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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
アレの宿屋
44/221

044話


 翌朝、早起きしたワタシがギガリッパーを渡すついでにジャンさんに話を聞くと、話は意外な展開になった。


 ルーベル家の本家は、現在、東聖王国のストダート侯の直臣であるドニさんのお父さんが当主をやってて、何と爵位まで持ってるらしい。


 で、その御当主さんが、リーズの後見をしても良いって言ってくれてるそうだ。


 騎士家で爵位と言うなら、騎士爵だろうけど、それなら縁者から魔法医を出してもおかしくは無いと思う。


 中高位貴族達と戦って行く必要はあるけど、それはそれ。


 爵位を持つ人が後見をやってくれれば、魔法の勉強自体を拒否される事は絶対に無いから安心だ。


「魔法力の薄い私が料理人になりたいと言った時、笑って許してくれた叔父です。私の手紙にも、リーズの話が本当なら是非面倒を見たいと返事をくれました」


 ジャンさんの言葉に、成る程と頷く。ちゃんと手筈は整えてくれてたんだねぇ。


 ただ、リーズがあまりにも世間知らずだから恐かったらしい。


 ワタシがリーズに貴族社会や士族社会の基本知識を教える事を約束したので、ジャンさんはリーズにその話をする積りだそうだ。


 学院の教科書を取っといて良かった!


 基本的な所とかは一問一答形式でやれば、一日である程度入れられるし、後はリーズなら教科書で勉強するだけでイケるだろう。


 ついでにいらない基礎の魔法書もあげちゃおう。


 魔法士への進路が決まった以上、リーズはもう平民扱いじゃ無いから、魔法書を持ってても罰せられる事は無いし、気楽に渡せる。


 しかしまあ、武家から料理人を出す事を笑って許すなんて、御当主さんも豪快な人だね。それともやり手の人なのかな。


 そんな事を思いながら、オーク一頭も丸ごと乗るだろう捌き台の上に、8フィート(約2.4m)位あるギガリッパーの尻尾を出すと、ジャンさんの顔が綻んだ。


「いやぁ、ワタシも滅多にお目に掛かる事の無い素材ですよ。本当に無料で宜しいので?」


「勿論ですよ。ワタシに出すだけで無く、ご自由にして下さい」


「それはそれは。本当に有難う御座います。どうか今夜は期待してお待ち下さい」


 勿論、期待しておりますとも!


 ってなワケで、これ以上居ても仕事の邪魔だろうし、ニコニコしながらギガリッパーの尻尾を撫でるジャンさんに、辞去の挨拶をしようとして思い止まった。


 実はちょっと気になった事があるんだよね。


「そう言えば、最後にちょっと訊きたいんですけど、もしかしてドニさんと御当主さんって、仲が悪いんですか?」


 ワタシがそう訊くと、ジャンさんはギガリッパーから手を離して、ちょっとバツの悪そうな顔になった。


「叔父にタンカを切って家を出たと聞きますので、あまり仲は良くないと思いますが・・・」


「じゃあドニさんに、リーズを本家に連れて行って貰うのが一番ですね。もしかして、それを狙ってたとか?」


 ドニさんは元々協会支部の運営幹部なんだから、そこらの貴族に仕える騎士より、政治的にはずっと頼り甲斐がある。


 それに4級討伐騎士となった以上、協会から上級討伐騎士に任命されるのは確実で、そうなったら支部長は規定路線だ。


 功成り名を成したと言っても良いんだし、何時までも実家に意地を張っててもしょうがないよね。


 御当主さんも侯爵家直臣の騎士爵家なら、討伐士協会の支部長クラスに縁者が居るのは大きな強みになるんで、受け入れ易いだろうし。


 ちょっと意地の悪い顔をして見ると、さすがに見破られましたかって感じで、ジャンさんが笑った。


「ハハハ、少しズル過ぎましたか? しかし従兄弟殿には本当にお世話になっていますし、何が恩返しが出来ればと思っておったのです。貴女の様な方に巡り会えて本当に良かった。色々と巧い具合になりそうです」


