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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
辺境のスタンピード
34/221

034話

 全くこのおっさんは・・・。


 どうしてこう何もかもが他人事なのかなぁ。


 討伐士協会の従騎士が魔物を蹂躙したんだから、支部長がこの場を仕切って、喝采を浴びたってイイだろうに。


 関わりはありません~みたいな感じで大勢に混じって、そっと嫌味っぽいセリフを吐くなんて、頭を取ってる人のやる事じゃないよね。


 隊長サンの方を見ると、既に彼は衛士達に指示を出しながら、自身も魔物死体の回収を手伝ってた。


 こっちに引き換え、あの人は流石だよな。


 隊長サンが衛士隊長のプライドを放り投げてワタシを褒め捲くったのは、まだまだ続くだろうスタンピードの為に衛士達の士気を維持する意味が大きい筈だ。


 集団の頭を張るってのは、そう言う事が即座に出来る人の仕事だよ。


 多少カッコ悪くたって、それで死人が減れば万々歳だし、誰も痛まないんだからさぁ。


 ってまあ、何時までもヘタレしぶちょーの事を考えてても仕方が無いか。


 ワタシはしぶちょーの向こう側の門扉を見て、考えを切り替えた。


 確かに、反対側は気になる。


 そもそもこのスタンピードは何かがおかしい。


 この数の魔物が真昼間に門に押し寄せるなんて、スタンピード以外には考えられないのに、探知魔法もどきには未だほとんど魔物らしい影が無い。


 初手にフットワークの軽いゴブや、足が速くて長距離を疾駆出来るオークが来るのはお約束だけど、そのオークの数も少なすぎるし、動き出すのに時間が掛かっても、動き出したら止まらないリザードマンの群れの先発がやって来ないのはおかし過ぎる。


 コレ、もしかしてトレインか?


 はっとして、しぶちょーの顔を見た。


 スタンピード初動の際に、足自慢で腕自慢の連中が群れの分散を図る為、特攻覚悟で魔物を引き付けて突っ走る事は偶にある。


 5、600の数を引っ張るなんて聞いた事が無い様な凄腕だけど、出来ない話じゃないし、事前に大仕掛けでもあれば難易度はグッと下がると思う。


 さっきのショボい会議が頭に浮かんだ。


 もしそうなら、あの場に居た連中のほとんどは、飾りか相手にされてないかのどっちかで、本命の連中は正に今、魔物の群れを率いて走ってるのかも知れない。


「はぁ」


 溜め息が出ちゃうよ。


 まあ所詮は流れの余所者だしね。ハブにされるのはお約束か。


「で、主戦場の反対側に移動ってワケ?」


 半ば呆れ顔のジト目でしぶちょーを見ると、しぶちょーが門扉を指差した。


「行く気になったのなら付いて来て欲しいが、幾ら急いでも、さっきのアレはやるなよ?」


 ん? さっきのアレ?


 ちょっとヤな予感がして、ワタシはしぶちょーが指差す門扉にそうっと近づく。


 オークが散発的に体当たりしたせいで、少しひしゃげた門扉の隙間から向こう側を恐る恐る覗くと、門前広場は時期外れのミストラル(暴風)が直撃した様な惨状だった。


 げげっ、コレは不味い!


「この惨状な、支部の前からずうっとだぞ」


 しぶちょーの方に目を移すと、しぶちょーが渋い顔でこっちを睨んでる。


 むう、ちょっとやり過ぎちゃいましたかね、はははははっ。


 乾いた笑いで誤魔化すと、シブ顔のしぶちょーに頭を小突かれた。


「少しは周囲の迷惑ってモノを考えろ! お前さんがバカみたいに強いのは判ったが、周りはそうじゃないんだ」


 会議の仕返しか、しぶちょーが何かエラそうな事を言って怒る。


 なんだかなー。ヒロインになったと思ったら、叱られ役ですか。


 言ってる事は正論だから、反論する気も起きないけど、何か勇気とかやる気とか言った感じのモノが、ドドッと抜けて行っちゃうよね、トホホ。


 ワタシはちょっと涙目で天を仰ぐと嘆息した。


「うるせーぞっ! 何もして無いヤツがデカい事言ってんじゃねえっ!!」


 その時、大きな声が上から降って来た。


「嬢ちゃん! 気にすんな! アンタのお陰でみんな助かったんだ!」


 声のした方を見ると、城門の真上から長槍を持った討伐士風のおっさんが手を振ってた。


 どっかで見た事のある顔だ。


 アレ? もしかして、串焼き屋のおっちゃんか?


