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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
辺境のスタンピード
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039話

 朝起きて、懐中時計で時間を見ると、時刻はもう昼前って感じだった。


 ぬう。大分寝過ごしちゃったみたいですな。


 ワタシはノロノロと寝台から出ると、備え付けの洗面台で顔を洗って、身支度を整えた。


 身支度と言っても、貴族のお姫様じゃ無いんだから知れてる。


 服を着替えて、女の子にしては短い髪の毛をパパっと梳いたらもう終わりって感じですよ。


「はぁ」


 続き部屋に移動して椅子に座ると、何となく溜め息が出た。


 インベントリから水筒を出して、レモン水で一服しながら、昨日の事を思う。


「昨日は大変な一日だったよなぁ」


 朝の雑貨屋のおっちゃんの一騒ぎに始まって、昼に支部の面々と謀議、直後に南門でゴブやオークの大群と大立ち回り、そのまた後にリザードマン共を数十匹斬り捨てて、更に代官一行を始末後、最後は巨大ザリガニ相手に独りで奮戦したワケで、これが大変じゃなかったら、何が大変なのかって感じですよ。


 考えてみれば、あんな無茶苦茶に頑張った事って、今までの人生で初めてだ。


 ただ、ザリガニを退治した迄は良かったんだけど、後のフォローとかが結構疲れました。


 ザリガニ相手の実験も上首尾に終わって、いざお片づけって感じで、いそいそとザリガニ死体の回収をやってたら、やって来たドニさんが呆然と立ち尽くしちゃって、復活させるのがもう大変。


 しかもその後直ぐにしぶちょー達も来て、やっぱり同じ様に固まっちゃったんで、そっちも結構大変だったと言うオマケ付き。


 その上、代官達の死体を野焼きスペシャルで焼いて、ほとんど灰も残らず焼却してあげたら、それにも異様に驚かれちゃって、質問攻めでもうゲンナリ。


 ザリガニの残党探しにドニさんが出たのを皮切りに、しぶちょーとソレーヌさんも自分の仕事に走る事になったから救われたけど、ホントに(精神的に)疲れましたわ。 


 ま、出会う魔物をホイホイと斬り捲くりながら独りで町に帰ったら、もう日が暮れる所だって言うのに、討伐士や衛士達が門の内外で魔物退治に大騒ぎだったんで、それに紛れてさっさと支部まで帰れたのは良かったけどさ。


 その後は査定師のおっさんの指示で支部の裏庭にザリガニを出して、討伐士用の炊き出しを食べて、風呂に入って、何も考えずに部屋で寝た。


 ふと手を見る。


 この可愛らしいおてて、汚れる事はあっても余程の事が無い限り痛まない事が、今回よーく判った。


 だって素手で剣とか鉄棒を握って、あれだけの数の魔物を潰し捲くったら、普通は手がイカレる所の騒ぎじゃないのに、「労働? 何ソレ?」って感じの上級貴族の姫サマもびっくりな程の華奢で綺麗な手のままだしさ。


 ホントに人間なんだよね、ワタシ?


 またちょっとそのテの心配が増えた気がするよ。


「さてっと」


 ワタシは水筒をしまうと、立ち上がって気合を入れた。


 余計な事を考えてるヒマは無い。何しろ、今日も今日とてやる事が山盛りなのだ。


 ザリガニ共の死体は昨日引き渡したけど、他の魔物は出してないし、討伐戦後のミーティングには出なきゃなんないし、宿決めだの服の発注だのもさっさとしなきゃイケナイ。


 こんなトコで呆けてる余裕は無いんだよね。


 そんな感じで部屋から廊下に出ると、ダイニングの方から人の声がするので、取り敢えず顔を出してみた。


「おお! 昨日の大殊勲者のお出ましだ!!」


 いきなり声を掛けられてビックリすると、昨日会った次官氏とドニさんがダイニングの大きなテーブルを挟んで座ってた。


「大殊勲って言う程の事はしてないと思うけど?」


 取り敢えず返事をしながらテーブルに近づくと、ワタシも手頃な椅子に座る。


「謙遜もそこまで行くと周りが哀れになるからやめておいて方がイイ。しかも君は、あのエドのヤツを此処に押し留めたんだ! これが殊勲じゃなくてナンなんだ!」


 どうやら、次官氏は昼間からお酒が入ってるっぽい。もしかして徹夜だったのかな?