 ぬにゅう。結局、一番の狸はこのジャンさんか。


 リーズをワタシに付けたのは完全に計算通りだったってコトだね。


 ま、してやられた感はあるけど、何かちょっとイイ気分だ。


 ワタシは頭を下げるジャンさんを制して、笑いながら肩を竦めると、今度こそ辞去の挨拶をして調理場を後にした。








 部屋に戻ると、既にリーズが待ってたので、一緒に朝食を食べながら、ジャンさんとの話が巧く行ったと話した。


 勿論、具体的な内容は言わないよ。


 それはジャンさんがリーズに話す事だから、ワタシが話す事じゃ無いしね。


 リーズが「マリーって本当に凄いねー」って言ってたけど、凄いのはジャンさんで、ワタシじゃないよなぁ。


 ワタシってば事実上、ジャンさんに操られてた様なモンだしさ。


 朝食が終わると、リーズと一緒に町へ出た。


 最初はマルシェ(簡易市場)に案内して貰って、日持ちのする食料や消耗品を買い込む。


「マリーって、買い物手馴れてるんだね。色々とお手伝いしないとダメかと思ってたよ!」


 値切れる物は値切り倒し、丁々発止のやり取りでズンズン買い物を済ませて行くワタシに、リーズが感心した声を上げる。


 ぬふふふ。伊達に散々、ししょーにパシリで行かされ捲くってたワケじゃないですよー。


「うんうん。ま、色々苦労してるからねぇ。そこらの山出し御落胤サマと比べないで欲しいかなっ」


 燻製モノがドドんとぶら下がってる店で、これまた結構な量を買い込むと、次は下着屋へ移動。


 この位の町なら専門店があると踏んでたけど、やっぱりあるそうで、連れて行って貰う。


 専門店なら作り置きがあるから、余計な手間が掛からない。


 店に行くと、辛うじてサイズギリギリの無難なヤツがあったんで、耐久性重視で選んで買い込んだ。


 当然ながら下と靴下だけだ。庶民は胸用の下着とか付けないしさ。


 だからついでに、サラシ用の布も結構な量を買った。


 そんなこんなで店を回って、最後に靴屋で偶々サイズが合った作業靴と売れ残りの結構なブーツを買うと、既に午後の鐘が鳴った後だった。

 

「だけど今日はびっくりしたよ。マリーって御落胤さんなのに、買う物がモロに庶民っぽい物ばっかりだし」


「ああ、まぁねぇ。魔物とやり合うのが商売だから、一々高級なモノとか使ってらんないんだよ」


「うー。それを言われちゃうとナンだけど、何かこう、もっと素敵なお買い物だと思ってたから、ちょっとガッカリしたかな」


「まあ、しょうがないと思って諦めてよ。でも昼食はリーズお勧めの店に連れてってくれるんでしょ?」


「そーそー! 最近出来たお店なんだけど、オープンテラスでカッコ良いお店なんだよねっ」


 ちょっとご機嫌斜めだったリーズが持ち直したっぽい事にホッとして、今日の予定を思い起こす。


 実は少し時間が押してるんだよね。午後には一旦リーズと別れて、支部に顔を出す積りだったし。


 別に時刻が決まってるワケじゃないから、夕方でもイイんだけどさ。


 時間が押した理由は、部屋を出る前にリーズと一悶着あったからだ。


 あくまでも侍女スタイルで行こうとするリーズを説き伏せるのに、結構時間が掛かったんですよ。


 そもそもワタシはこのサイズのまともな服なんて持ってないんで、適当な理由を付けてそう言ったら、リーズが自分の余所行きの服まで持ち出して来ちゃって、大変だった。


 まぁ年下の女の子の可愛い我が侭に付き合うのも、それはそれで癒されるからイイんだけど、結果的にワタシの服装は昨日と同じモノに落ち着いた。


 自前の洗濯魔法陣で綺麗に成ってるし、自分としてはコレで不足は無いんだよなー。


 ワタシの手を引いて、前をスタスタと歩くリーズは昨日の制服(?)と違って、可愛らしい水色のワンピースを着てる。


 これがまた可愛い! いやぁホント、可愛いってどんな服でも似合うよねっ。


 勿論、当然ながら隠蔽魔導具はオンにしてますよ。リーズがワタシの手を繋いでるのは、そのせいだし。


 でも主人の手を引いて、さっさと前を歩いて行く「侍女」ってどうなんでしょ?


