028話
改訂版です
「俺はエドモン・モレル。ここの支部長をやってるモンだ」
「オレはマリア・コーニス。修行中の従騎士だ。ここにはセヴンの山岳森林を通って来た」
クズ役人が出て行くと、カウンターを開けてやって来たダンディなおじさんが自己紹介と共に握手を求めて来た。
勿論、こちらも握手に応じて自己紹介する。
この場合の握手は相手の力量を測る狙いがあるんだけど、こっちは大玉も散らしてるし、そうそう見破るのは難しいだろう。
(向こうがアーベルさん級の使い手なら読まれちゃうけどねっ)
「コーニス? 連合王国の出か?」
握手が終わるとカウンターに寄り掛かる様に立ったしぶちょーがこっちを値踏みする様に見た。
うん。やっぱり今の握手では大した事が掴めなかったみたいだね。
逆にこっちはしぶちょーの実力がある程度判っちゃったよ。
「いや、元ナンヌ(マルシルの北側隣国)流民だよ。家名は討伐士登録の時に適当につけた」
名前の事を訊かれたので降参ポーズをしながら答える。
実はこれ、ホントの事なんだよね。
登録の時に何か家名を付けろとししょーに言われたので、実母の本名「コーネリア」を捩ってその場で考えたのですよ。
連合王国(ナンヌの北にある島国)の人っぽい家名になったのは偶然だ。
すると一瞬こちらを気の毒そうな顔で見たしぶちょーが気を取り直した様な顔でラウンジの方を見た。
まあナンヌは酷い圧制で有名だから、そんな反応にもなるよな。
「雑貨屋の店主を山で助けてくれたそうじゃないか。さっきからココじゃその話で持ち切りでな。今の騒ぎはコイツらの礼だと思ってくれ」
へぇ!?
言われて周囲を見れば、さっき迄の騒ぎは嘘の様に静まっててラウンジは元の雰囲気に戻ってた。
成る程ね。
あのおっちゃんってば、もうこんな所まで流れるくらいに話を流し捲くったのかぁ。
あの調子で喋り捲ったんだったら、さぞかし話も盛られてるんだろうな。
ちょっとグッタリ。
「取り敢えず礼は言っとくけど、別にあそこで斬り合いになっても良かったんだぜ?」
「おいおい、勘弁してくれ。幾ら対一と言っても、ここでそんな騒ぎになったらシャレにならん」
思わず恥ずかしくなってテレ隠しの強気な言葉を口から出すと、しぶちょー氏は両手を広げて大げさに嘆いて見せた後、少し真面目な顔になってカウンターに顎を向けた。
「で、結構な数のゴブリンが出たらしいじゃないか。魔石は抜いてきたんだろう?」
「ああ、忘れてたよ」
言われて初めて気が付き、更に恥ずかしくなりながらもワタシはインベントリから魔石を入れた巾着袋を出した。
(無論洗浄済みだ)
何時の間にやらカウンターの向こうに戻ってたソレーヌさんにそれを渡すと、さっさと裏に引っ込んで行く。
ううーん。
どうやらソレーヌさんも衛士の人達並みに仕事が早そうですね。
「結構イイ町だと思ったんだけど、ここにもあんな役人っているんだな」
とは言え、魔石鑑定にはそれなりに時間が掛かるので、それまでの場繋ぎに今の役人の背景を聞いておく。
何か面倒臭そうなヤツだったし、今後も絡んで来られたら面倒だ。
町中だと逃げるしか無いしさ。
「ああ、ヤツは代官の手下でボキューズと言う名の寄騎さ」
「寄騎と言う事は役人じゃ無かったのか?」
「そうだな。前代官が汚職で罷免された後、代わりに来た代官の家臣だな」
「へぇ」
しぶちょーの言葉に成る程ねぇと肯く。
寄騎と言うのは一般的には下級の騎士を指す言葉だから、さっきのオッサンがそう呼んだのはそう言う意味だと思ったのに、まさか立場の事だとは思わなかった。
立場としての寄騎と言えば、貴族の譜代(昔からの家臣)じゃ無い家臣を指す。
要するに代官子飼いの手下と言うワケだ。
となれば、事態はかなり面倒臭い事になったと言える。
ワタシってば着いた早々、この町の代官閣下にケンカを売っちゃった事になるからね。
「汚職で罷免、ねぇ」
これはさっさと町を離れた方がイイなと思いつつ、ちょっと疑問に思った事を口に出す。
