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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
辺境のスタンピード
40/221

040話

 ドニさんに連れられて町中へ出ると、時刻はもう夕方近くだった。


 この時間になっちゃ、マルシェ(簡易市場)なんて誰も居ないだろうなぁ。


 今日辺り、そろそろ日持ちのする食料品を追加しておこうとも思ってたから、アテが外れちゃいましたよ。


 スタンピードの余波もなんのその、町は夕方の活気に溢れてて、石畳の中央通りを荷馬車や人々が忙しなく行き交い、様々な人達が今日最後の仕事をやっつけようと頑張ってる感じだ。


 南北の門では、当然ながら未だに厳戒態勢が取られてるだろうけど、この町で暮らす人達は、もうとっくに平常運転に戻ってるんだろうと思う。


 スタンピードを引き起こした魔将が討伐されれば、事実上、スタンピードはそこで終わるから、町の中では既にそれが発表されてる筈だしね。


「しかし支部長達もせっかちだな。まさかこんなに早くこっちの個人処理をやってくれるとは思わなかったぞ」


 隣を歩くドニさんが、呆れ半分嬉しさ半分って感じで笑った。


 ま、同感だよね。


 こんな遅い時間になった理由は、サンドイッチを食べた後、支部を出ようとした時に、ワタシ達が補佐のおっさんに捕まったせいだ。


 しぶちょーの指示でワタシとドニさんの討伐級更新とか、獲物の処理とかを最優先でやってくれって言われたそうで、その作業に数刻(時間)掛かったってワケ。


「でも何か、他の人達に悪いと思うけどなぁ」


 ザリガニの賞金は後で表彰の時って事だったんだけど、それ以外は全部やっちゃったからね。


 ワタシが首から提げてる討伐士章も9級が8級になってるし、ゴブからリザードマンまでの討伐賞金から、ザリガニ含めた魔石引渡しや、素体引取りまで、全部一度に終わっちゃった。


 凄い金額になったお金は、全額協会の個人口座に入れて貰い、取り敢えず現金は貰わないでおいてある。


「おいおい、その話はマズいだろ?」


 ドニさんが別口の話と勘違いして、口に人差し指を当てる。


「え? ああ、うんうん。そっちの話じゃ無いよ」


 現金を貰わなかった最大の理由は、この別口の話だ。


 カス代官が後生大事にストレージの魔導具で抱えてた隠し資産って、結構凄い金額だったそうで、約半分が支部の裏金になったものの、残りをザリガニ討伐の4人と補佐のおっさんに次官氏を足した計6人で割った分け前が、密かに補佐のおっさんに渡されたんだよね。


 しかも実行犯のワタシは倍額だったから、正確には7人分で割った計算だけど、ワタシが貰った総額は、大金貨にして48枚(約960万円)って言うとんでもない大金になった。


 あのカス代官、大金貨で350枚(約7千万円)近くも秘匿所持してやがったんだね。


 所謂個人資産とは全く別の秘匿金の一部(そりゃ他所にも色々あるでしょうよ)でコレだから、あのカス代官がどれだけの悪党だったか、それだけでも判りそうなもんだ。


「他の討伐士達はまだ頑張ってる最中でしょ? それなのに早々に獲物の換金までしちゃったから、ちょっと罪悪感がさ」


「ああ、確かにそれはあるよな。でも向こうは向こうの仕事だぜ? 罪悪感なんか持っちゃ、向こうさんに悪いと思うぞ」


「うーん、それはまあ、前に師匠にも同じ様な事言われた時があるし、判ってはいるんだけどね」


「ま、深く考えない事だ。それよりもお前には、防具新調って大事な件があるだろ?」


「ああ、うんうん。まずはそっちだよね」


 流石に皮鎧でも着ないと討伐士にすら見えないんで、適当な理由をつけて防具を新調したいってドニさんに言ったら、まずはその店に行く事になったんですよ。


「ここだここだ。おーい、とっつあん!」


 いかにも皮鎧専門の店ですよって感じの店にドニさんに連れられて入ると、店内は結構なプロの仕事師の店って感じで、好感が持てる店だった。


「なんだよ、うるせーな。って、ドニの旦那か。何かあったか?」


 ドニさんが大声を出すと、店の奥に居たらしい職人風のおじさんが出てきて、ドニさんに答えた。


「このマリーが皮鎧を新調したいってんで来たんだ。特急で頼みたいんだが」


「ああん? この御嬢ちゃんが・・・って、千体斬りのお姫さんじゃねえか!」


 おじさんはワタシを見ると驚いた様子で、口をあんぐりと開けた。


 ぬう。何かね、その「千体斬り」って妙な二つ名は?


