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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
アレの宿屋
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041話

 その後、おじさんの奥さんが出てきてからは、話はスムーズに進み、ワタシが大金貨一枚を前金で払うと、おじさんはオーガの皮鎧を二日で仕立てると約束してくれた。


 オーガの皮は以前にワタシが協会から買っておいた持ち込みなので、仕入れとか考えなくてイイし、始まっちゃえば話は早い。


 こんな辺境の町では、オークならともかく、オーガの皮となると仕入れが大変だし、在庫だってまず無いと考えた方がイイ。


 でも前のオーク皮のヤツがダメになったら、次はより強度の有るオーガ皮にしようと思ってたから、そこは譲れないんだよね。


 買っておいて良かった!


 大体、皮モノって素材製品にする迄が大変だからなー。


 前に一度、自前にチャレンジしようとした事があったけど、あまりの面倒臭さに投げちゃいましたよ。


 モチはモチ屋って言うけど、正にその通りで、以降は自前は考えない様にしてる。


 討伐士協会も支局なら、武具甲冑から素材製品まで売ってるし、しかも安めだから、結構使えるんだよね。


「いやぁ、なんて言うかどうもな。景気のイイ討伐話ってのは盛り上がっちまうんだよ。悪かったな」


 お店を出ると、ドニさんが頭を掻きながら謝ってきた。


「別にいいよ。そう言うのでゲン担ぎしたがるのって誰でも同じだしさ」


 ワタシはちょっとバツの悪そうな顔をしてるドニさんに、正直に言った。


 ドニさんが「お、そうか。有難な」って気軽に返してくれて、ちょっとホッとする。


 実際、誰だって活躍を褒められれば悪い気はしないし、ワタシだって本当は褒められたいけど、まだまだそう言うのって慣れないし、恥ずかしさが先に立っちゃうんだよね。


 戦闘直後のノッてる時なら別だけど、シラフの時に持ち上げられちゃうと、何か身の置き所が無い位に恥ずかしくなっちゃう。


 さっきだって、最初の内に「まあまあ」って感じで止めれば良かったダケの話なんだし、本当なら悪いのはこっちだと思うよ。


 ホント、ワタシってまだまだガキ臭さが抜けないヤツなんだよなー。


 バタバタと前から走って来た商人っぽい人を避けながら、ちょっと溜め息。


 でも褒められてイヤな顔はしたく無いし、今暫くの間、そのテの話はワタシの居ない所でやって欲しいなーっとも思う。


「その先を右に曲がれば、もうすぐだ。宿の名前は『ジュアン』って言うんだが、ホントにちょっとした宿なんだぜ?」


 衛士隊の本部っぽい、塀に覆われた大きな敷地の横を歩きながら、ドニさんが目の前の通りの四つ角を指差した。


 見れば大通りの先に同じ位の幅の道が交差してて、その道もバッチリ石畳で舗装されてる。


 ふーむ。何か交差する方の道も又随分と立派ですな。


 昨日一回通ったっきりだったので、思わす周りをキョロキョロしちゃう。


 道を曲がると、通りの反対側は役所や商会っぽい石造りの建物が連なり、結構な数の人が出入りしてた。


 この辺りまで来ると代官屋敷も近い町の中心部だから、道が全部舗装されててもおかしくは無いと思うけど、コレってこんな田舎町の造りじゃないよなぁ。


 万人規模の町でも想定してる造りだと思うよ。実際、今でも五千人位の人口はいるんじゃないのかね。


「そう言えば、従兄弟の所にはマリーと同じ位の歳の娘が居るんだよ。名はリーズって言うんだが、服の話はそっちに訊いてやってくれ」


 町の様子にキョロついてるワタシを可笑しそうに見ながら、ドニさんがちょっとイイ話を振って来た。


 おんや。ソレはちょっと嬉しい情報ですな。


 ちょっとした事故で生活道具のストレージが壊れたせいで、服とか靴まで無いも同然って話は、ザリガニ討伐の時に確かにドニさんにした記憶があるけど、覚えててくれてたのかぁ。