何しろ件のやり手代官サマはもう首になっちゃったと言う話だもんな。
「勿論デッチ上げさ。中央は東聖王国のストダート侯に連なる血筋だった前の代官、ギュイーズ準男爵閣下が目障りだったんだろうな」
「ふうん。それで今の代官はどうなんだ?」
「ああ。実はな……」
こっちの疑問に肩を竦めて答えたしぶちょーが、更に話を続けたそうだったので水を向けてみた。
すると嫌な話が出て来る出て来る。
「ここもかよ」と少々うんざりしながらも、ここは素直に聞いておく事にした。
クズ公爵三人が頭を取って睨み合う西聖王国じゃ何処でもお馴染みの話ばかりだけど、これからの事を考えれば聞いておいた方がイイ。
少なくとも西聖王国を抜けるまでは何がどう関わって来るか判らないからね。
「ほうほう、成る程ねぇ」
しかし聞けば聞く程、どんどん出て来る今の代官の悪者っぷりにゲッソリ。
西聖王国の王領代官なんて屑揃いとは聞いてるものの、ほとんど破壊工作なんじゃないかと思う御活躍の程には拍手したい位ですよ。
しかしそこまで形振り構わない蓄財に走ってるとなると、もしかしたらこの新代官サマってば早々の西聖王国離脱でも考えてるっぽいですな。
何せ多少でも政治に関わりのある人間になら誰だって、腐りきった西聖王国が早晩酷い形で崩壊するだろう事は予定事項だからね。
何処か他所の国が制圧でもしてくれれば良いけれど、そんな余力のある国なんて何処にも無い。
東側隣の東聖王国は一枚岩とはとても言えないから無理だし、西側隣のマルシルやナンヌでは規模が違いすぎて無理。
南でジュベインを盟主とする都市連合も全域制圧は夢の夢で、それは北の聖王都守護騎士団も同様だ。
なので結局は、西聖王国崩壊後に引き裂かれた各地域が隣り合う各国の保護領などになるしか道は無い。
お陰である程度線引きが確定するまでの間、振り回される人達はかなり悲惨な状況になるだろうと言われてるので、誰だって逃げたくもなるわな。
かと言って、お代官サマがそれじゃ不味いだろう。
今の世の中、所領を持つ貴族は賢いヤツが多いけれど、王家直参にはバカな林檎磨きが多い。
そんなおエラいさんに媚び諂う事しか出来無い無能が大きく蓄財しようとすれば、どうしても無理が出る。
そんな屑の下に居る人達は大変だ。
この町の様な王家直轄領はその代官の差配に全てが懸かるのに、当の代官がそこまで自分の保身にしか興味が無いとなれば先は暗いわ。
大抵の直轄領には地元出身の次官がいる筈だけど何してんのかな。
代官と結託してる同類ならともかく、直下に当たる衛士隊にはそんな印象もなかったから謎だ。
「……ギュイーズ閣下は討伐指令まで出されたお陰で、今じゃアクス-マルスに逃げ込んでるって話だ」
前代官の消息に至って、長く続いたしぶちょーの話に一区切りが付いた。
要するに前代官は中央で嫌われ者だった準男爵で、田舎の村に左遷したのに結構な町にしちゃったから、頭にキた中央にデッチ上げで罷免されたらしい。
結局西聖王国では、林檎磨き野郎以外は貴族どころか役人としても存在出来無いと言う素晴しいお話で御座いました。
「バカバカしくて涙が出ちまう様な話だな。ただ近場の外国に亡命するならともかく、同じ西聖王国のアクス-マルスっておかしくないか?」
でも新たな疑問が出たのでそれを言って様子見。
次の機会があるかどうかも判らない現状では、聞ける事は聞いておいた方が良い。
「ああ、アクス-マルス伯のデクス家は中央とは完全に距離を置いてるからな。向こうにすれば東聖王国や独立城塞都市連合との繋ぎに格好の人物なんだろう」
するとやってられないポーズで答えたしぶちょーの言葉にゲッソリ。
アクス-マルスと言うのは西聖王国の最南端にある一大城塞都市で、北から東にかけては大魔山脈、南は海と言う立地のお蔭か東隣のガルーノ王国や北の都市連合との交易で栄えてる所だ。
