045話
元々長かったので心苦しいのですが、前の44話を少し直します。内容は大きく変わりませんので、再読されなくても大丈夫だと思いますが、申し訳ありません。
食後にリーズと町をブラついて、更に幾つかの実用品を買ってから宿に戻ると、懐中時計の表示はもう午後4時を回ってた。
そう言えば、午後4時とか16時って言い方にも慣れて来たよなぁ。
懐中時計を仕舞いながら、ふと思う。
こう言うのって騎士団を筆頭とする軍人の時間の数え方なんだよね。
鐘の音で生活してる庶民ってワケじゃないけど、貴族だって大抵は午後の4刻過ぎって言うし、1刻(時間)の割り振りだって、4分の1ずつが精々だ。
でも軍人は何時何分とかって言い方をする。
1刻を12で割って更に5で割って、それを分と呼ぶんだけど、ヘタをするとその分ですら60で割って秒と呼ぶ。
忙しない事この上ないとも思うけど、何かプロっぽくてカッコ良いから、前からなるべく使う様にしてるんですよ。
今やワタシも立派な武人だから、少しでも身に着けておいて良かったよ。こんな些細な所からでも、スッとプロ達の間に入っていけるのは大きいしね。
「ところでリーズ、男爵は基本的に3種類居るけど、説明できる?」
部屋に入って、お茶の用意をしてるリーズに声を掛ける。
コレ、朝からやってる一問一答で、少しずつ感覚的に貴族社会の基本概念を入れようと思ってやってる事なんだけど、なんかリーズの覚えが驚異的に早くて、最早少しずつどころじゃなくなって来てるんだよね。
最初は5爵位の話とかだったのに、リーズって結構恐い娘だよなぁ。
「領地を持つ人、王の高級官僚の人、高位貴族の臣下の人。領地を持つ人が王家の家臣で普通の男爵、高級官僚は直参男爵、高位貴族の家臣は陪臣男爵。でも、爵位は基本的に王が出すから、高位貴族の家臣の爵位はその貴族が王に依頼して出して貰う」
ぬう、ほぼ完璧な答えですな。言った事を全て覚えられてる様な気がしちゃいますよ。
「士族が礼儀作法に煩いのって、どうしてだっけ?」
「基本的に王侯貴族の家臣が士族なので、常に上位の人に気を配る必要があるから。もし誰にも仕えてなければ唯の浪人。例外は討伐士と魔法士だけ」
「家名を持ってる人は基本的に士族か貴族だよね?」
「そう。例え市井で生活してても、家名がある人は基本的に士族か貴族の籍がある。勝手に名乗ってる人は最悪罰せられちゃう」
立て続けに質問をするワタシに、リーズはお茶の準備をしながらも、涼しい顔で淡々と答えて行く。
こりゃ、ホントに心配いらないわ。一日でここ迄来ちゃうとは思わなかったよ。
「昨日私が言ってた『なんちゃって』って、使い方や意味が全然違ったんだよね? マリーに教えて貰わなかったら、一生気が付かなかったよ」
カップに紅茶を注いで、どうぞと勧めながら、リーズがテヘって顔をして舌を出した。
いやー可愛いですよ! こう言う仕草って似合わない人がやるとキモいけど、似合う娘がやると、こっちもテヘって感じになっちゃう。
「ああ、うん、そうだね。リーズの場合は正式な士族でこそ無いけど『なんちゃって』でも無いってコトだね」
でも、昨日のワタシの違和感に、もう既に気が付いてるって辺りは流石だわ。
この娘って、絶対に貴族社会で巧くやってけると思う。
「父さんって世間では浪人扱いなんだって、初めて知ったよ。しかも初位の官位持ちと同等の扱いとか、聞いてみないと判んない話だよねぇ」
「まーね。だから人前ではドニさんに遜った様な対応なんだよ。自分の立場を護る為に相手を立てる必要があるワケ」
「全然知らなかった。はぁ、これから父さんに会うのに、どんな顔すればイイのかって感じ」
リーズはこれからジャンさんに話を聞きに行く予定だ。
仕込が終わって、後は調理に入るダケって感じのこの時間に来る様に言われてるらしい。
