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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
辺境のスタンピード
38/221

038話


 しかしデカいわー。


 ワタシはちょっと呆れ顔で、まだ遠くに居るザリガニを見た。


 200ヤード(約183m)以上離れてるってのに、ハッキリと形が判るし、これって本気で13フィート(約4m)を超えてそうですよ。


「あのさー、ちょっと試してみたい事があるんで、先に行かせて貰ってイイ?」


 取り敢えず、傍に居たドニさんに仁義を切ってみる。


「別にイイが、無理はするなよ? 何匹居るかも判らないんだ」


 うんうん。幾らワタシでも、初見の相手には様子見から入りますって。


「じゃ、しぶちょー、ワタシちょっと軽く触って来るから、今の内にそいつら焼いちゃう前の処理お願いねえー!」


 後ろを向いて、桃色な二人にも仁義を切ると、ワタシはデカザリガニの方へ歩き出した。


 例のギュンターとか言う凶賊が撃って来たクロスボウの魔法矢を見た時に、結構なヒントを掴んだんで、試して見たい魔法ワザがあるんだよね。


 他の奴等のはともかく、ヤツの魔法矢には一種独特の雰囲気があった。


 大体、矢ってモノには、魔法陣を刻んだり魔石を仕込むスペースがほとんど無いから、矢自体を攻撃魔導具にする事はほぼ不可能で、魔法は後付けや外的操作の形になるのが普通だ。


 上級者が使うスラッシュの様なもんだね。


 風系魔法と言われる大気(主にその流れ)を操る魔法は、ワタシ達が大気の海の底に住んでるからこそ出来る魔法で、スラッシュの剣技は、その大気の海の中に一寸しスポットを作って放つ魔法技だけど、上級者はそれを肉体的な技で放つのでは無く、初めからそのスポットを大気を操る魔法で飛ばす。


 これは観てる空間の広さが大きいからこそ出来る技だけど、これが出来るからこそ、剣だけでなく、素手どころか指一本ですらスラッシュを放つ事が出来るんだよね。


 世に指弾って言われる技がソレだ。


 要するに、矢に掛ける魔法ってのは、大抵がそう言う外的操作による誘導やブーストが基本になる。


 でもヤツの撃つ矢は、自らが魔法を操って飛んでて、まるで矢にヤツの魔法が乗り移った感じだった。


 あんな魔法技はあの時初めて見たけど、考えてみれば理にかなった話だとは思う。


 手に持った剣に魔法を通して魔法剣化出来るなら、矢に同じ事をやらない方がおかしいよね。


 ただその場合、矢が手を離れてしまった後の魔法力をどこから持ってくるかってのが大問題だ。


 多分あの矢にはその為の色々な仕掛けがあったんだろうけど、あの時のほんの一瞬、ワタシはあの矢に掛かってた魔法に、影斬と同じ様な空気を感じたんだよ。


 だからワタシは、ヤツは影斬に代表される高等魔法剣技の使い手だと思って、剣による決着を避けたんだけど、影斬の魔法のキモは、剣の魔法分身体を作るような所に有る。


 もしヤツが、矢をクロスボウで撃つのと同時に、矢の魔法分身体で矢を飛ばしていたのなら、自分の魔法力の塊を千切って飛ばす様なものだし、刹那の間なら十分に魔法力が保つ筈だと思う。


 影斬の刃を飛ばして相手を斬る時と同じ様にね。


 これって、ワタシが長年考えてた「銃弾の誘導」に使える方法論なんじゃ無いかって思うんですよ。


 他の人に何故難しいのかは判んないけど、ワタシはワタシの魔法を思う様に遠隔操作出来るから、もし魔法分身体をその様に飛ばせるなら、誘導から何から自由自在だ。


 銃弾はそのスピードが速いのがネックだけど、そのスピードに付いて行く魔法技自体は存在するんで、後はその魔法分身体で物体を動かす方法論を確立すればイイ。


 と言う訳で、まずはインベントリから取り出しましたるこの爆弾槍で、ヤツの矢と同じ事をやってみようってワケですね。


 ワタシが向かって行ってるのに気が付いたのか、デカザリガニは両手(?)のハサミを振り上げて、立ち上がる様に上体をカチ上げて来た。


 まだ彼我の距離は150ヤード(約137m)はラクにあるってのに、気の早いヤツだ。


 ワタシは爆弾槍を片手で肩に担ぐ様にして持ってヤツに向けると、影斬の時と同じ要領で魔法を励起して、槍に魔法力を突っ込む。


 見てると、元々黒っぽかった爆弾槍が黒光りする様な感じになって、ちょっとダブって見えて来た。


 にゅっふふふ。コレはイケそうですよ?


