029話
気が付かなかったんですが、何時の間にか評価を入れてくれた方がいた様で、ありがとうございます。これからもエタらない様に続けて行きますので、宜しくお願いします。
ワタシは盛り上がった討伐士達と握手したりハイタッチしたりして一騒ぎした後、しぶちょーの後に付いて、従業員用っぽい扉を潜った。
細い廊下をしぶちょーの後に続いて歩く。
「随分と気前がイイんだな?」
しぶちょーがボソっと呟いた。
「んん? だって幾ら同業って言っても、余所者にあんな事までしてくれたんだから当然だろ」
普通なら、地元の奴等が新参者の為に代官の手下にケンカ売ってくれる事なんて、絶対に無い。
ホントは結構嬉しかったんだよねっ。
「まあ、お前さんなら金貨10枚程度は何でもない事かも知れんが、連中にとっちゃ大金だ。クセになると困る」
「どの道、そんなに長居する積りは無いよ。此処で俺がゴブだのオークだのを刈り捲くったら、そっちも困るだろうし」
んー、このしぶちょー、何か面倒臭い性格してるなぁ。
こう言う時は「連中が世話になって悪いな」って感じで笑いながら、最後にちょっと釘を刺すのが基本なんじゃないかな。
ま、言いたい事は判るんだけどさぁ。
「ところで、素体(普通は死体とか死骸とかって言い方はしない)の方はどうした? 出来れば全部譲って貰いたかったんだが・・・」
廊下をちょっと行った所にあった扉の前で、しぶちょーが止まって振り向いた。
おんや。そんな話が出るって事は、この扉の向こうは捌き場かな?
「ストレージに放り込んであるよ。魔石分はほとんど全部あるぜ」
「100を越える魔物をか? 凄いな。だったら、ちょっと寄り道して出してくれないか」
「ああ、判った」
しぶちょーが目の前の扉を開けると、そこは案の定、捌き場に繋がる通用口みたいで、独特の臭いが漂ってる。
そのまま進むとすぐに、モロに素体処理場って言うか、精肉加工現場って感じの場所に出て、そこに居たおっさんにしぶちょーが声を掛けた。
「此処で出してくれ。本当は裏から回って貰うんだが、さっきの騒ぎの後だからな。今、お前さんを外に出す訳にはいかん」
そりゃあの騒ぎの後だしね。クズ寄騎が役人共を呼んでる可能性は高いよな。
此処に居た査定師らしいおっさんに目配せすると、おっさんが頷いたので、ワタシはストレージもどきから魔物の死体を出し始める。
「オーク類はそっちの台の上にしてくれ。ああ、リザードマンは下でイイ」
おっさんの指示通りに、ワタシがどんどん魔物の死体を出して行くと、程無くして、ストレージもどきに入ってた魔物の死体は全部出し終わり、周囲は魔物死体の山になった。
「イイ腕だな。このオークの首の切り口なんか、並みの騎士じゃ到底無理な手際だ」
おっさんがオーク死体を撫でながら、こっちを値踏みする様に見る。
ああ、まーそうだよね。この数にこの綺麗さじゃ、かなりの有名討伐騎士でも来たんじゃないかって考えるよな。
でもご期待には添えないんだな、コレが。
「まーね。剣にかけちゃ、自分でも結構イイ線行ってるとは思うぜ?」
思いっきりおっさんの期待を裏切ってそう言ってやると、おっさんは笑っちゃう位に驚いた顔をした。
「アンタがこれを全部ヤったのか!? そいつは凄い!」
驚愕の顔のままでおっさんがしぶちょーの方を見ると、しぶちょーはやれやれって感じで両手を広げる。
「ソイツはさっき、ボキューズと斬り合おうとした様なヤツだ。見た目はアレだが、結構な使い手らしい」
しぶちょーの言葉に、おっさんは「ほぉー」って感じにまた驚くと、今度はこっちを見ずに魔物死体の山を弄くり始めた。
はぁ。アレとか言われちゃいますか。まあ確かに外見はアレとしか言い様が無いかも知れないけど、複雑だよなぁ。
「しかし本当に凄いな! 綺麗なモノがほとんどだし、ゴブリン以外は素体の下処理も見事だ。結構な金額になるぞ、これは」