「別に知らなかったんだから、今まで通りでいいんじゃないの? これから気をつければいいんだよ」
ちょっと表情を曇らせたリーズに、思った事を言ってあげる。大体、ジャンさんだってそんなの気にしてないだろうしさ。
「マリーにそう言って貰えると、ちょっと気が楽になるよ。じゃ、ちょっと行って来てイイ?」
「どうぞどうぞ。行ってらっしゃいー」
お茶の入ったポットをテーブルに置いて、お茶菓子の焼き菓子を出すと、リーズは「行って来まーす」と手を振って、部屋を出て行った。
静かになった部屋で、ワタシは一人、紅茶を啜る。
ふむ。リーズは紅茶を入れるのが結構ウマいですな。日頃のお手伝いの成果だろうか。
はむはむと焼き菓子も食べながら、今後の展開を思う。
流石のリーズも、自分の大叔父が爵位持ちだって聞けば驚くだろうなぁ。
ましてや、ジャンさんが既にその大叔父に許可を貰ってると聞けば、ビックリ仰天って感じになっちゃうと思う。
お金云々は置いといても、今のリーズは、昨日ワタシがあれだけ脅した魔法士の世界ってヤツの感覚が判ってるし、まさか簡単に願いが叶って魔法士の学徒に成れるとは思って無いだろう。
首から下げた討伐士章と魔法士章を何となく出してみる。
貴族を捨てちゃった所為で、諦めてた魔法位をあんなウルトラC技で貰った時は、ワタシも驚いてボーっとしちゃったんだよなぁ。
考えて見ればワタシって、本当にししょーに世話になってるんだよね。
「コンコンッ」
考え事に沈みそうになってたら、ノックの音が。
もう帰って来たんですか、リーズさん?
ワタシが立ち上がって「どうぞー」って声を出すと、上気した顔のリーズが息を切らせながら入って来た。
「聞いて聞いてっ! 私、来月頭にドニ叔父さんの付き添いで、東聖王国のルーベル本家に行く事になっちゃったのっ!!」
部屋に入るなり、抱きつかんばかりにワタシに走り寄って来たリーズが、ワタシの両肩を掴んで、ピョンピョン飛び跳ねる。
お、おおう。さすがにテンションが高いですな。まぁ、判るけど。
「騎士爵様が私の後見をやってくれるなんて信じられない! これもマリーのお陰だよっ!!」
うんうん。別にワタシは何にもしてないですよーって思いながらも、取り敢えずは背中をさすって、リーズを落ち着かせる。
「ハイハイ、判ったからまずは落ち着いて。喋るなら座ってからにしようね」
ワタシはリーズを座らせて、リーズの前に置いたカップにまだ十分に暖かい紅茶を注ぐと、飲むように言った。
「そもそも、御当主さんはリーズの大叔父なんだし、家系から魔法医師が出るかも知れないとなったら、援助するのが当たり前なんだよ」
だからワタシは関係無いんだよーって言下に言ってみる。
「そ、そう言うモノなの?」
紅茶を啜って少し落ち着いたリーズが、まだ立って側にいるワタシの顔を見上げて来た。
「そうだね。武家とは全く別系統の世界に繋がりが作れるし、家名の存続を考えても、こんなイイ話はそうそう無いのが普通なんだよ」
武家って脳筋が多いから、学者肌の人って育ち難いんだよねー。しかもそれが本家筋なら尚更って感じだしさ。
「・・・はぁ。でも本当、信じられないよ。こんなにトントン拍子に物事が決まるなんて思ってもみなかったし」
やっと落ち着いた様子になって、リーズが溜め息をついた。
「まぁでも、戦いはこれからだよ? ワタシと違って、リーズは暴力で戦うワケじゃないから、大変だと思うけどね」
何となくリーズの肩に手を置いて、肝心な話をすると、リーズがくるっと座ったままこちらを向いた。
「うん、そうだね。でも本当にマリーのお陰だよ? 色々教えて貰わなかったら、戦うどころの話じゃなかったし」
まーねぇ。確かにそう言う意味では、ワタシのお陰って言われても仕方無い部分はあるよね。
「ま、結局は運が良かったってコトじゃない? 貴族連中を良く知ってるワタシみたいなのが此処に泊まったのって偶然なんだしさ」