 たっかたたーって感じで助走を付ける。ここで風系魔法を使ったら、実験にならないもんね。


 ザリガニとの距離が100ヤード(約91m)を切った所で、ワタシは一切の風系魔法を使わず、身体制御と影斬の魔法だけを使って、そのまま槍をブン投げた。


「どりゃぁぁぁっ!!」


 手を離れた爆弾槍は物凄い勢いでブッ飛んで行く。


 うんうん。コレはイケる! 影斬の刃飛ばしと同様、細かい誘導も思うが侭だよ!!


 ブッ飛んだ爆弾槍は、もう目で見た所に当たるって感じで、見事に狙ったど真ん中であるデカザリガニの口部分に当たった。


 が、やったと思った瞬間、「ドカン」と言う音と共に、槍はザリガニの口から背中の甲殻迄を一気にブチ抜き、その巨体に大穴を明けて空高く飛び去る。


 一瞬後に遠くで「パンッ」って音がして、虚空で爆弾槍が空しく弾けた。


「しょっぱい花火だ」


 ドドッと言うザリガニが倒れる音を聞きながら、ドッと疲れて地面に膝をついた。


 はぁ。なんでしょね、このバカ力は。


「これは実証実験とか慣熟訓練が必須だわ」


 思わず口に出して反省。


 見れば、ザリガニは衝撃で上半身(?)がバラバラになっちゃってる。コレ、後で回収すんのヤだよなぁ。


「ま、イイか。ヘコんでないで、次だ次!」


 取り敢えず実験の初期目的は達成したって事で、ワタシは気を取り直して立ち上がると、インベントリから新たな爆弾槍を二本出した。


 探知魔法もどきにはまだ何匹か映ってるから、まだまだ実験は続けられる。


 ザリガニ共には、ワタシの実験の糧になって貰いましょう。


「次は二本一辺にイってみるかなー」


 ワタシは二本の槍をさっきと同じ様に構えると、魔法を励起しながら歩き出した。


 とても緩やかな坂の先、ちょうどザリガニのバラバラ死体の先あたりからは、坂が少し急になってるみたいで、ここからじゃ向こう側が見えない。


 しかしナンですね。匂いが薄いですよ。


 近づくに従って、ザリガニ特有のあのイヤな臭気が来ると思ったら、そんな臭気はほとんど感じない。


 うーん、ザリガニって聞いた時から、臭気は結構覚悟してたんだけど、これだけ臭気が薄いって事は、食用にしたらイケるかも知れないよね。


 ザリガニ死体の傍まで来ても、死体としての匂いは凄いけど、特有の匂いは薄かった。


 取り敢えず、千切れかけてる尻尾部分を左手に出した片手剣でブッた切り、ストレージもどきに仕舞う。


 にゅふふふ。この大きさだと食いでがありそうですよ。


 いいお土産が出来たと思いながら、探知魔法もどきでは120ヤード(約110m)位に迫ってる連中を確認しようと、ザリガニ死体の向こう側へ出る。


 最初に見えた坂を上って来てる二匹に同時に槍を投げると、威力を絞った爆弾槍は、顔面から深々と突き刺さったものの、今度はちゃんと体内で爆発した。


「ドムンッ」って鈍い音と共に、刺さった所から色々噴き出したデカザリガニがその場で突っ伏したのを見て、成功に安堵の溜め息を漏らす。


「うんうん。同時攻撃でもイケますな」


 こりゃ単なるカモ撃ちで終わっちゃいそうだなーって思いながら、更に前方へ歩く。


 すると、前までは見えなかった緩い下り坂の先、ここから約500ヤード(約457m)位向こうに小川が見えた。


 そのまま進んで行くと、この街道に繋がる壊れた小さな橋が見えてきて、その手前には馬車とかの残骸が見えて・・・。


「ひいえぇぇぇっ!!」


 とんでもない事に、馬車の所には20を超える大量のデカザリガニが居て、ワシャワシャと馬とかを貪り食ってやがりました。