死体を弄くり捲くるおっさんは、やっぱり査定師だった様で、どこからか出してきた帳面に色々と書き込んで行く。
むう。この感じだと結構すぐに査定が出そうだよね。
「まあそれだけ綺麗なブツなら、ヤツの査定も早いさ。暫く付き合ってやればいい」
壁に寄り掛かって腕を組んだしぶちょーが、ワタシが訊くよりも先に答えた。
ふーん。こっちは別にイイんだけど、しぶちょーの話の方はイイのかね。
「そう言えば、ゴブもマジに引取るんだな。あんなの銅貨5枚で引取って、何に使うんだ?」
間繋ぎに、例のゴブの話を訊いてみる。
「ん? ああ、そうだな。川で晒して魔力抜いたら肥料にするんだよ。一部は豚の餌だな」
ぶほっ、ワタシが食べた豚ってゴブがエサなのか。それは何とも言えない感じだなぁ。
ま、美味しかったからイイって言えばイイけどさ。
でもゴブ一匹銅貨5枚なら、一匹燃えちゃったから106匹で、金貨2枚と銀貨13枚だ。結構な稼ぎだよね。
他の魔物は当然ながら、引取り価格に期待が出来る。
ハイオークはオークが受肉後、十年以上経ったヤツの事で、年期があるから形質変化しててとても強いけど、その分素材的な値段は高い。
リザードマンはマンとは言うものの、二本足で歩く大蜥蜴(本物の蜥蜴とは違う)で、皮は結構な値段で売れるから期待は高いし、所によっては肉も売れる。
時々の相場によってかなりの違いは出るけどね。
結局、査定の結果はすぐに出た。ホント、実務の人達って仕事早いなぁ。
出された査定票を見ると、
リザードマンの皮 金貨3枚
ハイオークの皮 金貨2枚
オークの皮 大銀貨1枚
ハイオークとオークの肉、金貨1枚
リザードマンの肉 銅貨5枚
ゴブリン素体 銅貨5枚
とあった。
結構言い値っぽい大雑把な値付けだけど、田舎町だと全体の相場がゲロ安だったりするから、結構イイ方だと思う。
肉系が安いのはご愛嬌かな。
ワタシが査定票を見てると、しぶちょーがこっちを手招きした。やっと本題かな?
「それじゃ、後を頼む」
「ああ、任せとけって言いたい所だが、これだけの量を一気に捌くのは久しぶりだ。商会に応援を頼んでもいいよな?」
しぶちょーがワタシを連れて部屋を出ようとすると、査定師のおっさんが何か言ってきた。
んん? 商会ってなんでしょね。支部に出入りの商会ってコトかな。
「構わないが、連中が簡単に要請に応じるか?」
「ヴィヨンのゴタゴタのせいで、北の方じゃ肉不足だからな。連中だって商売になるなら大急ぎでやって来るさ」
「成る程な。まあ任せるよ。程ほどに頼む」
何となく所在なさげな感じのワタシを置いて話は纏まった様で、しぶちょーがさっさと廊下の方に歩き出した。
おっといけねえって感じにワタシも続くけど、何かまた新情報が聞こえてきましたよ。
ヴィヨンって、この街のずっと東、ロダーヌ河ともう一本の河に挟まれた場所にある、かなり規模の大きな街だ。
本来なら水棲魔物(大抵デカい)の襲撃があるから、川っぷちに都市は作らないんだけど、ヴィヨンって街は、立地が良い上に特別な造りをしてて大丈夫らしい。
お陰でアクス-マルスだのペリエルだのを筆頭に、周辺から大量の物資が集まるんで、北部との交易の一大中継拠点として栄えてるって聞いた事がある。
確か王領だから代官が治めてる筈だけど、何があったのかな。
またキナ臭い話じゃなきゃ良いけど、リプロンでも査定師のオッサンが肉が足りないみたいな事言ってたし、面倒臭そうな話だ。
君子危うきに近寄らずって言うし、こりゃ早々に大魔山脈方面に行った方がイイのかも知れないなぁ。
山岳森林を抜ける際の魔物狩りは、合計で金貨79枚と銀貨8枚になった。
大金貨にして約8枚(約160万円)だから、服とか色々買っても、路銀は大分残る。
