032話
ちょっと気配の尻尾まで見せたワタシの剣幕に、全員がギョッとした顔で見上げる。
しかしこいつら、捕縛して直訴って何考えてんのかな。
御目出度いにも程があると思うんだけど。
「アマい、か・・・本当にそう思うのか?」
しぶちょーが呼応する様にこっちを睨んだ。
ああ、何かこの人のクセが判ってきた様な気がするけど、この勿体つけた話し様、何とかなんないかなぁ。
「中央に直訴なんて、向こうの手の内に葱背負ってハマる様なモンだろ? それとも、ワタシには事情は話せねーって感じで、舐めてんのか?」
ちょっと頭にキたんで、思いっきりド真ん中を言ってやる。コレで撥ねられたらサヨナラだ。
「お前さん、ホントに、その歳でどんだけ修羅場を潜ってやがるんだよ」
しぶちょーがワタシの答えを聞いて両手で顔を覆った。
別にしぶちょーの言う様な修羅場なんて潜ってないけどね。
単に元高位貴族家の跡取りだから、貴族のやり方ってのを知ってるだけだ。
だからアンタらがワタシを舐めてるのも良く判るんだよ。
「判った! 誤魔化しはヤメだ。本当は、男爵一行をガッシュに乗じて全員亡き者にする計画だ! どうだ、コレを聞いてもノって来るか?」
しぶちょーがフッ切れた様な顔でこっちを向いた。
いやー、やっと口にしやがりましたよ。ホントに人見知りの学園生(10歳~12歳)少女みたいなおっさんだ。
「ハッ、最初から言えっての! で、何? ワタシが全員ブチ殺せばイイ訳?」
こっちはハナっからその積りだっつーの。バカ貴族とかクソ貴族をヤるんなら、幾らでもお手伝いしますよー?
「お前さん・・・ホントにシャレにならんな。オマリー卿もさぞかし苦労されたんだろうなぁ」
ちょっ! ソコでししょーの名を出すのは卑怯でしょうが。
ムッとした顔でしぶちょーを見ながら、速攻で仕返しを考える。
「あのさあ、ココって討伐士協会の支部でしょ? クソ貴族の一人や二人はとっとと始末して、思い通りの政治ってヤツをさっさとやればイイじゃん。何を勿体ぶってるのかなあ」
しぶちょーへの仕返しに、ワタシが立ったままで更なるド真ん中を口にすると、何故かほぼ全員が呆気に取られた様な表情になった。
そもそも新任代官なんて、本当だったら町を仕切ってる在地の討伐協会支部に頭が上がらないのが普通だ。
こんな田舎町じゃ、イザと言う時に頼れるのは討伐士協会位しか無いし、更に支部が町の行政を握ってる次官と組んでるとなれば、大抵の代官なんてお飾りに徹するしかない。
西聖王国の王領町村なんて、多かれ少なかれそんな所が現状なのに、この町はおかしすぎるんだよ。
ま、しぶちょーが原因だってのは、面々の中で次官氏だけが、拍手でもしそうな程楽しそうなのを見れば一目瞭然だけどさ。
「あのなあ、政治ってのは人々が付いて来なきゃ、何にもなんねえんだよ。まさか、そんな事も判んねえって事じゃないよなぁ?」
黙ったままのしぶちょーに代わって、支部長補佐だったかの人が疲れる事を言って来た。
それで反論の積りなのかなぁ。幼稚過ぎて笑っちゃうんですけど。
大体、統治の当事者であるべき支部長補佐が、そんな観客みたいな事を言ってたらダメダメじゃんか。
「はぁぁ、アンタみたいなのにそんなコトを言われたくないっての! 要は、誰も責任取りたく無いってダケでしょうが。馬鹿馬鹿しい! ヤる気が無いんなら、そもそも貴族の排除とか考えるな! 飲み屋でクダ巻いてるオッサンか!?」
ああー、もうド真ん中のド真ん中。ソレ以外は口にしたくない。
直球勝負が信条のワタシだけど、この人達には多分、本当のド真ん中以外は効かないと思う。
要するに、それだけ世間とか社会から感覚が乖離してるんだよね。
壊滅的な交渉力に政治バカの二重苦って言われるワタシがそう思うってのは、本当に深刻だよなぁ。
今のセリフに呆けたままの面々を無視して、ワタシはインベントリから貴族の印章指輪三つを取り出すと、右手の各指に嵌めた。
勿論、印章が見えない様に、中指のししょーの指輪と違って裏側を表にする。
「表っかわは見せられないけど、コレで判るだろ? あんたらみたいな巣に引っ込んでる若年ボケと違って、こっちは社会の鉄火場で生きてるんだっつーの!」
そう言って右手を振ってみせると、笑ってた次官氏を含めた全員が、ホケッとした顔付きになって、ワタシの右手に釘付けになった。
もう一押しかな?