「そーだそーだ!」「お嬢は悪くねーぞ!」「スゲエ戦いだったぜ!」


 ワタシが上を向くと、城壁の上に居た衛士や討伐士達が、一斉にワタシを擁護する声を上げた。


 みんな・・・。


「みんな、ありがとー!」


 何か凄く嬉しくなって、ワタシはおっちゃん達に大声でお礼を言って手を振った。


 そして、ちょっと恥ずかしかったけど、振った手を握って高く挙げて、歓声に応えてみる。


 こう言う時はこうするもんだって、前にししょーが言ってたし。


 すると、作業中の衛士達からも一斉に大きな歓声が上がった。


 へ?


 ビックリして、思わず固まる。


 こんないきなりの大歓声なんて・・・ど、どうしよう?


 隊長サンの方を見ると、隊長サンは握った手の親指を立てて、こっちの視線に答えてくれた。


 ああ、そう言う事か。


 皆ビビッてたんじゃなくて、ワタシが勝利宣言しなかったから、声を上げるタイミングが無かったんだね。


 ううむ、またまた反省。


 ホントにワタシって人生経験が足りないんだよなぁ。


 結構な人数の大歓声に、ワタシは取り敢えず手を振ったりお辞儀をしたりして応えてみるけど、こんなの生まれて初めてだし、超恥ずかしいぃ。


 これ多分、顔真っ赤だな。


「みんな有難う! ワタシはこれから南門の救援に向かいます。皆でこの町を魔物共から守り抜きましょう!!」


 何時までもこうしては居られないんで、南門へ向かう事とお決まりの文句を大声で叫ぶ。


「オオオオオオ!!!」


 一際凄い歓声が上がった。


 ウン。自分だって既に当事者なんだから、この程度は言わないとねっ。


 決して恥ずかしいからさっさと逃げ出したくなったとかゆーコトじゃないっ。


 ワタシは門扉に向き直ると、上に立ってる串焼き屋のおっちゃんに照れ隠しのウインクで挨拶をしてから、しぶちょーの方を見た。


「じゃ、行きましょうか」


 ワタシが声を掛けると、しぶちょーはちょっと肩を竦めながら、通用口の方を促した。


「とにかく付いて来い。向こうは多分、一刻を争う状況だ」


 しぶちょーが動き出したので、ワタシも武器をインベントリに仕舞って後に続く。


 一刻を争う状況ねぇ。


 そう断言するからには、トレインの件は当たりで間違いが無いな、こりゃ。


 隊長サンの話じゃ、まだ南側は大した事が無いって話だったから、その裏を知ってるって事だもんね。


 つまり、代官を脱出させてザリガニにぶつける為の陽動が、この北門の騒ぎだったって事だ。


 そりゃ確かに、ちょっと急がないとマズいかも知れないな。


 魔物死体の回収に精を出す衛士達に混じって、ワタシ達は急ぎ足で通用口に入った。


 






 町中に入ると、ワタシとしぶちょーは風魔法を使わずに走った。


 ま、身体だけでもワタシは結構なスピードが出せるけど、しぶちょーはそれにしっかりと付いて来る。


 こう言う所は流石なんだよな、この人。


 基本的に悪い人じゃ無いしね。


 さっきのお叱りだって、擁護の声を狙ったモノっぽいし、そもそも丸っと他人事なら、あんな所へ来なきゃイイ。


 ワタシが言いたいのは「支部長としてどうか?」って話で、人間としてって事なら、結構面倒見の良い真っ当な人だと思うんだよ。


 何て言うのかな。


 ワタシは政治とかやるのがムリだと思ったから、討伐士になろうって思ったんだし、同様に向いてないんなら、さっさとそういう見切りって言うか、踏ん切りを付ければイイのにって感じかな。