「ああ、うん。それは助かるけど、その子にヒマがあればイイけどなぁ」


 同じ歳くらいの女の子が相手だったら、服どころか下着の話も聞けるし、色々と気楽な事も多い。


 無論、逆の場合もあるけど、こっちは所詮余所者だし、短い間の話だ。更に宿の客だし、妙に意識される様な事は無いだろう。


「それは大丈夫だ。従兄弟やリーズにはもう話してあるし、二人共町の英雄が来るってはしゃいでたから、さぞかし歓待してくれるだろう」


「ほえ? 町の英雄?」


 ワタシが何の事? って感じで呆けた顔でドニさんを見ると、ドニさんは両手を広げたジェスチャーで返してきた。


「うーん。マリー、お前は今じゃこの町きっての有名人で、英雄なんだぜ? そこは忘れない方がイイと思うぞ」


 いやいや、英雄なんてガラじゃありませんって。


 そう言うのは、お話に出て来るグランツさんにでも任せておけばイイと思うよ。


 ワタシが肩を竦めて態度でそれを示すと、さっきの事があるからか、ドニさんはそれ以上は突っ込んで来なかった。


 ま、さっきの皮鎧職人のおじさんの反応から考えれば、それなりに予想は付くけど、一応客なんだし、あんな感じで応対される事は無いよね。


「ところでドニさん、あれがその宿?」


 目の前に迫って来てた宿屋っぽい建物を指差す。


 通りから若干引っ込んだ感じで建つ建物は、かなりの大きさだ。


 道から引っ込んでいるのは、多分車寄せがある為だと思うけど、これってかなりの宿ですよ?


「おおっ、そうそう!」


 ワタシの指摘に返事をすると、ドニさんがちょっと早足になった。


「ココだよ、ココ。どうだ、結構イケてるだろう?」


 宿屋の前に先に着いたドニさんが、ちょっと褒めて欲しそうな顔で、建物の壁に手を付いてこっちに振り向く。


「へえ、此処がジュアン亭かぁ」


 目の前で見ると、宿屋のジュアン亭は、確かに大層立派な造りだ。


 案の定、車寄せっぽいスペースを建物の前に持つその宿は、一つの建物に二つの入り口があった。


 大きな方は多分食堂で、小さな方が宿屋なんだろうと思うけど、三階建ての石造りの建物は、二階建ての協会支部より大きく見える位だ。


 ちなみにジュアンって名前は、マルシルを含む旧聖王国西部地域の方言で6月の事だから、開業が6月だったのかも知れないね。


「随分立派な宿屋なんだね。もっと可愛い感じの所かと思ってたよ」


 宿屋の入り口も随分と立派な造りで、ドアマンが立っててもおかしくなさそうな雰囲気だ。


「この宿を建てる時には、オレも目一杯出資したし、保証人にもなったからな。当時は町一番の高級宿だったんだぜ」


 なる程ねぇ。ドニさん程の討伐騎士が目一杯となると、大金貨100枚(約二千万円)位は出しただろうし、保証人って事は、営業許可の話だけじゃ無くて、更に何処かからお金も借りた筈だから、こんな宿が建っても不思議じゃないな。


「じゃあかなり儲かってるんだ」


 高級宿と言うのは大きな元手が要るけど、それだけに結構儲かるモノだって聞いた事がある。


「最初の頃はな。最初の3年位は相当儲かったそうだ。借金はその3年で完済しちまったし、オレの出資金だってもう半分も残っちゃいない位だ。だがアレがこんな町になってからは、色々と新しいのが出来ちまったから、今じゃ普通よりちょっとマシって程度だろう」