「撤退撤退、速攻で撤退ぃーっ!」


 あまりもキモさに、速攻でターン。


 ワタシは猛スピードで桃色男女がいる小高い丘の上までダッシュすると、ゼエゼエと息を切らしながら、何とか立ち止まった。


「マ、マリー、どうした? 何があった!?」


 あー、なんか久しぶりに純粋な肉体能力だけで走っちゃったわ、結構苦しいモンですな。


「おい、マリー?」


 桃色男女の所に戻ってたドニさんが、ゼエゼエと息を切らすワタシを心配して、背中をさすってくれた。


「ふ、ふいぃー。や、ドニさん、ありがとっ」


 ワタシは息を整えると、目を丸くしてこっちを見てた桃色男女の方を向いた。


「ちょっとそこの桃色しぶちょー! ザリガニがあんな数居るなんて、全然聞いてないんだけど、どーなってんの!?」


 思いっきり人差し指で指して、大きな声で言ってやると、横に居たドニさんが途端に噴き出した。


「ぶわっははははは!! も、ももいろ、支部長って、ぎゃっはははは!!」


 ツボに入ったのか、突然笑い出したドニさんが、腹を抱えて笑い死にしそうな勢いで転がり出した。


 いや、ドニさん、笑ってる場合じゃ無いと思うんだけど・・・。


「お前な・・・まあ謝らなければいけないのはこっちの方だから、ナンとも言えんが、もう少し言い様ってモノがあるだろう」


 ソレーヌさんは何か又無言で真っ赤になってるけど、しぶちょーはムッとした顔で文句を言って来た。


「ひぃーっ、く、苦しぃーっ、ブッ、ギャッハハハハハハ!!」


 ツボに入り捲くってる様で、まだ転げ回ってるドニさんを無視して、ワタシはしぶちょーを睨んだ。


「とにかく、爆弾槍をありったけ出して! 予備とか色々ある筈でしょ?」


「確かに全部で30本持って来てるが・・・」


 しぶちょーがストレージの魔導具から取り出すのも遅しと、ワタシはそれらを引っ掴むと、自分のインベントリに突っ込んで立ち上がった。


「おい、全部で何体居るんだ? 数が居るなら俺も・・・」


「仮にもスタンピードの本尊討伐戦中にしぶちょーが出ちゃったら、討伐戦自体が崩壊するって、判って言ってるワケ!?」


 しぶちょーが腰を上げようとするのを、怒鳴る様な声で止めると、ワタシはまたザリガニ共に向かって走り出した。


 影斬の魔法自体はもうしぶちょーに見られちゃってるけど、世間では超ムズって言われる遠隔操作の魔法まで見られちゃうのは不味いもんね。


 最初のザリガニの死体の所まで走ると、さっきのワタシの悲鳴でこっちに気が付いたらしいザリガニ共が、わんさと緩い坂を登って来てるのが見えた。


「さって練習、練習! 今度は4本かな」

 

 ワタシは小さな片手で持てるギリギリの数っぽい4本の爆弾槍を何とか持つと、担ぐ様に構えて影斬の魔法を励起した。


 30本もあればまず足りるだろうし、練習には丁度イイよねっ。


 4本の爆弾槍を一度に飛ばすと、それらはそれぞれ、見事に最前列にいた4匹の顔面を捉えた。


 直後に鈍い音と共に、デカザリガニ4匹が沈黙する。


 良し良し。これならこの魔法、結構早くマスター出来そうだ。


 ワタシは早くも銃弾への応用を考えながら、実験を続ける事にした。


本日はこの辺で終わりにさせて頂きます。

読んで頂いた方、有難うございました。

なお、前にも書きました通り、次の更新は明後日になりますので、宜しくお願いします。


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