど、仕方が無いから、風系魔法で二人の間の空間にある空気を周囲から隔絶させて、会話の秘匿性を高める。
こんなある意味敵地のド真ん中で、ホイホイ重要事項とか口に出来ないしね。
「で、コレってもうワタシが父上に補足されて、連れ戻される作戦の最中ってコト?」
魔法発動後、まだそっぽを向いてるレティに渋々声を掛けると、レティはクルッと振り向いた。
「心外ですっ! 何故このレティがひぃ様のご意思に逆らう様な真似をするとお思いですかっ!?」
ぬにゅう。今さっきまで逆らい捲くってたヤツがよー言うわ。
「ソレ、どう言う事?」
取り敢えずは付き合ってやるかと、言葉の意味を訊き返したら、レティは何か急に機嫌が良くなって、またワタシの隣に座った。
「にょほほほ。当然ながら、このレティも出奔して来たと言う事ですよぉ。しかも、これを見やがれって感じです。ひぃ様」
はぁ? 出奔んー!?
驚きながらも、レティが自慢げに差し出した討伐士章を見ると、それは銀色で、表記に「Ⅴ」とあった。
「ええっ! レティって5級討伐騎士なのっ!?」
「ええっと、そっちじゃ無くて、名前の方を見てやって下さいよ、名前の方を」
んん? 良く見ると名前の所は「レオンティーヌ・レスタンクール」となってる。
「うわっ、思いっきり偽名じゃない! 何コレ!?」
「偽名などではありません。このレティ、出奔後はコレが本名なのですっ!」
一体何があったのかって感じで、ちょっと頭が混乱しながらもレティに視線を移すと、レティはじじぃーっとこっちの顔を見つめて動かないで居た。
所謂「侍女の指示待ちスタイル」ってヤツだ。
こうなったら、こっちから何か言うとかしないと、自分からは動かないんだよね。
こう言う所は本当に侍女なんだよ、コイツは。
しかしコレ、一体誰が絵図を書いてる話なのかなぁ。
確かにレティって、外人部隊の人間だから、形式上は父上に忠誠を誓ってる騎士じゃない。
大体、レティを騎士に叙任したのは、他ならぬワタシだしねぇ。
でも、外人部隊ってモロに父上の子飼いだし、父上の指図だと考えない方が変だ。
そもそも、外人部隊って正式に除隊しないで勝手に抜けると、地の果てまで追って来るコワーイ集団だから、何らの許可も無しに単身で抜けて、ホイホイとココ迄追って来れる程、アマい組織じゃないんだよね。
母上は勝手にレティを動かす権限が無いし、もし父上抜きと考えるなら、後は例の顔がゲロ恐い外人部隊の大将(レティの祖父)の指図としか考えられないんですけど。
「とぉーっても、色々聞きたい感じがするけどっ! まず最初に、この討伐士章って本物なの?」
まあ、まずは肝心な事を聞いておこう。
実際、御落胤って設定なら従者の一人も居ない方がヘンだし、もし本当にレティがフリーなら、これ以上頼りになる従者はいない。
「無論です! わたくしの主はこの世でひぃ様唯御一人っ。主が出奔の好機を伺って修行に精を出しておられると言うのに、黙って見ている臣下などおりませんよっ!」
ぬう。相変わらず何か頭が痛くなる様な事を平気で言いやがりますね、この女は。
「その内必要になるだろうと、色々な手段を使って、密かに取っておいた物なのですぅ。まぁ、魔物なんぞ、このレティには的も同然で御座いますからっ」
しかも何か意図的に答えの核心を言わないのか、レティの話には具体性が薄い。
まあイイか。ワタシは何かまた自慢げに胸を反らすレティにちょっと辟易としながらも、次の質問に移る事にした。
「でもさ、どうやって外人部隊を抜けて来たのよ。普通は簡単に抜けられないでしょ?」
「はぁ? わたくしはひぃ様に叙任された騎士ですから、とっくに籍は抜けてますけど?」
あっ、言われてみればそうじゃん。
「何を今更?」って感じで即答してきたレティを見て、ちょっとガックリ。
ぬにゅう。完全にシクったわ。なんかコロっと忘れてたよ。
でもなー、ソレだけじゃこの件、絶対に納得は出来ないんだよなぁ。
「だからさー、ぶっちゃけ、誰が後ろに居るのかって話よっ? アンタ一人でそこ迄の準備とか絶対ムリじゃん」
面倒臭くなって来たので直球勝負に移る。