「ま、一個ダケなら見せてもイイけどさ」
ワタシはアーベルさんから貰ったヤツを表に向けて、補佐のおっさんに見せてやる。
「ジュヴェーヌ公家の紋章・・・」
おおさすが。一発で判ったみたい。
補佐のおっさんは、呆然とした顔のまま固まると、そのまま黙った。
「お前さん、本当に一体何者なんだ? オマリー卿は政治から離れた人物だし、その歳でその印章の数もシャレにならな過ぎる」
げふぅっ。黙ってたと思ったら、内面少女のしぶちょーのクセに、珍しく直球攻撃ですか?
ちょっと正体バラし過ぎましたかね。ヤバいヤバい。
「ワタシの事より、そもそもしぶちょーが『オレが周辺の貴族共と話を付けてやるっ!』って感じでやってくれてれば、こんな事にはならなかったと思うけど?」
速攻で誤魔化しに入って、ついでにしぶちょーに色々擦り付けてみる。
見れば、次官氏がウンウンと頷いてた。
ああ。さっきも思ったけど、この人ってしぶちょーがヘタレなせいで苦労してるんだろうなぁ。
判りますよ、ホント。
しぶちょーって、ヘタレで内面少女のクセに見た目は大物っぽいから、余計に始末に負えないんだろうな。
「ふん。お前さんに言われるのもシャクだが・・・まぁ、そうだよな。確かに、俺がさっさと決断しておけば良かった話かもしれん」
おおっ、しぶちょーが懺悔モードに入ったか? 勝ったな。
でも、ここまで来たら重要な事を一つ訊いておかないとね。
「で、ヤる気になったのはイイんだけど、尻拭きって何処の誰がやるの? 人物によっては、ワタシはダッシュで逃げるけど?」
だって父上に近い西聖王国の貴族とか出てきたら、何も考えずに猛ダッシュで逃げるしか無いし、その辺は仕方無いよなぁ。
「っちょっ!」「な、貴様ぁ!」「マリーちゃん!」
皆の反応は様々だけど、ワタシが知りたいのはしぶちょーの反応だ。
「デラージュ男爵閣下だ。俺は閣下とは古馴染みでな。我が国の外交を仕切ってる御一人だったので、正直、近寄り難かったんだが・・・」
しぶちょーの言葉に、ほぼ全員がハッとしてしぶちょーに注目した。
次官氏だけは「やっと白状したか」って顔だけど、この皆の反応って、どうやら舐められてたのはワタシだけじゃなかったみたいだね。
腹心の連中にコレって、他人を信用しないにも程があるよなぁ。
コレじゃ補佐のおっさんが幼稚な政治感覚しか持って無いのも頷けるわ。
何も全部言う必要は無いけど、自分がやってる事がどう言う事なのか、多少なりとも説明されなきゃ、誰だってその場限りの事しか出来ないままだもの。
「中央で急な政変があってな。それで面倒の起こってるヴィヨンの代官に、自ら飛ばされて来ると言うんで、こっちの面倒も見て貰う手筈になってる」
しぶちょーの釈明染みた説明は続いて、皆は真剣な顔で聞き入ってる。
何気なく次官氏を見ると、次官氏は慣れた感じでウインクして見せた。
ワタシが追い込まなかったら、彼がやる積りだったのかな。
肩を竦めて見せると、次官氏は今度こそハッキリと笑う。
これで少しは鬱憤が晴れたのならイイけどね。
しかしデラージュかぁ。ワタシだって会った事がある西聖王国の大物外交官僚だよ。
父上と近い人じゃなくて良かったけど、このしぶちょーにもそんな切り札があったんだね。
急な政変ってのが何だか判らんけど、デラージュ程の大物が飛ばされるって事は、クズ公爵三人の一角でも潰れたんかな?