 随分トンデモな侍女さんもあったもんだよなと、思わず苦笑。


 そう言えば。


 侍女繋がりで、何となく、あるとても変わった女の子を思い出した。


 ワタシは一応、大貴族の令嬢なワケなので、5歳の時から3歳上の側仕えなが付けられてたんですよ。


 最近じゃ4人に増えてたけど、後から付いた3人と違って、5歳の時から付いてた娘は本当に変人としか言い様の無い、変わった娘だった。


 まぁ、性格は変わってても、能力は凄いなんだけどね。


 例のヤバい部隊の大将の孫で、子供の頃からバカみたいに強いわ、頭はキレるわで、将来はワタシの側近になる事が確定してた。


 マルシルじゃ上級騎士の位である正7位を貰ってたし、ワタシが成人したら彼女も勲爵される予定(大貴族の側近は爵位を持ってるのが普通)だったんだよ。


 だからちょっと悪い事をしたと思うけど、母上に託したクロ君宛ての手紙で頼んであるし、クロ君なら、あの娘の爵位くらいは何とかしてくれると思う。


 アイツは変わってるけどイイ奴だし、ワタシの我が侭で将来が閉ざされちゃったら悲しいもんなぁ。


「ねえ、マリーってば、ちゃんと聞いてるぅ?」


 ちょっと考え事をしてると、リーズが立ち止まって振り向いた。


 ああ、うんうん。聞いてますよぉ。


 でもね、脳筋バカ一代のワタシに女の子っぽい服の話をされても困っちゃうんですよ、リーズさん。


「あー、だけどコレ何かすっごいヘンな感じだね。こうやって近くで顔を見ても、誰だか良く判んなくて気持ち悪いよぉ」


 リーズがうぬぬぅって感じに、ワタシの顔を覗き込む。


 ぬう。相変わらず話題がホイホイとスッ飛ぶだなぁ。可愛いからイイけど。


 その時、意外な方向からワタシに声が掛かった。


「おおっ、誰かと思ったらマリーじゃないか! 丁度良かったぜ」


 見れば、昨日支部で最初に一悶着あったおっさんだ。


「ありゃ、良く判ったね」


 隠蔽魔導具使ってるのに、良くすれ違いざまにワタシだと判ったなと思って訊くと、おっさんは何か不思議な顔をした。


「おいおい、昨日会ったばかりだろ? お前って顔が良く判んないから、逆に判りやすいんだよ。それよりも支部長に伝言を頼まれてな。これからジュアンへ行く所だったから良かったぜ」


 うげっ! 隠蔽魔導具の弱点発見って感じですか。


 そんな弱点があったとは気が付かなかったよ。


「何かよお、リプロンの部隊が明日の昼頃に着く事になったから、11時には支部に来てくれって話だ」


 ワタシがちょっとアセってる間にも、おっさんは言う事を言って、「じゃな、伝えたぜっ?」と言い残して、走り去った。


 忙しい人だ。意外にフットワークが軽いのかな。


「協会から何か急ぎの話?」


 おっさんが走り去ると、ちょっと距離を置いてたリーズが不安げな顔で近寄って来た。


「ううん。逆だよ。今日は行かなくて良くなったって話。昼からもゆっくりと出来るよっ」


 ワタシの言葉に嬉しそうな表情になったリーズがとっても可愛くて、思わず抱き締めそうになっちゃいましたよ!








 昼食はリーズお勧めの、表通りにある可愛らしいお店に入った。


 お店はオープンテラスとは言う物の、きちんと塀に囲まれた箱庭の様な所に、幾つものテーブルが置いてある形式だ。


 外の喧騒から隔絶された様な、ちょっと落ち着きのある感じがイイですねぇ。


 勿論、大銀貨のチップをかまして、お店の建物内では無く、屋外の良い席に案内させる事は忘れない。


「はぁ・・・なんか今日は驚きの連続だったよ」


 席に案内されると、ちょっと気分を良くした感じのリーズが溜め息をついた。


「しょうが無いよ。さっきもちょっと言ったけど、魔物と戦うのが本文の討伐従騎士が、おしゃれとか十年早いしさ」


 ま、お洒落っぽいとか、高級っぽい物を買っても意味無いしね。


 まだ物騒なブツの仕入れに付き合せないだけ、マシだと思ってやって下さいな。


 そんな感じの話をしながらも、ウエイトレスのお姉さんに注文を済ますと、リラックスしたリーズが、苦笑しながらテーブルに頬杖をついた。


「でも、マリーって女の子を誘い慣れてる感じがするね。今だってさり気なくチップとか渡してこんな席に案内させるんだもん。私、こんな席に座ったの初めてだよ」


「そうかなぁ? 割と普通の事だと思うけど。大体、リーズなんか学校でさぞかし男の子達にモテてるだろうし、そっちこそ慣れてるんじゃないの?」


「ああ、うんとね」


 リーズはごそごそと手持ちの可愛らしいバッグからゴッツい眼鏡を取り出すと、それをかけて見せた。


「私って普段はコレだから、男の子とか近寄って来ないよ。それに立場が中途半端だから、元々結構浮いてるんだよね。士族の子達にも混ざれないし、平民の子達には距離を置かれちゃうし」