討伐士口座も、旧聖王国大金貨を3枚入れたから考えなくてイイし、此処でこれ以上の稼ぎは考えなくてもイイよね。
「ここだ。取り敢えず中に入ってくれ」
色々考えてる内に目的の部屋に着いた様で、しぶちょーが立ち止まって部屋の中に入って行く。
取調室とかじゃ無く、何て事の無い普通の部屋に見えるけど、ここで大金貨の話とか訊く積りなのかな。
ちょっと疑問に思ったけど、ワタシもしぶちょーに続いて部屋に入った。
「ゲッ!」
部屋に入ると、ワタシはいきなり体格のイイおばちゃんに抱き締められた。
むぎゅう、ちょっと苦しいぃ。
「エド! どうしてこっちにさっさと連れて来てくれないんだい! ああ、もう、こんなに小さな子が可愛そうに」
おばちゃんはワタシを抱き締めながら、大きな声でしぶちょーに文句を言ってる。
うーむ。何か又イキナリな展開だなぁ、コレ。
見ればおばちゃんの体格は太くて大きい。
身長だって5フィート6インチ(約168cm)はありそうだし、体重は・・・かなりなんだろうな、としか言えない。
そんなおばちゃんに思いっきり抱き締められるってのは、まあ何て言うか、大変だ。
普通の子供だったら泡吹いちゃうんじゃないかな。
「ええっと、あの役人が詮議とか言ってたし、入牢とかじゃないの?」
ワタシが苦し紛れにおばちゃんに聞くと、おばちゃんはワタシを更にギュウっと抱き締めた。
「バカだねっ、このコは! そんなコトある訳無いだろ! あんなクソ代官の手下の言う事聞くヤツなんて、ココには一人もいやしないよっ!」
えっと、おばちゃん。そろそろ真剣に苦しくなって来たんですけど。
しぶちょーに「ヘルプ!」って感じに視線を送ると、しぶちょーは黙って両手を挙げた。
ああ、お手上げですか。エエ判ります、ハイ。
「こんな歳で討伐従騎士だなんて、世も末だよ! 一体、何処のどいつがアンタを戦闘奴隷なんかにしたんだい!?」
うわあ、何か盛大な勘違いをされてるっぽいわ。
でも、確かに討伐従騎士って考え様によってはそういう風にも考えられるよな。
血判まで押してるし。逃げられない戦闘奴隷って感じで使ってるバカとか、本当にいそうな気もする。
「ええーっと、おばちゃん、オレって一応本物なんだよ。ホラ、この指輪を見れば判ると思うんだけど」
ワタシは何とか左手を抜き出すと、中差し指に嵌る銀の指輪をおばちゃんに見せた。
「あら、まあ! コレって本物なのかい? じゃあ、アンタは、本物の回国修行中の討伐従騎士サマなのかい?」
「だから、そー言ってるって! あのままオレに任せてくれりゃ、あんなクソ、一瞬で切り刻んでやったよ! オレの後見をバカにしちゃったしね。無礼討ちでもイイくらいなんだぜ?」
ワタシがそう言うと、おばちゃんは呆れた様な仕草で、ワタシを一旦離した。
でもすぐに恐い顔をして、ワタシの肩を左手で掴み、右手の人差し指をワタシの顔に突きつける。
「バカをお言いでないよ! そんなコトをして、将来を棒に振るコトになったら、どうするんだい!!」
ああ・・・おばちゃん、完全に保護者モードに入っていらっしゃるわ。コレは逆らわない方がイイかも。
諦め顔でおばちゃんの説教を聞いてると、流石に話が進まないと思ったのか、しぶちょーが割って入って来た。
「まあまあ。取り敢えずその辺にして、コイツにメシでも食わしてやってくれないか?」
結構良いタイミングだな。まあ慣れてるんだろうけど。
「そ、そーね! とにかく、ボウヤは外に出ちゃダメよ! あいつらがどんな汚い手で網を張ってるか判らないんだから!」
おばちゃんはそう言うと、そそくさと、部屋の外に出て行った。
うーむ、ボーヤ扱いか。もう思いっきり保護者って感じですな。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きます。
読んで頂いた方、ありがとうございました。