 何かとってもイヤな予感がするんですけど。


 ちょっと変な顔でドニさんを見ると、ドニさんも判らんって感じで両手を挙げた。


 ワタシはあれから隠蔽魔導具を使っていない。


 もう色々とバレバレだし、御落胤ってプロフィールも出来た事だから、少なくともこの町では、この顔も隠すより大っぴらにした方がイイと思ったんだけど、

変な噂が流れてるんだったら、また隠した方が良いのかも。


「いやぁ、こいつは光栄なこった! あの北門の戦は今じゃ町の語り草よぉ。あん時はオレも城壁の上にいたんだが、本当に凄え戦いっぷりだったからなぁ」


 ワタシが訝しげに見ると、驚いた顔から一瞬で回復したおじさんは、早口で昨日のワタシの活躍を捲くし立て始めた。


 げげぇっ、何か超恥ずかしいんですけどっ。


 また顔真っ赤って感じになっちゃうよ。


「そんなに凄かったのか? いや、オレも見たかったなぁ!」


「凄い所の騒ぎじゃねえよっ。孫子の代まで語り継ごうってぇレベルの話だぜ! なんたってこのお嬢さんは、雲霞の如きゴブとオークの大群に、防具も無しの着流しで突っ込んで、そいつらをズバズバと面白え様にブッた斬り捲くった挙句、あっと言う間に全滅させちまったんだからなぁ!」


「そいつは凄えな! オレも一度でイイからそんな活躍がしてみたいもんだ!」


 また顔が真っ赤になりそうで、動けない感じのワタシを置いて、二人の話は盛り上がって行く。


 にゅううう。何かドニさんが火に油って感じで参加しちゃったから、話がどんどん広がりそうなんですけど。


「おいおい、旦那だって昨日は凄かったんだろ? トカゲ共をバンバン切り捲ったらしいじゃねえか」


「へっ、そいつはそうなんだが、そん時のマリーの活躍をとっつあんにも見せたかったぜ。何たってオレの倍近くはトカゲ野郎をブッた斬ったんだからなっ!」


「うひょー、そいつは凄え! 10体位は斬ったのか?」


 ドニさんの話を聞くと、おじさんはちょっと大げさに驚いて見せた。


 ぬう、これは不味い予感。昨日の雑貨屋のおっちゃんと似た様な感じがする。


 ここは平常心を保って行かないと、止める所の騒ぎじゃなくなりそうだけど、話題が自分の事だけに、超恥ずかしくって中々突っ込めないよぉ。


「おいおい、数が違いすぎるぜ? オレが30でマリーが50だ! どうだ!?」


「ハ、ハンパじゃねえ・・・トカゲ共を一度でそんなに斬った話なんざ、生まれて初めて聞いたぜっ!」


「嘘じゃねえ。何だったら、支部の受付で訊いてくれてもいいぜ? どの道今回の一等功はこのマリーだから、リザルトは公表されるだろうけどなっ」


 心外だって感じを大仰な身振りで示すドニさんを見て、おじさんが更にヒートアップした感じになった。


 ヤバい! これはザリガニの話まで行っちゃうっ。


「って事はあれか? ギガリッパーをヤったのも、このお嬢さんが一番多かったってワケかぁっ?」


「ああったり前よぉ! それ所か、30はいた巨大ザリガニをこのマリーが全部一人で片付けちまったんだぜ!?」


 ヤバいと思った直後にザリガニの話が出て、もうこっちは完全に顔が真っ赤だ。恥ずかしさで固まっちゃう。


「凄ぇぇぇ!! こいつはマジで孫子の代まで語り継ぐ英雄の爆誕じゃねえか!」


 うひぃぃぃっ、もう辞めてぇ! 平常心とかムリムリ! 熱が上がっちゃって、頭がボーっとして来ちゃったよっ。どうしよう!?