だから東聖王国に顔が利く貴族が欲しい気持ちは判るけれど、中央が討伐指令を出した直参貴族を地方領主が直接匿うなんてもう無茶苦茶だよ。
想像以上に西聖王国は崩壊寸前なんだな。
「なんだか凄え話だなぁ。だけどこんな話をここでオレにしちまってイイのかよ?」
「誰だって知ってる話さ。それこそ雑貨屋のジョシュにでも訊けば一刻(一時間)はたっぷりと話してくれるぞ」
近辺の情報収集はこんなところかと話を終わらせるサインを出したら、しぶちょーも同意した様でさっきのおっちゃんの話が出た。
あのおっちゃん、所謂酒場の事情通な人だったワケね。
そりゃあのパフォーマンスにも納得だ。
「うへえ、そいつは勘弁だよ」
降参ポーズで反応してあげると、しぶちょーがまた大げさな手振りで応えながら笑った。
すると丁度そこでソレーヌさんがカウンターに戻って来た。
「査定師が出した査定結果はこの通りです。読み上げますか?」
ソレーヌさんの言葉にカウンターを見れば、この短時間で討伐成果がもう書面になってるのを発見してビックリ。
仕事早過ぎだわ。
思わず頷くと、彼女は討伐報酬の硬貨が乗ったトレイと魔石が入ってる巾着袋もカウンターの上に置いて書面を読み上げた。
「ゴブリンが百七体、オークが二十一体、ハイオークが四体、リザードマンが六体でした。どれも討伐士証から逆算出来る想定内の数ですので確定です」
うん、結構狩ってますな。
実際に狩り捲くった感じだったし、ワタシの新記録じゃないかなぁ。
「おっさんの話はマジだったのかよ」
「凄え、凄すぎるぜぇ」
「ハンパじゃねぇ!」
ソレーヌさんの声を聞いてたのか、ラウンジの連中がまた騒ぎ始める中で先ず魔石袋を掴む。
買取りは依頼しませんよと言う意思表示だ。
そして呆れ顔で話し掛けようとするしぶちょーを制して、ストレージもどきにソレを突っ込んだ。
「なあ、今の黒穴はストレージか? 凄いのを使ってるんだな」
すると案の定、口調は軽いながらも真剣な目付きになったしぶちょーが訊いて来た。
さっきの握手では大きな魔法力なんて感じ取れなかっただろうから、こんなの見たらそう来るよね。
「そうそうこっちの手をバラすワケ無いだろ? 魔法力隠す位は簡単だし、握手程度でこっちの実力を測ろうとしてもムダだぜ」
ニヤっと薄笑いを浮かべながら返すと、しぶちょーはお手上げだと言わんばかりに両手を挙げておどけて見せた。
「まさかその魔石、全部ここ数日で狩ったなんて言わないよな?」
「だから山越えして来たって言っただろ? 向かって来た魔物を全部食ったダケさ」
「それはまた凄い話だな……」
おどけるしぶちょー相手にどうでも良い話をしながら、カウンターに残ったトレイを見つめる。
目で数えれば、硬貨は金貨(銀貨20枚分)二十枚と大銀貨(銀貨5枚分)二枚に銀貨(約千円)二枚の内容だ。
討伐報酬って本当に安い。
これだけの魔物を狩ってこの程度だと、討伐報酬だけで生活してる討伐士が皆無と言われるのも肯けるわ。
魔石まで売れば倍にはなるけど、それでも知れてるよね。
「ところでお前さんにちょいと此処では出来ない話があるんだが、一緒に来て貰えるか?」
硬貨に手を出すと、今までの態度が一変して真面目な感じになったしぶちょーが親指でカウンターの奥を指した。
「ああ、いいぜ。さっきの大金貨の話かい?」
「まあそんな所だ。他にも色々聞きたい話があるしな」
しょうがない、付き合いますよ。
こっちもゴブの件を筆頭に聞きたい話はまだまだあるしね。
「でも、その前に仁義は切っておかないとマズいよな?」
ワタシは金貨十枚を残して残りを財布に仕舞い、その十枚をしぶちょーに差し出した。
「さっきの礼だよ。隣の食堂ってココが営業してるんだろ? だったらコレで皆に一杯奢らせてくれ」
ラウンジの端まで聞こえる様に大きな声でそう言うと、討伐士達の騒ぎが爆発した。
この辺りで終わりにさせて頂きます。読んで頂いた方、有難う御座いました。