 ゴツい眼鏡をかけたリーズは、印象が全然違って、何か小さな学者風に見える。


 ちょっと人を嫌う様な感じの印象だから、まあ確かにコレだと男子は近寄って来難いかな。


「うーん、商人の子達とかはダメなの?」


「ああ、そっちは完全にダメかな。ドニ叔父さんに取り入りたい親がバックで煽っちゃったりしてて、話すのもツラい感じ」


 うはぁ。何か色々メンド臭そうですな。考えて見れば、学校なんて社会の縮図だもんね。


 子供達の世界と言えば聞こえはイイけど、実際はドロドロしてるし、ワタシみたいに孤立してるのが当たり前の高位貴族の子と違って、リーズは大変だったのかも知れないな。


「お陰で勉強だけは出来る様になったよ。学校じゃ『ガリ勉リーズ』ってあだ名だったけど」


 にゅう。リーズが社会常識を培って来れなかった最大の理由がソレなのかも。


 宿屋でお手伝いをしてるから、コミュニケーションスキルとかは作れても、同年代と忌憚の無い付き合いをしてないと、結構色々と抜けるからねぇ。


「それにさぁ、何か去年辺りから、バカ代官の腰巾着が煩く付き纏って来てて、余計に周りから人が居なくなっちゃって」


 はぁ!? バカ代官の腰巾着ぅ? ま、まさか・・・。


「まさか、ボキュなんとかって寄騎じゃないよね?」


「あ、そーそー。マリーってアイツ知ってるの? 何かバカ代官と一緒にザリガニにヤられちゃったって聞いて、凄くホッとしたんだけど」


 なにゅううう!? あのクズ寄騎、クズな上にロリコンかよ! 潰して大正解だったよ、ふんとにもうっ!!


「支部で斬り合いになりそうになったダケだね。あの時ヤッとけば良かったかな」


 ロリコン親爺なんて死んで良しだって感じに強い調子で言うと、リーズの目が輝いた。


「もしマリーがアイツを斬ってたら、私、マリーのお嫁さんに立候補してたよっ!」


 ぶっほ、げほげほ。リーズさんや、ワタシゃそのテのご趣味は無いので、勘弁してやって下さい。


 飲んでた水が変な所に入っちゃって咳き込むワタシを、リーズがきょとんとした顔で見た。


「マリーって、おかしー! タダの冗談なのに、そんなにアセるんだもんっ」


 きょとんとした顔から、一気に大笑いの顔になったリーズが可愛い。


 いやー、学院だとそのテの話って半分以上マジだったりしたから、ついアセっちゃうんだよね。


「ギュルルルッ」


 笑うリーズを見て何かほのぼのとしてると、外から滅多に聞くことの無い音が聞こえて来て、反射的に目をやった。


 すると一瞬ながらも、塀の模様の隙間から、音を出して走って行く物の姿が垣間見えてハッとする。


 装甲自走車だね。まず間違いない。


 馬は魔物を酷く恐れるから対魔物戦場では使えないんで、魔物討伐部隊の乗り物や車を引く動物は、騎牛(牛を騎乗出来る様にしたヤツ)やサイノス(一本角を持つ動物)を使うけど、その究極の所にあるのが装甲自走車だ。


 魔法仕掛けで走る車で、中にはブ厚い鉄板で出来ててオークの突撃に耐えるヤツまであるって聞く。


 速度が出ない騎牛やサイノスの代わりに連絡用に使われる小型のモノが多いけど、それだって動力源にバカみたいな量の魔石を食う。


 魔法師級の魔法士でも乗ってれば別だけど、そんな金が掛かるモノをホイホイ運用出来る部隊なんて、大量の魔石を持ってる協会の部隊以外には無い。


 つまり、もうリプロンの討伐部隊の先触れ分隊が着いたって事だ。


 この調子だと、今夜にはこの町に全部隊が着くに違いない。


 こりゃ絶対に何かあるな。


 元は明後日の予定だった部隊の到着が、明日になって、更にそれが今夜にまで縮まる程に急ぐってのは、結構怪しい。


 それ程急ぐって事は、多分討伐軍の大将にはデラージュの子分より先にこっちに着く理由があるって事だからね。


 ワタシはまだ笑い転げてるリーズを見て思考を逸らすと、そっと溜め息をついた。


本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。

なお、今週は土日以外は投稿出来そうなので、明日も投稿予定です。

宜しくお願いします。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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