 どうだ!って感じに自分の事の様に胸を張るドニさんに視線を送っても、全然気が付かないしぃ。


 はぁ・・・これは駄目だ。何か頭はボーっとするわ、体は固まっちゃうわで、突っ込みとか入れる所じゃ無い。


 もうこうなったら、嵐が過ぎ去るのを待つしかないのかなぁ。


「こいつはスゲエ話を聞いちまったぜっ! 今夜の酒場はその話で持ちきりだなっ。オレもこうしちゃ居られねぇっ」


「ちょっと待ったぁぁぁっ!!」


 何か身支度を始めかけたおじさんを見た瞬間、気合で大声を上げた。


 ハァハァ、冗談じゃないっての。このおじさん、酒場のスピーカーかよっ。


「その前に、ワタシの、皮鎧を、頼みたいんです、けど?」


 肩で息をしながら真っ赤な顔で、何とか言いたい言葉を搾り出すと、ドニさんとおじさんが、揃ってハッとした様子でこっちを見た。


「ああ、いや、悪い。つい夢中になっちまった。それでとっつあん、コイツの皮鎧の話なんだが・・・」


 バツの悪そうな顔になったドニさんが、やっと最初の話をし始めると、おじさんの方も似た様な感じで、きまりの悪い表情になった。


「お、おお、勿論超特急でやらせて貰うともっ。でもちょっと待ってくれ、女房を呼んでくる。オレがお嬢さんの身体に触るワケにゃいかねえからな」


 おじさんはそう言ってちょっと頭を下げた後、奥さんを呼ぶ為に逃げる様に店の奥に消えていった。


「げっ、とっつぁんのヤツ、逃げやがったな」


 何気なく口から漏れたんだろうセリフにジト目で返すと、ドニさんがとても味わい深い表情で俯く。


 ぬにゅう。どうやら何とかなった臭いけど、この分だと何処で何言われてるか判んないし、町中では隠蔽魔道具オンが必須って感じだね。


 静かになった店内で、ワタシは乱れた感情を立て直す為にお腹に力を入れた。


 スーハースーハー、深呼吸!


 うむ! ちょっと落ち着いた。思わず腰に両手を当てそうになっちゃったのはご愛嬌だ。


 漸く落ち着いてきた所で、未だに伏目がちなドニさんに新たな話題を振ってみる。


「ところで、今のおじさんって衛士でも討伐士でも無いのに、なんであの時、城門の所にいたのかな?」


 いきなり話を振られたドニさんが、ちょっとキョドった感じでこっちを見た。


「あ・・・ああっ、とっつぁんは登録義勇兵だ。元討伐士とかで戦闘経験のあるヤツが、イザって時に衛士隊に加わるのさ」


 全く新たな話に、ドニさんも気を取り直したのか、キョドった態度も一瞬で消えて答えてくれる。


 うん。取り敢えず場の繋ぎには良い話題だったかな。


 しかし義勇兵ねぇ。民兵なんか使ってて大丈夫なんかね。


「それって足手纏いにしかならないんじゃないの?」


 貴族や上級士族だと、マジな現場では「元経験者」ってヤツ程当てにならない連中は居ないんだよね。


 大抵は声ばっかり大きくて、使えないヤツばっかりだし。


「いきなりだったらそうだが、登録義勇兵ってのは、年に何回か訓練に参加する義務があるんだよ。だから逆に即戦力だなっ」


 完全に元の調子に戻ったドニさんが、ワタシの胡乱な目付きに気が付いたのか、目の前で握りこぶしを作って力説する。


 へぇ。そんな制度があるんだ。だったら確かに即戦力で使えるか。


 衛士隊をバラして隙間に組み込めば、一気に数を増やす事が出来るし、意外に使い勝手は良いのかも知れない。


「お小遣い程度だが手当ても出るし、町も戦力が確保できるんでお互い様ってヤツだ。こんな辺境の町じゃ、有り難い戦力だよ」


「成る程ねぇ。次官の人も色々と考えてるんだ」


 多少なりとも手当てが出るなら、やる気も違うだろうし、あの次官氏ってやっぱ結構なやり手なんだな。


「おいおい、登録義勇兵なんて何処にだってある話だろ? 確かに場所によっちゃ銅貨一枚出ない所もあるが、何処でも普通の話だと思うぞ」


 げげっ、そうなのか。全然知らなかったよ。


 マルシルじゃ、民兵なんてまず使わないし、戦闘はプロの仕事って感じに割り切られてる所があるからなぁ。


「いやー、ワタシってガキだし、世間から外れ捲くってるヤツだから、結構知らない事って多いんだよ」


 速攻で誤魔化す。


「マリーをガキ呼ばわりする馬鹿はいないだろうが、考えてみりゃそうだよな。何たって御落胤なんだし、世間知らずで当たり前かぁ」


 腕を組んでうんうんと頷くドニさんを見て、ちょっとホッとした。


 御落胤って即興で考えた設定だったけど、結構使えるわー。


 大体、そのテのヤツって世間から隠れた所で育てられるのが普通だしね。


 ま、大抵は子供の内に闇から闇に消えるのがお定まりだけど、偶に表に出て来た時も、実の親とは全然関係無い形で出て来るのが普通だから、出自を誤魔化したいワタシにとっては都合がイイ。


「いやー、待たせちまったな」


 頃合を計ってたのか、丁度良いタイミングで、奥から奥さんらしき人を連れたおじさんが戻って来た。


 このおじさん、結構タヌキだよなぁ。


本日もこの辺で終わらせて頂きます。

読んで頂いた方、ありがとうございました。


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