 身分を持ってるなら、自分に見切りを付けるって事は大事な事だ。


 魔物の脅威にモロに晒されてるこの世の中じゃ、向いてない人物とその傘下の人達は、そうそう長生き出来ないからね。


 伊達に伯爵家跡取りじゃなかったから、そう言うのって随分と見てきたんだよ。


 まあ、もしかしたら、辞めようとしても後任が居なくてそのままって事だったりするのかも知れないけどさ。


 しぶちょーって、どう見ても参謀タイプだし、元々は上の人が居て、その人が死んだかして居なくなった後に祭り上げられて、そのままって事は有り得る。


 って、あれ? コレ、もしかして正解か?


 そう考えれば、しぶちょーのあの態度の数々にも納得が行く。


 凡ミスでも積み上げて、協会から降格されるのを待ってる所だとしたら、ワタシってとんだ厄介者だよな。


 ぬうっ。これはワタシ、何か大きな見当違いを犯してた可能性が高いですよ。


 そんな事を考えてる間に、協会支部があっと言う間に過ぎ去って、ワタシにとっては未見の町中に入った。


「コイツを持っておけ」


 多分町の真ん中だろう辺りの、デカい代官屋敷っぽい建物を過ぎると、隣を走るしぶちょーが何やら大きな獲物を両手で渡して来た。


 何かと思って抱える様にして受け取ると、それは数本の黒い槍だった。


 6フィート(約182cm)位の長さのオール鉄製で、槍の先端の刃は細く小さく、その根元が妙に膨らんでるブツだ。


「コレ、もしかして爆弾槍?」


 前に他の協会支部で同じモノをチラッっと見た事があったから、すぐに判った。


「そうだ。ギガリッパーをヤるにはコレが要る」


 しぶちょーがこっちを向かずに答える。


「コレ、特攻兵器でしょ? ワタシなら使えるけど、他の人達じゃ厳しいんじゃないの?」


 数えて5本の爆弾槍をインベントリに突っ込むと、ワタシは素直に訊いて見た。


 無論、理由はトレイン役の連中の実力が知りたいからだけど、コレってそれだけ扱いが難しいブツなんですよ。


 この爆弾槍ってヤツは、槍の穂先の根元が膨らんでる部分に火薬が詰まってて、ブッ刺した後で魔法力で点火して魔物の体内をブッ飛ばすと言う、かなり物騒なブツだ。


 こんなのの出番はハイオーガとかの凄く強い魔物が出た場合に限られるのが普通で、大抵は魔物に対して一人一殺って感じで突っ込む時に使う。


 だから特攻兵器って言われるし、支部の作戦でコレが配られる時は「悪いが覚悟を決めてくれ」って意味だって言われる。


「無傷で使えるとしたら、確かに俺とお前さん位だろうが、何人かは刺し違えなくてもイケるだろう」


 何人か? トレイン役の人達って戦闘はダメ系なのかな。


 ちょっと疑問に思ったけど、声には出さない。


 どーせココで作戦の全貌を訊いても、何も答えちゃくんないんだろうしね。


 前方に南門が見えて来た。北門よりもずっと大きい。


 北門は山岳森林方向に向いてるけど、南門は河の方に向いてて、ここから一番近い街のムスとかに通じる街道に繋がる筈だから、当たり前と言えば当たり前か。


 ワタシは大して役に立たなかった腰の片手剣を外してインベントリに仕舞うと、カタナ剣を出して代わりに腰に差した。


 やる気だの勇気だのは、北門の人達にもう十分に貰ったし、後は突っ込んでみるだけだ。


 さあって、鬼が出るか蛇が出るか、戦争はこれからだ。


本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。

読んで頂いた方、ありがとうございました。


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