取り敢えず運の所為にして誤魔化す。変に感謝とかされても困っちゃうもんな。
「それは、そうなんだけど・・・貴族の事って知るだけで普通は大変なのに、こんな簡単に教えてくれるなんて」
え? それはリーズが可愛いからですよー。って、まあさすがにそれは口にはせんけども。
「気にしなくてイイよ。ワタシってば御落胤ってヤツだから、貴族社会とか良く知ってるし、そんなに大した事をしてる積りは無いんだよ」
思わず、むっちゃ適当な事を言って誤魔化すと、リーズがちょっとウルッとした目で見つめて来た。
うにゅう。とっても可愛いですよー。思わず頭をナデナデしちゃう。
「そ、そうなの?」
うんうん。確かに貴族の社会に関する事なんて、普通なら調べるだけで大変だけど、ワタシにとってはかつての日常だから、お安い御用なんですよー。
ワタシは頷くと、頭を撫でられて恥ずかしそうな顔のリーズに顔を近づけた。
「まだ夕食まで時間もあるし、もう少し勉強でもしようか?」
顔を近づけると、何故かリーズがちょっと赤くなった。
うーむ。何故赤くなるのかは判らんけど、こうして間近で見ると、本当にこのコって可愛いよなぁ。
「う、うん。でもね、マリーって、どうしてそんなに私に優しくしてくれるの? も、もしかして、そう言う人、なの?」
何故か更に顔を赤くしたリーズが、モジモジした様子でワタシの目を覗き込んで来た。
ヤだなー、今も御落胤だって言ってるんだし「そう言う人」ですよぉ。
「私、そう言うのって理解できなかったんだけど・・・マリーなら、イイか、な」
うんうん。平民生活してれば理解出来ない世界の話だよね。でも今は大分理解して来てるし、大丈夫だよ。
「大丈夫だよ。安心してワタシに任せてくれればイイから」
安心させる様に、もう一度頭を撫でると、リーズがワタシのシャツをそっと掴んだ。
「うん。あの、優しく、してね?」
うんうん、それも大丈夫! スパルタはししょーで懲りてるんで、勿論優しく教えますよぉ。
「勿論優しく教えるよっ」
ワタシがそう言うと、何故かリーズは目を閉じて、可愛らしく唇をちょっと突き出して来た。
はえ? なんでしょうかこの反応は!?
って、あれ、この状況って・・・。
今迄の会話をプレイバックして、ワタシは一気に赤面しそうになった。
どっひぃー! そう言う人って「そう言う趣味の人」って事か!
ヤッバいわ、コレっ。ワタシってばモロにリーズを口説いてる格好になってますよっ。
何か良いテで誤魔化さないと・・・って、時間が無いっ。ええい、何時ものテで行くかっ!
ワタシはリーズの唇に啄ばむ様な軽いキスをすると、頭を軽く撫で回した。
「大丈夫! ちょっと勉強すれば、リーズならすぐに身に付くよっ。お姉さんにまっかせなさい!」
学院で幾多のこのテの窮地を切り抜けてきた「必殺、お姉さん攻撃」だ。
まぁ「必ず殺す」ってワケじゃなくて、むしろその反対なんだけども。
「え? あ、ああ、うん。宜しくねっ」
「アレ?」って感じで目を開けて、ちょっとヘンな表情になったものの、リーズはその頭の回転の良さを見せて、一瞬で立ち直ってくれた。
誤解だと思ってくれて良かった!
「ううー、でも御免ね。何かヘンに誤解しちゃった。マリーが凄い美形だからかなぁ」
まだ顔の赤いリーズがちょっと目線を逸らす内に、ささっと椅子に戻ってホッとする。
いやー、御免って謝らなきゃいけないのは、ホントならこっちの方ですよ、全く。
「でもマリーって本当にお姉さんみたいだね。私、兄さんしかいないから、ちょっと嬉しいかも」
視線をクルっとワタシに戻して、立ち直ったリーズが可愛い笑顔で微笑んだ。
ああ良かった。リーズも傷付かなかったみたいですよ。
しかし、ホントに危なかったわぁ。思わず知らない世界が開けちゃう所だったよ!
本日もこの辺で終わります。
読んで頂いた方、有難う御座いました。