 両開きの結構重厚な玄関の扉を開けると、中はベンチのあるちょっとした廊下があって、なんか隠れ家っぽい雰囲気でいい感じ。


「ふーん。でも寂れてるって感じは一切しないね。まだまだ余裕って感じがするよ」


「ま、ソコは従兄弟のジャンの腕だな。料理店としちゃ、まだまだ町でトップクラスだし、気取った宿じゃないがサービスはイイから、常連が付いてる」


 見れば黒っぽいイイ感じの枠木に漆喰の壁はクリーム色で、全体的に落ち着く感じの造りの内装に、ベンチや置物も中々凝った感じの物が使われてる。


「今でも10人以上は此処で働いてる筈だから、掃除もバッチリさ。綺麗なもんだろ?」


 ドニさんが自分の家みたいな感じで自慢げに言うだけあって、確かに掃除は行き届いてるようだ。


 この内装の造りにこれだけの手が掛かってれば、田舎の宿屋って感じは微塵もしないよね。


「ああ。いらっしゃい、ドニさん。そちらの方が噂の方ですか?」


 廊下の奥にあったカウンターに居た初老の人が、挨拶がてらに声を掛けて来た。


「おお、そうだ。何て言ってもオレの命の恩人で、今回のスタンピードを蹴散らした功労者だからな、宜しく頼むぜ?」


 えっと、別に命が危ういかも知れない所を助勢しただけで、命を助けたワケじゃないんですけど。


 こうやって噂って拡大して行くんだよなぁって思いながら、ちょっとジト目でドニさんを見ると、初老の人の後ろから可愛い声が聞こえた。


「ドニおじさん、この方がコーニス様?」


 うわぁ、か、可愛いー!


 奥から現れたワタシと同じ位の背丈の女の子は、少しクセっ毛の金髪をショートカットにした、可愛らしい子だった。


 鼻の上にちょっとソバカスが散ってるのもチャーミングな感じでとても可愛い。


 お友達になりたいわー。


 ワタシは断じてそっち系の趣味は無いが、可愛いモノは大好きだ!


 学院では何故か後輩女子にモテたワタシだけど、そりゃ可愛らしいお花さん達に「お姉さまー」とかって慕われれば悪い気はしないよねっ。


 将来の女伯爵に取り入ろうとするアホ共の相手を回避する為に、お茶会とかそう言う御付き合いに逃げてたのも原因だけどさ。


 お陰で周囲には完全に「そっち方面の人」だと思われてた節があった。


 今の社会じゃ、ホントに大っぴらにでも行動しない限り、そう言った「趣味」は普通に受け入れられてるから余計だ。


 何回「同性」に告白されたかも、もう覚えてない位で、サラのヤツにも「あら、リトルレディキラーがいらっしゃったわ」とかって、良くからかわれたよなぁ。


「ああ。信じられないかも知れないが、この何処かのお姫様っぽい顔のヤツが、今、町で噂の頂点に立ってる討伐従騎士のマリーだ」


 ドニさーん。また何かアレな紹介の仕方だよなぁ、もう。


「ご紹介に預かりました、討伐従騎士のマリア・コーニスと申します。宜しくお願いします、お嬢さん」


 今の容姿じゃサマになってるとは思えないけど、取り敢えず、前の調子で軽く膝を折りながら、自己紹介をしてみる。


「えっ、あ、ハイ! 私はこの宿の娘で、リーズ・ルーベルと申します・・・」


 むぅ。サマになってるとはあまり思えない感じだったけど、リーズちゃんは何故か頬を染めて、俯き加減で返して来ちゃいましたよ。


 何か学院時代の下級生みたいな反応ですな。


「おおう! さすが出の違うヤツは自己紹介からして違うよなぁ。リーズ、このマリーは所謂御落胤ってヤツで、貴族の出なんだが、平民にも気さくでイイヤツだ。頼むぜ」


 ドニさんが結構良いタイミングでフォローしてくれたから助かった。


 お陰でリーズちゃんは固まりそうな感じが解けて、満面の笑みを湛えて顔を上げてくれた。


「では、まずはお部屋からご案内しますねっ。付いて来て頂けますか?」


 うーむ、可愛い!


 思わずそのまま後に付いて行きそうになって、ワタシは慌ててカウンターの初老の人に会釈をすると、ドニさんにも別れを告げてから、リーズちゃんの後を追った。


本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。

読んで頂いた方、ありがとうございました。


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