「そう言えばしぶちょーは?」


 テーブルの上は既に食事が終わった感じで、次官氏はコーヒーを片手に紙巻を吸ってた。


「まだ仕事さ。何しろヤツにはたっぷりと働いて貰わないといけないからなっ」


 次官氏はそう言ってワタシにウインクすると、紙巻を灰皿に揉み消し、ちょっとふら付きながらも椅子から立ち上がって、片手で辞去の挨拶をしながら去って行く。


「何か大変みたいだね」


 ダイニングに残されたワタシは、同様に残って紅茶を飲んでたドニさんに話し掛けた。


「マリーが考える事じゃ無いさ。あの人らにはあの人らのやる事があるって事だよ。それより、この後どうする?」


 ん? どうするって言われてもねぇ。


 ワタシが変な顔をすると、ドニさんが笑った。


「おいおい。小規模とは言え、今回のスタンピード討伐の最大功労者はお前だぞ? 一等功の授与だの表彰だの、これから色々あるが、それまで此処に世話になるのか?」


 ああ、あー! 思い出しましたよ。そう言えばそんな事もあるんだっけ。


 一等功ってのは、討伐士協会や王侯が正式にスタンピードと認めた魔物の侵攻に対して、最も活躍した人物や団体に贈られる最高賞の事だ。


 コレって、表彰する側が協会か王侯かで褒賞の内容が大分変わるんだよね。


 協会なら賞金とかだけど、王侯だと土地だの官職だの爵位だの称号だのと、色々と面倒臭い。


 スタンピードには格があって、1千から5千迄を小規模、5千から1万迄を中規模、1万から3万を大規模、それ以上が超級って感じに別けられてるんだけど、今回は魔物の総数も3千位だろうし、ドニさんが言う様に小規模に分類されるスタンピードだから、表彰元は協会でほぼ間違いは無いから安心だけどさ。


「そっか。ワタシって800匹くらいは斬っちゃった感じだもんね、今回」


 何となく溜め息。ちょっとやり過ぎちゃった感はあるよなぁ。


「何言ってんだっ。ギガリッパーを一人で全部討伐しやがった勇者のクセに!」


「いや、アレはほら、何て言うか爆弾槍のお陰?」


「オイオイ。爆弾槍ってのは特攻兵器だぞ? そんなのであんな活躍が出来るなら、誰だってとっくにやってるっての」


 ドニさんが呆れた様な顔で肩を竦めた。


 ぬう。なんか何も言い返せないわ。


 正直に「大気中で目視圏内なら遠隔で魔法陣を操作出来るんで楽勝でした!」とか言ったら大騒ぎだろうしなぁ。


「ところでマリー、オレは今回の件でお前さんにデカい借りが二つ出来ちまったんだが、ソイツをちょっと返させてくれないか?」


 何となく黙り込んじゃったワタシに、ドニさんが不思議そうな顔をしながら訊いて来た。


「一つ目は判るけど、二つ目って何?」


 むう。一つ目はあの空中アクロバット射撃の事だろうけど、二つ目なんてあったかな。


「オレが笑い転げてたせいで、お前一人にギガリッパーの相手をさせちまったってコトだ」


 ああ、そう来るのかぁ。でもそんな事言われても、こっちは複雑な気分になるだけだよなぁ。


「それは別にイイってぇ。それよりこっちこそ、ザリガニの星を総取りしちゃって悪かったって感じだよ」


 そもそも単に一人で実験したかったから、ドニさんが笑い転げてる隙にヤっちゃったのを、借りって考えられちゃうのはツラいよね。


「オイオイ、そりゃマリーが命を賭けて成した成果だろうがっ。オレに謝る筋合いの事じゃない!」


 いやー、だから別に命なんか賭けて無いですよー。


 にゅう。困ったなぁ。


 確かにザリガに共はその巨体に似合わず手足(?)の動きは素早かった。


 普通なら爆弾槍を投げても大きなハサミとかで防がれちゃうだろうし、相手がワタシじゃなかったら、大人数でもかなり危険な討伐になった事は想像に難くない。


 でもその防御を跳ね飛ばすワタシの人間バリスタ(勝手に命名)だと楽勝だったし、基本的に利己的な実験でしかなかったんだから、ソレを借りって言われると罪悪感しか無いんですけど。