元々、コイツ相手に妙な読み合いとかしても負けは確定だし、良く考えれば前から色々とバレバレなんだから、今更カッコ付けるのも変だよな。
「にょほほほ。さすがはひぃ様、ご慧眼ですね。まあ一言で言えば、あのクソじじいの差し金で御座いますよ」
げえっ、やぱしあの顔ゲロ恐のじいさんが後ろに居やがったのかっ。
ワタシがちょっと納得した感じの顔で頷くと、レティは更に話を続けて来た。
「あのクソじじいは、そもそもひぃ様の実母様に仕えてたそーで、息子である親爺殿と違って、ブロイ家には忠誠心が無いとほざきやがりましてね」
「え!? マジで?」
ちょっと思わず訊いちゃうよ。だってソレ、結構トンデモ無い重大発言なんですけど。
「勿論マジマジです。まあ此処だけの話にして欲しいんですが、あのじじいは実母様亡き後、ひぃ様に仕えさせる為だけにわたくしを鍛え込んだと常々言いやがってましたし」
うはぁ、なんだかねぇ。初めて聞いたよ、そんな話。
言われてみればあのじーさん、父上にすら結構厳しい事を平気で言うのに、ワタシにはゲロ甘だったもんな。
女の子には甘いのか位に思ってたけど、その理由が元コーネリアさんの従者だったからって聞けば、至極納得って感じだ。
「だから、ひぃ様が出奔される様だと密かに耳打ちした時は『その時は全てを捨てて即座に追って仕えよ』などと言い出して、色々な準備をしてくれやがりまして」
淡々と話すレティを見ながら、心の中で深刻な溜め息をつく。
こんな話をこんな所で聞くとは思わなかったよ。
だってこの話、本当は「出自不明の御落胤」であるコーネリアさんの出自に直接関わる話だ。
しかも、例のヤバい部隊こと外人部隊に元から居た外国人達が何処から来たか?って話にも繋がる、ブロイ家の重大機密ですよ。マジで頭が痛くなりそう。
取り敢えずシャレになんないし、この辺で辞めさせておくか。
ワタシはレティの話を片手を上げて一旦制してから、覗き込む様にしてレティと目を合わせた。
「話は判ったけどさぁ。なんで来ちゃったの? あのまま父上の所に居れば、爵位も貰えて、それなりに安泰だった筈なのに」
しかしまあ、こんな話まで出るって事は、もうレティのヤツがマジで出奔した事は確定と考えてイイ。
例え背後に父上が居たとしても、こんな話をさせる以上はもう連れ戻す意思が無いんだろうし、せいぜいクロ君に万が一の事があった場合の保険程度にまで、ワタシの重要性は落ちたと考えてイイと思う。
だって、こんなブロイ家の裏側に直結する話をレティから聞かせるって事は、父上はもうワタシに直接そう言う話をする積りが無いって事だからね。
「だからっ、このレティの主はひぃ様御一人にて、他の方に仕えるなんぞもっての外! 主が野に降りて、ゼロから覇王伝説を作ろうと言う所に、馳せ参じないなど有り得ぬ愚挙!」
握り拳で力説するレティに、思わずガクッとソファーから転げ落ちそうになって、何とか持ち堪える。
なんかドッとお疲れぇって感じですな。
全く。人が真剣に物を考えてる時に、何を暢気に得体の知れない大風呂敷を広げてやがりますかね、この女は。
「あのさー、ワタシは別に変な野心とか無いからね? そもそも貴族とか向いてないから出奔しただけなんだし」
疲れながらも何時も通りに直球で返すと、何故かレティは「ヤレヤレ」って感じの態度で応えた。
「何を仰いますか? わたくしはひぃ様の望みをバッチリ存じておりますよぉ。いざ築かん、理想の百合の帝国を!」
「築かねーよ、そんなのっ!!」
まあ、来るだろうなとは思ってたんで、即座に否定&突っ込みを入れながらも、ワタシは更にドッと疲れに襲われた。
レティもこの「病気」さえ無ければ、本当にとてもイイ奴なんだけどねぇ。
コイツは自分にそう言う「趣味」は無いクセに、人にそーゆー事を勧めて喜ぶ所があるんだよな。
でもまぁ、この分ならこのままレティと組めそうだ。
どうやら父上はワタシを放っておいてくれそうな気配だし、割と良い事尽くめで行けるのかも知れないよね。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、有難う御座いました。