それともさすがのデラージュも、もう西聖王国は見放して逃げに入ったって事なのかな。
どっちにしろ、しぶちょーがデラージュの都落ちを睨んでコトを起こそうとしてたって事は、ワタシって凄い絶妙なタイミングでこの町に来たって感じだよね。
この件だって、仕掛けがデカイって言うより、タイミングが良かったって事なんだろうし。
「いいよ。ソコまで話が出来てるんなら、後はガッシュに紛れてカス共をヤるだけでしょ。実働部隊に手を挙げちゃうよ?」
しぶちょーの言葉が切れるのを待って、ワタシが手を上げると、しぶちょーまで入れた全員が、またワタシを呆れた様な表情で見た。
ぬう。こっちは直球勝負が信条なんですよっ。
そんな顔で見ないで欲しいんですけど。
ワタシの台詞に皆が呆れ返ったのか、会議は取り敢えずの詳細を詰めると、そこで散会になった。
ちょっと扱いが酷い気がするよなぁ。直球で言っただけなのに、皆その後から目を合わせてくれないしさ。
トンデモ無い人斬り女だと思われたのかな。それはそれで悲しいんですけど。
「はぁ・・・」
溜め息をつきながら一人で廊下を歩く。
しぶちょー達は皆仕事に戻ったから、ワタシは一人だ。
どうせ此処から出られないし、やる事が無いんで、ちょっと支部のラウンジに顔を出してみようかって感じ。
「ん?」
突破され難い様に、厚い鉄扉になってるラウンジの奥に繋がる扉の前まで来ると、何か向こう側が騒々しい。
何かなと思いながらも扉を開けてラウンジに出ると、そこは騒動の真っ只中だった。
「長槍を出せ!」「南北に班を別けるぞ!」「モタモタすんな!」
人相の悪い討伐士達がバタバタと走り回ってる向こう側のカウンター前に、割と満身創痍っぽい軽鎧の人が立ってる。
どっかで見たと思ったら、何時ぞやの隊長サンだ。
「不味いぜ、支部長! スタンピードだ! 南北両方の門は完全に閉ざしたが、北側に初手にしちゃ凄い量の魔物が押し寄せてる。直ぐに協会に緊急要請を頼む!」
隊長サンが、今出て来たらしいしぶちょーに向けて、カウンター越しに怒鳴った。
おおぅ、スタンピードか! こりゃ結構な大事になってる気配ですなっ!
「どの位の魔物が来てる? 主力は?」
寝ぼけた様なしぶちょーの声が聞こえて、ちょっとゲンナリ。
なんだかなー、スタンピードだってのに緊張感が無いな、あの人は。
そりゃまぁ判ってた話だって言えばそうかも知れないけど、ガッシュ(魔物の湧き)からスタンピード(魔物の狂奔)に発展した以上、猶予はもう無いと思うんだけどね。
しぶちょーの姿を見るためにカウンターの方へ行く間にも、隊長サンが大きな声でしぶちょーに答える。
「今の所、主力はオークで、数は30って所だが、ゴブリンはその20倍近く押し寄せてやがる!」
オークが30かぁ。取り敢えず行って来ようかな?
ちょっと考える。
ゴブなんかどうでもイイけど、これがスタンピードの序盤戦なら、膂力のある魔物は削れる内に削っとくのが吉だ。
「はーい、ちょっとワタシが行って散らして来ようか?」
隊長サンの近くに出たワタシが、手を上げて大きな声を出すと、それまでの喧騒が魔法の様に静まった。
ぬにゅう。なんでしょね、この周りの反応は。
どいつもこいつも、人の顔見て固まりやがって、ホントに!
ふとカウンターの向こう側を見ると、しぶちょーまでが呆れた様な顔でこっちを見てる。
オヒオヒ。
ここはそうじゃないでしょ! この人って何で何時もこうなのかなぁ。
「おおっ、今朝のマリア殿か! 助かるが、本当にイケるのか!?」
周囲が急に静まったせいか、ちょっとキョロついてた隊長サンが、ワタシを見つけて表情を明るくした。
こうだよ、こうこなくっちゃ!
「まだ序盤でしょ? 今の内に減らせるだけ減らしとくよ!」
「有り難い!!」
隊長さんの返事を聞くが早いか、ワタシは支部の建物を飛び出した。
衛士隊の緊急要請で出張るんなら、事実上の天下御免だ。細かい事は考えなくってイイ。
支部の建物を出ると、即座に大玉を召喚して一体化する。
直後に爆走の魔法系を一気に励起すると、ワタシは朝に入った北門に向けて走り出した。
本日もこの辺で終わります。
読んで頂いた方、ありがとうございました。