「だってそもそもワタシが変な事を言わなきゃ、ドニさんだってああは成らなかったんだし、お互い様なんじゃないの?」


「それを言ったらそうかも知れんが、何て言うか、オレもストレスが堪っててな。お前が支部長を揶揄する様な事を言ったんで、思わず笑っちまったんだ。済まん」


 ストレスね。


 やっぱドニさんって、ソレーヌさんに気があったのかな。


「えっと、違ってたら悪いんだけど、ドニさんってソレーヌさんに気があったとか?」


「オイオイ、オレは妻子持ちだぞ? そんなんじゃないさ」


 取り敢えず話題を逸らす目的で、場の勢いに乗って訊いて見ると、ドニさんは意外だって顔で即座に否定した。


「それなら良かったけど」


「あの支部長の煮え切らない所や隠し事の多さに最近イライラしててな。で、今回だろ? さすがに頭に来てたんだ」


 ああ、ストレスってそっちかぁ。


 そりゃ支部の幹部としてはそうだよね。


 今だから判るけど、しぶちょーって多分、代官をヤったらソレーヌさんと一緒に、スタンピードの騒ぎに紛れて出奔する積りだったんじゃないかな。


 次官氏のさっきのセリフもそんな感じだったし、それこそ、前代官の居るアクス-マルス辺りに逃げる腹積もりだったんだと思う。


 だから誰にも本当の事を言ってなかった臭いんだけど、ソレってワタシみたいな一匹狼とか、アウトローの発想だよなぁ。


 アレの町に限れば、それこそ絶対的な政治力を振るえる立場の人物が考える事じゃ無いよ。


 後始末を投げられる格好の次官氏が哀れ過ぎる。


「ま、マリーのお陰で最悪の事態は免れたワケだ。こうなったら、支部長にはとことんまで働いてもらうさ」


 どうやらドニさんもワタシと同じ結論に達してるみたいだ。


 そりゃそうだよねって感じだけど、今後のしぶちょーの支部内での立ち位置が、結構微妙になって面白いかも知れない。


 もう今までみたいにエラそうには出来ないし、色々からかわれたりもするだろうしね。


 まあ、返って支部内の人達との距離が近づいて、結果オーライになりそうな気はするけど。


「で、だ。そんな事より借りの件なんだが・・・」


 しぶちょーの今後を思って薄笑いを浮かべてると、ドニさんがまた真面目な顔になった。


 ありゃりゃ、話題を逸らした積りだったのに、戻っちゃったか。


「オレの従兄弟が、この町じゃ結構知られた宿屋をやっててな。此処を出るなら、そこに泊まらないかって話なんだ。勿論、一切の請求はオレのツケだ」


 一瞬、どうしようかって思ったら、意外な提案が出てきたんで、ほえ?って感じでドニさんを見た。


「それってワタシ的には結構大感謝な話なんだけど、いいの?」


 そりゃスタンピードの後始末とかで大わらわの支部内に泊まり続ける気は元から無いし、タダで宿屋で上げ膳据え膳ってのはむっちゃ魅力的な話だよね。


「いや、それはこっちの話だぞ? 本当ならもっとちゃんとした形で借りを返したいんだが、お前は表彰終わったらまた次の町へ行くんだろうし、短い間に出来る事ってのが他に考え付かなくてな。受けてくれるなら嬉しいが」


 戦場での討伐騎士同士の貸し借りってヤツには、確かに厳格なルールは無いけど、ゲン担ぎみたいな所もあって、結構拘る人は多いって聞く。


 ドニさんも歴戦の討伐騎士だし、拘る方なんだろうなぁ。


 勿論ワタシの答えはイエスだ。そう言うと、ドニさんは嬉しそうな顔をした。


「まぁ、今回の件でオレも5級がカンストして4級に成れるし、その点でもお前には感謝してるんだ。トカゲ野郎の連体破なんか、お前が一緒じゃなかったらあんな簡単に幾つも取れなかったしなっ」


 ドニさんはそう言いながら立ち上がると、キッチンの方に入って、大きなバスケットを持って来た。


「メシ、まだだろ? そいつを食ったら、宿にはオレが案内するさ。何、オレの従兄弟はリプロンで修行した腕自慢だからな。気に入る事請け合いだぜ?」


 なにゅうんん! ソレはちょっと期待できますよっ。


 そう言えば、ザリガニ君の料理もお願いしたいとは思ってたんだよねっ。


 バスケットを受け取ると、中に入ってた大量のサンドイッチを頬張りながら、ワタシの頭の中は思い付く限りのザリガニ料理で一杯になった。


「ザリガニって美味しいのかなぁ」


 思わず言葉が出ちゃう。


「おう! ギガリッパーは珍味らしいぜ? 出来ればオレもご相伴に預かりたいもんだ!」


 ご相伴どころか丸々一匹位はあげるよー。査定師のおっさんに頼んで、尻尾は今全部ワタシのストレージもどきの中だしね。


 しかし、出る前に重要な事を訊いとかないといけないか。


「そう言えば、討伐戦後ミーティングはいいの?」


 はぐはぐとサンドイッチを食べながら訊くと、紅茶のお代わりを淹れてるドニさんが、大げさに肩を竦めた。


「そんなのを今やってる余裕は支部長達には無いさ。今朝報告が来たんだが、ヴィヨンに向かってたリプロンの部隊が三日後には此処に来るらしいし、例の直参男爵閣下の部下も同じ位に着くそうだ。その対応で今朝から大騒ぎでな。せいぜいあっても明日以降で、それもオレ達4人の話を合わす話合い位だろう」


 もうお手上げって感じの格好でおどけるドニさんを見て笑う。


 笑いながらも、心の中でちょっと溜め息。


 リプロンの部隊とデラージュの手下がほぼ同じ日、それもあと三日の早さで来る様に仕掛けるなんて、あのしぶちょーはホントにクセモノだよなぁ。


 願わくば、その手腕をもっと日の当たる所でも使って欲しいもんだ。


 ドニさんがついでに淹れてくれた、ワタシの分の紅茶に手を出しながら、ワタシはこの町の未来を想った。


本日はこの辺にさせて頂きます。

読んで頂いた方、有難うございました。


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